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224 お姉は食後のデザートが食べたい

 雪が降り始める少し前、お姉は風の精霊トンペットと一緒にこの村で有名な喫茶店にやって来ていた。

 ここは喫茶店ケット=シーとは全く関係ないお店で、話によると村長が経営しているのだとか。


 お姉がこの喫茶店にやって来たのは、勿論聞き込み調査……と言うわけでは無く、朝食後のデザートほしさに早朝から開いているお店を探した結果だった。

 この喫茶店は、陽が昇る前から仕事に出かける村人の為に、早朝からお昼の2時くらいまで営業しているお店だそうだ。


「いらっしゃい。お客さん、初めて見る顔だね。旅行か何か?」


 エプロンをつけた女性がお水をお姉の目の前に置いて尋ねると、お姉は笑顔で「はい」と答えて続ける。


「最近ここに来ました」


「そお、私はこの店のオーナー兼この村の村長のグラスよ。何か不便な事があったら言ってね」


「はい。……あれ? 村長さん? それにグラスさんって言うんですか?」


「そうよ。自分の名前を村につけたの。それじゃ、注文が決まったら、このベルを鳴らしてね。では、ごゆっくり~」


 グラスさんはそう言うと、小さな呼び鈴を置いて店の奥へと去って行く。

 お姉は「はい~」と返事をして、メニューを開いて物色を始めた。


「あの村長、中々大きくて良い形のおっぱいだったッスね」


「そうなんですか? あ、これ美味しそうです」


 トンペットが言うように、グラスさんは胸が大きくてスタイルも良かった。

 と言っても、お姉には負ける。

 つまり、いずれはわたしもそのスタイルの良いグラスさんにも劣らない……まあ、それは今は置いておくとしよう。


「本当ッスね。でも、あのグラスって人、どこかで見た事あるんスよね。何処だったッスかね~。スイカ胸はどうッスか?」


「私ですか?」


 お姉は首を傾げて考える。


 グラスさんはパッと見はスタイルが良いと言う印象以外は特に何も無い。

 髪の毛は白に近い水色で、ちょっと癖っ気のあるロングヘア。

 顔は綺麗と言うわけでは無く普通な顔立ち。

 瞳の色は髪の毛と同じく白に近い水色で、肌の色は色白。


 この世界に来てから会った事があるかと言われれば、多分無いだろうなといった感じだった。

 もし見た事があったとしても、美人であったり可愛かったり、お姉以上にスタイルが良ければ印象にも残っていたかもしれないけど、別にそう言うわけでもない。

 とは言え、お姉の頭ではそこまでは考えれないので、単純に無心でこの村の中で会ったかどうか考えるだけ。

 そして出た答えは勿論。


「私はありません」


「そうッスか。ま、別にどうでも良いッスね。さっさと何を頼むか決めるッスよ」


「はい!」


 お姉は元気に返事をして、再びメニューを見て真剣な表情を浮かべる。

 そして、驚愕し、震えた。


「どうしたんスか?」


 お姉の異変に気がついてトンペットが尋ねると、お姉は鬼気迫る表情でメニューの一つに指をさす。


「えーっと……。グラスタウンの名産果実の雪瓜せつがんをふんだんに使ったパフェ……スノウフェアリーって書いてあるッスね」


「そうです! この村の名産の雪瓜を使ったパフェです! スノウフェアリーだなんて、名前が可愛いです! それに見て下さいこれ! 雪瓜入りのマリトッツォです! どっちも食べてみたいです!」


「それなら両方頼むッスか?」


「はい! そうしましょう! ……あ、駄目です。そこまでお金持ってません」


「どうするッス?」


「うぅ…………決めました! スノウフェアリーにします!」


「じゃあ呼ぶッスね~」


 トンペットが呼び鈴を鳴らしグラスさんが来ると、お金が無いと言いながらお姉がパフェを3つも注文し、トンペットを困惑させる。


「お金が無かったんじゃないんスか?」


「はい。お店に入る前からパフェの気分だったので、マリトッツォを注文する為のお金がありませんでした」


「そ、そうッスか……」


 流石はお姉、パフェを1つ減らしてマリトッツォを1つ注文すると言う発想には至らなかったらしい。

 それから少し時間が経ち、目の前に並べられた3つのパフェにお姉は目を輝かせた。

 雪瓜パフェはスノウフェアリーと名前を付けられているだけあって、まるで雪の妖精が舞い降りたかのように可愛らしいパフェだった。

 フワフワのスポンジケーキに雪瓜のゼリー、プリンにカスタードに生クリーム、そして、これでもかと言うくらいに乗せられたま雪瓜。


「ボク雪瓜って初めて見たけど、メロンみたいッスね。てっきりスノウフルーツの別名なのかと思ったッス」


「はい。白い色したメロンみたいです。まん丸に切られてて可愛いです」


 お姉は目を輝かせながら手を合わせて、しっかりと「いただきます」をしてから、スプーンを握って食べ始めた。







「雪ッスね」


「はい。結構強く降ってます」


 パフェを食べて満足して店を出たお姉は、それなりに強めに降っていた雪に困り顔になって空を見上げる。

 空を見上げて分かるのは、雪雲が濃く、暫らく止みそうにない事。


「どうするッス? またお店に入って雪が弱くなるまで時間を潰すッスか?」


「もうお金が無いので出来ません」


「雪が酷いからって頼めば良くないッスか?」


「我が儘を言って迷惑かけちゃ駄目です」


「変な所で真面目ッスね~」


 そう言いながら、トンペットは腕を組んでそれならどうするかと考え込む。

 するとそんな時だ。

 お姉が何かに気がついて、雪の中を突然小走りした。


「あっ。待つッスよ!」


 トンペットが慌ててお姉の後を空を飛んで追いかけると、お姉は道の端っこで止まって屈んで、追いかけてきたトンペットに振り向いた。


「トンちゃん見て下さい! 氷で出来たお地蔵さんです! 凄いです!」


「氷で出来た地蔵ッスか?」


 屈んだお姉の目の前には、確かに氷で作られた地蔵が置いてあった。

 その数は5体も並んでいて、そのどれもが精工な芸術的なもの。


 トンペットは「本当ッスね~」なんて言いながら地蔵に近づいて行き、それから首を傾げた。


「あれ? こんな所にさっき地蔵なんてあったッスか? ここってさっき喫茶店に行く時に通った道ッスよね?」


「さっきですか? うーん……分かりません。それにあってもなくても、多分気が付きません。デザートの事で頭がいっぱいでした」


「えー。でも、1つだけなら気が付かなかったのも分かるんスけど、普通5体もいるのに気が付かないっておかしくないッスか?」


「そうですか? 私は“お姉はボーっとしすぎ!”って、愛那まなちゃんによく注意されます」


「……それは何となく分かるッス」


 そう言いながら、トンペットはいぶかしみながら片眉を上げて、地蔵の1体に近づいてじぃっと見つめる。

 でも、残念ながら答えは出ない。

 見れば見るほど精工に作られていると言うのが分かるだけで、さっきここを通った時にあったかどうかなんて分かるわけがなかった。


「あ! 大変です! お地蔵さんに雪がいっぱい積もってます!」


「いや、スイカ胸の頭の上にも雪が積もってるッスよ? とりあえずさっさと帰るッスよ」


「そう言うわけにはいきません! お地蔵さんは氷で出来てるので、雪が積もったら、くっついて頭の大きなお地蔵さんになってしまいます!」


「どうでも良いッスよ」


「どうでも良いことないです! 氷で出来てるから、頭が大きくなったら折れて頭が無くなっちゃいます!」


 お姉が鼻息を荒げて、トンペットが冷や汗を流す。

 そして、お姉は地蔵の頭に積もった雪を払って、魔力を両手に集中した。


「アイギスの盾・笠地蔵かさじぞうスタイルです!」


 お姉が魔法を唱えると、5体の地蔵の頭の上にかさの形をした盾が出現し、まさに昔話で出てくる様な笠地蔵が完成した。


「面白い魔法の使い方するッスね」


「褒められると照れちゃいます」


 トンペットが感心して褒めると、お姉が素直に照れて喜んだ。

 しかし流石はお姉、相変わらず魔法を変な使い方する。

 防御する為に使うシールド系の魔法を、地蔵の笠として使う人はそうはいないだろう。


「その笠ボクもほしいッス」


「そうですね。笠を被って帰りましょう」


 返事をすると、お姉は早速アイギスの盾で笠を出す。

 2人は仲良くアイリンの家に向かって歩きだし、そして、背後から何かを引きずるような物音が聞こえた。


 何だろうと振り返り、お姉は背後を確認する。

 でも、とくに何も変わった事もなく、さっきの場所に地蔵が並んでいるだけ。


「どうしたッスか?」


「はい……何か聞こえたと思ったんですけど~」


「マジッスか? ボクは何も聞こえなかったッス」


「きっと気のせいですね」


「そうッスね」


 お姉はトンペットと話すと再び歩き出し、勢いを増していく雪を見上げる。

 そして、トンペットに視線を移しながら、服の襟のあたりを引っ張って胸元を見せる。


「トンちゃん、飛ぶの大変ですよね? ここに入っていて下さい」


「いつ見てもナイスおっぱいッスね~。それじゃ遠慮なく――ッス!?」


「はい、どう……ぞ?」


 トンペットが何かに気がついて驚き、お姉も気がついて動きを止める。

 2人が気付いたそれは、本来であれば動かないものが動いていた姿。

 そしてその動かないものとは……。


「じ、地蔵が動いてるッス!?」


「へううううう! しかも、こっちに向かって来てますうううう!」


 2人が気付いたものは笠を被った5体の地蔵。

 そう、さっきお姉が笠を与えた地蔵だったのだ。

 しかもこの5体、もの凄く禍々しい雰囲気を醸し出している。

 と言うか、そもそも地蔵が動いているだけで間違いなく怖いのに、お姉を追いかけて来ていたものだから尚更怖い。


「こ、怖いですううううううう!」


 お姉は顔を真っ青にして、トンペットを掴んで自分の胸の谷間に押し込むと、大慌てで逃げ出した。

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