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249 天才は意外な所に隠れてる

「女の子同士……百合の間にはさまる男なんて、決して許されるべきじゃないなのよ!」


 突然そんな事を言いだして怒るスミレさんに、わたしは動揺し、冷や汗を流して一歩だけ後ろへと後退る。


「バーノルドとスタンプとか言う男、全力でぶっ殺してやるべきなのよ!」


「す、スミレさん……?」


 何が彼女をこうも怒らせているのか?

 ハッキリ言って分からない。

 と言うか、わたしの今までの話を聞くなり、こんな怒り方をするもんだから、話をちゃんと聞いていたのか怪しい。


「……確かに、スミレくんの言う事は正しい」


「え? サガーチャさん?」


「百合の間に挟まる男は悪だ。滅ぼさなければならないね」


「う、うん。私もそう思う」


「え? メソメ?」


「なあ、カルル。お前意味分かるか?」


「う~ん。分かるような~、分からないような?」


「どっちだよ」


「う~ん……」


「ほら、マナちゃんとナミキさん、それにマナちゃんとモーナさん、それからマナちゃんとラヴィーナちゃん。仲良く話してる所に、入り辛いでしょ?」


「あ、なるほどな。流石メソメ。それなら分かる」


「そうそう~、私もそう思ってたよ~」


「え? ククとカルルはそれで分かっちゃうの?」


 何やら何かを理解したククとカルル。

 と言うか、何となく言いたい事は分かった。

 わたしはこれでも、お姉に合わせて色んなライトノベルや漫画やアニメを見てきた。

 だから、百合なるものは知ってるし、どう言うジャンルか分かる。

 だけど、認めたくないって言うか、わたし達そう言うのじゃないからね? って感じだ。


「私分かんない」


 フープだけが救いだなあ、と思いながら、3人の会話に首を傾げるフープを優しく撫でた。

 と、そこで、スミレさんがわたしとフープを見つめて、さっきまでの怒りが何処へやらのとても良い笑顔になる。


「尊い。つまりこう言う事なのよ」


「いや、何言ってるんですか? って言うか、わたしの話聞いてました?」


「勿論なのよ。バーノルドとスタンプは抹殺するなの」


「絶対聞いてませんよね?」


「何を言ってるなの。バーノルドとスタンプは、2人でマナちゃんとモーナスちゃんの間に挟まって求婚してる不届き糞ゴミ虫野郎なの。ぶっ殺すにかぎるなの」


「……もうそれで良いです」


 最早何言っても無駄な様なので、わたしは諦めて肩を落とす。

 そして、話を進める為に、別の話題を出す事にした。


「それよりサガーチャさん、説明でもお話した通り館ではスキルや魔法が封じられていて使えないみたいなんです。何か対策はありませんか?」


「あ~。それなんだけど、私も少し気になって、あらゆるマジックアイテムについて思いだしてたんだ」


「あらゆるマジックアイテムについてですか……?」


「ああ。私は自ら“博士”と言ってるからね。それなりにではなく、しっかりとした知識も無いと名乗れない立場だ。だから、自慢では無いけど、この世に存在するマジックアイテムの詳細は知っているんだよ」


「凄っ。マジですか?」


「まあ、フルート城で保持している“玉手箱”の様な、古代的な物の事までは、流石に分からない事も多いけどね。だからこそ気になって、城を飛び出してフルートまで……と、話がそれてしまったね。すまない」


 そう言うと、サガーチャさんは一度咳払いをして、微笑んでから話を続ける。


「でだ。そんな私から言わせてもらえば、それに対抗するには、同じようにマジックアイテムが必要になる。魔力を無効化する物相手なら、マナくんが頭につけているシュシュでどうにかなるよ」


「あ、そっか。これって元々そう言う物ですもんね。でも、スキルの方は……?」


「それはそれ用の新しいのを作る必要があるね。でも、残念ながら材料がない。それから一応言っておくよ」


「はい?」


「マナくんの話では、ナミキくんはマナくんの姿を保っていたと言う事で間違いないかい?」


「へ? そうですね。ジャスが聞いた話だと、わたしの姿のまま寝ていたって……。だから、お姉がわたしの偽物だってバレてないって聞いたと……あれ? 何でスキルが使えてるんだろう?」


「自分に使えるものは使えるって事かもなの」


「あ、なるほど」


 と、スミレさんの言葉に納得したけど、それはサガーチャさんに「違うよ」と否定される。

 そして、サガーチャさんは愉快そうに微笑みながら言葉を続ける。


「私の知る限り、そんな物は存在しない。ナミキくんはマナくんのままでいられたのは、彼女が天才だからだ」


「て、天才……っ!?」


 こう言っちゃなんだけど、お姉は馬鹿だ。

 天才とは程遠い。

 いや、ホント妹のわたしがこんな事考えるのは酷い話なんだけど、天才とか言われると冗談としか思えない。


「正確には“スキルに関しては圧倒的な天才肌”と言うべきかな。ナミキくんの使うスキルは、本来であればそれ程に平凡なスキルなんだよ」


「あ。確かにスキルの本を漁ってる時、お姉の使う【動物変化】は部分変化が出来るとか、そう言うのは書いてなかったです」


「そうだろう? 彼女はスキルに関しては類い稀なる才能を持っている。しかも、普通人間になんて化けれやしない。だからこそ、彼女はスキル無効化のマジックアイテムの性能を凌駕りょうがして、何の問題も無く使えていたんだよ」


 正直、驚きすぎて言葉を失う。

 あのいつもニヘラとマヌケな顔で笑ってる空気が読めない世に2人と居ない馬鹿なお姉に、そんな才能があったなんてって感じだ。

 わたしが予想するに、もしそうだったとしても、絶対お姉本人はその事に気が付いてないだろう。


「流石ナミキちゃんなの。私の嗅覚をあざむく程の完璧な変身で、マナちゃんになっていただけの事はあるなの」


「つまりナミキくんの変身は、変身した対象の匂いまで同じに出来る程に優れているって事だろうね」


「確かにそう聞くと凄いですね。……って言うか、サガーチャさん。お姉みたいに他の人もスキル無効化のマジックアイテムの効果がある中で、スキルを使う事って出来ますか?」


「まず無理だろうね。その効力や作りを理解している私だって出来ない。努力でどうにかなるものでもないし、現状出来る人物がいるとしたら、ジャスミンくんくらいじゃないかな」


「マ? ジャスってそんなに凄いんですか?」


「彼女も天才だからね。いや、彼女程の天才は私も今まで他に見た事が無いな。流石は精霊に愛されし少女と言った所だろう。ジャスミンくんであれば、魔力の無効化も効かないだろうね」


「凄っ。ジャスってそんな大物だったの? 流石は学校の先生」


 驚いて呟くと、何故かスミレさんが自分の事の様にドヤ顔になった。

 と、そこでジャスも話し合いが終わったのか、わたし達の所にやって来た。

 ただ、来たのはジャスとラーヴだけで、シャイン王女様と近衛騎士とランさんは急ぐ様に城門を潜って、城の中に入って行った。


「シャイン王女とお話した事を知らせるね。マナちゃんは今日中にはグラスタウンに戻るつもりなんだよね?」


「うん。明日にはバーノルドが館に戻って来るから、今日中にお姉達と合流したい」


「その事なんだけどね、マナちゃん。トンちゃんとプリュちゃんと連絡が付かなくて、ラテちゃんに連絡を取ってみたの」


「へ? ラテールに?」


「うん。ラテちゃんが言うには、トンちゃん達はまだアイリンちゃんって子のお家に帰って来てないみたい。それに、そのアイリンちゃんは数日前から留守にしてるみたいだよ」


「数日前から留守……? 何かあったのかな?」


「うぅん。どうしても外せないお仕事があって出かけるって言ってたみたい」


「そっか。それなら仕方ないね」


「でも、フォックさんって人も、同じタイミングで村から姿を消したらしいよ」


「フォックさんが……?」


「私はそのフォックさんって人も知らない人なんだけど、アイリンちゃんと接点が無い人で、同じタイミングで村からいなくなるなんて何か怪しいってラテちゃんが言ってたよ」


 ラテールが怪しいと思うのも無理は無かった。

 何故なら、フォックさんもバーノルドと関わっている可能性が大いにあったからだ。

 ラヴィが言っていたフォックさんの言葉、親愛なる分身(マイオルターエゴ)

 それは操られたウェーブも言っていた言葉。

 そのフォックさんがアイリンが村を出るのと同じタイミングで村から消えたとなると、関係無いとは言い切れないかもしれない。


「それでね、ちょっと言いにくいんだけど……」


「言いにくい?」


 わたしが首を傾げると、ジャスは苦笑してわたしから目を逸らして答える。


「ロポちゃんがこっそりアイリンちゃんの後をつけて行っちゃったみたいなんだよ」


「…………は?」


「ラテちゃんが言っちゃったらしいんだ。グラスタウンに住んでいる村の人達は、お館様を恐れて精霊を避けていたのに、何でアイリンちゃんだけその事を知らなかったんだろうって。それにフォックさんも同じ様に平気な顔してたって。普通はそんな事ありえないって」


 その言葉は、妙にしっくりくる言葉だった。

 今にして思えば、色々おかしかったのだ。


 あのグラスタウンと言う村は、わたし達が行った当初は、村人達全員が精霊とそれに関わる人を恐れていた。

 クォードレターも襲いかかってきたし、実際にそれが勘違いだと言っていたボウツは、“傲慢”であるペン太郎や“強欲”であるモーナの命を狙っていた。


 わたしは気が付かないうちに、敵の言葉を信じて動いていたのだ。

 そして、あの村で暮らしているアイリンは、精霊の噂を知らないと言っていた。

 でも、そんな事あり得るわけがない。

 あの時、酒場に行った時の周囲にいた人達やバーテンダーの怯えよう。

 あそこにいたのはドラマや映画のエキストラなんかじゃ無く、たまたまあそこに居合わせただけの人達。

 バーテンダーは言っていたんだ。

 精霊に関われば殺すとお館様が言っていたと。

 それは村人達全員が知っていなければおかしな事。

 そしてあれはまぎれもない事実で、恐らく同じ世界を何度も繰り返していたバーノルドが、精霊を避ける為に流した噂。


 サガーチャさんが言うには、精霊使いであるジャスには無効化系のマジックアイテムが効かない。

 そう考えると、もしかしたらジャスに邪魔される世界があったのかもしれない。

 だけど、実際に精霊を連れてやって来たのは、バーノルドの狙いであるわたしだった。

 もしかしたら、それはイレギュラーな事だったのかもしれない。

 実際わたしがあの村に行ったのは、神ヘルメースに言われたからだ。


 それに、今更ながらに思うのは、神様が人間如きのスキルの影響を受けるのか?

 正直受けるとは思えない。

 もし受けなかったとして、その神様の言葉でわたしは、わたし達はあの村に行ったのだ。


 だから色々と変な方向に話が流れた。

 と言っても、これはあくまでもわたしの予想。

 実際の所は本人にしかわからない。

 でも……。


「アイリンはわたし達を騙して、あの村に留まらせてた可能性がある。だから、ロポはそれを確かめる為にアイリンの後をつけたんだ」


 わたしの言葉にジャスは頷く。


「ロポ……また無茶してなきゃ良いけど…………」


 わたしは空を見上げて、ロポの無事を祈った。

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