268 泥棒猫VS鳥頭 前編
※今回はモーナス視点のお話です。
元々、私はポフーと本気で戦う気が無かった。
理由はマナと仲が良いからだ。
バーノルドとか言うロリコンの所で奴隷をしていた時に知り合って、魔石でマナを手伝ってくれたから、私も少しは感謝してた。
後から話を聞いたら、あの強力なプロペラ型の炎の魔法は、ポフーが魔石に入れた魔法だった。
その時はとくに気にしなかったけど、今にして思えば変な話だった。
あれだけの魔法を魔石に数回分入れれるような奴が、大人しく奴隷なんてやってるわけないからな。
でもまさか、あのストーカーの妹とは思ってもみなかったぞ。
しかも、血は繋がってないみたいだけど、ポフーとストーカーはかなり似てる。
「マナねえさんの心を弄ぶ泥棒猫。貴女を殺して、私がマナねえさんの一番になりますわ」
この調子だ。
私が嫌いなタイプの人間で、こいつもストーカーと一緒でヤバい奴なのは間違いないわ。
しかし、私もそろそろ本気を出さなきゃいけなさそうだ。
ポフーの強さは想像以上で、“憤怒”を殺したのも頷ける強さだ。
前世の記憶持ちの転生者ってのも非常にたちが悪い。
私も前世が猫だった。
猫とは言え、私も転生者だから分かるけど、前世の記憶があるってだけでアドバンテージが高いんだ。
ポフーは7歳のくせにそこ等辺の大人より頭が回る。
自分のスキルや魔法をよく理解していて、どうすれば上手く活用できるか分かってるんだ。
おかげでこっちも手加減していれば、その内に足元を掬われてヤバい事になりそうだ。
爪を伸ばし魔法で硬化させ、身を低くして構える。
更に周囲に若葉マークを倒した重力の玉を浮かび上がらせて、手には“強欲”の力【欲望解放】をセットする。
もう一つのスキル【猫祭り】は使わない。
猫祭りは私に好感を持ってる奴にしか効かないからな。
ポフーには効かないだろ。
とにかく一度触れてしまえばこっちの勝ちだ。
私は走って、変速や方向転換を加えながらポフーに近づいて行く。
ポフーは自分の周りに浮かべている魔石を幾つか飛ばしてきたけど、それを重力の玉で強引に無力化していく。
しかし、この魔石が本当に厄介だ。
無力化と言っても、結構ギリギリだし防ぎきれないのもある。
一応防ぎきれなくても、私に魔石から飛び出す魔法が届いてないから、無力化と言ってるだけだ。
「流石ですわね」
私がポフーに近づくと、ポフーが笑った。
気でも触れたかと思ったけど、そう言うわけでも無かった。
ポフーに近づいた私は爪を振るわず触れて、欲望解放のスキルを発動した。
解放する欲望は“睡眠欲”だ。
他の欲望も色々考えたけど、これが一番平和的でマナも納得する。
しかし、スキルを受けたポフーは眠らなかった。
それどころか、勝ったと油断した私の腹に魔石を当てて、そこからとんでもない重さのある衝撃が飛び出した。
「――っが!」
回避出来ず衝撃をもろに受けた私は、威力がヤバすぎて一瞬意識をもってかれ、音速を越える速度で後ろに吹っ飛ぶ。
数百メートル先で地面に足をつけて勢いを消したけど、そこにあった民家に激突してしまった。
「マナねえさんがせっかく私の情報を提示したのに、全く活かせていませんわね」
激突した民家の瓦礫の下から這い上がっている間に、ポフーが近づきながら話した内容、情報と言われて思いだしたわ。
ポピー=フレア=フェニックス
年齢 : 7
種族 : 魔人『魔族・元鳳凰族・瑞獣種』
職業 : 妹
身長 : 143
BWH: 63・51・63
装備 : 魔石
幻獣の羽衣・幻獣の靴
ステータスチェックリング
属性 : 火属性『炎魔法』上位『黒炎魔法』
能力1: 『不動の乙女』覚醒済
能力2: 『魔石使い』覚醒済
能力3: 『黄泉返り』未覚醒
ステチリングに表示された情報はこんなんだったな。
「……もしかして、私のスキルが効かなかったのは【不動の乙女】とか言うスキルのせいか……?」
「その通りですわ」
「こんな名前で分かるか!」
苛ついたから怒鳴ると、ポフーが笑って答える。
「不動の乙女は精神系のスキルや魔法などの力を無効化するスキルですわ。なので、貴女の使う“強欲”の力は効きませんの」
「くそっ。完全に実力で黙らせるしかないか」
「怖いですわ」
全然怖くなさそうにポフーが話して、周囲に浮かせている魔石を私に飛ばす。
こっちはさっきダメージを受けて吹っ飛ばされたせいで、諸々の魔法が解除されてるのに冗談じゃない。
体勢を立て直す為にも、私はそれから逃れる為に、近場にあった民家の屋根に跳躍して逃げた。
私が跳躍して逃げると、さっきまで私が立っていた場所に魔石が飛び、周囲を溶かす酸性の液体が飛び出して瓦礫を溶かしていった。
「おまえの使う魔石の方がよっぽど怖いわ!」
再び重力の玉を浮かび上がらせて、爪を硬化して神経を研ぎ澄ませて呟く。
「あまり使いたくなかったけど、この際だから仕方ないか」
「……? 何か言いました?」
「欲望解放の力を、私自身に使うって言ったんだ!」
ポフーに答えるのと同時に、私は自分にスキルを発動する。
解き放つ欲望は、肉体への限界を求める欲望。
これをすると、普段出す本気より段違いの本気が出せる。
何故か気になってボスに理由を聞いたら、火事場の馬鹿力が常時出るようなものだと言っていたわ。
私はスキルを発動すると、直ぐに跳躍してポフーに爪で斬りかかる。
ポフーは一瞬だけ驚いた顔をして、直ぐに魔石の一つから剣を出して、私の爪を受け止めた。
ムカつくのが、剣を出したと言っても、ポフーがそれを掴んでいるわけではない事だな。
剣は宙を浮いていて、魔力で操られているのか知らないけれど、それが私の攻撃を防いだんだ。
更に、ポフー自信が私の攻撃を防いだわけでは無いから、直ぐに反撃をしてきた。
魔石から追加の剣を出して、それで私に斬りかかる。
しかもそれは、ギザ歯が使っていた魔剣グラムだった。
ポフーが一振りをした瞬間にそれは冷気を放って、氷柱みたいな尖った氷が大量に飛び出す。
私はそれを重力の魔法で全部地面に叩き落としてやったけど、その間にポフーが私から距離をとって、地面に魔剣グラムを刺して地面から氷が溢れだした。
溢れ出した氷は地面を走って私の側まで来ると、私に向かって勢いよく上へ伸びた。
「――っギザ歯より上手いな!」
私の爪を受け止めていた剣を払って、ギリギリで地面から伸びた氷を躱す。
と、今度はそこにポフーのプロペラ型の炎が飛んで来た。
「グラビティシールド」
直ぐに目の前に魔法陣を生成して重力の盾を出現させる。
間一髪で重力の盾がプロペラ型の炎を防ぎ、私は直ぐに横に跳ぶ。
そして次の瞬間に、私が立っていた地面から炎が噴き出した。
「あら。よく分かりましたわね?」
「私は耳も良いからな! 真下から何かが迫ってるのは聞こえてたんだ!」
「猫種の特徴の一つですわね。盲点でしたわ」
のんびり会話をしているつもりは無い。
ポフーが話している間に接近して、爪で刺突したけど、思った通り上手くはいかない。
直ぐに魔石からシールドを出されて防がれた。
「グラビティスタンプ!」
「フレイムファン」
重力の重りをポフーに放つと、ポフーがそれを扇の形をした炎で叩き落として相殺した。
威力は五分だったみたいで炎も消し飛んだ。
でも、まだ攻撃の手を止めるつもりはないわ。
次の一手は重力の玉だ。
直接ポフーに叩きこんでやろうと宙に浮かせた重力の玉を掴んで、それをポフーの腹に目掛けて殴る様に振るった。
「――っ」
流石に不味いと感じたのか、ポフーが魔石から鉄の盾を出現させながら後方に下がった。
そのせいで鉄の盾を拉げさせただけで終わったけど、今まで余裕を見せていたポフーの余裕を少しだけ無くしてやった。
私はニヤリと笑い、更に重力の玉を数十個追加で浮かばせる。
「どうした? こいつが怖いのか?」
ニヤリと笑って言ったのが気に入らなかったのか、私の言葉を聞いたポフーが、始めて眉根を上げて私を睨んだ。
そして、怒気を孕んだ声色で私の言葉に答える。
「モーナスさん、貴女のその人を馬鹿にしている顔が気に入らないのですわ」
「あーっはっはっはっ! 馬鹿にしているんじゃなくて、おまえが馬鹿なだけだ! 馬鹿だから馬鹿にされてるように見えるんだぞ! 少しは賢くなるように努力しろ鳥頭!」
「……本当、私は貴女が嫌いですわ!」
「それはお互い様だ!」