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213 氷の村グラスタウン到着

 わたし達は精霊の里を北東に進み、極寒の砂漠アイスデザートを越えたその先で、氷の村グラスタウンに辿り着いた。

 グラスタウンは真冬のように寒い所で、とても不思議な村だった。


 人が住む家は全てがドームの様に綺麗な半円で、雪の様に真っ白なレンガを重ねて作られていた。

 こんなに寒いのに作物が栽培されていて、大きな畑も幾つかあり、見た事も無い植物が育っていた。

 人が通る道以外の地面には、よく見ると透明な草が生えている。

 それはまるで芝生の様で、手で触れてみるととても気持ちが良い。

 家畜も野放しにされているのか、牛や豚に似た動物がそこ等で透明な草を食べている。

 凄く落ち着いた雰囲気のある村で、何だか少し居心地が良い。


「落ち着いた村ですね~」


「うん。ちょっとこの雰囲気好きかも」


「私も好き」


 ロポもこの村の雰囲気が気にいったようで、楽しそうに触角を縦に揺らす。


「この村の一番凄い所は氷細工ッスよ。そこ等辺の家をよく見てみるッス」


「氷細工? 家?」


 トンペットに言われて近くに建つ家に注目して、わたしは驚いた。

 よく見てみると、真っ白でドームの形をした家には、透明な氷を加工した表札やら装飾がされていたのだ。

 と言うか、パッと見は分からなかっただけで、そうと分かってしまえば目に映るのは別世界。

 あらゆる場所に氷細工された氷が村中にある。

 牛や豚に似た動物も野放しではなく、氷細工で作られた柵の中にちゃんと収まっていた。


「凄っ。それに綺麗」


「はい。とっても綺麗な村ですね」


「うん。それに氷細工があるって分かっても、落ち着いた雰囲気はそのまま残ってる」


「楽しい」


「私には分からん」


 モーナがつまらなそうに呟いてわたしに背後から抱き付く。

 この素敵さが分からないなんて、とか思ってると、他にもモーナに賛同する者が。


「ラテもそんなのどうでも良いから眠たいです」


「何言ってるッスか? ラテールはさっきからずっとお団子の上で寝てるッス」


「気のせいです」


 ラテールがトンペットをあしらって、ロポの上で寝転がり、トンペットはそれを呆れた顔で見つめた。


 ちなみにお団子とはロポの事だ。

 今更だけど、トンペットは人をあだ名で呼んでいる。

 わたしがマナママ、お姉がスイカ胸、ラヴィが雪ん子、モーナが馬鹿猫、ロポがお団子だ。

 モーナだけ完全に悪口だけど本当の事だし、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 わたし達は一先ず宿を探す事にした。

 目的は精霊の里の噂を流した人を捜して、それが偽りだと嘘を教える事。

 だけど、それがどの位かかるか分からないので、まずは泊まる所となったわけだ。


「この村って思ったより広いね」


「そうですね~。全然見つからないです」


「屋根の上に上って見て来るわ」


「勝手に人の家の屋根に上っちゃ駄目でしょ」


「気にするな!」


「気にす――って、あ! モーナ!」


 モーナが跳躍して、人の家の屋根に勝手に上る。

 本当に相変わらずの自由っぷりだ。

 そんな自由なモーナは屋根の上から周囲を見回して、突然ピタッと体を止めて、眉を顰めて目を細めた。

 そして、わたしを見下ろして「知ってる奴がいたわ!」と言って、何処かへ向かって走って行ってしまった。


 とりあえず仕方が無いのでモーナを追う。

 モーナは相変わらず足が速い。

 目で追う事は出来ても、魔法を使わないと追いつけない。

 と言っても、今は緊急事態でも何でもないし、魔法を使う必要は無いだろう。


 それなりの距離を進んで行くと、ようやくモーナに追いついた。

 と言っても、まだ全然遠いけど。


 モーナの前には知らない女の子が1人。

 年はラヴィと同じくらいの見た目。

 ピンク色の髪の毛におさげの髪型。

 つり目で真っ赤な瞳。

 白い肌が目立つ真っ黒なモコモコな服を着ている。

 そんな女の子がモーナと何か楽しそうに話していた。


「あ、マナー! こっちだー!」


 モーナが走ってきたわたし達に気がついて手を振ると、女の子もわたし達に視線を向けた。

 女の子とわたしの目が合い、女の子がニヤリと笑う。

 そして、近くまで行くと、女の子はわたしを舐める様に見て口を開く。


「ほう。お前さんがマモンのお気に入りか。ワシはアイリン=サーヴ、大罪魔族の“嫉妬のアイリン”と言われておるのじゃ。以後、よろしく頼むのじゃ」


「あ、うん。わたしは豊穣愛那ほうじょうまな、よろしくね」


 いきなり大罪魔族の“嫉妬のアイリン”だとか言われて、少し意表を突かれたけど、問題無く自己紹介をすませる。

 わたしが自己紹介をすると、お姉達も1人ずつ自己紹介をしていった。

 そうして全員が自己紹介を終えると、アイリンは再びわたしに注目した。


「マモンから話は聞いたのじゃ。マナは料理を作るのが上手いらしいな?」


「へ? あ~、うん。一応それなりには自信あるけど」


「それなら決定なのじゃ。全員ワシの家に来るのじゃ」


「宿が見つかったな!」


「ああ、そう言う事ね……」


 モーナにしては中々上手い事話を進めてくれたものだ。

 とりあえず、わたしが料理をするという条件で、寝泊まりするところは確保できたらしい。


 それにしても、まさかの大罪魔族の登場である。

 モーナはここに大罪魔族がいるなんて言ってなかったし、たまたまいたんだと思うけど、こんな小さな女の子まで大罪魔族だったなんてって感じでちょっと驚く。


 わたしは大罪魔族の事を聞いてから、実はその事について少しだけ調べた。

 モーナを含む7人の大罪魔族が、大きな罪を犯したわけでは無い。

 そう呼ばれているのは、今よりずうっと昔に生きていた魔族が原因。

 当時大罪魔族と呼ばれる様になった7人が、モーナ達と同じスキルを使って人々に恐ろしい災いをもたらしていた。

 そう言った事もあり、今も同じスキルを持つ魔族が大罪魔族と言われ続けているだけ。

 だから、別にモーナや目の前の女の子のアイリンが大きな罪を犯したと言うわけでは無く、ただ同じスキルが使えるからにすぎないのだ。

 と言っても、大罪魔族は死ねば世代交代するシステムだ。

 それを狙って殺す事もあるそうなので、そんな風に交代しようものなら、それは間違いなく大きな罪となる。

 まあ、それが原因でモーナの三馬鹿退治が始まって、結果として今に至るわけだけど。


 暫らく歩くと、他の家と特に何も変わらない家の前に辿り着いた。

 大罪魔族と言っても、生活が特別な事になるなんて事も無いようだ。

 家の中も思っていたより普通で、トイレとシャワールーム以外は全てが一か所にあった。

 ただ、玄関とキッチンと居間が全てくっついているので広さは結構ある。


 家の中に入ると、スーツの様なものを着こなしているペンギンに出迎えられた。


「こいつはワシのペットのペン太郎なのじゃ。仲良くしてやってほしいのじゃ」


 アイリンから紹介してもらい、ペンギン相手に名乗っても意味ないかもだけど、一応わたし達も名乗って挨拶する。

 そうして自己紹介も終わり、早速わたしは料理を作る事になる。

 と言っても、ステチリングで時間を確認したら、お昼頃だったので丁度良かった。


「して、マモンよ。お前さんさっきここには噂を止めに来たと言っておったな? 詳しく話を聞かすのじゃ」


「あ~。こっから南西にある森の中に、精霊がいるって噂を流した奴を捜しに来たんだ」


「ほう。あの森には精霊がおったのか? 知らなかったのじゃ」


「あれ? モーナの知り合いだから知ってると思ってたけど、アイリンは知らないんだ?」


 料理を作り終わったので持って来ると、精霊の里の話をしていたので、料理を机に並べながら質問する。

 アイリンは並べた料理に目を輝かせて涎を垂らしながら、こくこくと頷いた。

 それを見て、知らないんだなと思っていると、モーナが詳しく説明してくれる。


「こいつはベルゼビュート様の配下ではないし、私だってあの森に精霊がいたなんて知らなかったぞ。あの森には湖の魚を捕るために入った事あるけど、精霊の結界があるからな」


「魚……って、まあそれはいいか。普通は人に教えたら駄目なんだっけ?」


「そうッスね。里を知る人間なんてほんの一部ッスよ」


「あの時はラテが里で休みたかったから、特別に連れて行っただけです」


「本当はそんな理由で連れて行ったら駄目なんだぞ」


「がお」


 このラテールって子はある意味モーナより自由だな、なんて事を考えていると、そこにラヴィがわたしの背後にやって来た。


「愛那、お皿持って来た」


「あ、ありがと、ラヴィ」


 ラヴィがお皿を持って来てくれたので、それを机の上に並べていく。

 いつの間にか人化していたロポもラヴィの後に続いてフォークとスプーンを持って来てくれたので、お礼を言って並べる。


「それでは、いただくのじゃー!」


 とりあえず話はここまでだ。

 アイリンがフォークを片手に持ち上げて、元気に声を上げたのを合図にして、わたし達もいただきますをして昼食を始めた。

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