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214 情報収集は命がけ?

 昼食を終えると、グループに別れて情報収集をする事になった。

 わたしはお姉とラーヴとトンペットの4人組でモーナやラヴィ達とは別行動。

 長閑のどかな田舎の村の風景や家畜を眺めながら、隣を歩くお姉に質問する。


「まずは何処から聞き込みしよっか?」


「酒場にいきましょう」


「酒場?」


「はい。情報収集と言えば酒場です! 冒険者ギルド的なものがあればそこもありですね!」


「お姉アニメ見すぎ」


「アニメは関係無いです!」


「って言うか、こんな時間に酒場なんてやってないでしょ?」


「そんな事は行ってみないと分かりませんよ~」


 お姉がニコニコしながら前を歩いて行くので、わたしは呆れながらその後をついて行こうとすると、お姉が直ぐに立ち止まった。


「大変です、愛那まなちゃん」


「どうしたの?」


「酒場の場所が分かりません!」


「……だろうね」


 相変わらずのお姉に冷ややかな視線を向け、わたしは周囲を見回した。


「あ、あの人に聞いてみる」


 畑で作業をしていたお爺さんがいたので、小走りで近づき、お爺さんに「こんにちは」と挨拶をする。

 お爺さんはわたしに気付くと挨拶を返して、作業を止めてくれた。


「お嬢ちゃん、見ない顔だね。この辺の子じゃないだろう? 道にでも迷ったのかい?」


「酒場の場所を教えて頂いても良いですか?」


「酒場? それならあっちに真っ直ぐ進んで行けば、右の方にあるよ」


「真っ直ぐ行って右の方……。ありがとうございます」


「いいよいいよ。お嬢ちゃんなんて言って悪かったな」


「いえいえ。どうぞお気になさらず。ではわたしはこれで」


「ああ。気をつけてな」


 とりあえず情報を手に入れたので、酒場の場所をお姉に教えて、再び歩き出す。


 お嬢ちゃんなんて言って悪かったな……か。


 お爺さんは勘違いをして、わたしを大人だと思ったらしい。

 アイリンさんから聞いた話で分かった事だけど、実はこのグラスタウンに住んでいる住民の半分以上が獣人の【瑞獣ずいじゅう種】らしい。

 瑞獣種と言えば、リングイさんやリネントさん達もそうだけど、結構特殊な成長の仕方をする種族なのだ。

 例えば、リングイさんの様に幾つになっても幼い姿のままのタイプの者もいれば、リネントさんの様に年の割には見た目の成長が早い者もいる。

 聞いた話では、リネントさんは子供の頃には既に今と変わらない見た目だったと言うし、瑞獣種は特殊なのだと分かる。


 そんなわけで、さっきのお爺さんはわたしがこの見た目で酒場の場所なんて聞き出すから、見た目より年を取ってるタイプの瑞獣種だと思ったのだろう。

 しかもわたしはヒューマンなのに黒髪だから、何の種族かパッと見分からず、余計そう思ったのかもしれない。

 とまあ、それは今は置いておくとしよう。


 教えて貰った通りに進んでいくと、こんな真昼間から普通に営業中の酒場を発見した。

 酒場の中に入ると、まるでアニメやゲームで見た事あるような、西部劇風な内装をしていた。

 勿論外装は他の家と同じく真っ白なドームだったので、そのギャップとの差にわたしは酒場に入って早々に立ち止まって驚く。


「凄い見られてるッスね」


「がお」


 酒を飲んでいたごつい男の人達から、わたし達は注目を浴びていた。

 この酒場の雰囲気や客層を見るに、わたしとお姉はどっからどう見ても浮いている。

 この分だと下手に目を合わせたら絡まれそうだ。


「待ち合わせの人が来たと勘違いしたのかもしれませんね」


「流石にそれはないッスよ」


「そうですか?」


「お姉、やっぱり別の場所行かない?」


「心配しなくても大丈夫ですよ~」


 お姉は呑気にそんな事を言いながら、ニコニコとした顔でカウンターへと向かって行った。

 すると、お姉の目の前に強面の男が1人、立ちはだかる。

 お姉は首を傾げ、男はお姉を睨んですごむ。


「姉ちゃん、なかなか良い体してるな? 誘ってんのか?」


「何処にですか?」


「何アホな事言ってるッスか! スイカ胸のおっぱいを狙ってるッスよ!」


「へぅ! 変態さんですか!?」


 トンペットのつっこみに、お姉が驚いて顔色を青くさせる。

 わたしは急いでお姉の前に出て男から遠ざけようと思ったけど、その必要は無かった。

 トンペットが目の前に現れた途端に、男が驚いて後退ったからだ。


「せ、精霊使いだと!? す、すまねえな、姉ちゃん。俺が悪かった。まさか精霊使いだとは思わなかったんだ。許してくれ」


「はい?」


 お姉が首を傾げると、男は「ひいい!」と悲鳴を上げて走り出し、店の外に出て行った。

 何が何やらで意味不明だけど、お姉が無事だったのでよしとする。


「何だったんでしょう?」


「精霊使いは珍しいッスからね~」


「そうなの?」


「精霊自体が人前にあまり出ないから滅多にいないです」


「ああ、そっか」


「がお」


「それでは聞きに行きましょう」


 お姉に手を引っ張られカウンターに行く。

 気のせいだろうか?

 バーテンダーがわたし達を見て動揺していた。


「い、いらっしゃい。何に……なさいますか?」


「オレンジジュースを2つと、精霊さん用のコップも2つ下さい」


「それと、精霊の噂を聞いた事があるなら教えて下さい」


「せ、精霊の噂?」


 お姉に続いてわたしも話すと、バーテンダーが動揺した。


「お、俺は何も知らないし、ここにいる連中も知らないと思うぞ」


「本当ッスか~?」


「ほ、本当だ。そんな噂話をしている恐れ知らずな連中はここにはいない」


「そうですかあ。教えてくれてありがとうございます」


「あ、ああ」


 お姉が笑顔でお礼を言うと、バーテンダーは怯えながら頷いた。

 あきらかに様子がおかしい。

 と言うか、周囲に視線を向けると、周囲の人達まで怯えた様子でわたし達……と言うよりは、トンペットを見ている。


「ジュースを飲んだら他を捜しに行きましょう、愛那ちゃん」


「ちょっと待って」


「はい?」


「すみません。さっき精霊の噂話をしていると、恐れ知らずだ。みたいな事言いましたよね? それってどう言う意味ですか?」


「――っ!」


 周囲がどよめき、バーテンダーが持っていたグラスを落として割る。

 バーテンダーは慌てて割れたグラスの片付けをし始め、でも、途中で直ぐにやめてわたしと目を合わせた。


「あんた等はよそ者だから知らないだろうが、この村には精霊をタブーとする決まりがあるんだ」


「へ?」


 まさかの答えにわたしは驚いた。 

 さっきの男がトンペットを見て逃げたのは、そのタブーが原因。


「タブーって何ですか?」


 お姉がバーテンダーに尋ねると、バーテンダーはお姉に視線を向けて答える。


「“お館様”だよ。この村にはお館様と呼ばれている金持ちがいる。お館様が精霊を嫌っていて、精霊に関われば、その関わった奴を殺すと言ってるんだ」


「マジッスか? ボクとか普通に精霊ッスけど、精霊自体はどうなるんスか?」


「せ、精霊も処刑対象になってる。見つけ次第殺せとも言われているよ。だけど、精霊を殺せる奴なんてこの村にはいない。お前達精霊は俺達人間より遥かに魔力量も高く、優れているからな」


「迷惑な話ッスね。でも、この村にいるのが大した事ない人ばかりって分かっただけでも安心ッス」


「そう言うわけだから頼む。ここに来た事は忘れて帰ってくれ。もしこんな事がお館様にばれたら、俺だけでなくここにいる皆が殺されちまう」


 周囲を見れば、バーテンダーが言った言葉が本当の事だと分かる。

 その“お館様”と言う人物がどんな人かは分からないけど、この村に留まるのはあまりよくないかもしれない。


「お姉、出よう?」


「そうですね。お騒がせしてすみませんでした」


 お姉はバーテンダーや周囲の人達に頭を下げた。

 わたしはそんなお姉の姿を見て、一応自分も頭を下げておこうとした時だ。

 突然テーブルを叩く大きな音が聞こえた。


 驚いて音のした方に振り向くと、そこにはテーブルの上に立っている男が1人。

 男はピンク色の翼と大きな尻尾を生やしていて、目は爬虫類を思わせるオレンジ色の瞳。

 髪はピンクがメインで、ブルーのメッシュが入った髪の毛。

 パッと見はバンドをしてそうな派手な顔の左頬には、緑色のクローバーの刺青がある。

 体格は細く長身。


 男はへらへらとした笑みでお姉を見下ろしていて、バーテンダーが顔面蒼白で震えあがった。


「おいおいマスター。精霊使いと精霊相手に随分と仲良しじゃねーか。これって反逆の意思があるって事で良いんだよな~?」


「ま、待ってくれ! 俺はただ――」


「言い訳無用!」


 男が瞬く間にバーテンダーに接近し拳を振るう。

 だけど、わたしは黙ってそれを見てあげる程愚かじゃない。


「アイギスの盾!」


「――っ!」


 わたしがお姉を連れてバーテンダーの前に出て、お姉の魔法でバーテンダーを護った。

 店内には除夜の鐘の様な音が鳴り響き、男は驚き後退って、わたし達から距離をとる。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ。助かったよ。ありがとう」


「お姉、この人をお願い。あいつの相手はわたしがする」


「分かりました。愛那ちゃん、多分あの人はコートシップドラゴンの龍人さんです。気をつけて下さい」


「コートシップドラゴン……? うん、分かった」


 コートシップドラゴンと言えば、確か奴隷商人をしていたシップとか言う男と一緒だ。

 よく見ると、男の翼と尻尾は、確かにお姉がスキルでコートシップドラゴンに部分変化した時と同じ様な見た目をしている。


「ボクとラーヴは念の為に周囲を警戒しておくッス。仲間がいたら厄介ッスから」


「がお。けいかいちゅる」


「ありがと、お願いね」


 わたしはお姉より前に出て、短剣を抜き取る。

 カリブルヌスの剣を選ばないのは、ここが酒場の店内で外と比べて狭いから。

 と言うか、人様のお店だから出来るだけ被害を最小限にしないと、流石に申し訳ないからだ。


「ああん? 何だ何だあ? 俺の相手をするのはちっこいのかあ? 舐められたもんだなあ!」


 男が怒鳴って、わたしに向かって駆けだす。

 わたしは無詠唱でクアドルプルスピードを使い、念の為にステチリングの光を男にかざして、男の情報を確認した。




 クォードレター=グレイシップ

 年齢 : 26

 種族 : 龍人『龍族・求愛種』

 職業 : 庭師

 身長 : 208

 装備 : ミスリルウールコート上下・ミスリルウールシューズ

 属性 : 風属性『風魔法』

 能力 : 『真夏の太陽(サマーフェスティバル)』未覚醒




真夏の太陽(サマーフェスティバル)?」


「ステータスチェックリングかっ」


「――っ早」


 あっという間だった。

 この男……クォードレターの動きは見えてはいたけど想像以上に速く、至近距離まで接近を許してしまっていた。

 クォードレターが右手で手刀を作り、魔法陣が手刀の先端に小さく出現する。

 そしてそれが手刀に自ら刺さる様に流れて手首まで下りて行き、魔法陣が通過した部分、手刀が淡く緑色に光り風が覆う。


「スラッシュ」


 クォードレターが緑色に光る風が覆った手刀をわたしに向かって振り下ろす。


「く……ぅっ」


 寸での所で手刀を短剣で受け止めて直撃を防ぐも、受け止めた瞬間に手刀から小さな風の刃が幾つも飛翔して、わたしはそれを防げずに頬や腕を斬られる。

 その小さな刃の威力はそれ程でもなく斬られたのがほぼ皮のみで、傷は浅く終わってくれたけど、おかげで頬や腕からは血が流れ始めた。

 だけど、問題はそこじゃない。


「どんな手してんの……っ」


「やるなあ。想像以上だぜ」


 問題は、このクォードレターとか言う男の硬さだ。

 手刀を纏っていた魔法の風は小さな刃になって飛び散ったから今は無い。

 それなのにも関わらず、手刀を受け止めた短剣の刃を相手に、全く斬れる気配もなくじりじりとわたしを上から押さえ込んでいる。


 ヤバい。

 単純な力の差じゃ勝てない。


 焦りが生まれ、スキルを使うかどうか悩んだ。

 するとその時だ。

 周囲を警戒してくれていたラーヴがわたしの頭の上に乗って、目の前に赤色の魔法陣を浮かび上がらせた。


「がお、フレイムチョック!」


 瞬間――わたしの目の前、魔法陣から先、クォードレターが爆発を受けて燃えながら吹っ飛ぶ。

 魔法陣から飛び出したのは灼熱の衝撃波。

 爆発に似た灼熱の衝撃波が、クォードレターを吹っ飛ばしたのだ。


「凄……」


 目の前で起こったそれにわたしは呆気にとられて、それだけ口から零した。

 すると、ラーヴが頭から近くのテーブルにジャンプして降りて、わたしに振り向いて両手を上げて「がおー!」と勝利宣言した。

 実際の所、本当に威力が絶大で、クォードレターは黒焦げになってピクリとも動かないでいた。

 まさに完全勝利である。

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