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216 形から入るメイドな王姉

 夜が明けてグラスタウン2日目の朝。

 朝食を終えて、わたし達はメレカさんを迎えに村の出入口に行く。

 と言っても、まだ時間が早いので寄り道もする。


 村の中を観光がてらのんびり見て回って、それなりに楽しんでいく。

 農家が出している野菜スティックの路上販売なんてのもあって、お姉が喜んで買って食べていた。


 そうして村の出入口に到着してから暫らくすると、メレカさんとシェイドがやって来た。

 そして、わたしはメレカさんの姿に驚く。

 メレカさんはメイド服では無く綺麗なドレスを身につけていたのだ。

 その姿はとても綺麗で美しく、わたしは一瞬見惚れてしまった。


「待たせてしまったわね。ごめんなさい」


「あ、いえ。そんな……」


「メレカさんとっても綺麗ですー!」


「綺麗」


 お姉とラヴィがメレカさんを褒めると、メレカさんは少し照れた表情を見せて、軽く会釈する。


「今日はバセットホルンの女王の姉、王姉おうしのアマンダとしてここに来たの。つきあわせてしまって悪いのだけれど、以後、メレカでは無くアマンダとお呼び下さい」


「なるほど、そう言う事ですね。分かりました、アマンダさん」


「分かりました~! アマンダさんですね」


「了解」


 わたし達が了承すると、メレカさん改めアマンダさんが「ありがとう」と微笑んだ。


 アマンダさんは多分……いや、間違いなく形から入る人だ。

 メイド姿の時は敬語をよく使っているけど、今のドレス姿では基本使わない。

 完全に王族モードで、失礼だけどちょっと可愛いと思ってしまった。

 のだけど、そんな気持ちも背後で喋る精霊達によって何処かへいってしまう。


「シェイド様、どうでも良いッスけど、あの格好でここまで来たんスか?」


「今朝着替えたの~」


「ラテはてっきり城下町から、あの姿で来たと思ってドン引きしたです」


「ラテールは人の事言えないの~」


「それを言いだしたらボク以外みんな酷い格好ッスよ」


 トンペットは半袖に短パン。

 ラテールはかんむりとお姫様の様なヒラヒラのドレス。

 プリュイはシュノーケルゴーグルと昔のゼッケン付スクール水着。

 ラーヴは怪獣の着ぐるみパジャマ。

 シェイドはアイドル衣装。

 そしてここは息が白いくらいには寒い北国、と言うか村。

 冷静になれば、正直トンペット含めて皆まとめて格好は酷かった。

 とまあ、それは今は置いておくとしよう。


 アマンダさんと久しぶりの再会を喜び合い、シェイドとも挨拶を交わしてから、早速ボウツさんのいる館に行く事になった。

 実を言うと、館の場所をわたし達は知らない。

 アイリンに聞いても、興味無いから知らないと言われたので、完全にアマンダさん頼りになっていた。

 とは言え、お館様と言う人が村に影響を与えるくらいには有名らしいので、聞き込みすれば直ぐに分かるだろうけど。


 話しながら暫らく歩いた頃、何だかこの村には似合わない館が見えた。


「あ、あれがお館様が住んでる館ですかね?」


「そうね。あそこでボウツが働いているわ」


「結構立派」


「そうだね。想像以上かも」


 近づけば近づくほどにその大きさが分かってくる。

 こののどかな村には似合わない程に大きくて立派な館。

 2メートルを越える背の高い柵に囲まれていて、庭も学校の運動場並の広さがある。

 その庭は綺麗に手入れされていて、水色の葉を持つ木が芸術的なアートの様な形をしていた。

 と言うか、この館、どっかで見た事あるような気がする。


「インターホンはどこでしょう?」


「お姉、ここ異世界だからそう言うの無い」


「あ、そうでした」


 門の前に立ち今更的なボケをかますお姉につっこみを入れ、呼び出しに使えるものを探していると、アマンダさんが一歩前に出て門に触れた。

 すると、門に魔法陣が浮かび上がり、数秒おいて門が自動的に開いた。


「ここは魔力を少し注ぐと自動で門が開く仕組みになっているのよ」


「珍しい仕掛けだな」


「そうね。維持にはそれなりに対価が必要になるし……でも、門が開けば誰かが敷地内に入った事が分かる仕組みだし結構便利よ。クラライトとバセットホルンの城でも使われているわ。さ、行きましょう?」


 アマンダさんが先に門を通り、わたし達もその後を歩く。

 そして、わたし達全員が門を通り過ぎると、門の扉が自動的に閉まった。

 するとお姉がそれを見て、アマンダさんの隣に並んで質問する。


「防犯対策用ばっちりですね~。対価ってどれ位かかるんですか?」


「維持をする為の魔力の入った魔石が必要になるので、1日魔石一つと考えて金貨2枚と言った所ね」


「金貨2枚ですか~。……愛那ちゃん、金貨2枚って何円ですか?」


「200万だよ」


「に、200万円ですか!?」


 お姉が驚き足を止める。

 まあ、驚きたい気持ちは分かる。

 どんだけ高いんだよって感じだし、それが1日に必要な金額ってヤバいとしか言えない。


 アマンダさんがお姉の反応に苦笑して足を止めてくれたので、わたしはお姉の手を取って歩かせる。

 と、そこでロポが門の所からついて来ていない事に気がついた。


「あれ? ロポ?」


「トンペット達がロポの背中に乗って、村の中をシェイドに案内すると言ってた」


 全然気が付かなかった。

 どうやら、館が見えた辺りでラヴィに案内の事を告げてどっかに行ったらしい。

 なんと言うか、精霊達は自由だ。


 広い庭を通って館の玄関まで進んで行くと、玄関の目の前にはボウツさんが待っていた。


「いらっしゃいませ、アマンダ殿下。ご無沙汰しております」


「ごきげんよう。お久しぶりね、ボウツ」


「ボウツさん、こんにちは」


「こんにちは~。昨日はありがとうございました」


「こんにちは」


「これはこれは。まさかアマンダ殿下とお知り合いだったとは。驚きました」


 わたしとお姉とラヴィがアマンダさんに続いて挨拶すると、ボウツさんは微笑んで答えた。

 過去で色々あったみたいだけど、やっぱりボウツさんは悪い人に見えない。

 改めて過去は過去で、その過去はわたしには関係ない事なので、気にせず接しようと思った。


「立ち話もなんですし、どうぞ中にお入りください」


 ボウツさんが扉を開けてくれたので、「お邪魔します」を言って中に入る。

 館の中はとても豪華で、まるでお城の中に入ったようだった。

 入って直ぐが洋館の広いエントランスホールの様になっていて、見上げる程に天井も高いし、豪華なシャンデリアもある。

 左右には廊下が真っ直ぐと伸びていて、突き当たりが遠くの方に見え、この館の広さが伝わってくる。

 目で見て分かる範囲だけでも、その広さは凄まじく、1人で歩こうものなら道に迷ってしまいそうだった。

 なんと言うか言い方が悪いけど、こののどかな村の中では異質な住まい。

 まるで都会の豪邸に来たような感覚を覚える。


 でも、なんだろうか?

 やはり雰囲気に見覚えがあった。

 そう、あれはわたしがドワーフの国で……。


「さあ、こちらへ」


 ボウツさんの言葉で我に返り、館の中を進んで行くと、大きな客室に通された。

 広さで言えばだいたい12じょう……いや、14畳はある大きな部屋。

 真ん中に少し大きめな足の低いテーブルと、それを囲うように豪華なソファが備えてある。

 それからグラスの並べられた食器棚と、昨日酒場で見たカウンターと椅子に似たようなもの。

 更には食器棚の横には、スーパーやコンビニとかで見かける飲み物や冷凍食品が入ってそうなショーケースがあり、その中には色んな飲み物が入っていた。

 なんと言うか、客室なのか疑問に思ってしまえる怪しい空間、と言うか部屋。

 お館様とやらの趣味なのだろうか?

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 わたしはソファに座り、その両隣にお姉とモーナが座って、わたしの膝の上にラヴィが座る。

 アマンダさんはわたし達が座ったのとは別のソファに座ると、わたし達を見ておかしそうに微笑んだ。


「貴女達、本当に仲が良いのね」


「はい。仲良しです!」


 お姉がわたしの腕に抱き付き、アマンダさんに笑顔を向ける。

 どうでも良いけど鬱陶うっとうしい。

 気温が低くて寒いからまだ良いけど、窮屈で仕方が無い。


「失礼いたします」


 不意に声がして視線を移すと、この館のメイドが立っていた。


「お飲み物をご用意させて頂きます」


 メイドは一礼してからそう言うと、食器棚がある方へと歩き出した。

 ボウツさんはそれを一瞥して、わたし達の目の前のソファに座ってにこやかに笑む。


「改めて感謝を申し上げます。アマンダ様、本日は遠い所をわざわざお越し下さりありがとうございます」


 ボウツさんがそう切りだしてから、アマンダさんとボウツさんの会話が始まった。

 わたしとお姉とモーナとラヴィは2人の会話を聞きながら、メイドに出された紅茶を飲む。

 ついでに洋菓子の様なお菓子を出されたので、そっちも美味しくいただく。

 それから少し時間が経つと、お姉とモーナが限界を迎えた。


 お姉は最初は雰囲気にまれて、上品に紅茶を飲んだり行儀よくお菓子を食べていた。

 だけど、次第にそれも無くなって、今では右手にお菓子で左手に紅茶の入ったコップを握って美味しそうに食べている。

 上品の欠片もなくて、正直妹として恥ずかしい。


 モーナは最初は何もせずわたしの隣に座っていた。

 出された紅茶も飲まないし、お菓子も手を付けなかった。

 少し経つとアマンダさん達の会話に飽きたのか、お姉に自分の紅茶を「飲んで良いぞ」と言ってカウンターの方へと向かった。

 モーナはカウンターにある椅子に座ると、そこで待機していたメイドに「ミルクの一番良いのを頼むわ」とドヤ顔。

 メイドがミルクを出すと、それを一気飲みしてアレは無いかコレは無いかと騒ぎ出す。

 最後にはお酒まで飲んでいた。


 と言うか、メイドは顔色一つ変えずに常にニコニコした笑顔をしていて、何て言うかプロだなって感じだ。

 モーナの馬鹿が酔っぱらって何か騒いでるのを聞いてくれてるし、その上、お姉の紅茶とお菓子のお変わりまで用意してくれてる。

 後でお礼言っておこうと本気で思った。


 暫らくして、アマンダさんとボウツさんの話が終わる頃に、アマンダさんが思いだしたかのようにボウツさんに尋ねる。


「そうだわ。お館様に挨拶をと思っていたのだけど、お館様は今はお時間よろしいかしら?」


「お館様もアマンダ様に是非会いたいと仰っておられました」


「まあ、そうなの? では――」


「しかし、誠に残念ながら、お館様はただいま外出中でございます」


「あら、そうなの?」


「はい。アマンダ様がおいでになる事は事前にお聞きしていたので存じていたのですが、どうしても外せない急用で……。誠に申し訳ございません」


「残念だけれど仕方が無いわね。お気になさらないでね」


「寛大なお言葉に感謝します」


 最後にボウツさんが深々と頭を下げて話は終わった。

 とりあえずお館様は留守らしい。

 と言う事で、ここからはわたし達の出番だ。

 ここに来たのは、紅茶とお菓子を貰いに来たわけじゃない。


「ボウツさん、聞きたい事があるんですけど良いですか?」


 わたしは右手を少しだけあげて質問する。

 すると、ボウツさんは微笑んで「どうぞ」と答えてくれたので、まずは「昨日の話の続きなんですけど」と前置きしてから本題に入る。


「ボウツさんが言っていた、森に近づかないでおこうって言ってた人が誰なのか教えてほしいんです。一度会って詳しく話そうと思って」


「そう言う事ですか。そうですね……」


 ボウツさんは呟くと、間を置いてら表情を曇らせた。


「申し訳ございません。わたくしはこの村に来てから随分と経ちますが、この村の人と交流がそこまで無いので誰だったのか分かりません」


「そうですか……」


 まあ、何となく分かっていた結果でもある。

 逆の立場で考えると、自分が住んでいる村の人の顔どころか、それが誰かだなんて分かるわけがない。

 分かったとしても、せいぜいご近所だけだ。


「お力になれず申し訳ございません」


「いえ、知ってたら運が良かった程度に思ってたので大丈夫です。ありがとうございました」


「そう。気にしなくて良い」


 わたしに続いてラヴィが言うと、お姉がお菓子を頬張りながら「ほうへふほ~」と意味不明な事を言う。

 まあ、何言ってるかはだいたい分かるけど、あえて放置だ。

 モーナに至ってはお酒を飲みながら「使えない奴だな」なんて失礼な事を言ってるから、後で叱っておこうと思う。


 結局わたし達の収穫はゼロに終わってしまったけど、それは仕方が無いとして、とりあえずはアイリンの家にアマンダさんを連れて戻る事にした。

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