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274 伝説の剣

 あれはそう、南の国バセットホルンの王都であるフルートで、レオさんから剣の修行をしてもらっていた時だ。

 元々カリブルヌスの剣の持ち主であるレオさんから、わたしはこんな事を言われた。


「その剣さ、元々は“エクスカリバー”って名前の伝説の剣だったんだよ」


「へ? そうなんですか?」


 エクスカリバーと言えば、わたしの世界でもよく名前が出てくる伝説系の剣だ。

 と言っても、出てくるのは誰かが作りだした物語の話で、わたしが知る限りだとゲームに出てくるのが殆どだ。

 まあ、わたしはお姉の趣味に合わせて色々な物を見たりしてるので、多分知識が偏ってるけど。


「もしかしてレオさんって、冒険者じゃなくて勇者だったんですか?」


 冗談めかしに聞いてみる。

 すると、レオさんは「ああ」と端的に答えて、言葉を続ける。


「でもその剣があまりにも切れ味が良すぎて、危なっかしくて俺が切れ味を落としたんだ」


「切れ味を落としたって……」


 勇者云々が軽く流されてしまったので、とりあえずそれを置いておいて呟いた。

 すると、レオさんは少しだけ考える素振りを見せて口を開く。


「じゃあ封印?」


「じゃあて……」


 わたしが呆れて目を細めると、レオさんは楽しそうに笑った。


「元々の切れ味は一振りで山を真っ二つに出来る切れ味だったな。一刀両断ってやつだ。必斬なんてスキルは必要無いんだぜ? 凄いだろ?」


「怖っ。凄いと言うか、それもう恐怖の対象ですよ」


「ははははっ! 確かにそうだな。でも、昔は世界中を冒険してたけど、今は料理人なんだぜ? 料理に使うわけでもないし、そんな切れ味の良い剣なんて放っておいたら危ないだろ?」


「いや、まあ、確かに危ないですけど……」


「ちなみに元の切れ味に戻したいなら、戻してやっても良いぞ。しかも刃こぼれ程度なら自己修復出来る再生能力付きだ」


「え? 嫌です遠慮します」


「あれ? マジで? 何で?」


「だって、正直言って今の状態で十分だし、わたしにはスキルがあるから、そんな危険なものは取扱いしたくないです」


「マナはつまらない事言うなあ」


「つまらなくて良いですよ」


「ちなみに戻す方法は~」


「言わなくて良いです!」


 結局、この後嫌がるわたしに面白がって、戻す方法を教えてきた。

 その方法は想像以上に簡単で、逆に本当に封じる気があったのかと言いたくなるものだった。

 あの時のわたしはレオさんを本当に恨めしい気持ちで睨んでやったけど、感謝をしなきゃいけないかもしれないと、いずれ思う時がくるなんて、この時のわたしは知る由も無かった。







 スタンプに向かって走り出したわたしの肌に、お姉がアイギスの盾を薄っすらと装着させる。

 光速で動き出したとは言え、スタンプもわたしに直ぐ反応していた。

 6つに別れたグングニルアックスが宙を舞う。

 回転しながらわたしに向かって飛んでくるものや、突き刺す為に真っ直ぐと鋭い先端を向けて飛んでくるもの。

 そのどれもが光速で動くわたしのスピードについて来れる速度だ。

 油断どころか、瞬き一つしただけで大怪我じゃすまない。


 お姉のアイギスの盾があるとは言え、スキル【必斬】を乗せたカリブルヌスの剣でグングニルアックスを弾き、右に左にと避けながら進むので、中々スタンプの許まで辿り着けない。

 斬撃を飛ばすにしても、アレはそれなりの集中力が必要で、この状況下で飛ばすのは無理があった。


愛那まなちゃん! 一度こっちに戻って来て下さい!」


 それは、走り出したのは良いけど、中々スタンプの許に行けない事で若干の苛立ちを覚えた頃だった。

 お姉が大声を上げて、わたしを呼んだ。

 その表情は何処かドヤ顔で、何かを思いついたって顔だった。


 若干心配ではあるけれど、お姉を信じて側に戻ると、お姉は己の拳で胸をポンと叩いて揺らした。


「良い事を思いつきました! 話してる暇が無いので後で説明します!」


「は?」


 瞬間――お姉がポンッと音を立てて変身する。

 そしてその姿は、手のひらサイズの二頭身。

 精霊と同じ大きさで、しかも見た目はお姉がデフォルメされた姿だった。

 お姉はその姿になると背中にフローズンドラゴンの羽を生やして、わたしの顔の前まで飛んで来た。


「動物変化の精霊さんサイズバージョンです!」


「いやもうそれ動物の域越えてるじゃん! って、うわっぶなあ!」


 驚くわたしの目の前にグングニルアックスが接近して、それがアイギスの盾で弾かれる。

 お姉はグングニルアックスを防ぐと、「ムフウ」とでも言いたげなドヤ顔をわたしに向けてきた。


「精霊さんだって生きてるんだから動物です」


「ええ……。って、んもう! 鬱陶しい!」


 最早反論する気力も無くなったわたしは、呆れた所で襲ってきたグングニルアックスを、必斬を乗せたカリブルヌスの剣で弾き飛ばす。


「空気読めストーカー! 今話中なの!」


「何を企んでるか知らんが、そんな事させるわけないだろ。今は戦いの真最中だぞ」


 スタンプの言う事は最もだけど、少しくらい話す時間はほしい。

 と、そこで、今度はお姉がわたしの服のえりから胸にかけてのボタンを外して、服の中に侵入した。

 そして、わたしを覆うかまくらの様な形の盾が出現する。


「お、お姉!?」


 わたしが驚いていると、お姉がひょっこり顔を出して、わたしの顔を見上げた。


「えへへ~。一度これやってみたかったんです~。でも、服を掴んでないと落ちそうです」


「……お姉? それは遠回しにわたしにおっぱいが無いと言いたいのかな?」


「ち、違います! そう言う意味じゃないです!」


 スタンプより先にお姉を始末しようかと一瞬考えると、そこでかまくら型の盾がグングニルアックスによって切り崩された。


「あ、愛那ちゃん! また盾が壊されちゃいました! かまくらスタイルは頑丈なのに! あの槍ヤバいです!」


「分かってる!」


 かまくらスタイルなるものが無くなると、直ぐにグングニルアックスがわたし達、と言うかわたしに向かって飛んでくる。

 わたしは直ぐにその場を離れて、スタンプと距離をとりながら、グングニルアックスを弾き飛ばしていった。


「で? 思いついた事って、そうやってわたしの服に潜る事?」


「違いま――せんけど、違うんです! わたしが愛那ちゃんと常に一緒にいる状態であれば――」


 瞬間――突然けたたましい音が背後で鳴り響く。

 驚いて背後に振り向いて、わたしは理解した。

 いつの間にか背後から飛んで来ていたグングニルアックスを、アイギスの盾が防いだのだ。


「こうやってシュシュが自動サポートしてくれるので、ある程度の攻撃を防いでくれます!」


「凄いじゃん、お姉!」


「はい! サガーチャちゃんにお礼を言わないとですね!」


 わたしが凄いと言ったのは、それを思いついたお姉なんだけど、お姉が嬉しそうにしていたので言わずにおく。

 何はともあれ、これで随分と楽になった。

 そればかりに頼るってわけにもいかないけど、さっきよりか動きやすくなったのは間違いない。

 それに、お姉も自ら盾を出してくれるので、防御面は鉄壁の守りを手に入れた気分だ。


「小賢しい」


 グングニルアックスがほぼ確実に防げると言える状況になると、スタンプが苛立った様子で斧を手にした。

 確か名前はラブリュスだったような?

 どうせグングニルアックス同様にただの斧じゃ無いだろうから、わたしは最大限に警戒する。


 そしてそれと同時に、余裕が生まれた事で、レオさんから聞いた話を思いだしていた。

 お姉の助けがあるとは言え、それはあくまで護りだけ。

 攻める手段は結局わたしの頑張り次第で、光速の動きについて来られると、殆どの攻撃が効かなくなってしまう。

 ホントにいつも思う事だけど、単純な力比べで、子供のわたしに勝ち目なんて無いのだから。


 わたしとスタンプはお互いに近づき、剣と斧でぶつかり合う。

 と言っても、わたしは今まで通りに一撃離脱。

 なるべくスタンプに上から押さえ込まれない様にして、直ぐに距離をとる様にして攻撃を続けた。

 その間は勿論お姉もアイギスの盾を使って、グングニルアックスの攻撃を防いでくれている。

 だけど、本当にらちが明かない。


「マナちゃん、君は見た所、まだスキルを覚醒させていないね?」


「だったら何っ?」


 スタンプがニヤリと笑んで、その瞬間に、空に村を覆う程の量の魔法陣が浮かび上がった。


「必斬の本当の力ってのを見せてあげるよ!」


「――っやば」


 瞬間――魔法陣から目に見えない、鋭い切れ味を持つ風が村に降り注いだ。

 それは完全な無差別攻撃で、周囲にある建物をも巻き込んでいった。


「愛那ちゃん大変です! 村が……っ!」


「な!? アンタ何してんの!?」


 お姉の盾もあって、わたしは何とかそれからは逃れる事が出来た。

 だけど、事態は最悪の結果を招いてしまった。


 周囲の建物は人が住んでる家が殆どで、それが無差別の攻撃を受けてしまった。

 しかも、今はまだ人が眠っている時間で、どう考えたって被害が尋常でない事になってる。

 悲鳴や助けを呼ぶ声が、次から次へと聞こえ始め、子供の泣く声だってあちこちから聞こえ出してしまった。


「何をしているかだって? 必斬の力、つまりは直接触れていない物にも、効果を発揮できると教えてあげたんだよ。それに、そんなに周りが気になるなら何故助けなかったんだい?」


「はあ? ふざけんな!」


「今度は逆ギレか。本当に自分勝手なガキだな。周りが傷ついたのは貴様が護らなかったせいだ。俺に逆恨みなんてやめてほしいな」


「わたしの――」


「愛那ちゃん、あの人には何を言っても無駄です。それと、ごめんなさい。あんな風に周りを巻き込むなんて思わなくて、皆さんを護ってあげられませんでした」


「お姉……ううん。お姉のせいじゃないよ。ごめん、ありがとう」


 怒りで我を忘れてしまいそうだったけど、お姉のおかげで冷静を保てた。

 でも、これで分かった。

 さっさと何とかしないと、スタンプは危険すぎる。

 村の人達を助けに行きたいけど、このままスタンプを野放しにする方が絶対に駄目だ。


「次は、このラブリュスの力を見せてあげよう」


 今度は何をする気なのか、スタンプが斧を横に構える。

 その姿は、木を切り倒す時に斧を構えるような姿。


 わたしはその瞬間に、とてつもない嫌な予感を感じて、胸がざわついた。

 そして次の瞬間、スタンプが斧を真横に振るって空間が斬れ、それがわたしの許まで一瞬で届く。

 秒にしたらコンマ一秒ですら長いと思える程の一瞬の僅かな時間に、わたしは背後にある崩れた家や建物、そしてそこにいるであろう逃げる事の出来ない人達を護る為に、避けずにカリブルヌスの剣を振るった。


 結果は最悪だ。

 こんなスピードにシュシュの自動サポートも、ましてやお姉がついていけるわけも無く、対抗できるのが必斬を乗せたカリブルヌスの剣だけ。

 その結果、わたしの全力で振るったカリブルヌスの剣は見事に刀身を斬られてしまった。


 唯一良かった事と言えば、空間を斬り裂く程の斬撃が、カリブルヌスの剣を斬った後にわたしにあたる直前で消えた事だ。

 なんとかギリギリ相殺出来たと言う感じだけど、カリブルヌスの剣が使えなくなってしまった。


「今のを受け止めたのか。俺が思っていた以上に強かったんだね」


 スタンプのニヤリとした笑みがムカつくけど、正直それどころじゃ無い。

 カリブルヌスの剣が真っ二つになってしまって、わたしは焦った。

 こんな状態では、レオさんが言ってた本当の姿の“エクスカリバー”にする事すら出来ないだろう。

 例え出来たとしても、刃こぼれを治す程度の再生能力では、こんな見事に折れた状態の刀身は治せないだろう。

 それに……。


「愛那、血が!」


「……けほっ。まだ大丈夫だよ、お姉」


 血を少しだけ吐き出して、口についた血を腕で拭う。


 別に、スタンプの攻撃を食らったとか、魔力切れをまた起こしたとかでは無い。

 さっきのスタンプの攻撃を防ぐ為に、わたしは自分の肉体に限界を超える程の負担を与えてしまった。

 まさか血を吐くとは思わなかったけど、それでも立っていられないわけじゃない。

 ただ、気を抜くとふらついてしまいそうな、少しだけ体の怠さは感じていた。


 だけど、わたしの事情なんてお構いなしのスタンプは、再び先程と同じ構えをとった。


「――っヤバい。もう剣が……っ」


「私が今度こそ――」


 お姉が魔法で盾を出そうとしたけど何もかもがもう遅い。

 無情にもスタンプが再び斧を振るい、空間を斬り裂く斬撃が放たれた。


 お願い!


「エクスカリバアアアアア!!」


 瞬間――カリブルヌスの剣が黄金の輝きを放ち、わたしはそれをスタンプの斬撃に向かって振るった。

 わたしが振るったそれは黄金の輝きを放ちながらスタンプの斬撃を斬り裂き、そしてそれは、スタンプの許まで飛翔する。


「――なっ!?」

 

 スタンプは咄嗟にわたしの放った黄金に輝く斬撃を避け、その斬撃はスタンプの背後にあった家まで飛んでいく。

 だけど、その斬撃が家を斬り裂く事は無かった。

 家にあたると斬撃は光の粒子となって消えていき、まるで何事も無かったかの様にその場から無くなった。


「愛那ちゃん、それ……」


「あはは。レオさんってば、刃こぼれ程度なら再生出来るって言ってたけど、これ刃こぼれ程度じゃないじゃんか」


 わたしの手には、しっかりと刀身が完全に再生されたカリブルヌスの剣の本当姿、“エクスカリバー”の姿がそこにあった。

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