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273 グングニルアックスの猛威

「本当に変な奴だなあ、おまえ。よっぽどマナが好きなんだな」


 倒れたポフーと、その近くで魔石の中から解放された者達を見て、モーナは珍しく苦笑した。

 その目は優しい目で、モーナが滅多に見せない目。

 死んだと思っていたアイリンやペン太郎が生きていたのだ。

 どうして助かっていたのかは分からないけど、2人もランさんやじーじさんや精霊達同様に、ただ眠っているだけ。

 そんな姿を見せられてしまっては、モーナだって自然と優しい目にだってなる。


 モーナはゆっくりとポフーに近づこうとして、その瞬間に世界が割れる。

 万華鏡ミラーハウスを使用したポフーが気を失ったからだ。

 そして、モーナ達は、そのまま屋敷内にある大きな洗面所の鏡の前に排出された。


「さて、マナをさが……こいつ等を先にどうにかしないとだな。って、何でラヴィーナと一緒にベッドまで出て来たんだ!? 狭っ! デカ! 邪魔だあああ!」







 時は少しだけ遡り、モーナが面白おかしい事になっている今では無く、鏡の世界に行って直後。

 話し合いなんて全くせずに、わたしはスタンプにいきなり攻撃されて吹っ飛ばされてしまっていた。


 ラヴィがモーナと一緒に万華鏡ミラーハウスの中に入ってしまって直ぐに、スタンプがわたしのお腹を殴って、その勢いで吹っ飛んだのだ。

 しかも光速で。


 いやホント意味がわからない。

 咄嗟にお姉がアイギスの盾をわたしに張ってくれたから無事だけど、それが無かったら死んでいた。

 でも、おかげでお姉から離されてしまったし、ここが村のどこら辺なのか分からない。

 バーノルドの館は既に視界には無く、かなり飛ばされてしまったと考えられる。


「思ったよりダメージが無いな」


「スタンプ……っ」


 周囲を見回していると、目の前にスタンプがやって来た。

 どうやら追いかけて来たみたいだけど、お姉は無事だろうか?


「そうか。あの女の魔法で無事だったのか。やはり先にあの女を始末してから来るべきだったか?」


「良かった。お姉には手を出してないんだ?」


「いつでも殺せるからな。殺すならこっちが先だ。ポフーには、貴様が我が儘だから教育をしてやった結果死んだと言えば、納得するだろう」


 スタンプが斧を構えて、更には槍斧を宙に浮かせる。

 わたしはカリブルヌスの剣を構えようとしたけど、先にステチリングをスタンプに向けて情報を見た。




 スタンプ=ウドマン

 種族 : 魔人『魔族・元半魔』 

 職業 : 木こり(キング)

 身長 : 210

 装備 : ラブリュス・グングニルアックス

      鳳凰の衣・電石板でんせきばんシューズ改

 属性 : 風属性『風魔法』上位『嵐魔法』

 能力1: 『高速なでなで』覚醒済

 能力2: 『必斬』覚醒済

 能力3: 『激昂狂者オーディン』覚醒済




 映し出された情報は、やはりと言うべきか、以前とは違うものになっていた。

 気にするべきは、スキルが3つある事……でも無く【激昂狂者オーディン】だ。

 このスキルは“憤怒”になった魔族が覚えるスキルで、効果は……って、それどころじゃ無い。


 スタンプが宙に浮かせた槍斧、グングニルアックスが6つに分解され、それが不規則に飛翔してわたしに接近して来た。


「喜べマナちゃん。ポフーが作りだしたこのグングニルアックスで殺してあげるよ」


 6つのグングニルアックスがわたし目掛けて突っ込んできた。

 それは前後左右だけでなく上方からも飛んできて、避けても少し進んだ先で、方向を変えて再び突っ込んでくる。

 しかもその速度は、雷光を超えるとんでもないスピード。

 こっちも加速魔法でライトスピードを使わないと、絶対に対処なんて出来ない。


「全然嬉しくない! って言うか何これ!? 必斬で斬れない!」


 わたしは避けながらも必斬を使って、飛んでくるグングニルアックスを斬ろうとカリブルヌスの剣を振るっていた。

 だけど、全く斬れる気配が無い。

 出来るのはグングニルアックスを弾くだけで、グングニルアックスは弾かれた先で再び方向を変え、わたし目掛けて突っ込んできた。


「それはそうだろう。グングニルアックスには俺の必斬が含まれている。必斬同士はぶつかり合えば互いの効果を斬り相殺される。しかし、ポフーのおかげで、グングニルアックスには必斬の力を何重にも取り入れてあるんだよ。たかだか一回や二回マナちゃんが必斬で防ごうと、直ぐには効力が消えたりしないのさ


「最っ悪!」


 聞きたくもない情報を手に入れて、気分は最高に不快だ。

 つまりは、いくら必斬で斬ろうとしても簡単には斬れないし、当たれば確実に斬られる。

 しかも、必斬を使わずに剣を振るえば、剣が真っ二つになるって事だ。

 って言うか、このとんでもスピードで必斬なんて使う必要無いだろと文句を言いたい。

 必斬なんてなくてもスピードに任せて斬れるだろって話だ。


愛那まなちゃん!」


 幾度もグングニルアックスを弾き、避け、何とか耐え続けていると、そこへお姉がやって来た。

 お姉はよっぽど急いできたのか肩で息を切らしていて、姿も部分変化でフローズンドラゴンの翼を背中から生やして飛んで来た。

 そして、直ぐに魔法でアイギスの盾を出して、わたしをグングニルアックスの猛攻から護ってくれた。


「思ったより早く来たな」


 スタンプがグングニルアックスを自分の側に戻してお姉を睨み見たけど、お姉はスタンプを無視して、わたしの側まで来て着地した。


「愛那ちゃん無事で良かったです」


「何とかね。ありがと、お姉。おかげで助かったよ」


「礼には及びません! お姉ちゃんなんだから当然です!」


 お姉が笑顔で答えたので、わたしも少しだけ苦笑交じりに微笑む。

 すると、それを見ていたスタンプが、顔を歪めて不機嫌な態度で口を開いた。


「くだらない姉妹愛だ。どうせ死ぬんだ。さっさと殺してやる為に、何もしなかった方が良かっただろうに」


「死にません! 貴方なんかに私の大事な妹は殺させません!」


 お姉とスタンプが睨み合い、スタンプが6つに別れているグングニルアックスを一つに戻して、それを手に取った。


「その自惚うぬぼれた想いと一緒に、貴様等姉妹を殺す事にしよう」


 スタンプが走り出し、その足からはバチバチとした雷が走る。

 電石板シューズ改だとか言うのをいているみたいだし、電石板と言えば、あの電気を出す板だ。

 多分あれで雷のスピードを出せるようになってるのだろう。


 あっという間に距離が狭まり、スタンプはお姉を先に串刺しにしようと、グングニルアックスをお姉のお腹目掛けて突き出した。

 お姉は雷光の速度についていけない。

 だから、わたしはお姉の前に出て、スタンプの攻撃を防ごうとした。

 だけどそんな時だ。


「効――っきませんー!」


 お姉の前に出たわたしの前に、お姉がアイギスの盾を出現させて、スタンプの攻撃を弾いた。

 スタンプの攻撃を弾くと、アイギスの盾はグングニルアックスが当たった所を中心にしてヒビが入って砕ける。

 恐らく、スタンプの何でも斬れる必斬と、お姉の何でも防ぐアイギスの盾がぶつかり合った結果だろう。

 必斬は攻撃を防がれ弾かれて、盾はその身を犠牲にして砕かれたのだ。


 だけど、そんな事よりも、わたしはお姉がスタンプの動きについていけた事に驚いた。

 それはわたしだけでなくスタンプも同じだった。

 まさか自分の攻撃が弾かれると思ってなかったスタンプが、目を見開いて驚いて、後ろに下がって距離をとって呟く。


「何故だ? 姉の方は俺の速度について来れない筈だ……」


「シュシュのおかげです!」


 よく見ると、今まで気が付かなかったけど、お姉はシュシュを左腕につけていた。

 確か、クランフィールに捕まっていた時はつけていなかった筈だ。

 これには魔力無効化を無効にする力もあるから、つけていたらクランフィールに捕まっていた時に、もっと早くから魔法を使っていた筈だから間違いない。

 そしてこのシュシュには、魔法を自動でサポートすると言う効果もある。

 それを知っているわたしは、直ぐに理解した。

 つまりお姉は、このシュシュの自動サポート機能を使って、アイギスの盾を使ったのだ。

 なんと言うか、スキル使用に関してではあったけど、サガーチャさんがお姉の事を天才と言っていたのも頷ける。

 わたしはシュシュの自動サポート機能をそこまで上手く使えない。


 ただ、わたしと違ってシュシュの機能なんて全く知らないスタンプは、眉根を吊り上げてお姉を睨む。


「シュシュだと……?」


「はい! 私のシュシュはクランフィールさんに取られちゃってたんですが、モーナちゃんが館の中で見つけてくれて、ご飯を食べてる時に渡してくれたんです!」


「意味が分からん! そのシュシュが何だと言うんだ! ふざけた女め!」


 スタンプが再びグングニルアックスを6つに分解して宙に浮かせた。

 意味が分からなくとも防がれたのは変わりないので、攻撃手段を元に戻したのだろう。

 あのグングニルアックスと言う槍には、スタンプの【必斬】が何重にも付与されている。

 多分複数で何度も斬りかかれば、お姉のアイギスの盾では防ぎきれないだろう。

 でも、それを黙って見てるだけじゃないのがわたしだ。


「お姉、防御は任せたよ」


「はい! 任せて下さい!」


 わたしはカリブルヌスの剣を構えて、お姉に加速魔法をかけておく。

 そして、スタンプに向かって走り出した。

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