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208 湖の中の決闘

「ナミキさーん、待ってほしいんだぞー!」


「あ、プリュイちゃんです」


 お姉が湖に潜って直ぐ、プリュイがお姉の後を追って合流する。

 お姉はスキル【動物変化】で部分変化を使って、クラブドラゴンのはさみと尻尾を生やしたと同時に、水中の中で自由に動く事と息をする事を可能にしたようだ。

 本来であれば会話など出来ない筈なのに、水中での会話をプリュイと始めた。


「ナミキさん凄いんだぞ。尻尾で泳いでるのか?」


「はい。クラブドラゴンさんの尻尾でスイスイ泳げちゃうんです。鋏は何だって切れちゃいますよ」


「凄いんだぞ。……あっ! あそこにいるのモーナスさんだぞ!」


「ホントです! さっきの綺麗なお姉さんと戦ってます!」


 お姉とプリュイは湖の底で戦っているモーナを見つけた。

 何処に行ったかと思ったら、モーナは先に湖の中に潜っていたのだ。

 そしてその戦いは激しく、ここが本当に湖の中なのかと疑問に思えてしまえる程の攻防が繰り広げられていた。

 だけど、お姉とプリュイがその戦いを見た時には、既に決着がつこうとしている時だった。


「さよなら、猫ちゃん」


「――っ!?」


 ゼロ距離からモーナは魔法を使われて、避ける事も出来ずに直撃を受けてモーナが真上に吹っ飛ぶ。

 その魔法は氷の魔法。

 モーナより大きな氷の塊が魔法陣の中から飛び出して、モーナは全身でそれを食らってしまったのだ。


「モーナちゃん!」


 モーナは勢いよく湖の上まで吹っ飛ばされて、いなくなってしまった。

 これにはお姉も身を震わせて、顔を真っ青にしてそれをやった女を見る。

 その女は相変わらず落ち着いた態度でお姉を見上げ微笑むと、瞬く間も無くお姉との距離を縮めて目の前にやって来た。


「ラヴィさんを元に戻すんだぞ!」


 震えるお姉の前にプリュイが出て声を上げると、女は少し驚いた顔して首を傾げた。

 すると、その行動にプリュイが戸惑って、ちょっとだけ眉根を下げた。


「な、何だぞ?」


「……この辺では見ない精霊だと思っただけよ」


「アタシはこの辺りに住んでる精霊じゃないんだぞ」


「そうなの? じゃあ、君も呪いにかけちゃおう」


「――だぞ!?」


 女がプリュイを上下から挟むようにして魔法陣を発生させる。

 そして次の瞬間、プリュイが気を失って、それと同時に2人に別れた。


「プリュイちゃんまで2人になっちゃいました!?」


「さっきの猫ちゃんは動きが速くて捉えられないし抵抗するしで大変だったけど、君達なら簡単そうね」


「へぅー! えらいこっちゃですううううっっ!」


 お姉は慌てて2人のプリュイを両手で抱きしめて、女から距離をとった。

 すると、女は目を細めて微笑んで、慌てるお姉に拍手した。


「良い! 実に素晴らしい! 1人で逃げるのではなく、ちゃんと精霊2人を庇うようにして距離をとるなんて、素晴らしい判断ね。もし君が1人で逃げ出すような子なら、今頃その精霊と同じ目に合っていたわ」


 女が上に向かって指をさす。

 お姉はそれにつられて上を見上げて、女が言っていた言葉を理解して驚いた。


「さっきのと同じのがいっぱいあります!」


 そう。

 お姉が見上げた先にあったのは、プリュイを2人にしてしまった魔法陣。

 しかもそれは一つだけでなく、幾つもが水面の真下に張り巡らせている。

 もしお姉が湖の外に出ようと逃げていたら、間違いなくラヴィやプリュイの二の舞になっていた。


「とは言っても、私もそろそろ飽きてきた頃。君を呪いにかけてお終いにしたいな」


「今直ぐお終いにして下さい! ついでにラヴィーナちゃんとプリュイちゃんを元に戻して下さい!」


「嫌だよ。そんな事したらつまらないじゃないか」


「つまらないとかつまらなくないとかの問題じゃありません!」


「そう? それなら君が私を満足させてよ」


 女はそう言うとニヤリと笑んで、目の前に魔法陣を発生させて、そこから蛇が巻き付いている杖を取り出した。


「さっきの猫ちゃんのせいで少し疲れちゃったし、このケーリュケイオンを使う事にする」


「や、ヤバいです。モーナちゃんが勝てなかった滅茶強な方が武器を持っちゃいました! こうなったら当たって砕けろです!」


 お姉が自分に言い聞かせるように掛け声を大声で上げて、2人のプリュイを抱きしめる腕に力を込める。

 運が良いと言うべきか、今のお姉には肩からもう2本腕が生えていて、そこには鋏がついているから戦えない事も無い。

 だからこそ、お姉は2人のプリュイを決して傷つけ無いように、両腕で護ろうとしていた。


「しかし、君は弱そうだ。これで十分かな?」


 女は杖の先端をお姉に向けて、その先から水色に輝く魔法陣を発生させる。

 そして次の瞬間、モーナを吹っ飛ばしたよりは一回りだけ小さな氷の塊を魔法陣から放った。

 放たれた氷の塊はお姉を襲い、お姉はそれの直撃を――食らわない。


「アイギスの盾!」


「――っ!?」


 氷の塊はアイギスの盾に衝突して砕け散り、それを見て女が驚愕して目を見開いた。


「アイギスの盾だと……っ!? 馬鹿な! 何で君がそれを使えるんだ!? それはこの世界の人間では覚えられない魔法の筈!」


「そうなんですか? でも、私はこの世界の人間じゃないから……へぅ! ばらしたら愛那まなちゃんに怒られちゃいます!」


「この世界の人間じゃない……っ?」


「そ、そんな事ないですよ~」


「興味が湧いた。生け捕り決定~!」


「へぅ!?」


 女が杖を真横に払い、そこから氷の刃が発生して、お姉に向かって飛んでいく。

 お姉は慌てて盾を出現させて身を守る。

 すると次の瞬間、お姉の右側真横に女が一瞬で移動して、モーナを吹っ飛ばしたのと同じ魔法を繰り出した。


「――動物変化! マグロですー!」


「――っ!?」


 お姉がマグロへと姿を変えて、時速80キロの速度で女の攻撃を避けた。

 そして、直ぐにクラブドラゴンの部分変化で元の姿に戻り、肩で息をしながら女を見た。


「あ、危なかっだでず」


「滅茶苦茶だわ……」


 これにはわたしも同意する。

 と言うか、マグロは魚で動物じゃない。

 って、今更か……。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 マグロに変身したお姉だけど、もちろん2人のプリュイも無事だった。

 お姉はマグロに変身すると同時に、2人のプリュイをアイギスの盾スライムスタイルで包み込んで、口でそれをくわえて逃げたのだ。


「仕方ないわね。多少本気を出させてもらうわ」


「て、手加減して下さい!」


 お姉の情けない言葉に反するように、女の周囲に大量の魔法陣が浮かび上がる。

 その数は100を超え、ついにはお姉を囲むどころか湖の中全体に広がっていった。


「いくらアイギスの盾と言えど、魔法の強さは魔力にあらず。お嬢ちゃんにこれだけの魔法を防げるだけの強さが構築できるかしら?」


「へぅっ。何言ってるか分かりません!」


「はははっ、分からないだろうね! 散りなさい! ブリザードアロー!」


 魔法陣から氷の矢が吹雪の如く飛び出して荒れ狂い、お姉はそれにのみ込まれた。


「死んだらごめんねー!」


「死にません!」 


「――っ!?」


 瞬間――女が放った魔法が全て砕け散り、その中心に丸まったオリハルコンダンゴムシ……の様な白い物体が現れる。

 そして、白い物体がゆっくりと開き、中からお姉がドヤ顔で姿を現した。


「アイギスの盾・ロポちゃんスタイルです!」


「う、嘘でしょ? 私の全力が防がれた……?」


 女が無事だったお姉に驚愕し、動きを止めて動揺する。

 そしてその時、女の頭上……正確には湖の水面より上から、湖を覆う一つの影が接近し、それは湖の水を押し出すように湖の中に突入する。


「ぶっ潰れろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「――っな!?」


 響き渡る声はモーナの声。

 そして次の瞬間、直径100メートルを越える程の巨大な岩が落下し女に衝突した。

 女は身を守ろうとしたけどもう遅い。

 お姉の盾の魔法の強さに動揺し、その直後の出来事に慌てたのがいけなかった。


「ぎゃああああああああああああ!!」


 女は悲鳴を上げて、突然現れたその巨大な岩の下敷きとなり、湖の底まで沈んでいった。

 そして、巨大な岩が通り過ぎた頃に、お姉の前にそれを放ったモーナがシャボン玉の様な丸い空気を纏った状態で現れる。


「あーっはっはっはっ! 私に喧嘩売った罰だ! ざまあみろお!」


「モーナちゃああああああん!」


 お姉がモーナに抱き付き、モーナはいつものドヤ顔で胸を張る。

 そしてお姉とモーナに挟まれて、プリュイは元の1人に戻ったのだった。

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