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269 泥棒猫VS鳥頭 後編

※今回もモーナス視点のお話です。


 重力の玉をポフーに向かって飛ばし、同時に私も走り出す。

 それから余所見した。


 少し気になった事がある。

 ここは、万華鏡ミラーハウスで作りだされた鏡の世界だけど、さっきから妙だ。

 鏡ってのは全部を映す物なのに、ここには人がいないんだ。

 鏡の中の世界だから、表の世界の人がいない……とも考えたけど、納得いかん。

 そんな都合の良い話があるか。

 鏡を見れば自分が映るし、背後に人がいればそいつも映る。

 だったら、本当に鏡の中だってなら、ここにも人がいるべきなんだ。


「作り物の世界か? なら!」


 余所見の先にある村の連中の家を、とりあえず適当に見繕って、魔法を使って地面から剥がして宙に浮かせる。

 私の行動にポフーがしかめ面になったけど、何をしようとしてるのかは分からないみたいだ。

 家を投げつけると思ったのか、魔石から大量の壁を出現させた。


「本当に便利な魔石だな。何でもあるぞ」


 まあ、私には関係ない事だ。

 浮かせた家を全てポフーに突っ込ませて、目の前で木端微塵に粉砕してやる。


「――っな!?」


 作戦成功だ。

 目の前で家が粉々になると、ポフーは耳を手で押さえて顔を歪ませた。


 私の狙いは視界と聴覚を防ぐ事だ。

 ポフーの目の前で粉砕した家は粉になって、そのまま霧のように周囲に舞う。

 重力の魔法で無理矢理粉砕したから、その瞬間に発生した音だってヤバいんだ。


 私はちゃんと耳を閉じて音を塞いだからな。

 全然平気だ。

 だけどポフーは予想外な出来事で耳なんて塞がなかったから、完全に粉砕音に耳をやられて顔を歪ましてるわ。


 ポフーが防御に使ったのは、あくまでも突っ込んでくると予想していた家を防ぐ為の壁。

 そんなもので、霧みたいに漂う家の粉と、それを作りだした時の粉砕音を防げるわけがない。


 身動きが取れなくなったポフーに、私は目の前では無く背後から近づいて、そのままポフーの背中に向かって爪を振るった。


「――ぅっくぁ……!」


「はああ!? 避けられた!? おまえ反射神経良すぎだろ!」


「どこが! おもいきり背中に傷をつけられましたわ!」


 私とポフーはお互いが後ろに下がって距離を置く。

 良い作戦だと思ったけど“憤怒”を倒したってだけあって、そう簡単に倒しきれない。

 今のもポフーの言う通り、私の爪は確かにポフーの背中を斬った。

 だけど全然だ。

 血は出てるけど全然浅い。

 それに耳がもう元通りなんて予想外だ。


 そこ等に漂っていた粉はポフーが魔法で焼き尽くし、一瞬にして燃え尽きた。

 まあ、これは予想通りだけど、同じ攻撃はもう通用しないだろうな。

 ここは背中に傷を負わせれただけでも良しとして、次だ。


「丸焼きにして差し上げますわ」


 私が走りだすと、それと同時にポフーの頭上に魔法陣が出現した。

 次の瞬間に竜巻みたいな黒い炎の渦が魔法陣から飛び出して、音速で走る私に向かって飛んでくる。

 直ぐに黒い炎の軌道から外れたのに、黒い炎は真っ直ぐ進まずに私を追尾した。


「面倒だな」


 重力の玉を黒い炎に向かって飛ばして相殺して、私はそのまま一気にポフーに爪で斬りかかった。

 と見せかけて、手をかざした。


「グラビティミキサー!」


「フレイムファン!」


 二つの魔法がぶつかり合い、重力が炎とまじり合って弾けた。

 流石にそんな状態になると制御できないから、私とポフーは同時にその場を離れる。

 弾けた周囲の地面は抉られて燃え上がって、軽く焼野原だ。


 ムカつく事に攻撃はまた防がれたけど、今回も収穫はあった。

 ポフーの奴が使う魔石はまだまだ沢山あるけど、それでも種類は減ってきていた。

 今の所ポフーが使う魔石の殆どが使い捨てで、まだ精霊どもが吸収された魔石を使ってきていないのは気になるけど、今はそんな事はどうでも良いわ。


 一番厄介なのは、魔法を使う時に魔石の魔力を利用してる事だ。

 ポフーからすれば、魔石を媒介に魔法を使っているから、それ用の魔石がある限り魔力切れを起こす心配が無い。

 見た所ポフー自信は魔力を言う程そこまで持ってないから、私の魔法を相殺する程の威力を維持できるのは、魔力供給用の魔石があるからみたいだ。


 だけど、やっぱり私は流石だな。

 攻略方法をもう見つけたわ。

 要は、供給に使ってる魔石の魔力をからにするか、ぶっ壊せば私の勝ちだ。


 狙うは魔石だな!


 そうと決まれば無駄でも何でも使えるものは使うにかぎる。

 さっきの様に粉砕するのに良さそうな家を適当に見繕って、それを地面から剥がしていく。


「同じ事を!」


 ポフーが魔法でプロペラ型の炎を放って、私が地面から剥がした家を灰に変えていった。

 それならそれで魔石の魔力を空にするだけだ。

 だけど、魔石の魔力量が分からないから、ただそれを続けるわけにもいかないわ。

 私の魔力が先に底を尽きたら意味ないからな。

 だから、私は魔石を破壊する為に、ポフーに向かって走り出した。


「面倒ですわね。あの子のスキルも利用しますわ」


 ポフーが何か呟いて、魔石を一つとりだした。

 そしたら地面から氷のゴーレムが現れて、そいつ等が周囲にあった家だけでなく、全ての建物を破壊し始めた。


「そう言えば吸収した奴のスキルも使えるんだったな」


 ポフーを攻撃の間合いへ入れて、あくまで魔石では無くポフーを狙うように見せて爪を振るう。


「忘れていましたの?」


 ポフーが怪しく笑って、その瞬間に若葉マーク……クォードレターのスキル【ジャバウォック】の鋭い爪を持つ黒竜の手が、私の目の前に飛び出した。

 不意を突かれた私は咄嗟に防ごうとしたけど遅かった。

 私はそれに腹と左腕を斬られてしまって、双方から大量の血が飛び出した。


「――っぐ」


「クォードレターさんのスキルって単純ですけど、威力だけはかなりのものですわね」


 ポフーがそう言って、続けて魔石を通してジャバウォックを使用する。

 流石に緊急回避をしないと不味い状況だ。

 あらかじめ先に仕掛けておいた引力に似た重力を発生させて、後方にある家の瓦礫に私の体を引っ張らせて、私はジャバウォックの爪から逃れた。


「流石にしぶといですわね、モーナスさん」


「ポンポンと次から次に色んなスキルを使いやがって、いい加減こっちは見飽きてるんだ! 何度も食らうか!」


「その割にはお腹と左腕が血だらけですわよ?」


「これはハンデだ!」


 本当に一々ムカつく奴だ。

 それに厄介な事も分かった。

 ジャバウォックなんてスキルはどうでも良い。

 厄介なのは、ポフーの背中の傷が既に癒えていた事だ。


 さっき近づいた時に気がついたけど、多分これも魔石の力だ。

 回復系の効果を持つ魔石でも持ち歩いているか、プリュイを吸収したから、プリュイの魔法を使ったのかもしれないわ。

 どっちにしても、流石に戦闘中に回復されるのは盲点だった。


 このまま長期戦をしたら、いくら最強の私でもジリ貧で負ける可能性が出てくる。

 精霊どもの魔石だって残ってるんだ。

 よく考えても見れば、魔力供給の魔石はあくまでポフーの魔法を使う為の補助だろうから、魔石を破壊した後にそれ等を使われて戦闘が長引く可能性を考えないといけない。

 そもそも、魔石を使う時に必要なのが、魔力では無くスキルってのが一々ややこしい。


 このまま魔石を狙うか、それとも本体のポフーを気絶させるか。

 こんな時マナがいてくれたら、遠距離から【必斬】を使ってもらって、魔石を頼――っあ!


 マナの事を思い出して、良い作戦を思いついた。

 ただ、二度目は無いだろうし、一か八かの賭けみたいな所があるわ。

 だけど、私は元々考えるのが得意じゃないから、思い立ったら即行動だ!

 まずは、これから動くのに邪魔な爪は引っ込める。


 次は瓦礫だ。

 ポフーが出したゴーレムどもが家を破壊してるから、それを頭の良い私が利用してやる。

 瓦礫の山に魔法をかけて、大量の瓦礫を宙に浮かせていく。

 それから、浮かせた瓦礫は全部ポフーに向かって直ぐに発射だ。


「鬱陶しいですわ」


 ポフーが顰め面を見せて、魔石から岩の壁をいっぱい出して瓦礫の雨を防いでいった。


「――っあ! そう言う事か!」


 瓦礫を防ぐポフーを見て、私の天才力が発揮した。

 今まで気付かなかったけど、ポフーの炎の魔法なら、飛んでくる瓦礫を消し炭に出来る。

 しかも消し炭にすれば、私が瓦礫を使っての追撃が出来ないんだ。

 現に私は防がれた瓦礫を幾つも再利用してるわ。

 そのせいもあってポフーは瓦礫を防ぐのに必死で、岩の壁もあって私の位置を把握できてない。

 そんな状況でもポフーは魔法を使わない。

 もう決まったようなもんだ。


「おまえ、魔力供給用の魔石を一つしか持ってないだろ!」


「――っ」


 ゴーレムどもを重力の玉で一掃しながら突き進み、岩の壁を重力で圧縮粉砕してポフーの目の前に躍り出て、そのままポフーの肩を掴んでやる。


「欲望を解放してやる!」


「雷鳴の槌!」


 “強欲”の力を使った瞬間に、私はラヴィーナが使うトールハンマーの様な攻撃を顔面横、左耳の辺りを中心に食らった。

 とんでもなくヤバい雷と衝撃を受けて、私は雷光の速さで吹っ飛ばされた。


「モーナスさん! 貴女のスキルは私には――」


「私の狙いは服だあああああ!」


「――ふ……っきゃあ!?」


 私が狙っていたのはポフーの服だ。

 “強欲”の力を持つ私だからこそ知ってる事だが、欲望を持つのは生物だけじゃない。

 物にだって命はあるし欲望がある。

 だから私は服に重力を付与して、自由の身になりたいと言う欲望を解放してやったんだ。

 それに、これで終わりじゃないわ。


 吹っ飛んでいた私は重力の壁を作って空中で止まって、そのまま一気に重力の壁を蹴って、一直線にポフーに向かって跳躍した。

 そして、それと同時のタイミングでポフーの服、正確に言うなら幻獣の羽衣だから着物か? が肌蹴て、ポフーから逃げるように宙を舞って飛んでいく。

 肌着を着ていなかったらしく、ショーツだけになったポフーが顔を真っ赤にして、慌てて腕と手で胸とショーツを隠した。

 完全に隙だらけだし、魔石も服と一緒に飛んでったわ。

 そして次の瞬間に、一瞬でポフーに近づいた私は、ポフーにボディブローをぶちかましてやった。


「――あが……っ!」


「これで――」


 ポフーが吹っ飛び、すかさず吹っ飛んだポフーを重力の壁で止めて、空中で固定してやる。

 空中で止まったとはいえ、クッション無しの重力の壁だ。

 鉄なんかよりよっぽど硬い壁に激突したのと同じ様な衝撃を受けて、ポフーは血を吐いた。


「――止めだあああああああ!」


 ポフーに向かって駆けながら爪を伸ばして硬化して、更に爪に重力の魔法を付与して一気に突っ込んで、ポフーの腹を斬り裂いた。

 斬り裂いたといっても真っ二つにはしてない。

 あくまで気を失うレベルの致命傷……じゃなくて深手だ。

 それから勿論それだけでは終わらない。


 ポフーは血飛沫を上げて無い。

 理由は爪に纏わせた私の魔法だ。

 ポフーを斬り裂いた時に出た血は、爪が全部……では無いけど吸収したんだ。

 あと、出血多量で死なれても困るから、重力で血がこれ以上外に出ない様にしてやった。

 感謝してもらいたいくらいだ。


 決着がついたと思ったが、ポフーは私の爪を食らって気絶はしなかった。

 ラヴィーナの虚ろ目とは違う、意識が飛ぶ寸前の虚ろ目で私を見た。


「流石……ですわね……。魔石を使う…………暇もありませんでしたわ」


「おまえタフだなあ。あ、これは返してやる」


 爪に重力で纏わせていたポフーの血を、腹の傷から返してやる。

 これで血が足りなくなる事も無いだろう。


「それ……バイ菌とか大丈夫です……の?」


「おまえなあ。そんななのにそんな事気にすんなよ」


「ふふふ。そう……ですわね……」


 もう戦意は無いみたいだから、重力で空中に固定していたポフーを地面に降ろす。

 ポフーは地面に足をつけると、ふらついた足取りで歩き出した。


「やっぱり……やっぱり私では、貴女には敵いません……わね…………」


 回復用の魔石は服と一緒にどっかに飛んでいったから、ポフーは今回復が出来ない。

 それに半裸だ。


 その場でうずくまると思っていたから、ポフーが歩き出して私は少し警戒した。

 内心少し焦った。

 ゴーレムを始末していた重力の玉の出し過ぎに、ポフーが反応しきれない程の加速をする為に、魔法を最大出力で使い続けたから限界手前だった。

 これ以上ポフーとの戦いが続くと、ちょっときつい。

 いくら天才の私でも限度がある。

 マナのカリブルヌスの剣にかかっている重力の魔法も、これ以上魔力を消耗すると解けそうだった。

 仕掛けられる前に仕掛けるかと、カリブルヌスの剣に支障が出ない程度に、私は残り僅かな魔力を集中する。

 だけど、その必要は無かった。


 ポフーは少し歩くと、その場に両膝をついて、さっきまで周囲に浮かせていた幾つかの魔石を引き寄せた。

 そして、魔石が光って、中から吸収されていた奴等が気絶した状態で出来てきた。


「おまえ……良いのか?」


「……ええ。元々、そのつもり……で……し…………」


 ポフーはそう言って、今度こそ気を失った。

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