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221 猫耳少女はやっぱりチョロい

「モーナ、本当に1人で良かったの?」


「気にするな。ちょっと戻って聞いてくるだけだからな」


「まあ、モーナがそう言うなら良いけどさ」


「それじゃあ行って来るわ!」


 話は少しさかのぼって、アイリンの家を出た直後。

 モーナはわたしと話すと、勢いよく駆け出した。


 モーナの目的は精霊の里に戻って、ヘルメースと会ってメレカさんの話の真相を聞く為。

 メレカさんが嘘を言っているかどうかを疑っているわけでなく、モーナはモーナなりに確認したい事があるらしい。

 それでモーナも朝早くから起きて、こうして精霊の里に向かって行ったのだ。




 流石と言うべきか、1人の方が動きやすいのだろう。

 モーナは難無くアイスデザートを越えて、あっという間に精霊の里までやって来た。


 精霊の里は相変わらずで、手のひらサイズの二頭身な土の精霊達がのんびりと暮らしている。

 精霊達はモーナの姿を見ると、モーナに群がってワーワー騒ぐ。

 だけど、そんな精霊達には目もくれず、モーナは精霊達をかき分けて進んで行った。

 そうして里の長の家に辿り着くと、目的の人物を早速見つけて大声を上げる。


「女装神! 見つけたわよ!」


 モーナの言う女装神とはヘルメースの事だ。

 何とも失礼な発言だけど、実際にわたし達が最初に会った時そうだったのだから仕方ない。

 それに、その姿は相変わらず美しく、男性だと知っていなければ女性だと勘違いしてしまう程なめらかな形姿。

 その身から出る神々しさも相まって、誰もが目を奪われるような雰囲気を纏っている。

 モーナが女装と言うのも頷けてしまう。


「ははは。神である私に向かって随分と失礼ゃないか~」


 人にイタズラをする様な神様だけど、流石は神様と言うべきか。

 モーナの失礼な物言いに笑顔で答えて受け止める。


 とは言え、モーナもモーナだ。

 失礼なのは止まらない。


「私はおまえより偉いから問題無いわ!」


「そんなわけないでしょ。私は神だよ?」


 流石のヘルメースもジト目をモーナに向けるけど、モーナは全く気にせず偉そうに腕を組む。


「そんな事より質問に答えろ」


「ははは。本当に君は偉そうだね~」


「偉いから当たり前だ!」


 モーナが胸を張ってドヤ顔になり、ヘルメースが呆れて苦笑する。

 お前の偉いは猫喫茶での立場だけだろと言いたいけど、残念ながらわたしはこの場にいない。


「モーナスさん、この方は神様で――」


「おまえは黙ってろ」


「はい……」


 居合わせた精霊の長がモーナに何かを言おうとしたけど、モーナが尻尾を逆立てて一言で黙らせてしまった。

 なんと言うか、うちの馬鹿がすみませんって謝りたい所だけど、残念ながらわたしはこの場にいない。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 モーナは長を黙らせると、ヘルメースに向かって指をさした。


「おまえは神だから、異世界の事も知ってるんだろ?」


「異世界の事? まあ、君よりは詳しいと言えるね」


「この世界とマナの世界の時間の流れが違うって本当か?」


「あ~、その事か。確かに君の言う通りだよ。この世界とあの子の世界の時間は、流れている時間が違う。そう言う風に神々で世界を創造したからね」


「メレカの言った通りだな」


「メレカ? ああ。あの子、アマンダ=M=シーって子か。この世界で真実を知る数少ない子の1人だね。他にもクラライト王国の王女や――」


「余計な事は話さなくて良いわ! 重要なのはそれじゃないわ!」


「――ふむ。と言うと?」


「マナとナミキがこの世界で体を鍛えた分はどうなるんだ? メレカはその分ちゃんと強くなるって言ってたけど、それは筋肉とかの話だろ? 修行したり実戦経験で得たものも、ちゃんとその分だけ身についたり、体が覚えたりするのか?」


「そうだなあ……あの子の世界には、筋肉は裏切らないって言葉があるんだけど、その通りで鍛えた体は年や世界なんて関係なく鍛えられ続ける。それと一緒だよ。得たものはその分しっかり身に着く。それにその事については、あの子を近くで見てきた君が一番よく知ってるんじゃないかい?」


「……そうか、そうだな」


「変な事を聞くね。そんな事が聞きたかったのかい?」


 確かにヘルメースの言う通り変な事を聞くモーナ。

 モーナには関係なくて、実際に影響が出るのはわたしとお姉だけ。

 そんな事を聞いて何になるんだろうって話。

 でも、モーナは満足そうな笑みを浮かべていた。

 そして、その笑みをヘルメースに向けて、今度は嬉しそうに話す。


「安心したわ! マナが一生懸命強くなろうって頑張ってるのは、無駄じゃなかったんだな!」


「ははは。そうだね。君の言う通りだよ、モーナス」


「じゃあ私はグラスタウンに戻るわ」


「もう帰っちゃうの? もう少しゆっくりして行きなよ。君1人ならグラスタウンなんて直ぐに戻れるだろ?」


 モーナが用件を済ませて帰ろうとすると、ヘルメースがモーナを呼び止めた。

 長も同意しているようで、何度も頷いている。

 だけど、モーナは面倒臭いと顔を歪めた。


「戻れるけど何でここでゆっくりする必要があるんだ?」


「私の話相手の為」


「帰るわ」


 モーナが回れ右して歩き出す。

 すると、ヘルメースが慌てた様子でモーナの肩を掴んで、モーナが本気で嫌そうに顔を歪めて振り向く。


「ま、待ってくれ! 本当は今帰ると危険だからだよ!」


「危険……? どう言う意味だ?」


 不機嫌な顔をしながらもモーナが聞く姿勢を見せると、ヘルメースの焦っていた顔が余裕のある笑みへと変化する。

 そして、長が素早く大きな葉っぱで出来た座布団のような物を用意して、そこにモーナとヘルメースが向かい合って座った。


「スタンプって言ったっけ? この前の彼。彼が森に“森のクマさん”を放ったんだよ。多分そろそろ目を覚まして、森をさまよいだす頃だね」


「森のクマさん? 何だそれ?」


 何やら可愛らしい“森のクマさん”と言うものに、モーナがふざけてるのかと眉根を上げてヘルメースを睨む。

 すると、長がモーナの目の前まで歩いて来て、ヘルメースの代わりに答える。


「恐ろしい熊の魔族です。恐らく狙いは我々精霊ですが、あれは肉を食らいます。きっと出会えば精霊以外も襲うでしょう」


「ん? なんかおかしくないか? 精霊を捕まえようとしていた奴が、なんでそんな凶暴な奴を連れて来たんだ?」


 モーナの言う事は最もだった。

 スタンプは精霊を捕まえてペットにするとか言っていた。

 それなのに、そんな凶暴な熊を森に放つだなんておかしな話だ。

 それに、この前のイタズラの件もある。

 どうせまた騙してるんだろうとモーナが疑うのもおかしくない。


 だけど、ヘルメースは首を横に振り、真剣な眼差しをモーナに向けた。


「私の美貌に嫉妬した結果だろうね」


「…………」


 ヘルメースから飛び出た言葉にモーナが呆気にとられ、ここだけ時が止まったかのように誰もが微動だにしなくなる。

 そして、モーナは数秒後に立ち上がりキレた。


「だったらおまえがどうにかしろ! 私は帰るぞ!」


「それは出来ない。残念だけど、私はイタズラは好きだけど争いは好きじゃないんだ。それに私は神だからね。あまり世界に干渉してはいけないんだよ」


「ふざけるな! 干渉しまくってるだろ!」


「それはそれ。これはこれさ」


「そこで私からお願いします。ヘルメース様にクマ退治なんてさせられません。モーナスさんが森のクマさんを退治してくれませんか?」


「嫌だ! つきあってられるか!」


「スノウフルーツをお土産にお渡ししますので! あのお嬢さんもお気に召していたではありませんか!」


「――っ。……あれか。マナが美味いって喜んでたし、それなら良いわ。大サービスだ。退治してやるわ! ありがたく思いなさい! あーっはっはっはっ!」


 やっぱりモーナはチョロいらしい。

 さっきまで怒り通り越してキレていたのに、それが嘘だったかのように、上機嫌に笑いだした。


「おお! ありがとうございます!」


 長がモーナを拝み、モーナがドヤ顔で胸を張る。

 こうしてモーナのクマ退治が始まろうとしているわけだけど、モーナは気が付いているだろうか?

 いいや、気が付いてない。


 危ないから里を出ない方が良いと言われていたのに、いつの間にか退治してと頼まれている事に。

 と言うか、どう考えても完全に利用されてる。

 まあ、止めたのはヘルメースで、退治を頼んだのは長なのでギリギリアウトって所だろうか?


 何はともあれ、モーナは“森のクマさん”とやらを捜しに、森の中へと入って行った。

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