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271 ポピー=フレア=フェニックス 中編

※今回もポフー視点のお話です。


「頼む! ピング、ピングだけは見逃してやってくれ!」


「駄目ですわ。レティさん、どうしてこうなったか、分かっていますでしょう? この傲慢なペンギンは百害でしかありません。ここで貴女と一緒に死んでもらいますわ」


 それは、私が“憤怒”を殺した時の事ですわ。

 この場には私とお兄様、それから大罪魔族の1人である“憤怒のレティ”と、そのペットで喋るペンギン“傲慢のピング”がいましたわ。

 もう1人“嫉妬のアイリン”もいましたけど、先程沢山の針で串刺しにしたので、もう虫の息ですわね。


 私が答えると、“憤怒”はペンギンを護るように私の前に立ちましたわ。

 そして「逃げろ」と言っていますが、逃げたくても逃げれないでしょう。

 ペンギンは既に満身創痍で、動けるだけの元気が無いようですので。


 ペンギンを庇うように立つ“憤怒”を殺すと、ペンギンが大声で泣きましたわ。

 泣いた所で、同情するつもりはありませんので、直ぐにペンギンも殺すつもりでしたわ。

 ですが、それはお兄様に止められてしまいましたわ。


「ポフー、もう良い」


「お兄様、ですが――」


「もう気が済んだだろ? 確かに“憤怒”は死んで当然だ。人間を恨みながらも、その怒りを抑えて何もしない愚か者だった。それどころか盗賊団に力を与えた結果、ポフーが暮らしていた修道院が襲われた。だが、それには“傲慢”と“嫉妬”は関係無いだろう」


「……はい」 


 お兄様の言った通り、修道院を襲った盗賊団は“憤怒”と繋がりがあったのですわ。

 それを知ったのは、つい最近の話ですわ。


 毎年、修道院が襲われた日になると、私はお兄様と一緒に廃墟となった修道院に行くようになりましたわ。

 あの日の生き残りは私だけ。

 ですので、修道院には良い思い出も無かったですが、それでもたった1人の生き残りの私が、毎年死んだ皆さんのお墓にお花を持って行っていましたの。

 前世で日本人だったので、毎年お盆に姉さんとお墓参りに行っていたから、きっとその影響ですわね。

 お兄様には変わった子だと、最初は笑われていましたもの。


 修道院の廃墟の近くには、あの日死んだ皆さんのお墓がありますわ。

 それで毎年とくに用も無く修道院の廃墟にも訪れていました。

 そしてこの日、始めて修道院の廃墟で知らない女性と出会い、それが大罪魔族の“憤怒”でしたわ。


 彼女には、ピングと言う名の、とても傲慢な態度をする我が儘で喋るペンギンのペットがいました。

 そのペンギンが昔、行き倒れていた人を自分の世話係にすると何人も連れて来たそうです。

 彼女は人を嫌う為、最初は嫌がっていましたが、友人であるアイリンと言う名の少女……つまり“嫉妬”の説得もあって徐々に受け入れていったそうですわ。

 そして、ペンギンが世話をさせていた方達に、不自由のないようにと力を与えてしまったのですわ。


 それから間もなくして、力を手に入れた方達は、ペンギンの許を離れていきました。

 力を手に入れたので、ペンギンの言う事を効く必要が無くなったからですわ。

 ペンギンは本当に傲慢だったので、きっと嫌気がさしていたのでしょう。


 そしてある日、その力を手に入れた者達が盗賊団となり、自分達を行き倒れるまで追い込んだ人々に復讐し始めましたわ。

 復讐と同時に金品を奪っていて味を占めた盗賊団は、復讐が終わると、今度は無差別に力の無い者を襲い始めた。

 ですが、彼女は何もしなかった。

 無差別になんの罪もない人を襲うまで成り下がった彼等を見て、“人間は力を持った途端に愚かになる。なんて救いの無い生き物だろう”と、他人ごとの様に考えて怒っただけでしたわ。

 あくまでも他人事で自分は関係無い。

 それが“憤怒”と言う女だった。


 そしてこの日、彼女が修道院に来た理由は、友人のアイリンに連れられてと言う理由。

 そうでなければ、来る必要も無いと思っていたと、彼女本人の口から聞きましたわ。

 と言っても、これはその日出会ってから数日後の話ですわ。

 この日は出会って直ぐにアイリンがピングを連れて来て、何も知らなかった私は“憤怒”である彼女とお話して終わりましたわ。

 ですが、アイリンが人懐っこい性格でしたので、連絡を取り合うようにはなりました。


 そして、ついにこの日が訪れました。

 彼女達に何度も会い、当時の事を彼女達から聞き、盗賊団の元凶である“憤怒”を殺したのですわ。


 お兄様は“傲慢”があの事件とは関係ないと仰っていますが、私はそうは思っていません。

 “憤怒”が力を与えた盗賊団は、元々この“傲慢”なペンギンが連れて来た連中ですわ。

 きっかけを作ったのはペンギンで、多少の恨みはありますわ。

 ですので本当はペンギンの方も殺しておきたいのですが、命の恩人であるお兄様が止めをさすなと仰るのであれば、私はそれに従いますわ。


「分かりましたわ、お兄様。これ以上は――」


「待てポフー。俺の話は終わってない」


「お兄様?」


「先日出会ったバーノルドを覚えているか? 未来から来たと言っていた男だ。奴の事を信用出来ないと、ポフーは言っていただろ?」


「え? ええ。確かにあの男は信用出来ませんわ。あの男はお兄様や私を利用しようとしています」


「俺もそれには同意だ。だから、奴とは関係を持たない、裏で動かせる俺専用の奴隷が欲しかったんだ。もちろん実力のある奴じゃないと駄目だ」


「この2人をそうすると……?」


「その通りだよ、ポフー。こいつ等は腐っても“傲慢”と“嫉妬”だ。“傲慢”はその様子だと使い物にならないかもしれないが、“嫉妬”の方は……見ろ」


 お兄様に言われて串刺しにした“嫉妬”に視線を向けると、その状態で気を失わずに、私とお兄様を睨んでいましたわ。

 私が“嫉妬”を串刺しにしたのは、両腕と両足の太もも、それからおへそ少し上。

 その状態で地面に張り付かせて、身動きがとれない様にしていたのですわ。

 にもかかわらず、その顔は怒りに満ちていて、身動きが取れない状態でなければ今にも襲いかかってきそうでした。

 そして声を絞り出すように「レティ、ピングはワシが絶対に護るのじゃ」と言い、自分の身を串刺しにしているそれを、引き抜こうとしていましたわ。


「奴は間違いなく使える。ただ、今のままだと言う事を聞かないかもしれないな。殺さない程度に色々試すのも悪くない」


「分かりましたわ」


 お兄様の思惑通り、その後は“傲慢”と“嫉妬”を裏で操れるようになりましたわ。

 ですが“傲慢”は本当に使い物にならなくなりましたわ。

 恐怖のあまり喋るだけしか能が無くなったペンギンへとなれ果てましたわ。

 ですので、その後は“嫉妬”のアイリンとだけ連絡を取るようにしたのですわ。

 勿論、アイリンには私達とは、もう会ってないし連絡もしていないと嘘をつかせて。


 それから、アイリンは怯えるペンギンに、新しく“ペン太郎”と言う名をつけていたようですわね。

 大罪魔族である“憤怒”が死んだと言う情報は直ぐに流れましたわ。

 それからは魔族の方達の間ではその話で持ち切りだったようですわね。

 それに、殺したのが自分だと私が名乗らなかったのもあって、魔族の間で争いが始まったようですわ。

 “憤怒”の力を欲する者や、自分も大罪魔族を殺せるんじゃないかと、自分の力を過信した勘違いするお馬鹿さん。

 そう言えば、その1人がボウツですわね。

 皆さんよっぽど興味がおありの様で、魔族同士の殺し合いなんかも裏では行われていたようですわ。

 ですので、ピングの名前をペン太郎と変える事で、ペンギンの身を隠して護ろうとしていました。


 そして、私が“憤怒”を殺して暫らくしてからの事ですわ。

 あの気持ちの悪いバーノルドと言う男が「そろそろ本格的に動く時だ」と言って、私とお兄様の目の前に現れましたわ。







「お兄様、何故あの男の護衛をする為に、私があの男の奴隷を演じなければなりませんの? しかもその為に、お兄様と離れて生活して練習しないとだなんて、絶対に嫌ですわ」


 その日、私は初めてお兄様に反抗してしまいました。

 理由は二つありますわ。


 一つは、今言った通りの事ですわ。

 バーノルドの奴隷として、ドワーフの国で暫らく生活する事になってしまったのですわ。

 お兄様は必要な事だと仰いましたが、それでもあの男の奴隷になるなんて、演技だとしてもしたくありませんでした。

 そもそも、私はあの男が本当に嫌いなのですわ。

 好きな女の子がいるらしく、その女の子をめとる為に未来から来たと言うロリコン。

 異世界から転生した私は、未来だなんてと笑うつもりはありません。

 この世界にはスキルや魔法があるのですから、そう言う力だってあってもおかしくありませんわ。

 しかし、バーノルドは大した実力も無く、ただ使えるスキルが強力なだけ。

 お兄様が一言「殺せ」と私に命令して下されば、今直ぐにでも殺しに行って、殺せてしまえる程度の実力。

 でも、お兄様はあの男を信用はしていないけど、利用価値があると生かしていますわ。

 だから、いくらあの男が気持ち悪くて気に入らなくても、私はお兄様の為にあの男には手出しできないのですわ。


 話が脱線したので戻しますと、この話はバーノルドが初めての試みの為に準備が必要だと、お兄様に言いに来たのが始まりですわ。

 近々ドワーフの国にターゲットにしている女の子がやって来るとかで、ドワーフの近くにアジトを持つ奴隷商人を操っているジライデッドに協力してもらい、ドワーフの国に近づいて来たターゲットの乗る馬車を襲うつもりらしいですわ。

 そして、その奴隷商人からバーノルドがターゲットを買う。

 その時の裏工作の一つとして、バーノルドが雇っているメイドの中に、護衛として私を紛れ込ませると言うのが今回の話ですわ。


 そして反抗してしまったもう一つの理由は……。


「まあまあ。落ち着きなさい、ポフー。練習もそうだが、今回関係を持つ奴隷商人達のトップの男、ジライデッドとも顔合わせがあるんだ。バーノルドが嫌いなのも分かるが、念の為に3人で話し合いをするべきなんだ。それに、俺はその間やるべき事がある」


「やるべき事……それは、モーナスと言う名前の魔族の子の事ですか?」


「そうさ。先日この町に来たあの猫耳の魔族の女の子モーナスちゃんだ。俺はあの子に一目惚れした。是非、俺と結婚してほしい。ポフーも姉の存在に憧れているんだろう? いつだったか言っていたじゃないか。これでポフーにも姉が出来るんだぞ?」


「そうかもしれませんが、私は…………」


 もう一つの理由は、この魔族の女の子、モーナスと言う方の存在。

 この方が私とお兄様が住むバンブービレッジに訪れてからというもの、お兄様は変わってしまわれました。

 お兄様に恋をしているわけではありませんでしたが、それでも親しい兄であるお兄様を取られたようで、私は会った事も無いモーナスと言う方が嫌いになりましたわ。

 そして、毎日の様にお兄様の口から「モーナちゃん」と言う言葉が出るたびに、私の心は荒んでいったのですわ。


 その結果、バーノルドの件と合わさって、つい反抗してしまったのですわ。


「心配するな。練習の方はあくまで可能性だ。ジライデッドとの話し合いをしたら、一先ずは戻って来ていいとなっている」


「……はい。でも、バーノルドの話が本当に起こるなら、バーノルドが狙っているマナ? と言う方と一緒に、モーナス……さんも馬車に乗る予定なのでしょう?」


「そのようだな。俺から見ても、あの2人は仲が良さそうだった。それに俺のスキル【高速なでなで】で随分と照れていたな。少し凶暴性が高い子だったが、それは調教してやればいい。あの子も愛人にして、ポフーの2人目の姉にするのも悪くない」


「嫌ですわよ。そんな方」


「はっはっはっ。そうかそうか。まあ、安心しなさい。モーナちゃんは俺が娶るから、ドワーフの国には一緒に行かないだろう。バーノルドも俺がモーナちゃんと出会う世界は始めてだと言っていたしな」


「だと良いのですが……。分かりましたわ。お兄様の為に、バーノルドの所に行きますわ」


「ああ。頼んだよ、ポフー」

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