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265 スタンプの蛮行

 ラヴィの安全確保の為にもラテールとラーヴとペン太郎を捜したけど、3人を見つける事が出来ず、戦闘の音が聞こえる方へと行く事にした。

 ラヴィをその場に置いて行こうとも考えたけど、眠っているラヴィをこんな所に1人置いて行く事は出来なかった。

 そうして辿り着いた戦場で見たのは、ポフーと睨み合うモーナと、それを見守るお姉と見つからなかった3人。

 そして、ポフーの背後にいるアイリンとスタンプ、それからスタンプに捕まっている血を流して気を失っているトンペットとプリュイだった。


「ああ、やっと会えたねモーナスちゃん! 会いたかったよ!」


 スタンプが笑顔をモーナに向けて、持っていたトンペットとプリュイを、ゴミをそこ等辺にポイ捨てするような動作で投げる。

 するとその時、地面に落ちていくトンペットとプリュイにポフーが魔石を投げ、2人はその魔石の中に吸収されてしまった。


「2人が魔石の中に入れられたです!」


「がお!」


「またか!」


 トンペットとプリュイが吸収された魔石を取ろうと、モーナが走る。

 だけど、二つの魔石は宙を舞い、そのままポフーの許に戻って行った。

 そしてスタンプがモーナの腕を掴もうと手を伸ばし、モーナは重力の障壁を魔法で出してそれを防ぎ、跳躍してわたし達の所にやって来た。

 するとそれを見て、スタンプが困ったように苦笑した。


「やれやれ。モーナスちゃんは相変わらず恥ずかしがり屋さんだなあ」


「黙れ! ランとトンペットとプリュイを返せ!」


「モーナスちゃんが素直にならない限りそれは出来ないよ」


「私はいつでも素直だ!」


 モーナがスタンプを睨み、スタンプは我が儘な子供を見るような視線をモーナに向ける。

 そんな中、怯えて震えていたペン太郎が、わたし達の前に出た。


「アイリン! アイリン! 何でそんな悪い奴等と一緒にいるペン!? そいつ等はレティを殺した奴等だペン!」


「……ペン太郎。これは――――」


「黙れ、アイリン。今は俺とモーナスちゃんの感動の再会中だ。お前等のようなゴミクズの話なんていらないんだよ」


 スタンプがアイリンを睨み、アイリンは何も言えずに俯いた。


「アイリン答えるペン!」


「ペンギン風情が煩いんだよ! 黙っていろ!」


 スタンプがペン太郎を睨み、ペン太郎は体をビクリと震わせて口を閉じた。

 やっぱりだ。

 アイリンとペン太郎、そしてスタンプとポフーの4人には何かある。

 アイリンもスタンプの仲間と言うよりは、利用されてるようにしか見えない。

 それ程にアイリンの顔色も悪いし、ペン太郎も怯えてる。

 ペン太郎がさっき言った“レティ”と言う人が関わっているのかもしれない。


「まったくもって困った連中だ。俺とモーナスちゃんの感動の再会を邪魔するなんてね。さあ、モーナスちゃん。照れていないでこっちにおいで」


 スタンプが気持ちの悪い笑みを浮かべ両手を広げる。

 モーナはそれに不快そうな視線を向けながら、声を少し抑えて私に話しかける。


「マナ、ラヴィーナは気を失ってるのか?」


「うん。出来れば安全な所に連れて行きたいんだけど……」


「それなら私が連れて行きます」


「駄目だ。ナミキの盾は絶対に必要になる。ラテールとラーヴに頼んでいいか?」


「がお。任てて」


「……トンペットとプリュイの事は任せたです」


「分かってる。ランだって捕まってるんだ。このまま3人を助けずに引き下がれないからな」


 モーナとラテールとラーヴが頷き合い、わたしはラヴィを2人に預ける。

 その時ラテールがペン太郎に「邪魔になるから一緒に来るです」と言って、ペン太郎も一緒に連れて行く。

 ペン太郎は少し迷ったような様子を見せたけど、それでも、邪魔になるならとラテールに従った。

 ラヴィを預けると、わたしは直ぐにカリブルヌスの剣を構えようとして掴み、そこでモーナに「マナ」と呼び止められた。


「先にポフーとスタンプの情報を見てくれ。私とナミキのステチリングは捕まった時にボウツ共に取られて無いんだ」


「……うん。分かった」


 スタンプはともかく、ポフーの情報も見ないといけない事に抵抗があったけど、わたしは頷いた。

 正直言うと未だにポフーの事に整理が付かない。

 信じたいけど、だからと言って、わたしの独り善がりでモーナに迷惑をかけたくない。

 でも、やっぱり駄目だ。

 わたしは気付かないうちに自分の気持ちを優先してしまい、ポフーを後回しにして、先にスタンプにステチリングの光を向けた。

 だけどその時だ。

 それを見ていたポフーがスタンプの目の前に立って、わざと自分の情報をわたし達に提示した。




 ポピー=フレア=フェニックス

 年齢 : 7

 種族 : 魔人『魔族・元鳳凰族・瑞獣種』

 職業 : クイーン

 身長 : 143

 BWH: 63・51・63

 装備 : 魔石

      幻獣の羽衣・幻獣の靴

      ステータスチェックリング

 属性 : 火属性『炎魔法』上位『黒炎魔法』

 能力1: 『不動の乙女(イムーヴァブルハート)』覚醒済

 能力2: 『魔石使い(ストーンマスター)』覚醒済

 能力3: 『黄泉返り(ソウルパペット)』未覚醒




 ステチリングに映し出された情報は、信じられないものだった。


「……嘘? スキルが――」


「ポフーちゃんってポピーちゃんだったんですね! それに職業が妹になってます! 妹は職業だったんですね!」


 わたしの言葉を遮って、お姉がどうでも良い事に驚いて大声を上げた。

 いや、まあ、確かにそこも意味わかんないけど、問題はそこじゃない。

 と言うか、名前なんてどうでも良い。

 どう考えても問題な部分は、スキルが3つもある事だ。

 スキルを3つも持つ人物なんて、今まで見た事が無かった。


「悪いが逃がす事は出来ないな、“傲慢”」


「――っ!」


 不意に声がして振り向くと、スタンプがいつの間にかラテール達の目の前に立っていた。

 モーナに無視されたからか、それともラテール達と一緒にペン太郎がこの場から逃げようとしたからなのか、不機嫌な顔でペン太郎だけを睨んでいた。


「助けないと!」


 無詠唱で加速魔法ライトスピードを発動し、スタンプとの距離を一気に詰める。

 そして、そのままスキル【必斬】の力を乗せてスタンプに斬りかかった。


「軽いな!」


「――っ!?」


 光速でわたしの斬撃とスタンプの斬撃が激しくぶつかり合い、わたしはそのまま力で押し負けて、尋常では無い速度で吹っ飛ぶ。

 そして、一瞬だけ遅れて、けたたましく甲高い金属がぶつかり合う音が鳴り響いた。


「愛那!」

「マナ!」


 お姉とモーナが同時にわたしの名前を叫び、2人は吹っ飛んでいったわたしを追った。

 わたしは暫らく吹っ飛ぶと、歯を食いしばって地面にカリブルヌスの剣を突き立てて、何とか勢いを消してその場に倒れた。

 そして次の瞬間、スタンプがラテールとラーヴを力強く払い飛ばして、2人はポフーのいる場所まで吹っ飛ばされた。


「――しまった! 不味いぞ!」


 モーナが気付いたけどもう遅かった。

 ポフーは「いらっしゃい」と口にしながら微笑んで、魔石を二つ取り出す。

 そして、吹っ飛んで来たラテールとラーヴを、魔石の中へと吸収してしまった。


「ラテールちゃんとラーヴちゃんが……っ!」


「くそっ。マナ、おいマナ! しっかりしろ!」


「大……丈夫っ。お姉がわたしに盾を纏ってくれてるから、まだ平気」


 と言っても、かなり危なかったし、体中が痛い。

 でも、ホントお姉には感謝だ。

 お姉はわたしの全身に、いつの間にか目に見えない程の薄い盾を貼ってくれていたのだ。

 まあ、スタンプに吹っ飛ばされるまで気付かない程の薄さだったので、ダメージもその分防げなかったかもだけど。

 とは言え、それが無ければ、吹っ飛ばされただけでも間違いなく死んでいた。


 モーナに支えられながら立ち上がり、地面に刺したカリブルヌスの剣を抜き取る。

 すると、そこでわたし達の目の前にアイリンが立った。

 アイリンの目尻には涙が溜まっていて、今にも泣き出してしまいそうだった。


「すまんが……マナとナミキを殺せと命令されておるのじゃ。ここでワシに殺されてくれんか?」


「アイリン……」 


 ペン太郎に視線を向けると、スタンプに拘束されて身動きがとれなくなっていた。

 ラヴィはその場で倒れていて、一先ずは害を与えられてはいないようだった。

 ただ、ラヴィが無事だったとしても安心は出来ない。


 最早考えるまでもない。

 アイリンはスタンプに脅されている。

 それだけは間違いない。

 アイリンはペン太郎を護る為に、スタンプに従っている。


 そう考えると、スタンプに無性に腹が立って仕方が無い。

 わたしは目の前に立ったアイリンでは無く、ペン太郎を拘束しているスタンプを睨んだ。


「スタンプ! ちょっと聞きたいんだけど?」


 わたしが声をあげると、スタンプがわたしに視線を向けた。

 何も返事を返さなかったけど、聞く気はあるみたいなので言葉を続ける。


「アンタさ、モーナが好きなんでしょ? だったらこんな酷い事やめて、真正面から好きだって言って振り向かせようと頑張れば良いじゃん! こんな事して、アンタの事を好きになるとでも思ってるの!?」


「……やれやれ。そんな事か」


「そんな事!? ふざけんな!」


 スタンプの態度にイラついて怒鳴ると、ポフーが両手で手を合わすようにして手を叩いて、パチンと音を鳴らした。

 わたしが音に少しだけ驚いて視線を向けると、ポフーと目がかち合う。

 そして、ポフーはわたしに微笑んでから、スタンプの側にゆっくりと歩きだした。


「ポフー?」


 ポフーはスタンプの目の前に着くと、スタンプを見上げて微笑する。


「お兄様、一つ提案なのですけど……」


「何だ?」


「よろしければ、私にモーナスさんを任せてもらえませんか?」


「理由は?」


「マナねえさんはお兄様とお話がしたいようですし、それにさっきからモーナスさんがお兄様のお話を聞こうとしないのは、側にマナねえさんがいるからだと思いますの。ですので、私がモーナスさんと2人でここでは無い何処かで話し合って、お兄様への本当の想いを聞いておきますわ」


「成る程な。確かにポフーの言う通りだ。モーナスちゃんは照れ屋だし、俺の前では本音が言えないだろう。それにマナちゃんには俺もいい加減うんざりしていた所だ。マナちゃんと仲の良いモーナスちゃんの目の前で、邪魔者のマナちゃんを殺すのは可哀想だろう。ポフー、頼めるか?」


「はい。お兄様」


 2人の会話……と言うよりも、スタンプの言葉に、身の毛がよだつ程の恐怖を感じた。

 と言っても、それはそのままの意味でなく、怖いくらいに気持ち悪いと言う意味だ。

 ここまでくると、生理的にきついと感じるまである。

 勘違いもはなはだしいし、本当に思考が気持ち悪い。


「では、モーナスさんをお連れする前に」


「ああ。先に“傲慢”を殺しておくか」


「――っあああ……っ」


 完全に油断していた。

 ペン太郎はポフーが近づいた途端に怯えきって、尻餅をついて動けなくなってしまっていた。

 だから逃げれるような状況じゃない。

 でも、スタンプはアイリンを利用する為にペン太郎を人質にしていて、だから少なくともペン太郎には手を出さないとわたしは思っていた。

 だからこそ、わたしは目の前のアイリンを相手にしながらも、ペン太郎を助け出す方法を考えようともしていた。

 そうすればアイリンも自由になれて、敵対しなくて済むはずだった。

 だけど、現実は非情だった。

 スタンプが背中に背負っていた槍を掴んで、怯えるペン太郎に切っ先を向ける。


 でも、だからってわたしは諦めない。

 ライトスピードを使って加速して、一気にスタンプ達との距離を詰めた。

 だけど……。


「駄目ですわ、マナねえさん。ジッとしていて下さい」


「――ポフー!? そこをどいて!」


「ごめんなさい。これは必要な事ですわ」


 カリブルヌスの剣でスタンプの槍を防ごうとしたわたしの目の前にポフーが立ち、カリブルヌスの剣が魔石から飛び出た刃に止められてしまった。

 そして次の瞬間、スタンプがペン太郎に槍で刺突する。


「させません!」


「くそっ」


 お姉が魔法の盾を飛ばし、モーナもわたしとは別方向から駆ける。

 だけど、駄目だ。

 ポフーが魔石をそれぞれに投げて操り、お姉の盾を吹き飛ばし、モーナを氷で地面に縛り付けた。


「ペン太郎!」


 瞬間――アイリンがペン太郎を庇うようにスタンプに背中を向けて前に出て、スタンプの槍に貫かれる。


「――――っ。ぅぐ…………ぁっ」


 アイリンは血を吐き、そして、ペン太郎を見て涙を流した。

 それはペン太郎を護れた嬉しさからくる涙でも、痛みからくる涙でも無い。

 その涙の理由は、あまりにも悲しい理由だった。


「ぐ……ぅ……す、すまぬのじゃ…………。ペ……ン太郎」


 ペン太郎は何も答えない。

 答えられない。


「ワ……シが……ワシが護って……やると…………や……くそくした……のに…………」


 アイリンがペン太郎を抱きしめ、涙を流す。

 だけど、ペン太郎は何も答えない。

 抱きしめ返す事も、何もかもが……出来ないのだ。


「すま……ぬ…………ペ……ン太……ろ…………」


 アイリンの目から流れていた涙が止まる。

 そして、ペン太郎を抱きしめていた手も力を失い、ぶらりと下がる。


「こんなの、こんなのあんまりだよ!」


 わたしは叫んだ。




 スタンプの槍で貫かれたアイリン……そして、同時に貫かれてしまったペン太郎の姿に涙して。

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