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267 猫耳少女と尾羽少女は仲が悪い

 万華鏡まんげきょう、それは二枚以上の鏡を使って、綺麗な模様を見る道具。

 だけど、グラスが使うスキル【万華鏡ミラーハウス】は全くの別物。

 狙った相手を鏡の世界に閉じ込めるスキルだ。


 今その世界に、モーナと眠っているラヴィが閉じ込められてしまっていた。

 そしてそこには、モーナとラヴィを閉じ込めたポフーもいた。


「ラヴィーナまで連れて来て、魔石の中に吸収するつもりか?」


「まさか。ラヴィーナさんはマナねえさんの大切な妹のような存在ですもの。そんな事はしませんわ」


 モーナの問いに、微笑んで答えるポフー。

 ポフーは魔石を一つ取り出して、魔石からフカフカのソファを出現させる。


 モーナは眉根を上げて、尻尾の毛を逆立てる。

 そんなモーナを気にする事なく、ポフーはソファに腰を下ろした。


「おまえ、私をなめてるな?」


「モーナスさんも知っての通り、私のお兄様は貴女に惚れています。ですので、貴女とは極力争わない事にしているだけですわ」


 そう言うと、ポフーは魔石を一つモーナに向かって放り投げる。

 モーナは警戒したけど、それは危ない物では無かった。

 魔石の中から飛び出したのは、攻撃的な魔法や武器では無く、寝心地が良さそうなフカフカのベッド。


「んにゃ」


 拍子抜けして思わず変な声を出したモーナに、ポフーはクスリと笑って告げる。


「ラヴィーナさんをそこで眠らせてあげて下さい。地べたの上だと可哀想ですわ」


「…………」


 モーナは何か言いたそうな顔をしたけど、何も言わずに、言われた通りラヴィをベッドに寝かせた。

 そして、警戒を解いて、ポフーと向かい合った。


「マナとスタンプが決着をつけるまで、私とラヴィーナをここに閉じ込めておくつもりか?」


「さあ、それは気分次第ですわ」


「気分次第? どう言う事だ?」


「そうですわね……。少しだけ、お話しましょうか?」


 ポフーが微笑して、今度は魔石からテーブルと飲み物を取り出して、その様子にモーナが少し苛立って顔を歪ませる。

 すると、ポフーはモーナの目の前にも同じものを魔石で出した。


「良かったら飲んで下さい。あ、勿論毒なんて入っていませんわ」


 勧められるも、モーナは飲み物には手をつけ……いや、飲んだ。

 疑う事なく思いっきり一気飲みで。


 ポフーはそんなモーナを見て楽しそうに微笑み、一口飲む。


「ホッとミルクか。中々美味いな」


「寒い日はこれが一番ですわ」


「それで話ってなんだ?」


「勿論お兄様と貴女の事ですわ」


「おまえの兄貴ってスタンプの事だろ? それなら話す事は無い」


 モーナが不機嫌になって表情を歪ませる。

 すると、ポフーは「でしょうね」と、ニッコリと微笑み言葉を続ける。


「ですが、貴女に無くても私にはありますわ」


「それより、あの時、ドワーフの国におまえを迎えに来たのはスタンプじゃなかったよな? あれは偽物か?」


「ああ、あの時のお兄様はフォックさんのスキルで顔を変えていましたので、それで気が付かなかっただけですわ」


「フォックのスキル……? やっぱりそう言う事か。そう言えば、フォックは何処にいるんだ? 姿を見てないぞ?」


「さあ。今頃は私がスキルで動かした死人に、食べられてしまっているかもしれませんわね。ふふふ。でも、案外勇敢な女の子に助けてもらってるかもしれませんわよ?」


「はあ? 誰だそれ? それより、死人を動かした? ポフー、おまえは本当に魔族みたいな事するんだな。中々見所があるわ」


「ふふふ。褒めてくれますの?」


「今でこそ魔族も甘いけど、昔はそれが普通だったからな。人を襲って、そして殺す。魔族の元々の在り方だ。ただ……」


 モーナが眉根を上げて目を鋭くし、ポフーを睨む。


「それはマナが嫌う事だ」


「そうですわね。でも、お兄様の頼みなので仕方がありませんわ」


 そう言うとポフーが立ち上がって、炎の魔法でソファを燃やし、その行動にモーナが眉を顰める。

 そして、モーナは爪を鋭く伸ばして、尻尾をの毛を逆立て威嚇をして構えた。


「……ポフー、おまえの本当の目的は私だろ?」


「ふふふ。やっぱり貴女にはお見通しでしたわね。私、貴女が嫌いですのよ? ドワーフの国でお別れした時は、せっかくマナねえさんが貴女を嫌いになりかけてたのに、仲直りしているなんて許せませんわ」


「そんなのおまえには関係ないだろ。そもそも私とマナが仲良くて何が悪いんだ?」


「そんなの、私がマナねえさんを誰よりも愛してるからに決まってますわ」


 ポフーが沢山の魔石を取り出して、それは宙を舞い、ポフーの周囲で光り輝く。


「だから貴女が邪魔ですのよ。お兄様のお気に入りの様ですけど、これだけは譲れませんわ」


「おまえの愛歪みすぎだろ! いい迷惑だ! スタンプといい、とんでもない兄妹だな!」


「お兄様の愛と、マナねえさんの愛、二つも私から盗んだ泥棒猫に言われたくありませんわ」


「おまえの兄の愛なんているか! そんなもん全部返却してやるわ! だいたい盗んだ覚えもないわ!」


「しらばっくれないでほしいですわね。それに、返すならマナねえさんの愛にしてくれませんこと?」


 ポフーの周囲を舞う魔石の内2つが、モーナに向かって飛翔する。

 モーナはラヴィを一瞥してから、戦いに巻き込まない様に駆けだした。


「ポフー! おまえ転生者だろ!」


 魔石の1つが剣に変形して、モーナに斬りかかる。

 モーナはそれを爪で払い、続けてもう一つ接近していた魔石に向かって重力の魔法を使った。


「知っていましたのね」


 魔石に重力の魔法が届く前、モーナに向かって魔石から閃光が伸びて、モーナは咄嗟にそれを避ける。

 だけど、閃光はモーナの右頬を掠って、モーナの右頬を微かに焼いた。


「――っ光線!? こんな物まであるのか!」


 言ったと同時にモーナはポフーを間合いに入れて爪を振るい、ポフーが魔石を右方に投げる。

 すると、モーナの爪がポフーに届く前に、ポフーと魔石が場所を入れ替えた。


「――っ!」


「貴女の言う通り、私は転生者ですわ。おかげで前世の知識もあるので、見た目通りの子供と思わない方が良いですわよ? でも、何で転生者と言う事が分かったのかしら?」


 ポフーが話しながらモーナに向かって魔石を投げ、その魔石からバチバチと電流が飛び出してモーナを襲う。

 モーナは目の前に岩の壁を魔法で作り出して、その電流を防ぐと、直ぐにポフーに向かって駆けだした。


「スキルが3つあっただろ! しかも大罪魔族の力を得ていない! そんなの転生者が魔族化した以外ありえないからな!」


 モーナがポフーに爪を振るい、ポフーはそれを避けて、モーナの顔面に手をかざした。

 瞬間――かざされた手から炎が飛び出し、モーナは寸ででそれを避けて、ポフーから距離をとった。


「成る程……。確かに転生者は元々スキルを2つ持っていますし、言われてみれば簡単な答えですわね」


「今まで実力を隠してたのは分かってたけど、ここまでとはな。スタンプより強いんじゃないか?」


「あら? そんな事はありませんわ。お兄様は今では貴女と同じ大罪魔族。しかも、単純な力では一番強い“憤怒”の力を持っていますわ。既に私の実力を越えていますわよ」


「……だったら、おまえをさっさと倒してマナの所に戻らないとだな」


「残念ですわね? それは出来ませんわ」


 ポフーの周囲を舞う魔石の一つがモーナに向かって飛翔する。

 それと同時に、モーナは手で地面に触れて魔法陣を浮かび上がらせた。

 すると、モーナを中心に何千倍もの重力が発生し、そこへ魔石が侵入。

 魔石は地面に叩きつけられ、その瞬間に魔石が爆発した。

 爆発の威力は、周囲一帯を焼き尽くす程の火力。


「――っな!」


 モーナは慌てて後方に下がりながら、何重もの岩の盾を出していき、なんとか爆発によるダメージを受けずにすんだ。


「めちゃくちゃだな、おまえ!」


「そんな事言って、モーナスさんもまだ本気ではありませんわよね?」


「あたりまえだ!」


 モーナは一気に駆けだして、自分の周囲に重力の玉を浮かび上がらせる。

 それを見て、ポフーは己の目の前に魔法陣を浮かび上がらせ、魔石を一つその中心へとえる。


「エンペラーフレイム」


 瞬間――魔法陣の中心に添えられた魔石から黒炎が飛び出し、それはモーナに向けて放たれた。

 その黒炎はただの黒い炎では無い。

 まるで渦巻くように赤い炎が黒炎の周囲を回り、触れていない地面をも黒炭に変えて進んでいく。


 モーナは瞬時に危険を察知して、直ぐに左へと横っ飛びして方向転換。

 更に、重力の玉を平たく変形させて盾のようにし、追加で岩の壁を何重にも生みだす。


「――っ」


 黒炎はモーナに命中する事はなく真っ直ぐと進み、数百メートル先で民家に衝突して爆発するように燃え上がった。

 ここが鏡の世界でなければ、よもや大惨事となっていた事だろう。

 黒炎は燃え上がると、一瞬にして周囲を灰すら残さない焼けた大地へと変えてしまった。


 モーナは何重にも重ねた岩の壁と重力の盾のおかげもあって傷を負う事は無かった。

 だけど、無事とは言い切れない状態。

 黒炎の熱を多少なりとも浴びてしまい、触れてもいないのに、肌が所々火傷を負ってしまった。

 だけど、モーナは火傷に顔を歪める事も気にする事もなく、額に流れた汗を腕で拭って呟く。


「ヤバいなアレ。ポフー相手に本気は出したくなかったけど、マナに怒られるのを覚悟で本気出すか」

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