231 読んで学ぶスキル使用条件
クラライト王国はこの世界の最大国家で、ヒューマンである国王が治めている王国だ。
他国との友好関係も良好で、城下町にも他国から様々な種族が沢山移住しては暮らしているので、城下町もその分広く大きい。
そんなこの国には少し変わった特徴がある。
本来であれば、王国なのだから国王が国で一番偉いのが普通なのだけど、この国はそうじゃない。
この国で一番偉いのは国王では無く、巫女姫と呼ばれるこの国の王女様。
そう。
今わたしの目の前で優しく微笑んでいる王女様、シャイン=ベル=クラライトがこの国で一番偉い立場にあるのだ。
何故“巫女”姫なのか若干気になる所だけど、まあ、それは今は置いておくとしよう。
紹介状と一緒に入っていた手紙を読んだ王女様から出た言葉に、わたしは驚いて耳を疑った。
“これからクラライト王国はマナちゃんを全面協力するね”
耳を疑うも、間違いなくそう言っていると目の前に座る王女様の目が語っている。
「あ、あの、クラライト王国が全面協力って……ありがたいですけど、何でですか?」
「手紙に書いてあったスキル。巻き戻しと思念転生はこの国だけでなく、世界的に見ても脅威でしょう? それに大罪魔族の件も放っておけない。だから気にせず私達の協力を受けてほしいな」
王女様が柔らかな笑みを浮かべながら答えて、側で立っている騎士も頷いた。
この世界で最も大きな国の後ろ盾が出来るなんて、スキルを調べに来ただけなのに、わたしが想像していたより大事になった事に驚きを隠せない。
わたしが驚いていると、ラーヴが机の上に上って「がお」と手を上げた。
「精霊様、どうしました?」
王女様がラーヴに笑顔で尋ねると、ラーヴが首を傾げて答える。
「王たまに相談ちなくていい?」
「それなら心配いりません。パパは……国王は別件で忙しいので、国を動かす程度の事なら、今は私の判断のみでってなってます」
「とれなら安心」
……国を動かす程度?
わたしは絶句して何も言えない。
と言うか、国を動かす程度って何だろう?
ラーヴは納得してニッコリ笑ってるけど、国を動かすレベルの大事件って、程度で済まして良い事なの? って感じで、わたしには理解出来ない。
「さて、それじゃあ早速だけど……」
王女様が人差し指を立てて、人差し指の周囲にビー玉サイズの光の球体が幾つも出現する。
「あれと、これと……あ、これも」
ブツブツと呟きながら王女様が光の球体を机の上空に移動させ、その直後に光の球体が分厚い書物へと姿を変えていく。
そして、書物となったそれは重力に逆らわずに机の上へと落ちていき、それ等は積み重なってわたしの身長よりも高い塔が出来上がった。
「一応お城にあるスキル関係の本は出しといたよ。私はこれから騎士を集めて手紙の事を伝えるから、悪いけど戻って来るまで読んでてね? あ、飲み物とかも持って来て貰うから」
「あ、はい。お構いなく……」
圧倒されながら返事をしたわたしに王女様は微笑んで、部屋を出て行った。
そしてこの部屋を去って行く王女様の後ろ姿を見て、わたしはふと思う。
圧倒されて殆ど喋れなかったけど、“じゃしんの血”についても言っておいた方がいいのでは? と。
大罪魔族の件も放っておけないと言っていたし、魔族に関わる事も話せば相談にのってくれるかもしれない。
わたしは今でもお姉の事を心配している。
万が一にも“じゃしんの血”とか言う薬を飲まされて魔族になっちゃったら、元の世界に帰れなくなってしまうかもしれない。
そんなの絶対させたくないし、飲んでしまって魔族になってしまったら、どうにかして元の人間に戻したい。
わたしはわたし達と一緒に部屋に残った騎士に視線を向けた。
「“じゃしんの血”って知ってますか?」
「――っ!?」
もしかしたら、わたしはとんでもない事を聞いたのかもしれない。
わたしの質問を聞いた騎士は、目を見開いて驚き、数秒後に険しい顔へと表情を変化させた。
その顔にわたしもラーヴも気圧されて、冷や汗を流して口を噤んだ。
「邪神の血……それを何処で?」
「へ? えーっと……」
「あ、いや。すまない。怖がらせてしまったね。邪神と言うのは昔この世界を支配しようとした悪い魔族なんだ。この国だけでなく、世界中で邪神の配下の魔族に多くの人々が殺され、世界が滅亡の危機に陥った事があるんだ。だから、その“邪神の血”と言うものが何なのか教えてほしい」
「……分かりました」
騎士の言葉に納得したわたしは、ラーヴが加護の通信でトンペットから聞いた話を説明した。
すると騎士は一言「ありがとう」と告げて、再び険しい顔になって何か考え始め、少し経ってからわたしに視線を戻した。
「すまない。君達の手伝いをと思っていたけど、“邪神の血”の事をベル様に報告しに行くよ」
「分かりました。わたしも後で伝えようと思っていたので助かります」
「がお」
「ありがとう。……あ、そうそう。早めに紅茶を持ってくるように伝えておくよ」
「がお~」
ラーヴが怪獣の着ぐるみパジャマの尻尾を振りながら両手を上げて返事をすると、騎士は柔らかな笑みを浮かべて「では」と一言述べて部屋を出て行った。
「それじゃあ、わたし達も探さないとね」
「がお」
と言うわけで、わたしは目の前に積まれた書物の塔に手を伸ばし、一冊だけ手に取って開く。
メレカさんがお勧めしていただけあって、色んなスキルの事が一つ一つ丁寧に書かれていた。
それは“スキルの名前”と“スキルの効果”と“覚醒後の力”、それからその“使用条件”に“対策方法”等々、本当に様々な詳しい内容が書かれている。
ただ、覚醒条件だけは何一つとして書かれてはいなかった。
「ママのツキルあった」
「へ? わたしの?」
別の書物を読んでいたラーヴがわたしのスキルを見つけた様だ。
気になって見てみると、そこにはしっかりとスキル使用の条件も書かれていた。
「えーと何々? 条件は刃物の扱いに長けている事……? 思ってたより普通だ」
でも、何だか納得する条件。
わたしがスキル【必斬】を使えているのは、普段から料理をしているからで、つまり包丁と言う刃物を使っているからだろう。
それからその他にも、色々なスキルを見つけていく。
中にはお姉の【動物変化】の事も書かれてあって、それを見てお姉が異常だと知った。
どうやらこのスキルは、お姉がよく使っている部分変化なんてものは無く、文字通り動物……と言うか獣に変化する事が出来るだけのスキルらしい。
それどころか、かなり底辺なスキルらしくて、条件なんてものも無いようだった。
「って、お姉のスキルなんて見てる場合じゃないよね」
「がお?」
つい見入ってしまったけど、とにかく目的のものを探さなくてはだ。
と、そこで扉がノックされて「紅茶をお持ちしました」と声が聞こえてきたので、わたしとラーヴは返事をする。
紅茶を持って来てくれたのは、この城のメイドで、メレカさんと色違いのメイド服を着ていた。
「ありがとうございます」
「がお。ありがとー」
紅茶と一緒にクッキーを机に並べてくれたメイドにラーヴと一緒にお礼を言うと、メイドは無表情で頷いた。
「恐れ入ります。それでは、部屋の前で待機しているので、何かあればお呼び下さい」
メイドはそう告げると、早々に部屋を出て行った。
なんと言うか、凄く事務的な人って印象のメイドだった。
「色んなメイドがいるんだなあ」
「がお?」
「う、ううん。こっちの話。それより、早く調べないとね」
「がお」
そうして調べる事数時間。
ついに、わたしはお館様のスキルを見つけ出した。
「ラーヴ、あったよ」
「がお」
ラーヴに声をかけて、書物を開いたまま机の上に乗せ、2人で一緒にそのページを見る。
わたしが見つけたのは、巻き戻しについて書かれたページだ。
書物によると、巻き戻しの力は時間を巻き戻して、過去をやり直す事が出来るスキルの様だ。
と、ここまではボウツの言っていた通りの事。
本題はここからだ。
「えーっと何々? 条件はバク転一回につき1年分の時間を巻き戻し可能……?」
「が、がお……」
「覚醒後はバク転一回につき1年以内の好きな時間まで巻き戻せる……うん。馬鹿なの? 何このスキルの使用条件」
「が、がお……」
スキル【巻き戻し】の使用条件は、とんでもなく馬鹿な内容だった……。
「え? マジでこれ防ぐ方法ってなくない? 何処でも出来ちゃうじゃん。どうすんのこれ?」
「がお……」




