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254 決戦の館 その3

 わたしとモーナがボウツに苦戦している間、ラヴィとラーヴも巨大な鬼や元奴隷商人の脱走犯達を相手に戦っていた。


「館を燃やしたら瀾姫なみきが危険。館に近い敵は私がやる。ラーヴはそれ以外を中心にお願い」


「がお!」


 ラーヴが返事をして目の前に魔法陣を浮かび上がらせ、そこから巨大な鬼に目掛けて灼熱の炎を放つ。

 巨大な鬼は灼熱の炎に焼かれて、叫びながら暴れて館や塀を破壊して倒れる。


 ラヴィは巨大な雪だるまのゴーレムを操って、巨大な鬼を相手しながら、自らは元奴隷商人の脱走犯を相手にしていく。

 と言っても、ラヴィの場合はラーヴの様な攻撃では無い。


「アイスボックス」


 元奴隷商人の脱走犯の首から上に魔法で小さな氷の箱を作りだして顔を囲って、前を見えなくして無力化していっていたのだ。

 因みに空気穴はあるようなので、窒息する事が無いように配慮もしていた。

 もちろんそれだけでなく、慌てて隙を見せた相手から次々と氷の魔法で手足を拘束していく。


 これは館の敷地内でスキルが使えない今のラヴィが考えた戦略だったけど、かなりの有効手段となっていた。


「がお! まめー!」


「豆?」


 ラーヴが大声を上げて指をさし、その方向へラヴィが視線を向けて、大きな蔓が豆を出してわたしとモーナを攻撃している事に気づく。

 そして、直ぐにラヴィは大きな蔓に向かって手をかざして、目の前に魔法陣を生みだした。


「ブリザードランス」


 瞬間――魔法陣から吹雪の如く氷の槍が大量に飛び出して、それ等は大きな蔓へ向かって飛翔し、瞬く間に串刺しにしていった。

 ラヴィの魔法の直撃を受けた大きな蔓は、ヘナヘナとなって地面に倒れた。




 大きな蔓が無力化されると、ボウツがラヴィを睨み見る。


「――っあの雪女の子供か! やってくれるな! 先にあっちを始末してやる」


「させない!」


 豆の弾丸が止んで直ぐ、わたしはボウツに向かって走りだしていた。

 そして、ボウツがラヴィに殺意を向けたと同時に懐に飛び込んで、スピードに任せてカリブルヌスの剣を振るう。


「こざかしい!」


 ボウツに長剣フランベルジュで斬撃を受け流され、わたしはボウツとの距離を数歩置いて睨み合う。


「ラヴィには近づけさせないよ」


「ハエの様に鬱陶しい子供だな、お前達は。お館様もこんな子供の何が良いのやら。やはりキングの座を手に入れずに、あの男を始末して良いかもしれないな」


「さっきはあんなにキングとか言う座が貰えないって怒ってたのに、もう諦めるんだ?」


「ふん。子供には分からないさ。オレは完璧主義なんだよ。やるからには上を目指す。だから館での地位も最上位を目指していたにすぎない」


「それでなれないからって駄々こねて雇い主に噛みつくの? 馬鹿みたい。わたしよりよっぽど子供じゃん」


「勘違いするなよ? オレは元々あの男を見限って殺すつもりでいた。それが早くなると言うだけだ」


「言い訳ご苦労様。ついでに今からわたしに負ける言い訳も考えといたら?」


「……どうやら、きつい教育が必要なようだな!」


 ボウツが怒りの形相でわたしを睨み、わたしに向かって来る。

 でも、残念だけど簡単にはわたしに辿り着けない。

 わたしとボウツの会話が終わると直ぐに、モーナがボウツを背後から爪で襲った。


「私が先に相手してやる! ありがたく思いなさい!」


「本当に鬱陶しい連中だな!」


 モーナの爪はボウツの二つの剣で受け止められ、ボウツが力任せにモーナをそのまま振り払う。

 だけど、モーナも負けてない。

 重力の魔法でボウツを上から地面に押し付ける様にして、ボウツの身動きを封じた。

 かに思えたけど、ボウツもそんなに甘くはないようだ。


 魔剣グラムが水色に輝き、ボウツを中心に辺り一面が極寒へと変化する。

 そして次の瞬間、重力の魔法を押しのけて、ボウツがモーナに斬りかかった。


「――っ」


 モーナは爪で斬撃を受け止めるも、爪は呆気なく斬られて、モーナは寸でで背後に下がって斬撃を避ける。

 だけど、今度は長剣フランベルジュが赤色に輝き熱気を放ち、ボウツはその場でモーナに向かって長剣フランベルジュを振るった。

 瞬間――長剣フランベルジュから斬撃の形をした灼熱の炎が飛び出して、それが勢いよくモーナのお腹に直撃する。


「モーナ!」


「“強欲”が相手と言え、このオレがスキルも使えない奴に負けると思っていたのか?」


 ボウツがモーナの名を叫んだわたしに振り向きながら話し、ニヤリと笑んでギザギザの歯を見せる。

 勝利を確信したのだろう。

 確かにモーナは深い傷を負ってしまい、早く治療しないと危険な状態かもしれない。

 でも、ニヤリと笑んだその顔は、直ぐに驚きの表情へと変化した。

 何故なら……。


「ありがと!」


 わたしが叫んだのは、モーナに感謝する為だ。


「――な…………っ!?」


 それは一瞬の出来事。

 ボウツはわたしから目を外すべきじゃなかったのだ。

 モーナに気を取られていたボウツは、わたしの攻撃を避けれない。


「モーナに随分とご執心だったから、その間に加速する為の距離を置かさせてもらったよ。おかげで最高速度で攻撃出来て助かっちゃった」


 そう。

 モーナがボウツの気を引いてくれている間に、わたしはライトスピードを活かせる様に一定の距離をとっていた。

 ライトスピードの厄介な所は、一瞬で動けてしまう事で、逆に剣を振り抜き辛い事だ。

 相手との距離が近ければ近い程、剣を振り抜ききれずに浅い攻撃になる。

 普段は必斬の力を使っているので、それも気にしなくて良かったけど、今は使えない。

 実際さっきもそのせいでダメージを与えきれなかった。

 だからこそ、しっかりとダメージを与える為に距離をとったってわけだ。


「こ……こんな事が…………」


 ボウツが今度こそ笑む事なく血を吐き出して、その場に倒れて気を失った。

 流石にダメージが大きすぎて、自己治癒は追いつかなかったようだ。

 何はともあれ。


「やったね、モーナ!」


 わたしはモーナに駆け寄って声をかけた。

 んだけど、モーナはお腹を抑えてうすくまっていて、思っていたより重症だった。


「って、マジで大丈夫? それ」


「あーっはっはっぶぁはあっ! 心配するな、焼ける様に痛いだけだわ」


「いや、大丈夫じゃないでしょ。血吐き出してんじゃん。ラヴィに早く治してもらわないと」


 言ってラヴィに視線を向けると、ラヴィとラーヴの方も丁度戦闘が終わった所……と言うか、ボウツが気絶した事で巨大な鬼が全て姿を消していた。

 おかげで残っていたのが元奴隷商人の脱走犯だけとなっていて、一瞬で終わったと言った感じだった。


 とりあえずラヴィにモーナの回復を頼んで、改めてあめちゃんを渡す。

 と言うか、戦闘に結構時間がかかっていたようで、渡して直ぐに効果が切れて危なかったなと思わされる。


 それからラヴィにモーナの治療をしてもらってる間に、わたしはボウツや脱走犯達を身動きできないように縛り上げながら、モーナとラヴィに今回の作戦を説明した。


「スキル無力化のマジックアイテムを壊しに行ってるのか?」


「うん。だからこうしてわたしが囮になって正面から来たんだけど、スキルはまだ使えないみたいなんだよね。サガーチャさんから貰った物を渡してるし、直ぐに終わると思ったんだけど……」


「サガーチャ? なんか貰ったのか?」


「うん。スキル無効化用のマジックアイテムを探知出来るマジックアイテムは作れるって言うから、作ってもらって持って来たんだよ。それをラテールに渡したの」


「そう言う事か。なら、ラーヴがラテールにどうなってるか聞いてみないか?」


「ああ、そっか。そうしてみる?」


「がお」


 ラーヴが両手を上げて返事して、首を傾げながら「がおがお~」と加護の通信を使う。

 すると、ラテールから反応があったのか、何やら頷き始めた。

 そして少ししてから、通信を終えたラーヴは何やら真剣な表情で顔を上げた。


「捕まってた」


「……へ? お姉を見つけたの?」


「違う。テーウとペン、捕まった」


「…………マジかあ」


 まさかの展開。

 いや、予想できたのにしなかったと言うべきだろうか?

 兎にも角にもミイラ取りがミイラみたいな状況。

 一つ良かった事を挙げるなら、あめちゃんの存在に気付かれてないから、魔力が使えると言う事か。

 と、そこでわたしはふと思う。


「あれ? 魔法が使えるのに、そのまま捕まってるの?」


 不思議に思ってラーヴに尋ねると、ラーヴが「がお」と頷いて答える。


「ペン、魔族って気ぢゅかれないよーにちゅる言ってた」


「ああ、そっか。下手に戦闘なんてしてバレちゃったら不味いもんね」


「がお。隙を見て逃げる言ってた」


「それならまあ、安心かな? 問題はスキル無効化のマジックアイテムの破壊が、当分の間は宛てにならないって事か」


「問題無いだろ。何だったら、わたしがラテールとペン太郎の所に行って、ついでに一緒に破壊してくるぞ」


「確かにそれもありか……よし。それなら、ラーヴ、モーナを案内してあげてもらって良い?」


「がお」


「わたしは館の中に入ってお姉を捜すよ。多少暴れる予定だから、向こうの目を引き付けられる筈だし」


「私は愛那まなと一緒に行く」


「うん。ありがと、ラヴィ」


「それじゃあ行くか」


 丁度治療が終わったようで、モーナが立ち上がって背伸びする。


「マナ、気を付けろよ。あのクランフィールって女は多分ボウツよりヤバい」


「クランフィール……うん、分かった。モーナも気を付けてね」


 わたしとモーナは頷き合い、互いに別々の方向に向かって走り出した。

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