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222 燃えるクマさん

 精霊の里で“森のクマさん”なるものを退治してほしいと頼まれたモーナが森をさ迷う事約30分。

 白い花が辺り一面に綺麗に咲き誇っている場所で、モーナは木に登って枝の上に座り、ボーっとして白い花を眺めていた。

 決して歩き疲れたわけでは無いし、怪しい気配が無いかと周囲に神経を研ぎ澄ませているわけでも無い。

 モーナはただボーっとしているだけで、本気で森のクマさんを捜すのをサボっていた。


 モーナは面倒になっていたのだ。

 なんだったらスノウフルーツを自分で採りに行こうかなんて事も考えている。

 このまま森のクマさんを見つけて退治したとして、そこにスタンプがいたら面倒だとも考えていた。

 あの男はどれだけ追い払ってぶっ飛ばしても、全く諦める様子が見えない。

 と言うか、存在そのものを忘れていたのに、久しぶりに見てアレだった。

 あんなストーカーに関わりたくないと思うのは当然だ。


 だけど、そんな時だった。

 ボーっとしていたモーナから向かって2時の方向に、何かの気配を感じ取った。

 モーナは素早く座っていた枝に両手を添えて、頭を低くして背中を高く丸めて猫そのものの様なポーズをとった。


 モーナの視線の先にいたのはこげ茶色の毛皮をした熊。

 勿論それはただの熊じゃない。

 額の真ん中からは大きな角を生やし、背中のいたる所からも角が生えている。

 鋭い目を光らせて、何かを探すようにして周囲を見ながら四足歩行で歩いている。


「あいつか」


 モーナは小さく呟くと、直ぐに臨戦態勢に移行する。

 尻尾を山なりに曲げ、現れた熊に向けていた視線に集中し、攻撃を仕掛けるタイミングを計る。


 モーナは慎重になっていた。

 何故なら、ステチリングで熊のデータを見ずとも分かったからだ。

 森のクマさんと呼ばれていたこの熊の魔族は全くの隙が無く、間違いなく強敵。

 正直、モーナは森のクマさんと聞いて馬鹿にしていた。

 まさかあのストーカーがこんなヤバいのを森に放っただなんて、思いもしなかった。

 だからこそモーナは慎重になり、中々攻撃を仕掛けれないでいた。


 しかし、それが仇となった。

 モーナが攻撃を仕掛けられないでいると、熊の方もモーナに気づいた。

 鼻をピクピクとさせ、上を見上げてモーナと目をかち合わせる。

 そして次の瞬間、鋭い眼光を光らせて、モーナがいる木に勢いよく突進した。


 熊が突進した事で木は薙ぎ倒され、モーナはバランスを崩す前に地面に跳躍して降り立つ。

 着地と同時に白い花の花びらが舞って、それをまき散らすかのように、モーナは熊に向かって一気に駆ける。


「斬り裂いてやるわ!」


 爪を伸ばして魔法で硬化。

 音速で熊に接近して、そのまま爪を思いきり振るう。

 だけど届かない。


 熊は音速で動くモーナの動きよりも早く横っ飛びしてそれを避け、その剛腕をモーナに振るった。


「――っにゃ」


 熊の攻撃を両腕で受け止め、モーナは声を漏らして顔を歪めながら、素早くそれを払って距離をとる。

 そして次の瞬間、熊の前方に赤色の魔法陣が5つ浮かび上がる。


「――魔法!?」


 モーナが慌てて魔力を両手に集中し、そしてそれと同時のタイミングで、熊の前方に浮かび上がった魔法陣から魔法が放たれた。

 飛び出したのは、ソフトボールサイズの炎の玉。

 それがモーナ目掛けて音速をこえた速度で飛翔する。


 炎の玉は宙に舞った白い花びらを、灰も残らぬ程の高熱で焼き消しながら突き進み、それは瞬く間も無くモーナに接近する。

 モーナは両手に魔力を集中するも、魔法でそれ等を防ぐには間に合いそうもないので、直ぐに避けようと横っ飛びする。

 だけど、5つの炎の玉はモーナの近くまで接近すると、当たってもいないのに弾けて火花を散らした。


「にゃ…………っ!」


 弾けた火花はまるで散弾銃の散弾で、流石にそれを避ける事が出来ず、飛び散った火花を体の何ヶ所かに受けダメージを負ってしまう。

 しかもその火花はかなり厄介なもので、火傷を負う程度では済まなかった。

 火花を受けた肌は抉られる様に1センチ程の穴を開けられたが、その穴の開いた傷からは血が飛び出る事なかった。

 何故なら、そのまま傷を火花に焼かれてしまったからだ。

 常人であればもがき苦しむ程のとてつもない激痛がモーナを襲い、モーナは一瞬ふらついて顔を歪ませた。


「悪かったな。たかが熊だと思って、おまえを甘く見てたわ」


 モーナは話しかけながら、神経を研ぎ澄ませて魔力を集中し、ついでにステチリングで情報を読み取る。




 燃えるクマさん

 年齢 : 2834

 種族 : 魔従『魔族・哺乳類種・熊』

 職業 : 無

 身長 : 276

 装備 : 無

 味  : 普通

 特徴 : 魔角まかく

 加護 : 火の加護

 属性 : 火属性『火魔法』上位『黒炎魔法』

 能力 : 未修得




 熊の情報を見て、モーナは熊を二度見する。


「おまえ、森のクマさんじゃなくて、燃えるクマさんだったのか!?」


 まるで驚愕きょうがくの事実を知ってしまったかのように尋ねるモーナ。

 熊はモーナの言葉には答えない。

 ただ鋭くモーナを睨み見て、次の攻撃を仕掛けるタイミングを計るだけ。

 と言うか、燃えるクマさんなんて名前もどうなんだよって感じだけど、モーナ的にはそこは気にならないらしい。

 ただひたすらに聞いていた名前と違っていた事にだけ驚いていた。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。

 正直言ってくだらないし、今はどうでも良い。


 この熊の魔族は間違いなく強敵だった。

 だけど、モーナは驚愕していた顔を変化させ、ニヤリと余裕のある笑みを見せた。


「でも残念だったな! おまえは思ったより格下だ! だからありがたく思え! 格上の魔族の実力を、格下の魔族のおまえに見せてやるわ!」


 モーナが話したと同時に、熊の額にある角や背中の角が黒い炎に包まれる。

 そして次の瞬間、黒い炎がモーナに向かって勢いよく伸びてきて、モーナは直ぐに跳躍して木の上に避けた。

 だけど、そう簡単にはいかなかった。

 黒い炎は角度を変えて、木の上に移動したモーナを追いかけたのだ。


「追尾……操作か? でも、そんなのどっちでもいいわ!」


 モーナは魔法で岩を出現させて、それを黒い炎にぶつけて相殺し、直ぐに地面に降りて熊に向かって走り出した。


「鉄の雨を食らえ!」


 モーナの前方に幾つもの魔法陣が浮かび上がり、それと同時に無数の鉛玉が熊に向かって飛び出し飛翔する。

 だけど届かない。

 熊はそれ等を黒い炎で溶かして、全て相殺してしまった。


 でも、モーナの攻撃は終わっていなかった。

 モーナは熊との距離が約5メートルの位置まで来ると立ち止まり、右手の手の平を熊に向けて、魔法陣を目の前に浮かび上がらせた。

 熊はそれと同時に雄叫びを上げながら全身を黒い炎で包み込み、そのままモーナに向かって頭を低くして突進の構えで駆け出した。


「おまえ、宙に浮いた事はあるか?」


「――っ!?」


 モーナの魔法が発動し、熊が宙を浮いて両足をバタつかせる。

 熊が焦ってもがき続けるも、決して地面に降りる事が出来なくて、為す術は無く空高く浮いていくだけ。


「今日の晩飯は熊肉で決定だな!」


 声を上げ、モーナが勢いよく跳躍し、一気に宙に浮いた熊との距離を詰める。

 熊は目の前に魔法陣を浮かび上がらせて反撃を試みるも、モーナがそれを許さなかった。


「ぶった切ってやるわ!」


 瞬間――モーナの爪が熊の体を真っ二つに斬り裂く。

 真っ二つにされた熊は悲鳴を上げる事もなく、そこ等中に血の雨をまき散らしてして絶命した。

 白い花は真っ赤に染まり、綺麗だった景色は姿を変えて、目を背けたくなる様な悲惨なものになる。

 そしてそんな中、モーナはそれを特に気にした様子もなく、そのまま赤色に染まった花の上に着地した。


「しっかし危なかったな~。力でごり押し出来る相手で助かったな」


 実際、それはその通りの事だった。

 熊は隙が無く、動きも速くてかなりの強者つわものだった。

 モーナが勝てたのは単純に力の差。

 強い力に、より強い力でごり押してねじ伏せただけのもの。

 もし実力差が無く、互角であればこう簡単にはいかなかっただろう。

 とは言え、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 モーナは傷を負わされるも、見事に勝利してみせたのだから。

 ただ一つ、憂いがあるとすれば……。


「良い土産が出来たな」


 そんな事を呟いて、モーナは死体となった熊を魔法で宙に浮かせて運びながら、精霊の里へと戻って行った。

 そんなグロテスクな状態の死体を里に持ち込むなんて、精霊達が怯えなければ良いけどって感じで心配になる。

 と言っても、心配なんて無意味な事。

 数分後にモーナが熊の死体を精霊の里に持ち込んで、精霊達は言うまでも無く怯えて逃げ惑い、大騒ぎの大騒動となったのだった。

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