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260 助っ人現る

 精霊達の戦いはラテール達の優勢に見えて、実は劣勢。

 そんな戦いを繰り広げていた。


 氷のゴーレムを何度も粉々に破壊しても元に戻るのが原因だ。

 かと言って、それで追い詰められると言う事もなく、ラテールとラーヴが怯えるペン太郎を護っている。

 ペン太郎が怯えて動けないでいるようなので、完全に足手纏いになっていた。


「ペン太郎くんを安全な場所まで連れて行きましょう!」


「うん。あ、お姉ちょっと待って」


「はい?」


 わたしはお姉を止めると、七色に輝く羽を取り出した。

 これはランさんから受け取った物で、本当はバーノルドの目の前で使う予定だった物。

 だけど、クランフィールから聞いた話が本当であれば、バーノルドは既に死んでいる。

 正直使いどころを無くしてしまったわけだけど、それでも使っても意味が無いとはならない物だ。


 わたしは取り出した羽に魔力を込める。

 するとその瞬間、羽の輝きが増して周囲を照らし、目の前にランさんが現れた。


 実はこの羽は、ランさんのスキルで出した羽だった。

 スキルの名前は【羽先の行進(ラビットジャンプ)】。

 自身の魔力で羽を作り、それがある場所に一瞬で飛ぶ事が出来るものと言うのが、未覚醒時の効力。

 覚醒した事で、予め登録した相手に羽を持たせて魔力を込めさせれば、スキル使用者を呼び出せる効力を得ている。

 ただ制限として、作れる羽の数は2つまでで、一度使うと羽は消えてしまう。

 往復は可能だけど、その都度羽を作らないと出来ないようだ。

 尚、ワンド王子は隠れる時に居場所がばれる為このスキルを随分と嫌っていて、このスキルで作りだした羽を絶対に持たないそうだ。


 わたしがこれを持って来たのは、これを使ってバーノルドの目の前にランさんを呼びよせて、バーノルドを捕まえようとしていたからだ。

 そして、再びサガーチャさんのいる場所に直ぐに飛んでもらって、スキルの封印などを施してもらう予定だった。

 サガーチャさん達にもこっちに向かって来てもらう予定なので、バーノルドが先に来た時の保険として渡されていたと言うのもあるのだけど。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


「家まで燃えちゃってませんか殿下!?」


 目の前に現れたランさんは誰かの肩を掴んでいるようなポーズで現れて、何やら物騒な事を言って現れた。

 そして、わたしと目が合うと、目を丸くして周囲を見る。


「……って、あれ~? もしかして私呼ばれちゃいました?」


「はい。って言うか、家まで燃えちゃってませんかって何ですか?」


「いやあ、サガーチャ殿下がマジックアイテムで~って、そんな事よりバーノルドは何処ですかい? 見当たりませんが」


「死んだっぽいんで、戦力として呼びました」


「ほうほう」


 わたしが大量にいる氷のゴーレムに指をさして簡単に説明すると、ランさんは指をさした方に視線を向けて頷く。

 それから、バーノルドが死亡したとは言え、こんな状況だと言うのに安堵のため息を吐き出した。


「バーノルドが死亡したのは助かりましたな~。実はクラライトの城下町が死人と氷のゴーレムに襲われてて、皆さんこっちに来れなくなってたんですよ~」


「――はい!? マジですか!?」


「超マジですぜ、旦那。あいつ等次から次へと湧いて出るんですよね~」


「…………」


 わたしは言葉を失った。

 まさか向こうでもそんな事になっているとは思わなかった。


「すみません。大変な時に呼び出してしまって」


「あ~、気にしないで下さい。今の所はサガーチャ殿下がレールガンを改造して作りだした、【なんちゃって聖なる炎(メギドフレイム)】をぶっ放して出た意外の被害は出てません。一部馬鹿貴族を除いては~ですが」


「ぶっ放……それって、あの海が割れたって言う…………」


「でも安心して下さい。こっちの戦いには関係無いので、私はもう見なかった事にするんだぜ」


「ええ…………」


 ランさんの言葉にドン引きしていると、そこでラヴィがランさんに近づいた。


「ラン、今からラテール達を助ける。手伝って」


「はいはい。分かっておりますとも。こっちも大変みたいですからね」


 ラヴィがランさんの服を掴んで話しかけ、ランさんはそれに答えて腰に提げた剣を抜き取る。

 すると、丁度その時モーナもクォードレターと決着がついたのか、わたし達の所にやって来た。


「マナー! 飯食わせろー! って、何でランがいるんだ?」


 モーナがやって来るなりいきなりわたしに抱き付いて、頬と頬をすり寄せる。

 ウザいので顔を手で押すも離れない。

 どうやら、元気は有り余ってるようだ。


「どーも~。呼ばれて飛び出て来ちゃいました~」


「ふーん。そんな事よりマナ、腹減ったぞ」


「アメでも舐めたら?」


「そんなんでお腹がふくれるか!」


「そんな事言っても、今はそれどころじゃ――」


愛那まな、あっちは任せて。先に行ってる」 


「ですね。腹が減っては何とやらって言いますし、何か食べて来て下さいませ~。モーナスさんの分は私が頑張りますよん」


「……2人ともありがとう」


 ラヴィとランさんはそう言うと、ラテール達を助けに行ってくれたので、2人に甘えて未だに離れないこの馬鹿の腹を満たす事にした。


「ペン太郎の事が気になるけど、後は氷のゴーレムと妖精だけだし、2人に任せれば大丈夫か……。2人に感謝しないとね。モーナ、簡単なもので良い?」


「良いぞ」


 とは言え、何か適当なものが無いかと周囲に視線を向けて探しても、良さそうな物は当然無い。

 さてどうしようか? と思ったところで、お姉が手を上げた。


「私もペン太郎くんの事が気がかりですけど、道案内します。ここでお仕事してたので、食べ物がある場所を知ってます」


「そう言えばそうだったね。それなら案内してよ」


「任せて下さい!」


「肉が食べたい気分だわ!」


「分かりました!」


「って言うかさ、モーナ。皆が頑張ってる時によく食べる気になるよね」


「あいつ等なら心配しなくても大丈夫だろ」


「……信頼してるって事?」


「だなあ」


 どう言う神経してるんだこいつ、とも思ったけど、信頼してるから心配する必要が無いと言う事らしい。

 まあ、確かに厄介なボウツやクランフィールやクォードレターを倒したわけで、敵はあと妖精と氷のゴーレムだけ。

 再生を繰り返す氷のゴーレムだって、それを操る妖精を倒してしまえば、恐らくだけど全部無力化出来る。

 バーノルドを殺したらしいスタンプも、こっちに来たとしても明日だし、そこまで心配する必要は無いのかもしれない。


 わたしはお姉の案内で食料庫や冷凍室のある調理場に行き、冷凍室にあった獣肉を切って火にかけ、その間に野菜を切って炒めていく。

 味付けはシンプルに塩と胡椒だけ。

 と言うか、手の込んだものなんて作っている場合じゃない。

 尚、その様子を見ていたお姉が涎を垂らしていたので、一応お姉の分も作る。

 そうして出来上がった焼いた獣肉と野菜炒めを2人に出して、さっさと食べる様に言って、ついでにカリブルヌスの剣にも魔法をかけてもらった。


「ありがと、モーナ。わたし、先に皆の所に行って来るね」


「分かったわ!」


「愛那ちゃんの料理、久しぶりで感激です!」


 早速食べ始める2人に背を向けて走り出すと、ラヴィ達が戦っている方角から竜巻のような物が発生した。

 それを見て、わたしは加速魔法を使って急いで現場に駆け付ける。

 するとそこで見たのは、氷のゴーレムを次々と竜巻の中にまき込んで行くランさんの姿だった。

 と言うか、竜巻の中から悲鳴が聞こえたのでよく見ると、妖精も竜巻の中でぐるぐると回っていた。


「うわあ……」


 あまりにも一方的なその状況に声を漏らすと、わたしが来た事にラヴィが気がついてやって来た。


「2人は?」


「あ、うん。適当に焼いた肉と野菜炒め食べてるよ。って言うか、これ、わたし急いで来なくても良かったっぽいね」


 流石は西の国のワンド王子の近衛をしているだけはある。

 最早力の差は歴然で、大量にいた氷のゴーレムも跡形も無く粉々で、しかも竜巻の中なので再生すらまともに出来ないでいた。


 ただ、妙に気になる事があった。


「ねえ? ラヴィ。あそこにいる妖精……叫んでるわりには余裕があるように見えない?」


「そうかも」


 わたしが妖精に指をさすと、ラヴィが妖精を見て頷いた。

 実際に妖精は叫んでるわりには大した事なさそうな感じだった。

 顔色は悪くないし、なんと言うか……遊園地で絶叫マシンに乗っている時のような感じ。


 と、そこでわたしはラテールやラーヴやペン太郎がいなくなっている事に気がついた。


「あれ? 3人が、ラテールとラーヴとペン太郎がいない。何処に行ったの?」


「鏡の世界に閉じ込めた」


「へ? 閉じ――」


 その時、ラヴィが大きな氷を目の前に出現させて、わたしは氷に映った自分と目が合った。

 そして次の瞬間、わたしはわたしを映した氷に吸い込まれてしまった。


 氷に吸い込まれた瞬間、ラヴィの全身が氷に変わっていき、ニヤリと笑んだ姿を最後に見た。

 ラヴィの姿をした氷のゴーレムに、わたしは騙されてしまったらしい。と、そんな事を思いながら、わたしの意識はプツリと消えた。

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