035 強すぎた仲間
スキル【迷宮攻略】を使う為に、フナさんが真剣な表情を見せて、瞳を緑色に薄っすらと光らせる。
そうしている間にも、勿論ホワイトアントが襲ってくるので、わたし達は前に進んでいた。
「フナ、どの位かかりそうだ?」
「多分七分位かな」
「うし。わかった!」
どうやら、ホワイトアントの巣の中を把握するのには、多少の時間がかかる様だ。
わたし達はフナさんが巣の中を把握するまで、前に進みながらホワイトアントと戦う。
ただ、問題もあった。
分かれ道が何度もあって、道を塞いでフナさんの邪魔をする事も出来ないので塞がずにそのまま進んでいたわけだけど、それが原因でホワイトアントに挟まれたりしていたのだ。
モーナとリングイさんの二人のおかげで、ピンチに陥るなんて事は無かったけど、少なくとも足止めはされてしまっていた。
「もうっ、何なのコイツ等! きりが無い!」
「あっ。愛那、私もそのセリフ言いたいです! たまによく聞くセリフです!」
「お姉、そんな呑気な事言ってる場合じゃ――うわっ」
お姉につっこみを入れていた途中で、突然モーナに片手で持ち上げられて、肩で担がれる。
何事かとモーナの顔に視線を向けると、モーナはお姉を同じ様に持ち上げ担いで、リングイさんに視線を向けた。
モーナにつられて、リングイさんに視線を向けると、リングイさんはフナさんを背負っていた。
「どっちだ!?」
「あっち!」
モーナの質問にフナさんが指をさして答えて、それを聞いたモーナが勢いよく走りだす。
モーナだけじゃない。
リングイさんも凄いスピードで走り出して、いつの間にかラヴィを背負っていたじーじさんも、狭い洞窟の中で羽を広げて羽ばたいた。
氷雪の花が中に入っているラヴィの雪だるまも、何故か宙に浮いていて飛翔していた。
まあ、多分モーナの魔法でそうなってるんだと思う。
それはそうと、いつの間にかフナさんはスキル【迷宮攻略】で、ホワイトアントの巣の中を把握していたようだ。
リングイさんが先頭を走りながら、フナさんがリングイさんに指示を出して進んで行き、わたし達がそれについて行く。
ホワイトアントと何度も遭遇したけど、それをリングイさんが無理矢理強行突破して行っていた。
【迷宮攻略】は、かなり凄いスキルだった。
ホワイトアントとの遭遇率も下がり、迷路の様なこのホワイトアントの巣を、あっという間に抜け出す事が出来たのだ。
一時はどうなる事かと思ったけど、フナさんのおかげで、無事にホワイトアントの巣を抜けだせてホッとする。
わたしは巣を抜け出してから、夜空に輝く満天の星空を見上げた。
星空はとても綺麗に輝いていて、それをボーっと見上げていたわたしは、モーナから地面に降ろされた。
やっと一息つける。
そう、わたしが思った時だった。
じーじさんがわたし達の目の前に立って、背中を向けて羽を広げる。
「皆下がれ! まさか、こいつが……ホワイトアントのクイーンが巣の外で待ち構えているなんて思わなかったな」
「へ? ……うそ? マジなの?」
最悪だ。
巣を抜け出したと思ったら、今度は目の前に、ホワイトアントのボス【ホワイトアントクイーン】が現れたのだ。
ホワイトアントクイーンは、その名前の通りでホワイトアント達の女王様だ。
実は、ホワイトクイーンについては、元々話を聞いていた。
そう、あれは、レイククリームで休憩中の事だった。
ホワイトアントに襲われた事を話題にして、話していた時だ。
通常のホワイトアントよりも大きくて、かなり凶暴なクイーンがいると聞かされた。
ただ、クイーンは常に巣の中にいる事が多く、外には出ないから何もしなければ襲って来ないのだと聞いて、その時は安心した。
だけど、一つ気になっていた事はあった。
それは、クイーンは普段は大人しいけど、自分の巣に侵入した者には容赦なく襲い掛かる恐ろしい女王様と言う事だ。
氷雪の花を採りに行くわたし達にとって、かなり危険な虫だと思ったのは、今でも覚えている。
因みにホワイトアントクイーンのステータスはこちら。
白蟻の女王
種族 : 蟻
身長 : 382
味 : 激不味
特徴 : 子兵増産・凍結爆弾
加護 : 氷の加護
能力 : 未修得
見ればわかる通り、正直かなり大きい。
虫が苦手な私にとって、見るだけで気持ち悪くなってくる。
それに、気になるのは特徴にある【子兵増産】と【凍結爆弾】だ。
特に凍結爆弾は、ホワイトアントの凍結顎の事を考えると嫌な予感しかしない。
モーナとリングイさんが、わたし達の前に出たじーじさんを飛び越えて前に出た。
二人がじーじさんの前に出ると、ホワイトアントクイーンが二足歩行で立ち上がって、わたし達を威嚇する。
「愛那、大変です!」
「う、うん。まさかホワイトアントのクイーンが本当に――」
「ボス戦ですよ!」
「は?」
「氷雪の花を採りに行くイベントでダンジョンに潜る。そして、イベントでダンジョンと言えばボス戦です! まさか異世界でボス戦をやるとは思いませんでした! お姉ちゃんは燃えてきましたよ!」
「お姉……こんな時まで呑気だね。今は、そんな事言ってる場合じゃないんだよ?」
こんな時だと言うのに、お姉が興奮して目を輝かせる。
わたしはお姉の緊張感の無さに呆れながら、ナイフを取り出した。
「私も戦う」
「ラヴィ!?」
ラヴィがわたしの横に並んで、槌を取り出した。
「ちょ、ちょっとラヴィ。それって、いつもラヴィがスキルを使う時に使ってるヤツだよね? そんな物で……って言うか、危ないから下がってて?」
「ううん。魔法が使えるようになったから、もう足手纏いは嫌」
「ラヴィ……」
ラヴィが真剣な面持ちをわたしに向ける。
わたしはその真剣なラヴィの顔を見て頷いた。
「わかった。でも、無茶したら駄目だからね」
わたしの言葉にラヴィが頷いて、わたしも一緒に頷いた。
そして、わたしは絶対にラヴィには指一本と触れさせないと、強く胸に誓った。のだけど……。
「私を敵にまわしたからには、覚悟する事だな!」
「かっかっかっ! 蟻如き、オイラの敵じゃねーぜ!」
「……うわ。凄」
わたしの……違うな。
わたし達の出番はいらなかったようだ。
モーナとリングイさんが強すぎたのだ。
モーナの重力魔法でホワイトアントクイーンが動きを封じられて、リングイさんの拳がホワイトアントクイーンに悲鳴を上げさせる。
ホワイトアントクイーンは口から雪玉の様な白い塊をモーナに向けて吐き出して、それは命中して破裂してモーナの左腕が凍ったように見えたけど、モーナは無傷だった。
まるで重力のバリアに護られているかのような、不思議な空間の歪みがわたしの視界に入ったので、多分そう言う事なんだろうとわたしは察した。
ホワイトアントクイーンからホワイトアントが産まれて、直ぐにリングイさんを襲ったけど、リングイさんが腰にぶら下げた甲羅をフリスビーの様に投げて一掃する。
そして、リングイさんの右手が水色に淡く光り出して、その右手の周囲に小さな水色の魔法陣が幾つも浮かび上がる。
大きさにして、ペットボトルのキャップサイズだろうか? 本当に小さい。
更には、モーナの目の前にも、モーナと同じ大きさの灰色の魔法陣が浮かび上がった。
「グラビティスタンプ!」
「アイスインパクト!」
わたしの想像を超える程の重力の壁と、大量の凍てつく衝撃が、ホワイトアントクイーンを襲った。
ホワイトアントクイーンは押し潰される様に地面にめり込みながら、多段に襲いくる衝撃を食らい続ける。
その衝撃は、見るだけで凍えてしまいそうな程の寒気がする衝撃で、ヒットした体の部分が次々に凍っていく。
押し潰され、凍らされていくホワイトアントクイーンを眺めながら、わたしはゾッと寒気を感じてラヴィを抱きしめた。
「こ、怖いです」
どうやら、お姉もわたしと同じらしい。
ラヴィに抱き付いたわたしに抱き付いて、顔を青ざめさせていた。
そこへフナさんがやって来て、わたし達を見て苦笑する。
「ごめんね~。リン姉の魔法って結構えぐいんだよね。見てる方はドン引きしちゃうでしょ? って言っても、そっちの猫耳の子もえげつない事してるみたいだけど」
「やれやれ。一時はどうなる事かと思ったが、モーナくん、それにリングイくんのおかげで、事無きを得られそうだね」
フナさんに続いてじーじさんがモーナ達を見ながら話すと、わたしとお姉に抱き付かれたラヴィがボソリと呟く。
「残念」
「へ? 何が残念なの?」
「私も、愛那と瀾姫の二人と一緒に戦いたかった」
「それなら、今度ご飯のオカズを狩る時に手伝って下さい」
「わかった」
お姉が微笑んで、ラヴィが口角を上げて喜ぶ。
わたしは、そんな呑気に会話する二人の話を聞きながら、モーナとリングイさん二人に視線を向けた。
「あーっはっはっはっはっ! 蟻の分際で私に逆らうからこうなるんだ! 呆気なく死んで、ざまあないな!」
「かっかっかっ! ホワイトアントクイーンの素材は高く売れるから大儲けだぜ! ひゃっはー!」
悪役かあの馬鹿共は……。
と言うか、何だかRPGでレベル上げ過ぎた時のボス戦みたいだな。
呆気ない……。
などと考えながら、わたしは二人に向かって、ゆっくりと歩き出した。




