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253 決戦の館 その2

 ボウツが召喚した大きさ50メートル越えの巨大な一角ハゲ頭の鬼。

 数はおよそ10体で、館の塀を踏みつぶして破壊して、館の外からもわたし達を見下ろしている。

 そしてその内の1体が、その大きな拳をわたし達に向かって振り下ろした。


「グラビティスタンプ!」


 モーナが頭上に魔法陣を浮かび上がらせ、そこから重力が発生して鬼の拳を押し弾き、更にはその強大な衝撃で鬼が後ろによろめいた。


「デカいだけぞこいつ等! ノロマの木偶でくぼうだ!」


「いや、こんな大きなのに力で押し勝つなんて普通無理だから」


 なんて呑気に喋ってる場合でも無い。

 巨大な鬼は1体だけじゃないのだ。

 既に次の攻撃は繰り出されている。


 わたしの背後に迫る大きな金棒。

 その勢いは凄まじく、わたしは慌てて避けようとしたけど大きすぎて避けきれない。

 だけど、金棒がわたしに命中する事は無かった。

 この場にはモーナがいるので、モーナが防いだ……と言うわけでは無い。


「雪だるま!? デカッ!」


 そう。

 わたしを護ってくれたのは、鬼と同じくらい大きな雪だるま。

 そして、わたしの目の前には、ラヴィが鶴羽かくうの振袖をなびかせて現れた。


愛那まなは私が護る」


「ラヴィ!」


「おっ。もう起きたのか」


「あれだけ煩いから目が覚めた」


「って言うか、この雪だるまって魔力で動かしてるんじゃないの? ここって館の敷地内だから、魔法が使えないんじゃ?」


「さっきそこでラーヴにアメ貰った」


「へ?」


「がお」


 いつの間にかラヴィの頭の上にラーヴが乗っていて、うさ耳カチューシャのうさ耳を楽しそうに揺らしている。

 ご機嫌なラーヴに視線を向けているばかりもいられない。


 わたしは直ぐにカリブルヌスの剣を構える。

 と言うか、くどいようだけど喋ってる場合じゃないのだ。


「モーナ、ラヴィ、加速魔法使うよ!」


「分かった」


「ライトか?」


「4倍で十分でしょ」


「だな」


 モーナとラヴィの頭上に魔法陣を生成し、わたしは無詠唱による加速魔法クアドルプルスピードを2人にかける。

 次の瞬間、モーナとラヴィーナは一斉に駆け出した。


 モーナは爪を、ラヴィーナは魔法で氷のつちを作りだし、それぞれが巨大な鬼に攻撃を仕掛ける。

 そして、わたしが相手にするのは巨大な鬼なんかじゃない。


「成り行き上で悪いんだけど、貴方の計画を潰させてもらうよ」


「図に乗らないでほしいなあ、マナ。鬼どもを出したのは、お前達の相手をするのが面倒だったからにすぎない。お前達の行動は全てが無駄なのさ」


「ふーん。アンタが図に乗ってるってのは分かった」


 ボウツが眉根を上げて顔を歪め、その顔をわたしは鼻で笑ってやる。


「ライトスピード」


 瞬間――閃光が如く、わたしが立っていた地から刹那の光が一直線にボウツに向かって伸びた。


「――かはっ」


 左横腹から血飛沫ちしぶきを上げたボウツは、その場で血を吐き出し仰向けに倒れた。

 それを見てから、わたしはライトスピードを直ぐに解除した。


「やっぱりリネントさんと比べたら――――っ!」


 リネントさんと比べたら大した事が無い。と言おうとしたけど、途中で驚いて言えなくなる。

 何故なら、仰向けに倒れたボウツが不気味に笑っていたからだ。

 しかもそれだけじゃない。

 ボウツの周囲、地面から何かの芽が3つ出て、それがボウツをのみ込むようにして凄い勢いで成長して、一つの大きなつるとなった。


「な、何? これ?」


 そう呟いた瞬間だった。

 突然、大きな蔓が、まるでむちの様な柔軟なしなやかさでわたしを襲う。


「――冗談でしょ!? トリプルスピード――――っくぅ!」


 加速魔法で3倍のスピードを身に着けた瞬間に、巨大な蔓の鞭撃を食らってしまった。

 なんとかギリギリの所でカリブルヌスの剣を盾代わりにして受けたけど、その威力は絶大で、思いっきり後方に吹っ飛ばされて地面を転がる。


「いったあ……」


 それなりに吹っ飛ばされて地面を転がったけど、運良くダメージが軽くて、体も無事で動きそうなので立ち上がる。

 だけど、呑気に立ち上がっている場合でも無かった。


 立ち上がって直ぐに目についたのは、頭上からわたしを見下ろす巨大な鬼。

 巨大な鬼は目が合うと、直ぐにわたしに向かって金棒を振り下ろした。


「きゃああっっ!」


 叫びながらわたしは走り、金棒をギリギリで避ける。

 だけど巨大な鬼の攻撃は終わらない。

 意地でも金棒でわたしを押し潰そうと、連続で金棒を振るってきた。


「油断しすぎだ!」


 連続で振るわれた金棒に目に見えない重力の衝撃が与えられ、金棒が鬼の手から離れて宙を舞う。

 更には、同じ様に巨大な鬼も真上に吹っ飛んだ。

 そしてそれと同時に、モーナが真上から地面を削るように滑りながら、わたしの目の前に現れた。


「モーナ! ありがとう、マジで助かったよ」


「油断するその癖は相変わらずだな。気を付けろよ?」


「ははは……」


 こればっかりはモーナの言う通りなので何も言い返せない。

 そんなわけで、思わず乾いた笑いで答えると、モーナがわたしにジト目を向けた。

 すると丁度その時、真上に吹っ飛んでいた巨大な鬼が真っ逆さまに落ちながら戻って来て、モーナが跳躍して塀のある方向に蹴り飛ばした。

 巨大な鬼は塀を破壊しながら地面を転がり地響きを上げ、数百メートル先でピクリとも動かなくなった。


「あれも重力の魔法でやったの?」


「まあな。図体がデカくても、重力を操れる私の前では空気よりも軽い小動物だわ!」


「どんな例えよそれ」


 言いながら、わたしはボウツへと視線を向ける。

 だけど、ボウツの姿は見えない。

 移動したと言うよりは、十中八九の確率で大きな蔓の中にいるからだろう。

 ボウツの周囲に出た三つの芽は、急成長を遂げて一つの大きな蔓になった。

 そしてそれは、成長しながらボウツを中に取り込んでいたのだから。


「そう言えば、ボウツの情報を見た時に生物魔法って書いてあったけど、もしかしてあの蔓がそうなの? 植物も生物だし……」


「生物魔法か。それならそうだろうな」


「やっぱそうなんだ?」


「しかし生物魔法とは厄介な相手だな。自己治癒能力に関しては、全属性の中でもトップクラスだぞ」


「マ? だから斬られてたのに笑ってたんだアイツ」


「生物魔法が使える奴は雑草みたいなもんだからな。来るぞ!」


「へ? ――っきゃ」


 瞬間――再び大きな蔓が伸びてきて、それが鞭のような動きでわたしとモーナを襲い、慌てるわたしをモーナが付き飛ばす。

 わたしは突き飛ばされたおかげで直撃を避け、軽く崩れた体のバランスを戻して、カリブルヌスの剣を構えた。


「あの草ぶった切るぞ!」


「分かった!」


 モーナが蔓に向かって駆けだして、わたしも直ぐにその後を追う。

 だけどその瞬間、モーナの頭上に一つの影が近づく。


「モーナ上!」


「――っ!」


「焼き切れ!」


 瞬間――炎がモーナの頭上からほとばしり、モーナの爪が何かを防いで甲高かんだかい音が鳴り響く。

 そして、舞い散る炎によって、モーナを頭上から襲った相手の顔が見えた。


「ボウツか!」


 いつの間にか蔓の中から出て来たらしい。

 モーナを頭上から襲ったのはボウツで、右手に持つ長剣フランベルジュからは炎が溢れ出ていた。

 わたしから受けたダメージを既に回復したようで、ボウツの左横腹には既に傷が無い。

 ボウツはモーナに攻撃を防がれると、直ぐにモーナから距離を取って、二本の剣を構えた。


「厄介な方を先に不意打ちで殺そうと思ったけど失敗か。流石は“強欲”だな」


「おまえ、不意打ちとは中々見所のある事をする奴だ。だけど残念だったな! 最強の私には通用しないわ!」


「不意打ちを褒めるな馬鹿」


 モーナの隣に立ってジト目を向けてやると、モーナが不思議そうに首を傾げる。

 駄目だこの馬鹿。

 本気で見所があると思ったらしい。


「余裕でいられるのも今の内だよ、“強欲”」


 魔剣グラムが水色に輝き冷気を放ち、長剣フランベルジュが赤色に輝き熱気を放つ。

 すると、それを合図にするかの様に大きな蔓から何本もの細長い蔓が生えて、それは花を咲かせた。


「なんだなんだ? 花見でもするつもりか?」


「この状況でそれは無いでしょ」


 モーナのボケにつっこみを入れたその間も、蔓からは幾つもの蔓が伸びて花が咲き、それは大きな実をやどしていった。

 そして、わたしはその大きな実を見て眉を顰める。

 何故なら、その大きな実は、どっからどう見ても巨大な枝豆にしか見えないからだ。


「花見か。お前達の血の花を見ながらワインを頂くのも悪くないかもな」


 気色の悪い事をボウツが言ったその直後、枝豆に似たそれが、わたしとモーナに向かってピストルの様に豆を吐き出した。

 わたしとモーナが急いでそれを避けると、わたし達に避けられた豆が地面を抉って停止する。


「あっぶなあ」


「面倒だなアレ」


「面倒って言うか……って、ヤバいって!」


「ん?」


 瞬間――大量の豆がわたし達を襲う。

 その数は百や二百は余裕で超える。

 そして次々と襲いくる弾丸の様な豆は、わたしとモーナが避ける度に周囲を抉っていく。


「はははははっ! やはりワインを持って来るべきだったか? 踊れ踊れ! オレの豆鉄砲は当たると即死だ!」


 飛んでくる豆から逃げるわたし達を愉快そうに笑うボウツを見て、モーナが苛立ちを見せる。


「ふざけるな! 枝豆にあうのはワインじゃなくてビールだ! なあ、マナ!?」


「好みの問題でしょ? って言うか、そんなの子供のわたしが知るわけないじゃんか」


 こんな時に変な所で怒っているモーナに、何だか頭が痛くなってきた。

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