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243 暗躍する者達 その1

※今回は話を遡って、メイド時代に一緒に過ごした鳥の獣人の少女、ポフーのお話です。


 ドワーフの国で奴隷にされていた皆とお別れした時の事を、わたしは今でも覚えてる。


「ポフーが泣くなんて思わなかったよ」


「だって、だって、これでもう会えなくなると思うと……。私、マナねえさんにまだ何も恩返しできていませんのに」


「そんな事ないよ。いっぱいポフーのおかげで助かったんだから」


 いつも自分より下の子達の面倒を見てくれていたポフー。

 しっかり者で、皆からも頼られてた子。

 そんな子がお別れの時になって、一番泣いていた。


 わたしはポフーの涙をハンカチで拭って、優しく微笑んで頭を撫でた。

 ポフーは泣き止まなかったけど、それでも顔をぐしゃぐしゃにしながら笑ってくれた。

 最後には大きく手を振って、馬車に揺られながら迎えに来た兄と帰って行った。







 高い山の上にある村バンブービレッジ。 

 そこ等に竹が生えていて、畑や田んぼ、それから昔話に出てきそうな古びた家が並ぶ村。

 そこにある小さな一軒家に、鳥の獣人の少女と半魔の男が暮らしていた。


「お兄様、また鍛えていらしたの?」


「ああ。半魔の力に頼り過ぎて、愛しのモーナスちゃんをめとり損なってしまったからな。ポフーはバーノルドの作戦に加担した時に、マナちゃんと過ごして姉が欲しいと言ってただろ? だから俺もポフーの為にも頑張って力でねじ伏せて、モーナスちゃんを俺の許に嫁がせるさ」


「……お兄様。でも、私はお兄様に拾ってもらえたおかげで、今はとても幸せなんです。だから、お兄様がいてくれるだけで……」


「おいおいポフー。俺とお前の仲じゃないか。遠慮はいらないっていつも言ってるだろう? この俺スタンプ=ウドマンは、妹の願いを叶えられ無いようなおとこじゃないんだ。お前を拾って、ポフーと名付けた時に言ったじゃないか」


「……はい。お兄様の言う通りですわ」


 鳥の獣人の少女の名前はポフー。

 着物に身を包んだ7歳の少女。

 赤い髪は腰まで届くくせっ毛一つ無い綺麗な髪の毛。

 優しげな目に、瞳の色は温かみのある朱色の瞳。

 背中からは赤色と朱色の混じった美しい羽が生えていて、お尻からは美しい赤と朱の尾羽が生えていて、それは着物からはみ出していた。


 ポフーは物心つく頃にわけあって路頭に迷い、スタンプに拾われた女の子。

 スタンプから“ポフー”と名付けられ、その時から血の繋がってない家族、妹として育てられてきた。

 だからこそだろう。

 ポフーは本当の気持ちを言えなかった。

 自分を育ててくれた兄に感謝の気持ちがいっぱいで、これ以上の我が儘が言えなかったのだ。

 ポフーはとても兄思いの少女なのだから。


「それよりも、近々バーノルドを回収して、大罪魔族の1人“暴食のベルゼビュート”と接触する事になる」


「ですと、またお顔を変えるのですか?」


「しないよ。アレはポフーを迎えに行った時だけだ。バーノルドが見つけたあの男の顔を変えるスキルは確かに便利だが、モーナスちゃんの前で自分だと名乗れない苦しみはもうこりごりだ」


「うふふ。お兄様ったら。あの時は必死に耐えていらしたものね」


「本当にな。バーノルドの回収ごときでは顔は変えんよ」


「そうですか。お兄様、ドワーフの国で受けたあの男の呪い……本当に解いてしまって良いのでしょうか? 私はマナねえさんが心配ですわ」


「安心すると良い。泳がすだけ泳がして、時がくればボウツと立てた作戦を実行して、奴のスキルを封じて殺してしまうさ。あの男が生きている限り、モーナスちゃんを娶っても白紙に戻されてしまうからな。本当に忌々しいスキルを持つ男だよ、バーノルドと言う男は。ポフーも協力してくれるんだろう?」


「はい。マナねえさんには絶対手を出させたくない。それに、お兄様の為にも、私も協力しますわ」


「ありがとう、ポフー。いい子だ」


 スタンプはそう言うと、ポフーのおでこにキスをする。

 ポフーはそれを頬を染めて受け止めて、嬉しそうに上目遣いをスタンプに向けた。


「バーノルドの話では、後少しすれば“暴食”が動いて、“憤怒”を殺した人物を捜しに来る。それまでに俺も村から“邪神の血”を回収しないといけないな。バーノルドに気付かれる前に」


「はい。そして、それを私が飲めば良いのですね?」


「そうだ。本来であればあれは村長の養子のラリューヌが飲み、魔族化して協力者になるらしいが、どうにもこの世界では性格が丸くなっていて使い物にならなくなったと言っていた。それに、バーノルドが今まで繰り返した世界で俺とポフーは魔族化していない。これはチャンスと言って良いだろう」


「お兄様は既に“邪神の血”をあの男から貰う手筈が整ってるのですわよね?」


「その通りだよ、ポフー。ポフーもよく知っているジライデッドとか言うやぶ医者と、妙なスキルを使うバターマンの力で作りだした薬らしいからな。まさか村長が昔バーノルドに騙されて、物珍しさもあって買い取っていたとは思わなかったが、運良く知れて良かった。よほどこの世界が順調らしい。バーノルドは嬉々として教えてくれたよ」


「そうですわね。ドワーフの国でマナねえさんと過ごせた日々が、よほど気にいってらしたのですわ」


「その点については本当に感謝しているよ。本当はあの邪魔な子供は殺したいほど憎んでいたが、ポフーが気にいったと言うのを抜きにしても、今では感謝の気持ちでいっぱいだ。あの子のおかげで薬が手に入ると言っても良い」


「はい。マナねえさんですもの。当然ですわ。私も薬を飲んで魔族になり、マナねえさんの様に、きっとお兄様のお役に立ってみせます」


「本当に出来た妹を持って俺は幸せ者だ。ありがとう、ポフー。準備は早いに越した事は無い。早速村を出る準備を始めよう」


「はい。お兄様」


 2人は微笑み合い、村を出る準備を始めた。







 時が経ち、2人は深夜の森を手を繋いで歩いていた。

 そして、スタンプはポフーの手を離して、背中を向けて1人で走り去って行く。

 ポフーはその背中を曇り眼で見つめながら、ただ静かに見送った。


「お兄様。……いってらっしゃいませ」


 ポフーは悲し気に呟くと、“邪神の血”を取り出した。

 これは、村長の家から盗み出して手に入れた薬、魔族になる為のマジックアイテム。


「私は……私はお兄様が望むままに動きますわ。何があっても……」


 自分に言い聞かせるように呟き、そして、ポフーは目をつぶって“邪神の血”を一気に飲み干した。

 その瞬間、ポフーに尋常では無い苦痛と吐き気が押し寄せて、その場で倒れてしまった。

 ポフーは無言でそれを耐え続けて、暫らくすると、ゆっくりと立ち上がった。


「お兄様……私は私でやるべき事を致しますわ」


 ポフーは様々な色の魔石を取り出して、それを宙に浮かせる。

 魔石は一つ一つがそれぞれ違う色の光を放って、その中でも最も輝いていた魔石にポフーが触れる。


「私の新しいスキルを把握しましたわ。では、行きますわよ、ネージュ」


「はい。ポフーお嬢様」


 ポフーの呼びかけに、今まで何処に隠れていたのか小さな精霊が現れた。

 その姿は他の精霊と同じ手のひらサイズの二頭身で、水色の髪の毛と瞳、そして白い肌。

 暖かそうなモコモコのコートを着ている。


 そんな小さな精霊はポフーの目の前まで浮遊して、怪しげな笑みを見せてポフーと目を合わせた。


「一足先にお館様の所へ行きましょう。アンタのお兄様の為にね」


「…………」







 精霊の里から北東に進んだ先にある辺境の村グラスタウン。

 そこには、村人からお館様と呼ばれるお金持ちの大富豪がいる。


 ポフーは氷の精霊ネージュと共にそのお館様の館にやって来た。

 館に来たのは、スタンプより先にお館様と会う為。

 お館様に会って、ポフーはスタンプに内緒で何かをしようとしていた。


 だけど、館にはお館様の姿は無く、そこで働くメイドのクランフィール=ヘイルナーしかいなかった。


「お館様なら、さっきボウツと一緒に出かけたわよ」


「えええっっ! 出かけちゃったの!? アタイそんなの聞いてない! せっかくポフーお嬢様を連れて来たのに! クランフィール、どう言う事よ!」


「一々煩い声を出さないでよ。仕方が無いでしょう? グラスに伝えずにボウツについて行ったのだから」


「クランフィールさんは1人でお留守番ですの?」


「そうね。男連中は全員ボウツと一緒に行ってしまったからねえ。そのおかげで私は仕事をサボれているけどね」


「ふふ。クランフィールさんは相変わらずですわね」


「以前会ったのはお館様がドワーフの国に行く前よね? あれからそんなに経ってないんだから、そんなの当たり前でしょう?」


「ねえねえ。それよりさ~、アタイのお姉ちゃんは今何処にいるの?」


「そんなの加護の通信で会話して聞けばいいじゃない」


「アタイはアンタ達と違って、基本は外で作戦を遂行してるんだから、普段はそれ用のマジックアイテムを持ち歩いてないの」


 ネージュは氷の精霊で、トンペット達の様に加護を持っているから、それを利用して通信が出来る。

 そして加護による通信には、魔力を使う必要がある条件があった。

 だけど、ここは館の中で、マジックアイテムによって魔力が封じられてしまっている。

 ネージュの言う通り、それを無効化する為のマジックアイテムを持ち歩いていない限り、この館では通信が出来ないのだ。


「あっそ。貴女も私達みたいに、体内にマジックアイテムを入れときゃ良いのよ」


「嫌よ。アンタ達人間と精霊の体の大きさは全然違うのよ! あんなの体内に入れたら死んじゃうわよ!」


「ネージュ、落ち着いて? 私ので良ければお貸ししますわ」


「あら、ポフーお嬢様~。流石はお優しいございますね。どっかのおばさんとは大違い」


「誰がおばさんよ。これでも私はまだ18なのよ」


 ポフーは苦笑しながらビー玉サイズの透明な丸い玉を取り出して、それをネージュに渡し、ネージュはそれを受け取ると加護の通信を始めた。


「クランフィールさん、ステータスチェックリングはありますの?」


「ええ。今持って来るわね。でも、そんな物が今更貴方に必要なの?」


「はい。お兄様をたぶらかして、マナねえさんに寄生する“強欲”を、いずれ駆除する必要がありますので」


「……ふふ。面白そうね。ねえ、ポフー。その話、私に詳しく聞かせてもらえるかしら?」


「いいですわよ。クランフィールさんなら、そう言ってくれると思っていましたの」

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