235 大事件到来です!
※今回も瀾姫視点のお話です。
私は可愛い妹の愛那ちゃんに変身してお館で働くメイドの瀾姫です。
今日も愛那ちゃんになりきって立派に優秀なメイドを演じて、明日に備えて早めにおねんねするつもりです。
だけど何故でしょう?
一緒にお館で働く庭師のクォードレターさんが寝かせてくれません。
クォードレターさんに襟首を捕まれて、グラスさんと言う方のお家まで引きずられてます。
このままだと、せっかくの可愛いメイド服も汚れてしまいますし、明日早く起きられません!
一大事です!
今の私は愛那ちゃんに変身しているので、愛那ちゃんと同じ非力で可愛い女の子です。
どう頑張っても逃れられません!
助けて下さい!
「ちょっと黙って聞いてほしいんスけど……」
為す術無く引きずられながら、通り過ぎていく景色を眺めていた時でした。
クォードレターさんと一緒に私を引きずっていたトンちゃんが、私の肩の上に止まって小さな声でひそひそ話を始めました。
「邪神の血の事と、それを昨日喫茶店にいたオーナーが持ってる事を皆に話そうと思ったんスけど、プリュイとだけ連絡が取れないッス」
「ホントですか!?」
グラスさんと言う方が昨日のお店の人だと言うのを忘れていた事と、プリュイちゃんと連絡が取れない事の二段構えに、私は驚いて声を上げて驚きました。
「んぁ?」
うっかり大声で驚いてしまい、クォードレターさんが足を止めて私に振り向きました。
ヤバいです!
疑うような眼差しを向けられちゃってます!
「ほ、本当ッスよ。心配しなくても明日ボクが朝ちゃんと起こしてあげるッス~」
「トンちゃん、ありがとうございます~」
「何だ? 自分1人で起きられねえのか? やっぱりガキだな」
危なかったです。
危機一髪でした。
トンちゃんが機転を利かせてくれて良かったです。
そして明日の朝の心配がなくなりました!
って、そんな事より大変です!
クォードレターさんが私を引きずりながら再び歩き始めたので、私はトンちゃんとこそこそ話します。
「プリュイちゃんと連絡が取れないって本当ですか?」
「本当ッスよ。プリュイはボク達の中で一番真面目ッス。そのプリュイが連絡取れないって、絶対何かあったッスよ」
「何かって何ですか?」
「分かんないッスけど、絶対よくない事ッス」
「どうしましょう? 一緒にいるモーナちゃんとラヴィーナちゃんは無事でしょうか?」
「馬鹿猫はともかく雪ん子は心配ッスね。色欲の所にお団子と一緒にいるラテに聞いたら、家にも帰って来てないみたいッス」
「どどどど、どうしましょう? こんな事してる場合じゃないですよ」
「落ち着くッス。今ラテが色欲と一緒に村中を捜してくれてるッス。ボク達は館に帰ったら、念の為に館の中を捜すッスよ」
「分かりました。そう言う事なら、ちゃちゃっとクォードレターさんの用事を済ませて帰りましょう」
もう引きずられて可愛いメイド服を汚している場合じゃありません!
私は立ちあがって……立ち上がれません。
クォードレターさんの足が速くてバランスがとれません。
と思っていましたが、クォードレターさんが足を止めて私を離しました。
「ついたぜ」
グラスさんのお家に着いたそうなので、私は立ちあがってお家を見上げました。
夜と言うのもあって暗くて見辛いですが、結構ご立派なお家です。
お館と比べれば小さいですけど、他の村人さん達のお家と比べて二回りくらいの大きさはあります。
ちょっとだけお家を眺めていると、クォードレターさんが何も言わずに玄関の扉を開けて中に入って行きました。
「ボク達も行くッス」
「そうですね」
トンちゃんと一緒にお家の中に入ります。
ちゃんと「おじゃまします」を言うのも忘れません。
お家の中は、アイリンちゃんのお家と同じ様な構造をしていました。
トイレとお風呂だけ別のお家です。
でも、アイリンちゃんのお家と違ってとっても広いので、所々に仕切りがあって部屋分けされてました。
「あなたがマナちゃん? いらっしゃい」
不意に声をかけられて振り向くと、グラスさんがいました。
「昨日ぶりッスね」
「昨日お店に来てくれた精霊……?」
グラスさんがトンちゃんを見て一瞬だけ顔を歪めました。
どうしたのでしょうか?
本当だったら私も昨日の事をお話したかったんですが、今の私は可愛い愛那ちゃんです。
愛那ちゃんはグラスさんとお会いした事が無いので、名演技を見せる時です。
「クォードレターさんからお話を聞いてます。グラスさん、はじめましてです~」
「ふふふ。ええ、はじめまして」
「自己紹介なんて後にしろよ。そんな事より、さっさとおっぱじめようぜ」
グラスさんと自己紹介をすると、クォードレターさんが話しかけてきました。
振り向いて視線を向けると、その手には小瓶を握っています。
あれが“邪神の血”と言う薬でしょうか?
クォードレターさんの許まで歩いて行って、その小瓶に注目してみたけど、それが何かは見ただけでは分かりません。
「それが“邪神の血”ッスか?」
「よく分かったなハエ野郎。っと言ってやりたいが、これはただの酒だ」
「薬は貴重だからね。地下で大切に保管してるのよ」
「地下があるんですか?」
「この女は用心深いからな。んな事より、さっさと行こうぜ」
「そうね」
グラスさんが絨毯を捲り、地下へ続く扉が現れました。
何だかワクワクします。
扉を開けると階段が現れたので、階段を下りて地下へ進みます。
そうしてやって来た地下には、長い廊下と沢山のお部屋がありました。
お部屋には扉がなくて、廊下からお部屋の中が見えます。
少し興味を持ってお部屋の中を歩きながらチラチラ見ましたが、どのお部屋も殺風景で何も置いてないお部屋ばかりでした。
薬を保管してると言っていましたし、今は物が無いだけで倉庫の役割なのかもしれません。
「ったく、相変わらず広い地下だな」
「上が狭すぎるのよ。理想はお館様の館並の広さよ」
「あんな広くする気かよ」
前を歩いているクォードレターさんとグラスさんが2人でお話しているので、耳を傾けながらお部屋を覗いていましたが、それどころでは無くなってしまいました。
大事件到来です!
なんとモーナちゃんが氷漬けになって捕まっている部屋があったんです!
まさか音信不通だったモーナちゃんが、こんな所で氷漬けにされているなんて思いもしませんでした。
モーナちゃんを見つけて驚くと、肩の上で座っていたトンちゃんもモーナちゃんに気がつきました。
「――っ!? 馬鹿猫じゃないッスか。これ、結構ヤバいッスね」
「ヤバいってレベルじゃないです」
急いで助け出そうとお部屋に入ろうとしましたが、トンちゃんに服を引っ張られてお部屋に入るのを止められてしまいました。
「待つッス。これはきっと罠ッス」
「罠ですか?」
「奴等はボク達が馬鹿猫の仲間だって知ってるッス。それなのに氷漬けにした馬鹿猫を見える場所にこんなに堂々と置いておくなんて、絶対に何か企んでる証拠ッスよ」
「……確かにそうかもです」
モーナちゃんを今直ぐにでも助けたいですが、ここは我慢します。
だけどそんな時です。
前を歩いていたクォードレターさんが驚きの声を上げました。
「おい! どう言うつもりだグラス!?」
驚いて視線を向けると、クォードレターさんが私とは別のお部屋を見て驚いていました。
隣を歩いていたグラスさんは、少し面倒臭そうな顔をしてます。
私は2人の顔を見て気になって、小走りで2人に近づいて、クォードレターさんが見ていたお部屋に視線を向けました。
「――っ! ラヴィーナちゃん、プリュイちゃん!」
もう無理です。
耐えられず大きな声が出ちゃいました。
ラヴィーナちゃんとプリュイちゃんは重そうな重りの付いた足枷や手枷を付けて、鎖でグルグルと縛られて横たわっていました。
「何で、何でこんな事したんですか!?」
「マナママ、落ち着くッスよ!」
もう我慢なんて出来ません。
私はグラスさんに向かい合って、グラスさんの目を見て睨みました。
「落ち着いてなんかいられません! モーナちゃんが他の部屋で氷漬けになってました! 今直ぐ氷から出してあげて下さい!」
「何!? 他にもいるのか? おい、グラス説明しろ!」
「若葉マークも知らなかったッスか!?」
「……はあ。面倒だねえ」
驚いているクォードレターさんの隣に立つグラスさんは、そう言ってため息を吐き出して、私を睨みました。
「全員ここで黙らしてやろうかしら?」
「結局こうなるんスか!? マナママ、もう戦うしかないっぽいッスよ!」
「3人を助ける為なら仕方が無いです!」




