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033 氷雪の花を採りに行こう

 陽が沈んでから一時間が経過して、わたしはお姉達と一緒に、蟻の巣……ホワイトアントの巣までやって来た。

 あたりは既に真っ暗で、頼みの光は夜空に輝く星々と、ホワイトアントの巣の出入口に付けた印の光だけだった。

 周囲はシンと静まり返っていて、聞こえてくるのは、わたし達の吐息の音だけ。

 風も吹いておらず、凍える程の寒さで白くなった吐息が、吐かれたその場で淡く消えていく。


 直接空気を吸い込むと、肺が凍ってしまうと教えられて、わたしはマフラーを口まで巻いていた。

 お姉達も同様だ。

 と言いたい所だけど、わたしとお姉と違って雪女であるラヴィには必要ないし、何故かモーナもいつも通りの格好だった。

 ラヴィはともかくとして、モーナは本当に馬鹿なんじゃないだろうか? と、わたしは呆れてしまう。


 さて、それはそうと色々とあったわけだけど、ついにこの時が来た。

 目的は勿論【氷雪ひょうせつの花】で、ラヴィの魔法を使って根っこから採取する。

 ラヴィの魔法と言うか【ゴーレム】なんだけど、ラヴィの母親のミチエーリさんが操っていた【ゴーレム】は、ラヴィの場合は【雪だるま】がそれにあたる様だ。

 ミチエーリさんを連れてラヴィの許まで行った時に作っていた雪だるまは、ラヴィが花を取りに行く準備として作っていたらしい。

 ラヴィはこの雪だるまの中に採取した【氷雪の花】を入れて、メリーさんの所まで戻ろうと考えたのだとか。

 持ち運びをどうするか考えていなかったわたしは、ラヴィの名案に感謝した。


 そうしてやって来たホワイトアントの巣なのだけど、またもやリングイさんとフナさんが同行していた。

 代わりにフォックさんとラクーさんはラヴィの家で留守番中。

 あまり大勢で行くと、ホワイトアントを刺激して起こしてしまうかもしれないから、人数を制限した結果そうなってしまった。

 それなら、リングイさんとフナさんにご遠慮願いたい所だけど、何かがあった時の戦力の事を考えてこうなった。

 何だかんだと言っても、フナさんは知らないけど、リングイさんは強いから。

 仕方が無いと言えば仕方が無いのだけど、正直わたしはそれでも納得いかない部分があった。


「いい加減諦めてくれませんか? わたし、貴女の家に行くつもりありませんから」


「かっかっかっかっ。つれない事言うなよ。それに、ホワイトアントの巣に入るなら、フナを連れてったほうが良いぜ」


「そんなに役に立つスキルでも持ってるのか?」


 モーナがフナさんにステチリングの光を向ける。

 すると、フナさんが慌ててリングイさんの背後に隠れて訴える。


「それ、スリーサイズも見れるんでしょ? 見ないで!」


「モーナ、あんたはそうやって直ぐ勝手に……」


 わたしがフナさんに続いて喋ってからモーナを睨むと、モーナはつまらなそうな顔でリングイさんのステータスを覗いた。




 リングイ=トータス

 種族 : 霊亀

 職業 : 不明

 身長 : 不明

 BWH: 不明

 装備 : 不明

 属性 : 不明

 能力 : 不明 覚醒済




「げっ! お前ステータスロックかけてるな!」


 ステータスロック?

 そう言えば、モーナもステチリングでステータスを見た時に、不明ってなってる所が幾つかあったな。


「あったりまえだろ。んなもんで、オイラのデータを見ようなんざ百年早いっての」


「でも、スリーサイズの項目があるって事は、リンちゃんは本当に女の子だったんですね」


「あ、ホントだ」


「詰めが甘い」


「リン姉でも、流石にそこまでは隠せないからね」


 お姉とラヴィとフナさんとわたしの四人で笑い合って話していると、モーナがわたしの背中に抱き付いてきた。


「マナ~。私も交ぜろ~」


「はいはい、分かったから、一々抱き付くな」


「マナちゃ~ん、オイラも交ぜて~」


「嫌です」


「リン姉は男って名乗ってるんでしょ? 女の子の輪の中に入って来ないでよ」


「フナはオイラの味方しろよ」


「知らない」


 リングイさんが肩を落として落ち込んだ。

 落ち込むリングイさんの肩に触れて、じーじさんが私達に向けて話す。


「そろそろ行こうか。ホワイトアントは活動を停止して、巣の中で眠っている筈だ」


「うん」


 じーじさんが巣の中に入って行き、わたしは返事をしてじーじさんに続いて巣の中に入る。

 巣の中に入ると、じーじさんは淡く白い光を放つ石を取り出して、周囲を照らした。


 ホワイトアントの巣の中は、外よりは暖かくて、口に巻いたマフラーもいらない程だった。

 まあ、だからと言って寒くないわけでは無く、吐息だって普通に真っ白なわけだけど。

 上を見上げると、何本何十本何百本もの氷柱つららがあった。

 下も氷が張っている所がたまにあり、気をつけて進まないと滑って転びそうだ。


 わたしはお姉とラヴィと手を繋ぎながら、先頭を歩くじーじさんにゆっくりとついて歩く。

 モーナは……と、そこでわたしは気がついた。

 いつの間にか、モーナがいなくなっていたのだ。

 前を歩いているのは、じーじさん一人だけ。

 後ろには、リングイさんとフナさんの二人。

 その二人の後ろには、ラヴィが作りだした雪だるま。

 何処にもモーナが見当たらない。


「モーナ?」


 わたしは不安になってモーナの名前を呼んだ。

 まさか、何かあったんじゃないかと、焦りが生まれる。


「モーナちゃんなら、じーじさんの前を勢いよく走って行きましたよ」


「え? 走ってった?」


「そう」


 お姉が答えて、ラヴィが頷く。

 わたしは力が抜けて、肩を落とした。


 どうやら、わたしがホワイトアントの巣の中を確認している間に、モーナが走り出していたらしい。

 流石は猫。

 暗い所でも問題無い様だ。

 と言うか、何か一言言えって感じだ。

 全くもって、困った馬鹿猫である。

 って、猫だから自由なのは仕方が無いか……はあ。


 それから暫らくは、何事も無く進んでいた。

 とは言っても、全く何も無いわけでは無かった。

 ホワイトアントは蟻で、蟻の巣と言えば、もの凄い複雑に入り組んだ迷路の様な通路だ。

 分かれ道は幾つもあるのが当然で、地中へと続いて行く。

 時には崖の様な穴の下に行く事もあれば、山の様に見上げる程の坂を上る事もあった。

 こんな歩くだけで大変なホワイトアントの巣の中で、ホワイトアントに襲われたらと思うとゾッとする。


 そうしてわたし達は、ついにホワイトアントの巣の中の、食料庫へとやって来た。

 食料庫の中には、無造作に栄養価の高い食料が置かれていた。

 食料と言っても、それはあくまでホワイトアントの食料。

 虫や動物の死骸なども混ざっていて、臭いは悲惨な事になっていた。

 臭いについて救いがあるとすれば、寒いおかげで腐っていないから、言う程異臭では無い事だろうか?

 まあ、それでも、結構強烈な臭いなわけだけど……。

 あの時、スタンプに襲われた時に見た【氷雪の花】が、本当にこんな所にあるのか疑問に思える。


「リン姉臭い」


「おい。その言い方だと、オイラが臭いみたいだろ」


 外野が若干煩いけど、とにかく今は花を探そうと、わたしは【氷雪の花】を探し始める。

 だけど、上手く探せない。

 わたしは虫が苦手で、ここには虫の死骸も沢山ある。

 そんなの、触れるわけが無い。

 わたしは虫の死骸がある場所を避けて、比較的安心出来そうな場所を探す事にする。

 例えば、この猫耳の女の子の周囲とか……って、猫耳?

 あっ。


「モーナ?」


「あ、なんだマナ。遅かったな」


「いや、あんた、遅かったなって……。何してんの?」


「来るのが遅いから寝てた」


「よくこんな臭いがきつい所で寝れるね?」


「鼻栓したんだ」


 鼻栓? と、わたしが首を傾げると、モーナが鼻をフンッと勢いよく鳴らして、モーナの鼻の中から何かが飛び出して地面に落ちた。

 汚いなと思いながら、それに視線を向けてみる。

 それは、モーナの鼻水でびちょびちょ……とはなってないけど、寒さで凍った鼻水と一緒に凍ってしまっている白い花びらの様な物だった。


「モーナ、これは?」


「さっきそこで見つけたんだ」


「見つけた? どこで?」


「あそこだ」


 モーナはそう言って指をさす。

 指をさした方に視線を向けると、綺麗な花が咲いていた。

 二枚ほど花びらが無い【氷雪の花】が……。


「この馬鹿! あれが氷雪の花だよ! なんで鼻栓なんかに使ったの!」


「え!? そうだったのか!? どうりで冷たい花びらだと思ったわ!」


 本当に何を考えているんだこの馬鹿は!


 と、わたしが頭を抱えたその時だ。

 突然この食料庫内に、恐ろしい程の殺気が蔓延し始めた。


「ホワイトアントが目を覚ましたようだ」


「愛那、モーナス、煩い。ホワイトアントが起きた」


 じーじさんとラヴィが、わたしとモーナの側に来て、それぞれに呟いた。

 大失敗だ。

 モーナの馬鹿っぷりに、つい大声を上げてしまって、ホワイトアントを起こしてしまった様だ。


 次から次へと、ホワイトアント達が食料庫に集まりだす。

 お姉とリングイさんとフナさんもわたし達の所に集まって、わたし達はホワイトアントの大群に囲まれた。

 それだと言うのに、モーナが獲物を前に舌なめずりをするかの様に、ニヤリと笑う。


「昼間は暴れ足りないと思っていた所だ! 全部まとめてぶっ殺してやるわ!」


「良いね~。その話乗った! オイラも暴れ足りなかったんだよな~」


 好戦的なモーナとリングイさんの二人は声を上げると、ホワイトアントに向かって走り出して、そのまま勢いよく飛びかかった。

 だけど、ホワイトアントの数は本当に多く、モーナとリングイさんの二人だけでは全部を相手にしきれない。

 わたしはカリブルヌスの剣を構え、お姉も魔法で盾を出して構える。


 こうして、【氷雪の花】を手に入れる為の、ホワイトアントとの最終戦が始まるのであった。

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