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251 戦いは突然に

 夜空を彩る星の輝きだけが大地を照らし、グラスタウンの景色を幻想へと変えている。

 村のあちこちにある氷細工の装飾は星の光で綺麗に輝き、地に生える水色の草も宝石のように光を反射させていた。

 そんな美しい景色を見せるこの村で、わたしはお館様ことバーノルドの館の門の前に堂々と立っていた。


「やっぱ夜は一段と冷えるね」


「魔法ちゅかう?」


「ううん、ありがと。館の敷地の中に入ったら、あめちゃんをめてる時にしか魔法が使えないし、使わなくていいよ」


「がお」


 ラーヴが頷くと、わたしは門に向かってカリブルヌスの剣を構える。


「ラテールの準備は?」


「出来てる」


「それじゃ、始めよっか」


「がお」


 わたしがここに来たのは囮の為。

 それなら、別に礼儀なんて気にしなくて良い。

 正面の入り口、門に来たからと言って、扉を開けて入るなんて事はしない。

 わたしが今からする事は、この門を斬って破壊して、存分に暴れて気を引く事だ。


 スキル【必斬】の力をカリブルヌスの剣に乗せて、思いっきり門に向かって全力で振るう。

 しかし、その瞬間、突然クォードレターが葉巻を加えて扉を開けて現れた。


「へ?」


「あ? ――――って、うおっ!」


 わたしの斬撃が門を斬り裂いて、同時にクォードレターが慌てた様子で跳躍して斬撃をかわす。


 クォードレターのまさかの登場には驚いたけど、これは好都合と言うもの。

 それなら、いっそここでクォードレターを倒してしまえば良い。


「がお!」


「うん、お願い!」


 ラーヴがわたしの目の前に魔法陣を幾つも浮かばせ展開する。

 そして次の瞬間、魔法陣から炎が飛び出して、それは跳躍後の宙にいるクォードレターを襲った。


「本物じゃねーか! 待ち伏せてやがったか!?」


 クォードレターは背中から龍の翼を生やし、更に上空に飛翔して、ラーヴの魔法を全て避けきった。


 どうやらタイミングがタイミングだけに待ち伏せしていたと思われている様だけど、とくに訂正する意味も無いので否定しない。

 そんな事より、昨日トンペットから連絡がきた時に教えてもらったクォードレターのスキルを注意しなくちゃいけない。


「雪女と猫女の話を聞いて、大事な姉を助けに来たってか? ご苦労なこって! 一服くらいはさせてほしかったな!」


 クォードレターが両手を鉤爪の様に構えて、羽をはばたかせて突っ込んで来たので、わたしは直ぐに無詠唱で加速魔法デキュプルスピードを使って後ろに下がった。

 そして、クォードレターの不可解な問いに眉を顰めた。


「ラヴィとモーナの話? 何の話?」


「とぼけなくて良いぜ。あの2人と2匹の精霊は逃がしてやったからな。どうせどっかに隠れてるんだろ?」


「逃がした!?」


「あ?」


 クォードレターの予想外の言葉に、わたしは驚いた。

 ラヴィとモーナ、それからトンペットとプリュイから連絡はきてない。

 だけど、目の前のクォードレターは逃がしたと言っている。

 それなら何故連絡がないままなのか?


 クォードレターはわたしの反応を見て顔を歪めている。

 とても嘘を言っている様に見えないし、多分この男は嘘が言えないタイプだ。

 と言うか、驚いたわたしを完全に不思議そうな目で見ている。


 クォードレターが言った逃がしたと言う言葉は、間違いなく本当の事だろう。

 でも、それなら何で連絡がこないのか?

 かなり謎だけど、今はそれを考えている余裕はないらしい。


 クォードレターはくわえていた葉巻を小さな入れ物に押し込んで、周囲に無数の魔法陣を浮かび上がらせた。


「雷の力を得たジャバウォックの力をたっぷり味わいな、ちっこいの!」


「ママ!」


「大丈夫!」


 クォードレターの腕から黒竜の手が出現し、魔法陣から電流が飛び出してそれに付着。

 そしてそれは、雷の如く瞬く間もなくわたしを襲った。

 だけど、わたしは動じない。


 それはとてつもない威力をもった攻撃だったけど、リネントさんの繰り出していた攻撃と比べればなんて事ない。

 わたしはスキル【必斬】をこめた斬撃でそれを斬り払い、ついでに斬撃をクォードレターに向かって飛ばす。


「斬りやがっただと!? くそったれっ!」


 クォードレターは悪態をついて斬撃をかわして、塀の上に降り立つ。


「ちっこいのがまさかここまでとは思わなかったぜ。悪かったな、甘く見てた」


「は? 命乞いでもする気になった?」


「んな事するかよ。本気を出してやるって言ってんだぜ。俺は」


 クォードレターの爬虫類を思わせるオレンジの瞳がキラリと光る。

 いや、瞳だけじゃない、クォードレターが全身から光を放ち出した。

 その光は真夏の太陽のように輝いていて、星の輝きしかない夜空の下では、尋常では無い程の眩しさを放っていた。

 しかもそれだけじゃなく、急に周囲の気温が尋常じゃない程に暑くなった。


真夏の太陽(サマーフェスティバル)。俺の元々あるスキルだが、今の環境にゃ持って来いだな」


「がお~。前見えない」


 ラーヴの言う通り前が見えなくなる程の眩しさ。

 流石にこれは予想外で、わたしも完全に目を潰されたかのように視界を奪われてしまった。


「処刑の時間だぜ、ちっこいの! 食らいな! ジャバウォック!」


 黒竜の爪がわたしを襲い、視界を奪われてしまったわたしはそれを避ける事が出来ない。


「グラビティシールド! 3枚重ねだ!」


「――っ!?」


 瞬間――黒竜の爪を重力の盾が防ぎ、わたしの目の前に誰かが立った。


「あーっはっはっはっ! トンペットが言っていた通りお前は若葉マークがお似合いの雑魚だな!」


「も、モーナ!?」


「がお?」


 視界が奪われて姿は見えないけど、わたしには分かる。

 この声はモーナだ。

 捕まっていたと思っていたモーナが、わたしの目の前に現れたんだ。


「ちっ。猫女か。やっぱり隠れてやがったな」


「隠れてないぞ。近くで休憩してたら眩しい光が見えたから来ただけだ!」


「何?」


「お前等のせいでトンペットとプリュイが目を覚まさないからな! ナミキを取り戻す作戦をラヴィーナと考えてたんだ!」


「成る程なあ。って事は、そっちのちっこいのは偶然ここに来たってことか。しかしてめえ、俺にそれを教えちまって良かったのか?」


「死人に口なしって言うし問題無いぞ?」


「あ゛? てめえ、もう勝った気でいやがるのか? ムカつく野郎だな。今度は殺してやるよ」


「馬鹿だなおまえ。おまえみたいな雑魚にそんな事出来るわけないだろ!」


 モーナとクォードレターが睨み合い、ようやくわたしの目にも2人の姿が映し出されてきた。


「モーナ、こんな時にあれなんだけどラヴィは?」


「ラヴィーナなら寝てるぞ。私はさっき起きた」


「ね、寝てる……? って言うか、何でアイリンの家に戻らなかったの?」


「ナミキも一緒に連れて帰るまでは戻らないって、ラヴィーナと話し合って決めただけだ。マナに心配させたくないしな」


「……ばーか」


「は? なんでそこで馬鹿なんだ?」


「別に」


 わたしはお姉だけじゃなく、モーナとラヴィの事だって心配してた。

 でも、モーナに言うのはしゃくさわるので言わないでおく。

 とにかく今は、目の前にいるクォードレターをどうにかしないとだ。

 と言うか、わたしは門の前では無く、館の中で暴れて注目を集めないと駄目なんだ。

 こんな所で足踏みなんてしていられない。


「モーナ、さっきの眩しい光はどうやって防げばいいの?」


「最初に目をつぶれば余裕だろ」


「は?」


「が、がお……」


 聞いたわたしが馬鹿だった。

 ラーヴだってモーナの馬鹿発言に驚いている。


「話は終わったか?」


「――っ!」


 モーナとの再会に、つい話を咲かせてしまったけど、今はそれどころじゃ無かった。

 気が付くと、わたし達を囲むように幾つもの魔法陣が宙に浮かび上がっていた。


「会話中に攻撃の準備とは卑怯な奴だな」


「いや、戦闘中に会話するわたし達に非があるでしょ」


「そういうこった!」


 瞬間――魔法陣から電流を帯びた剣が飛び出して、それがわたしとモーナに向かって飛翔する。


「うそでしょ!?」


 飛び出したそれはとんでもない量で、まさに数の暴力。

 更にはクォードレターがスキル【ジャバウォック】と【真夏の太陽(サマーフェスティバル)】を使用して、眩い光が周囲に広がり視界を奪い、二つの黒竜の手が鋭い爪を伸ばしてわたし達向かって飛翔する。

 クォードレターから繰り出された攻撃が避ける事を許すまいと隙間なく降り注ぎ、わたしとモーナは絶体絶命と言えてしまう程のピンチにおいやられてしまった。

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