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238 音信不通の少女達

 ついに始まった元奴隷商人捕縛作戦。

 ランさんからの話によると、わたしを狙っている脱走した元奴隷商人の数は恐らく20人前後。

 それなりに多いこの人数に対抗する為、あらゆる状況を想定した入念な準備に、住民たちの安全を護る為に住民たちの避難が終わる。


 先日わたし達がクラライト城下町に来る前にフロアタムに寄った時に、元奴隷商人の内の1人が盗み聞きして情報を得て、ここを目指していたと捕まえた脱走犯が言っていたとの事。

 だから、あえてわたしが城下町にいる事を知らせる為に、民に偽装したランさんや騎士と一緒に城下町のあちこちに行って存在のアピールなんかもした。

 この完璧な状況を作り上げる為に、既に2日が経過していた。


 ……はい。

 準備に時間かかりすぎて2日も経っているのだ。

 と言うか、既にわたしがここに来て計5日経ってしまったわけで、明後日にはお館様が館に帰って来てしまう。


 おかげでメレカさんからの新たな情報まで入っていた。

 それは、邪神の血をあのバターマンと名乗っていた男が売っていたと言う事。

 そして、精霊の里の近くの湖で再会したスタンプが、邪神の血を飲んで魔族化していると言う事。

 スタンプは元々半魔だったから、完全な魔族になったわけだ。

 バターマンの事は王女様に報告して調べる事になったから放っておいても良いけど、スタンプのせいで正直に言って気が重い。

 あのストーカーは諦めが悪いから、絶対に何か仕掛けてくるに違いないだろう。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 時刻は夕刻。

 子供達が遊び疲れて帰る頃。

 わたしは例の木のある公園で木に縛り上げられて、一般人に見立てた騎士達に見守られていた。

 こんなあからさまな感じの罠で大丈夫なのかと心配だったけど、ジャスが自信満々な顔で「完璧かも」なんて言っていたので信じる事にした。


「がお」


 ラーヴが声を上げてわたしの頭の上に乗る。

 ジャスの自信満々な強気な背景には、こういった理由もあった。

 つまりラーヴをわたしの側におく事で、安全面をアップさせているわけだ。


「って言うか、ホントあからさまだよね。こんなんで本当に来るのかな?」


「がお……」


 当然と言えば当然だけど、ラーヴも分からないのだろう。

 少し不安そうに返事をした。

 だけど、その直後だ。


「がお!?」


 ラーヴが驚きわたしの目の前に移動して、焦った様子でわたしを見上げた。


「大変。ドーイとプユから連絡きた!」


「――っ! トンペットとプリュイ!? ホントなの!?」


「がお」


 ここでまさかの音信不通者からの連絡に、わたしも驚いて目を見開いた。

 そして、わたしは、わたし達は忘れていた。

 ランさんがわたしの許に来た時に、言っていた大切な事を。

 元奴隷商人達がわたしに復讐すると言っていた時に、言っていた大切な事を。


“クォードレターとクランフィールって元奴隷商人なんですよねえ”


“因みに2人ともあの事件に関わってます”


 そう。

 わたしに変身したお姉が、メイドとして働いていた館。

 その館にいたこの2人の元奴隷商人の存在を、わたし達は忘れてしまっていたのだ。







 場所を変え、時も少しだけさかのぼってお館様の大きな館。

 その館の中の一つの小部屋で、スヤスヤと気持ち良さそうに眠る少女が1人。


「起きて。起きて……」


 気持ち良く眠る少女を、体を揺すって必死に起こそうとする虚ろ目な少女。

 だけど、眠っている少女は全く起きない。

 いつからこの状況が続いていたのか、虚ろ目な少女は更に虚ろ目になり、体を揺するのを止める。

 するとその時だ。

 それをジッと見つめて黙って座っていた猫耳の少女が、しびれを切らして立ち上がった。


「ラヴィーナ、私がやるわ」


「――っ。駄目。モーナスは雑。なみ――愛那まなが死ぬ」


「いや、流石に死にはしないんじゃないッスか? せいぜい全治一ヶ月程度ッスよ」


「それ十分ヤバいんだぞ!? って、マモンさん大人しくしてるんだぞ! 傷口が開いて血が噴き出してるんだぞ!」


「あーっはっはっはっ! こんな傷舐めておけば治る……ぐふっ。わ!」


「めっちゃ死にそうな顔で何言ってるッスか? ここでは回復の魔法が使えないんだから、馬鹿猫は大人しく寝るか座るかしてれば良いッスよ」


「こ、このくら――――がはっっ」


「マモンさんが血を吐いて倒れたんだぞー!?」


「やれやれってやつッスね」


 虚ろ目な少女ラヴィが猫耳の少女モーナに虚ろ目を向けて肩を落とし、スヤスヤと眠る少女と言うか変身してわたしの姿になってるお姉を見た。

 と言うわけで、3人と精霊2人は館の小部屋で閉じ込められていた。

 皆無事……と言う程無事では無いけど、それでも元気なのは確かだ。


 館の中では魔法やスキルがマジックアイテムの影響で使えなくなっていて、更にそれは加護にまで影響を及ぼしているのか、トンペットもプリュイも加護を使った通信が出来なくなってしまっていた。

 魔法が使えないので回復も出来ず、グラスにやられたモーナのお腹の傷は残っている。

 とは言え、残っていると言っても風穴は塞がっていた。

 だけど、完璧に完治ではなく、手術をした直後の様な状態。

 激しい動きをすれば傷口が開いてしまう。


「それにしてもスイカ胸は凄いッスね。意識が無くてもマナママの見た目を維持出来てるなんてッス」


「本当なんだぞ。あれから全然起きないのに凄いんだぞ」


「……なんで起きないのか考えよう。何かあるかもしれない」


「何かッスか? 確かにあるかもッスけど。案外マナママの作ったご飯のにおいを嗅いだら、直ぐに飛び起きるんじゃないッスか?」


「流石にそれは無いと思うんだぞ」


「……ありえるかも」


「だな。ナミキは馬鹿だからな」


「え? マジッスか? ボク今の冗談で言ったんスけどって、馬鹿猫は顔色ヤバいッスよ? もうそこで横になってるッス」


「げほっげほっ……。私は最強だから、このくらいハンデにしかならないわ」


「なんのハンデッスか? 馬鹿猫は本当に馬鹿猫ッスね」


「さっきから馬鹿馬鹿煩いな。最強猫と呼べ」


「2人とも漫才してないで真面目に考えるんだぞ」


 漫才? をするモーナとトンペットに注意すると、プリュイはお姉の側に行って顔を覗き込んだ。

 すると、トンペットもプリュイの隣まで飛んでいき、お姉の顔を覗き込んで呟く。


「マナママとは思えない程のアホ面ッスね」


「顔は愛那でも瀾姫なみきの寝顔」


「中身が変わると寝た時の印象も変わるもんだな。ナミキが変身してるアホ面のマナには抱き付きたいと思えないわ」


「ドゥーウィンとマモンさん辛辣なんだぞ」


「って言うか、ボク思ったんスけど、あれからどれくらい経ってるんスかね? 武器だけじゃなくてステータスチェックリングも取られたんスよね? おかげで時間も分からないッス」


「なんだ? あいつ等にここに閉じ込められてから、どれだけ経ったのかおまえも知らないのか?」


「そりゃそうッスよ。ボクも目が覚めたのは今朝ッスよ? そんな状況じゃ分かるわけないッス」


「一番最初に目を覚ましたのはアタシだけど、ドゥーウィンとマモンさんとラヴィーナさんが目を覚ますまで一夜が明けてるんだぞ」


「ホント困ったッスね~。抜け出そうにも扉は頑丈だし、窓の外には警備っぽい連中がいっぱいいるッスしね。あいつ等って本当にフロアタムを襲ったって言う奴隷商人だった連中なんスか?」


「そうだな。あいつ等とり合った時に何人か見たぞ」


 トンペットとモーナの言う通り、小部屋の窓から見える外には、元奴隷商人達が見回りで何度も小部屋の前を通り過ぎていた。

 そしてそれは、フロアタムから脱走した脱走犯だった。

 だけど、この時のモーナ達はまだそれを知らないから、何の疑問も抱かない。

 ただ単純に、逃げ延びた奴隷商人がこの館に雇われていると思うだけに過ぎなかった。


「逃げたとしても、フロアタムを襲う程の実力者を何人も相手に戦う事になるなんて、正直気が重いッスよ」


「ここから抜け出しても、見つかったら大変なんだぞ」


「せめてボク等も館の敷地内で魔法が使えればどうにか出来るんスけどね~」


「魔法が使えないと何も出来ないなんて、使えない精霊どもだな」


「風穴開けられた馬鹿猫には言われたくないッスよ!」


「ドゥーウィン落ち着くんだぞ!」


「プリュイの言う通り落ち着け。どうせおまえは何も出来ないんだから、おまえと違って出来る私に何言っても無駄だ。負け犬の遠吠えってやつだな」


 モーナの余計な言葉で、ついにトンペットが怒りを抑えられなくなって、モーナに向かって飛びかかる。

 だけど、それをプリュイが直ぐに慌てて後ろから羽交い絞めして止めた。

 ホントうちの馬鹿猫の口が悪くて申し訳ない。


「離すッスよプリュ!」


「仲間割れは良くないんだぞ!」


「ご主人曰く“喧嘩をし合える男の子同士の友情って最高だよね!”だから問題なくぶっ殺せるッス!」


「それは意味が全然違うしドゥーウィンもマモンさんも男の子じゃないんだぞ!」


「男女差別反対ッス!」


「そんな話はしてないんだぞ!」


 最早何が何やらな言い争いを始めた2人を尻目に、ラヴィが何かを思い出したかのようにごそごそと懐を探る。

 そして、透明な袋に入ったクッキーを取り出した。


「ラヴィーナ! 何だそれは!? ぐふぉっ」


 流石は馬鹿のモーナである。

 モーナは大声で尋ねて血を吐き出した。

 すると、意味の分からない言い争いをしていたトンペットとプリュイが、争いをやめてラヴィに注目する。 


 ラヴィは袋を開けてクッキーを一つ取り出すと、お姉の口の中に押し込んだ。

 すると次の瞬間、閉じていたお姉の目が見開いて、口をもぐもぐとしながら勢いよく起き上がった。


「ほいひいへふ!」


「起きたッス! クッキー食べて起きるとか、どんだけ食い意地張ってるんスか!?」


「ただのクッキーじゃない。これは愛那の手作り。持ってたの思いだした」


「流石はマナママのクッキーなんだぞ! 凄いんだぞ!」


「当たり前だ!」


 何故かドヤ顔で胸を張るモーナに、「おおっ」と声を上げて尊敬の眼差しを向けるプリュイ。

 ラヴィも勝気な笑顔でこくりと頷いて、トンペットだけは冷や汗を額に流していた。

 そしてそんな中、さっきまで眠っていたお姉は、クッキーを食べ終えて皆に視線を向ける。


「何かあったんですか?」

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