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226 作戦会議

 グラスタウンにある大きな館の主のスキル【巻き戻し(タイムスリップ)】。

 館で迷子になった事で偶然知る事になったそのスキルは恐るべきもの。


 わたしとラーヴは息をひそめて、扉の向こう側にいるボウツさんとクランさんの話に聞き耳を立てる。


「お館様の最も恐ろしいスキルは【巻き戻し(タイムスリップ)】だ」


巻き戻し(タイムスリップ)? と言うと、過去に……いえ。時間を戻せるって事?」


「当たりだよクランフィール。スキル発動条件は流石に教えて貰えなかったけど、その性能は聞く事が出来た。巻き戻し(タイムスリップ)は特定条件下で使う事で、時間を巻き戻して過去に行きやり直しが出来るスキルだ」


「条件ねえ。どちらにせよ、面倒なスキルなのは確かだし、貴方の野望を果たす為にはお館様は邪魔ね」


「全くだ。時間を巻き戻されると、スキルを使った本人以外は、巻き戻される前の記憶を無くすらしいからね。いや、正確には巻き戻されるわけだから、そもそもが無かった事になるって所か」


「この村にいる筈の大罪魔族の1人“傲慢”を殺して力を得ても、奴に時間を巻き戻されたら意味が無いって事ね」


「そうなるな。だけど、お館様を上手く利用し、最終的に殺してしまえば良い」


「そこは当初の予定通りって事ね」


「ああ、そうさ。その為にあのマナって子供は利用させてもらう」


「ふふ。頼もしいわ、私のボウツ。貴方こそ世界を支配するに相応しい」


おだてるなよクランフィール」


 ボウツがそう話した後、少しの間を置いて唇を交わす音が聞こえた。

 恐らくキスをしたのだろうと思い、少し居た堪れなくてこの場を離れようとしたけど、2人の会話は直ぐに再開される。


「お館様の話では、マナの仲間のモーナスと言う娘は“強欲”の力を持っているらしい。必要があればあの娘も殺そう。ある意味オレには“強欲”の方が向いているかもしれないしな」


「ふふ。素敵。貴方はとっても欲が深いもの。貴方ならきっと“強欲”の力を操るだけの才能を持っているわ」


「今この村にある“傲慢”と“強欲”の力のどちらかをオレが手に入れるまで、最早時間の問題だな」


「ねえ、ボウツ。私は一つだけ心配な事があるわ」


「心配? 君にしては珍しいね? 何をそんなに心配しているんだい?」


思念転生リスタートの方は彼に任せて本当に大丈夫なの? 私はあの男を信用出来ないわ」


「ああ、彼の事か。問題は無いさ。オレと彼は表向きは不仲を演じているが、ちょっとした旧友でね。裏では仲良くやっているのさ」


「あら? そうなの? 知らなかったわ」


「そうだろう? 完璧に演技をしているからね。それに彼の実力も本物だよ。彼は例の薬で完全な魔族になって、あのスキルを手に入れた。あれにはお館様も驚いていたよ。何度か繰り返して辿り着いたこの時間軸で知った、初めての事らしい」


「へえ。それは嬉しい情報ね」


「ああ。つまりはこの世界がお館様にとって、初めての時間の流れで構成されていると言う事になる」


「だったら、私達が裏切ろうとしている事なんて、思ってもみない可能性だってあるって事ね」


「その通りさ。しかし、油断はしない方が良い。お館様の信頼を幾ら得ようと、巻き戻される前のオレが何をしていたかは分からないからね。当分はあの子供の出方、様子を見る事にするよ」


「ふふ。そうね……あ、いけないわ。その子供を待たせてるんだった」


 クランさんの言葉でハッとなり、わたしは場所を変え、わざとボウツさん達に見つかった。







「これが、わたしが館で聞いた事。ボウツさん……ボウツはお館様を裏切ろうとしていて、モーナと“傲慢”の魔族のペン太郎を狙ってる」


 館から無事に脱出したその日の夜。 

 わたし達はアイリンの誕生日パーティーを終えた後、午前中に起きた事を互いに報告しあい、わたしも聞いてきた事を皆に伝え終わった。


 ボウツに狙われてる臆病なペン太郎には、辛い現実が重くのしかかる。

 怯えて震えるペン太郎に、アイリンが「大丈夫なのじゃ」と優しく撫でた。


 でも、ペン太郎だけじゃない。

 狙われてるのはモーナも一緒だ。

 と言っても、モーナは流石だ。


「いつでも返り討ちにしてやるわ」


 と、そんな感じで、いつものドヤ顔で胸を張るだけだった。


 しかし、まだ心配事はある。

 何が原因かは今の所は分からないけど、お姉が氷の地蔵に狙われた。

 ボウツはわたしの様子を見ると言っていた。

 だから、少なくともこれにはボウツが関わってないと思った方が良い。

 なんて事を考えていたら、トンペットが同じ事を考えていたのか、お姉と一緒に地蔵から襲われた時の話題を出す。


「でも変な話ッスね。狙いが“傲慢”とマナママと馬鹿猫だとして、だったら何でスイカ胸とボクが狙われたッスか? 話を聞く限りだと、ペンギンが“傲慢”ってのは気付いてないッスよね? それにそれ以前にスイカ胸はマナママの姉ッスよ? 襲うだなんて、様子見と程遠いッスよ」


「それにお館様がナミキを襲う理由がありませんね。そうなると第三の勢力でしょうか?」


「一つがお館様で、もう一つがボウツさんで、あと一つは何の勢力なんだぞ?」


「どうせストーカーだろ」


 モーナがわたしの頭にお腹を乗せながら話して、皆がモーナに注目する。

 わたしはそんな中、モーナが鬱陶しいので床に降ろす。


「ストーカー……なのじゃ?」


「モーナスをしつこく狙う木こりのスタンプと言う男」


 首を傾げたアイリンにラヴィが答え、アイリンは直ぐに理解し「ふむ」と頷いた。


「スタンプと言う男がモーナスを狙っておるのか」


「確かにモーナちゃんの言う通りかもしれません。人の話を聞かない人で、何度か襲われました」


「精霊の里の近くに凶暴な熊を放ったしな」


「成る程のう。確かにそ奴であれば、襲ってきてもおかしくは無いのじゃ」


 モーナの言う通りかもしれない。

 お館様に会った事は無いけど、わたしを気に入っている様だし、それで実の姉であるお姉を襲うなんて思えない。

 ボウツも様子を見ると言っていた以上、襲うなんてするとは思えない。

 だけど、スタンプは別だ。

 モーナを妻だとか言うわりには、モーナの関係者まで襲ってくるストーカー。

 今回お姉を襲ったとして、何も不思議じゃなかった。

 ただ、一つ疑問はある。

 それは……。


「スタンプって氷の地蔵なんて操れるの?」


「あいつの魔法は……風の属性だったな」


「スキルはナデナデですね」


「氷の地蔵……私と同じ雪女なら作れる」


 ラヴィが深刻な面持ちで話すと、メレカさんが首を横に振った。


「恐らく犯人は雪女では無いですね。雪女の作りだすゴーレムと違い、あの地蔵は魔力に包まれていました。雪女の作りだすゴーレムは、その特徴の一つとしてゴーレムを構成している雪自体が魔力を含んでいます」


「そう」


 メレカさんの説明に安心したのか、ラヴィが口角を上げた。

 もしかしたらだけど、ラヴィはフォックに会っているので、自分の母親がお姉を襲った可能性を考えたのかもしれない。


「どうでも良いですが、これからどうするです? お館様とか言う奴が時間を巻き戻すスキルを持っているなら、それの対抗策を考えた方がいいです」


「そうッスね~。巻き戻される前の記憶が無いとは言え、ボクは何度も同じ事を繰り返したくないッスよ」


「流石に主様でもどうにも出来無そうなんだぞ」


「がお」


「それも必要だけど、思念転生リスタートの方もどうにかするの~」


 思念を分裂させて過去の人物に憑依するスキル思念転生リスタート

 過去にと言う部分を考えると、ある意味では巻き戻し(タイムスリップ)と似ている。

 どちらも過去に干渉出来る厄介なスキルなのは確かで、条件は不明だけど、使われてしまえば為す術は無いと思われる。


 正直言って、どうにかしたくても今の状況じゃ何も出来ないとわたしは思った。

 それは他の皆も同じ様で、良い案を出せる人はいなかった。

 でもそんな時、メレカさんが「仕方がありません」と一言添えてから、真剣な面持ちで口を開いた。


「ボウツがマナを利用する気でいるなら、こちらもそれを利用しましょう。出来ればマナを安全な所にかくまいたいのですが、ここは攻めるべきでしょう」


「マナを囮かなんかにするって事か?」


 モーナがメレカさんを睨み、メレカさんは怯む事なく頷く。


「お館様がマナを婚約者として狙っている以上、お館様が生存している間はボウツはマナに手をかける事が出来ませんし、恐らくですが命までは取らないでしょう。そして、第三の勢力であるスタンプと言う男は、ボウツと同じく表向きはお館様とボウツの味方をしています」


瀾姫なみきが狙われたのは表では無く裏と言う事?」


「はい。スタンプ……私は会った事の無い者ですが、聞いた話から推測するに、目的の為であれば手段は選ばない人物でしょう。ならば、何者かを操ってナミキを人質にする為に襲った可能性があります。現時点での一番の要注意人物は、そのスタンプと言う男と言えます」


「人質……? お姉を襲った理由は人質って事ですか?」


「はい。モーナスを呼び出す為に」


「待つのじゃ。人質と言う手段であれば、第三の勢力では無くお館様の指示かもしれぬぞ? マナを狙っておるなら姉を人質に取って手に入れようと考えておるかもしれぬのじゃ。それにそのスタンプと言う男が、本当に第三の勢力とは限らぬのではないか? たまたまお主等と会ったにすぎぬかもしれないのじゃ」


「それは無いでしょう。お館様と呼ばれるあの館の主が、どんな方かは未だに会った事が無いので分かりかねますが、姉を襲うような相手を好む人はいないと常人であれば分かりますから」


「まあ、ストーカーは異常だからな」


「う、うむ……」


 メレカさんの答えと、モーナが付け足した言葉で、アイリンは頷いた。

 でも、何故かその顔は曇っている。

 まだ何か心配な事でもあるのだろうか?

 アイリンの様子が少し気になったけど、でも、それは直ぐに消えた。


「マナ」


 メレカさんに呼ばれて振り向くと、メレカさんと目がかちあう。

 メレカさんの瞳は真剣で、その真剣さに緊張して、わたしは唾を飲み込んだ。


「貴女にやってもらいたい事があります」

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