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036 暫しの別れ、門出の時

 氷雪の花を無事に手に入れたわたし達は、ラヴィの母親のミチエーリさんとポレーラさんを連れて、メリーさんが待つ崖の村まで戻って来た。

 ちなみに、リングイさんやフナさんも一緒だ。

 ついて来なくて良いと言ったのに、やっぱりついて来た。

 正直そろそろウザいと思うけど、フナさんはとても良い人なので我慢する事にした。


 そんなこんなでメリーさんの家に戻って来ると、ラヴィとミチエーリさんの様子を見て、メリーさんが結構驚いていた。

 それもその筈だろう。

 今だからこそ分かるけど、本当にミチエーリさんの元々の行いは酷かったのだ。

 実の娘をお金の為に売り飛ばそうと考える極悪人。

 そんな人が、今ではすっかり良いお母さんなのだ。

 驚くなと言う方が無理な話である。

 それに、ミチエーリさんとメリーさんが顔を合わせた時に、ミチエーリさんがとった行動も大きかった。


「今まで、ラヴィーナを良い子に育ててくれて、本当にありがとう。メリー、貴女には、どれだけ感謝しても感謝しきれないわ」


 そう言って、ミチエーリさんはメリーさんに頭を下げた。

 その姿を見て、メリーさんと一緒にお留守番をしていたラルフさんも、驚いて持っていたコップを落として割ってしまった程だ。

 それからメリーさんとミチエーリさんは、じーじさんとポレーラさんを加えて色々と話し合いをした。

 そして、ラクーさんとフォックさんは、ラルフさんに事情を説明していたのだけど、まあ、そこ等辺の諸々の話は今は置いておくとしよう。


 メリーさんは約束通りに、凍豚の皮で袋を作ってくれていた。

 ラヴィ曰く「雪だるまは暑い所苦手。溶ける」と言う事で、このまま氷雪の花を入れておくわけにもいかなかったので、本当に助かった。

 氷雪の花は外気に触れると溶けてしまうのが特徴の一つだけど、ここはまだ溶ける程暖かくは無い。

 おかげで、氷雪の花を雪だるまの中から凍豚の皮袋に移すのは、それ程困難では無かった。


 ようやく三つの宝が揃った。

 亥鯉の川、滝の下に潜ってモーナが手に入れてくれた【打ち出の小槌】。

 アイスマウンテン、ホワイトアントの巣で手に入れた【氷雪の花】。

 そして、ラヴィが着ている【鶴羽かくうの振袖】。

 全てが揃い、いよいよ残るはかぐや姫の所に戻るだけとなった。

 と言っても、ラヴィの【鶴羽の振袖】だけは正直手放すわけにはいかないと思っているので、そこだけどうするか考えなければいけない。


 この日は、メリーさんの家で一晩止まる事になった。

 そんなわけで、丁度良いからと、今後の事を話し合う事になった。

 そして……。


「チーリン=ジラーフって女の子だったんですか?」


「ええ。まだ七歳の女の子で、一部では【座敷童】と呼ばれているわ」


「座敷童……」


 ラヴィの母親のミチエーリさんから、わたし達はチーリン=ジラーフの情報を居間に集まって、居間の机を囲んで聞き出していた。

 ミチエーリさんの話によると、三馬鹿の一人【チーリン=ジラーフ】は【座敷童】と呼ばれていて、一緒に暮らせば億万長者になれると言う。

 しかし、それには思わぬ落とし穴があった。

 それは……。


「良い事ばかりでもないのよ。チーリン=ジラーフは金持ちにさせるだけさせて、有り金を全て奪って家を出て行くらしいの。前までの私も、最初はチーリン=ジラーフを自分の家に招こうと考えていた事もあったけど、それを知ってその考えをやめたわ」


「あの頃のミチェリ様も、流石に相手が悪いと察していましたからね」


 まるで日本の妖怪の【座敷童】だ。

 わたしとお姉が暮らしていた日本で知られている座敷童も、家にいると、その家は富を手に入れると言われている。

 そして、出て行ってしまうと富を失ってしまう。

 まあ、この異世界と違うのは、座敷童と言う存在の曖昧さだろうか?

 日本の座敷童と、この異世界の座敷童とでは、説明はし辛いけど根本が違う気がする。

 なんと言うか、そう。

 信じる信じないにかかわらず、目の前に現れれば、誰の目にも映る存在かどうかだ。

 まあ、日本の座敷童が有り金盗んで出て行くとも聞いた事が無いけれど。


「そうだったんですね~」


 ミチエーリさんとポレーラさんの話にお姉が相槌をして、わたしの背後に回って抱き付く。


 熱い……。


「お姉まで抱き付かないでよ。流石に熱いんだけど?」


「えー。お姉ちゃんだって愛那まなとくっつきたいんです」


「そうだぞマナ。我が儘言うな」


「いや、我が儘言ってるのはそっちでしょーが! 離れろー!」


 実は、お姉の他にも、わたしに抱き付いている奴がいる。

 それは言うまでも無くモーナだ。

 モーナはわたしの胸に顔をすり寄せて抱き付いている。

 正直暑苦しいのでやめてほしい。


「愛那、私も」


「え? ちょっとラヴィ!?」


 驚くのも束の間、ラヴィまでわたしに抱き付いてきた。

 わたしは三人に抱き付かれ諦めて、目の前でわたし達の様子に苦笑するミチエーリさんに目を合わせて、話を続ける事にした。


「チーリン=ジラーフの居場所はわからないんですか?」


「ごめんなさい。それはわからないわ」


「そうですか……」


 あわよくば、ついでに居場所もわかればラッキーと思ったけど、そう言うわけにもいかないらしい。

 やっぱり当初の目的通りに集めた三つの宝を、かぐや姫の所に持って行って、かぐや姫をケプリの所に連れて行くしかなさそうだ。


「愛那君、瀾姫君、モーナ君、吾輩から君達にプレゼントがある。受け取って貰えるかい?」


「え?」


「プレゼントですか?」


「なんだ? 食い物か?」


「すまない。食べ物では無く、これだよ」


 じーじさんが机の上に着物を置く。

 わたしとお姉は、置かれたそれを見て驚いた。


「これって……っ!?」


「じーじさん、本当にこれを頂いても良いんですか?」


「ああ、勿論だとも。君達には、これが必要なんだろう? なら、持っていくと良い」


「「ありがとうございます」」


 わたしとお姉はじーじさんに頭を下げた。

 机に置かれた着物、それは【鶴羽の振袖】だったのだ。

 ラヴィから取り上げるわけにもいかないと思っていたから、本当にありがたかった。


「がっかりだな~。それもう持ってるやつだぞ? もうあるからいらないのに、マナとナミキは、なんでお礼言ってるんだ?」


 よし。

 この馬鹿には、じーじさんのありがたさを後でしっかりじっくり教えてやろう。


「リン姉、やっぱり私達は明日には戻った方が良いよ」


「は? 何でだよ?」


「リン姉でも話を聞いていたらわかるでしょ? マナ達について行くと、暫らく戻れなくなる。あの子は一年はいてくれるって言っていたけど、冒険者なんだから、いつ出て行ってもおかしくないんだよ?」


「……はあ、確かに。ここ等が潮時か」


「なんだお前等? もう諦めるのか? 根性ないな」


「おい、モーナ。せっかくフナさんが面倒臭い奴を連れてってくれようとしてるんだから、余計な事言うな」


「面倒臭いって、オイラの事か?」


 リングイさんに質問されて、とりあえず無言で頷く。

 すると、リングイさんは何やらがっかりした様な表情を見せて、ため息を一つついた。

 いつもは気になんか全然しない癖に珍しいなと思って見ていると、リングイさんはわたしと目を合わせて苦笑した。


「オイラの家……孤児院は南の国の【水の都フルート】って所にある。もし機会があったら寄ってくれ。子供達と一緒に歓迎するぜ」


「……わかりました。気が向いたら行ってあげてもいいですよ」


 行きませんと言ってしまっても良かったけど、流石に可哀想なのでやめておく。

 と言っても、期待されても困るので、かなり素っ気なく答えておいた。

 すると、お姉がわたしの頭を撫で始めた。


 わたし達の話を聞いていたメリーさんが、悲しそうに眉根を下げて、ラヴィに向かって話しかける。


「やっぱり、ラヴィーナもついて行くのかい?」


 メリーさんの問いに、ラヴィはメリーさんを真っ直ぐ見つめて頷く。


「そう。愛那達と一緒にいたい」


「そうか。……寂しくなるね。でも、ラヴィーナが決めた事だから、私は反対しないよ。それに……」


 メリーさんは、わたしとお姉とモーナをそれぞれ見てから微笑んだ。


「この子達なら安心出来る」


「メリー、ありがとう」


 ラヴィとメリーさんが微笑み合った。


「はいはい、皆、用意が出来ただべ」


「今日はお嬢さん達の冒険の門出を祝って、パーッといきましょう」


 ラルフさんとポレーラさんが美味しそうな料理を持ってやって来る。

 居間の机の上は見た事も無い、とても美味しそうな料理で埋め尽くされた。


 難しい話はこれで終わり。とにかく今は楽しもう。


 そんな雰囲気が居間に流れて、わたしは美味しい料理を食べながら、皆と一緒に楽しんだ。





 次の日の朝。

 朝日で部屋の中が照らされる中、わたしは暑さと息苦しさで目を覚ました。

 起き上がると……いや、起き上がれない。

 何故かと言うと、暑さと息苦しさの原因である、お姉とモーナのせいだ。

 二人は寒いからか知らないけど、わたしに抱き付いて寝ていたのだ。

 今のわたしはお姉の大きな胸に顔を挟まれて、モーナにがっちりと腕ごと抱き付かれている状態だった。


 身動きとれない……。

 と言うか、苦しい。


 そんな事を考えながら、二人からの拘束の様な抱き付きから逃れようともがいていると、突然体を持ち上げられた。


「え? わっ」


 持ち上げられたのはわたしだけでなく、お姉とモーナも一緒だった。

 そして、持ち上げたのはリングイさん。

 わたしが驚きながら瞬きして、リングイさんと目を合わすと、リングイさんがジト目を向けて手を離す。

 わたしは手を離されてベッドに落ちると、リングイさんに再び視線を向けた。


「じゃあな」


「は?」


「じゃあな!」


 そう言ったリングイさんがどこか寂しげな表情だったのを見て、成程そう言う事かと、わたしは直ぐに理解した。

 昨日、食事の最中にフナさんが言っていた。


「リン姉、明日は朝早く出るからね。そうしないと、孤児院に着く頃には深夜になっちゃう」


 と。

 だから、予定通りに朝早くここを出る前に、わたしにお別れの挨拶を言いに来たのだろう。

 わたしにとって、リングイさんは面倒臭いし正直くどいからウザい。

 だけど、嫌いでは無かった。

 寧ろ、孤児院を作って子供達を育てていると知ってから、尊敬している。


「うん。じゃ――」


 わたしはそんなリングイさんに、また会いたいと思った。

 だから、別れの言葉に「じゃあね」とか「さようなら」なんて言える筈も無く……。


「――ううん。またね」


「っ!? かかっ。そうだな。またな!」


 リングイさんは、とても嬉しそうに笑って、わたしの寝癖のついた髪の毛をぐしゃぐしゃとかき乱した。

 まったく、本当にウザい人だ。


「ふぁあ~、おはようございます~。あれ? 愛那、少し顔が赤いですよ? 何だかお顔もニヤケてます」


「お姉起きて早々に煩い! 黙ってて!」


「へうっ」


「かっかっかっ」


「笑うなー!」


 そう言って、おもいっきりリングイさんに向かって枕を投げてやったけど、簡単に避けられてしまった。

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