205 新たな旅立ちと4人の相棒
神隠しの事件解決から一夜が明けて、旅立ちの時がやって来た。
この国に来たらメレカさんと再会するかもと思っていたけど、残念ながら会う事は出来なかった。
まあでも、それは仕方がない。
今日からまたモーナの手伝いで異世界を旅する冒険が始まるのだから、気持ちを切り替えないとだ。
でも、今回はいつもより不安だった。
大罪魔族の1人“憤怒”を殺した疑いがあるのは、わたしの奴隷時代の仲間であり友達のポフー。
しかも、殺したタイミングは三馬鹿捜しをする前なので、わたしとポフーが出会う前になる。
あのポフーがそんな事するなんて正直信じられない。
実際は何かの間違いで、本当の犯人は他にいるはず。
だから、わたしは本当の犯人を見つけようと密かに考えていた。
宿を出ると、ククとカルルとジャスがお別れの挨拶に来てくれていた。
スミレさんは昨日の事件解決後に「水着の幼女達、待っててなの~」と犯行予告を残して、直ぐ南の国へ向かって行ったので既にいない。
正直少し本当に何かしでかさないか心配だったりする。
まあ、それは今は置いておくとしよう。
わたしはククとカルルの2人とハグをして、暫しの別れを惜しんだ。
のは良いんだけど、あれ? おかしいな?
カルルとハグした時、ドワーフの城で別れのハグをした時より胸のあたりの圧迫感が強いような?
きっと気のせいだよね?
そんなまさかまさか。
「カルルちゃん、またおっぱいが大きくなりましたね」
「う、うん」
「…………お姉セクハラ」
まったく、困った姉だ。
胸の事でからかうなんてセクハラオヤジじゃあるまいし、仕方が無いので注意してあげた。
すると、お姉は少し涙目でカルルに頭を下げる。
「へぅ。すみません」
「えっ? だ、大丈夫だよ。気にしないで」
「カルルちゃん優しいです~」
今回はカルルが優しいから良かったものの、今後もお姉がセクハラオヤジな事を言わない様に注意ししようと心に決める。
と、そんな時だ。
ジャスが「改めて皆を紹介するね」と、突然わたし達に向かって精霊達の自己紹介を始めだした。
風の精霊トンペット=ドゥーウィン。
土の精霊ラテール=スアー。
水の精霊プリュイ=ターウオ。
そして、初めて見る火の精霊のラーヴ=イアファ。
ラーヴ=イアファは他の3人と比べて少しだけ小さい子。
まん丸顔で、真っ赤な宝石の様な綺麗な瞳。
髪の毛の色は分からな……多分瞳と同じ赤色かな?
怪獣っぽい着ぐるみパジャマの様なものを着ていて、フードを被っていて分かり辛いのだ。
ちなみにその着ぐるみパジャマの怪獣には尻尾があった。
そして……。
「がお。わたち、火の精霊。よろちく」
見た目もそうだけど、舌足らずで“さ行”が言えないらしくて、とにかく可愛い。
お姉だけでなく、ラヴィまでもが虚ろ目を輝かせて挨拶をしていた。
そして自己紹介が終わると、ジャスの口から驚く提案が出される。
「皆をマナちゃん達と一緒に連れて行ってあげてほしいの」
「へ?」
「ん? 喧嘩でもしたのか?」
「違うよマモンちゃんっ。私達は仲良しだもん。そうじゃなくて、加護を使えば精霊さん達同士で通信が出来るから、何かあった時に役に立つと思うの」
「……確かに助かるな。マナはよく迷子になるからな」
「ならないから。って言うか、離れろ」
言いながら、いつの間にかわたしに抱き付くモーナを押し退ける。
「でも、大切な精霊ちゃん達を連れて行っちゃって良いんですか?」
「うん。本当は私も一緒についていきたいけど、明日から学校があるし……ごめんね」
「とんでもないです! ジャスミンちゃんは学生さんだったんですね! お勉強頑張って下さい!」
「うん。ありがとー」
ジャスは学生だったらしい。
それなら確かについて来るなんて出来ないだろう。
わたしだって学校に行っていればそうする……って、この世界に来てからどれだけ経ったか忘れてしまった。
間違いなくひと月ふた月はこえているし、なんなら誕生日だってもう過ぎてると思うけど、向こうでは今わたし達ってどう言う扱いなんだろう?
なんて事をわたしが考えている間にも、周りの皆は楽しく話す。
「皆さん、よろしくお願いしますね」
「皆よろしく」
「ま、ボク等がいれば百人力ッスよ~」
「ラテは面倒だから家で寝ていたいです」
「そんな事言わずに皆で一緒にお手伝いしてあげるんだぞ」
「がお」
凄く癒される。
なんと言うか、手のひらサイズで二頭身の精霊達がジャスの周囲で言い合っているけど、その様子を眺めているだけで癒されていく気がする。
とは言え、癒されてばかりもいられない。
わたし達はククとカルルとジャスと別れて、馬車に乗って出発した。
一緒に来る事になった精霊達は全部で4人。
それぞれ担当……と言うか、わたし達とコンビを組む事になる。
わたしが火の精霊ラーヴと組んで、お姉が風の精霊トンペットと組む。
ラヴィが水の精霊プリュイと組んで、ロポが土の精霊ラテールと組んで、モーナは1人だ。
この組み方には二つの理由がある。
まず一つ目は、1人が精霊1人と組めば、何かが合ってはぐれた時に加護の通信で直ぐに合流できるからだ。
誰が誰と組んでいるか分かれば、万が一の時にその人だけ見失うなんて事にはならない。
モーナは精霊と組まないけど、この中でモーナが一番強いのでこう言う結果になった。
二つ目は、精霊達の希望を取り入れた結果だ。
トンペットはおっぱいの大きい女の子が好きらしいので、将来有望なわたしより、今大きいお姉に惹かれたからだ。
ラテールは単純に怠けたいからで、普段オリハルコンダンゴムシの姿のロポの上でごろごろ横になっていたいかららしい。
プリュイは水の精霊なので、ラヴィと単純に相性が良いからサポートを一番効率よくしてあげられると言う本当に真面目な理由で、凄く良い子だなって思った。
ラーヴはあまりもののわたし……と言うわけでもなく、目と目が合った瞬間にわたしが気に入れられた。
理由はわからない。
本人は「がおー」と言うだけだ。
とまあ、それは今は置いておくとしよう。
わたし達は馬車に揺られながら、昨日の神隠しの事件での事……と言うよりは“ボクちん”と自分を呼ぶ者について、あの日ラヴィから相談を受けた事を話して、それを踏まえた上で話し合う事になった。
「ボクちん……ですか。確かに珍しいですね。でも、本当に昨日の犯人さんと関係あるんでしょうか?」
「正直分からないんだよね。それに、だからなんだって話でもあるし。でも、何か嫌な感じはするんだよ」
「ウェーブが愛那に竜宮城で言った事が気になる」
「“親愛なる分身”と【思念転生】か。初めて聞いたな。しかもあいつその事を覚えてないんだろ?」
「うん。後日気になって改めて確認したら、わたしと竜宮城で会っていた時の一部の記憶、丁度自分への呼び方が“ぼくちん”に変わった辺りの記憶が部分的にないらしい」
そう。
実はあの事件の後、わたしはラヴィを連れてウェーブと話していた。
しかし、ウェーブにはあの時の記憶が一部無く、その影響で結局は何もわからなかった。
ただ、一応収穫もある。
「ウェーブはたまに同じ様に記憶が無くなる時があるらしくて、それはいつもあの玉手箱の作戦を会議で話している時だったらしいよ。しかも、あの作戦の殆どが記憶を無くしていた間のウェーブの発言で決まったみたい」
「めちゃくちゃ怪しいな」
「だよね。でもウェーブは基本的に馬鹿だから、俺って天才かもとか気楽に考えてたみたいだよ。まあ、ステラさんのスキルをってのだけ、抵抗はあったみたいだけどさ。でも結局は何故かそれが一番だと思えて、ずっとその事に疑問も抱かなかったみたい」
だから、ウェーブが正気に戻ってステラさんのスキルを使わせたら駄目だって本気で思ったのは、あの時わたしに抱き付いた後に倒れた直後の事。
それまでは本当にステラさんやリネントさんを犠牲にするのは当然だと思っていたようだ。
と、そこでモーナが珍しく難しい顔して考えて呟く。
「私は思念転生とか言うのが気になるわ。多分スキルだよな? 精霊どもは何か知ってるか?」
「聞いた事ないッスね~。でも、ボクも転生系のスキルだと思うッスよ」
「あり得るです。ここ最近はスキルゲットキューブが出回ってるせいで、妙なスキルが増えてるです。そう言うスキルがあってもおかしくないです」
「アタシは全然分からないんだぞ。ラーヴは分かるか?」
「がお。……ちらない」
精霊達も知らないらしく、予想は出来ても答えは出ない。
やっぱりそんな直ぐに答えが分かる様な事でもなさそうだ。
と、そこでお姉がわたしに視線を向けて聞く。
「そう言えば、昨日の犯人さんには何も聞かなかったんですか?」
「ああ、うん。聞いたけど、何も知らないっぽかったよ」
「そう。“親愛なる分身”の事を聞いたら、初めて聞いたと言われた」
「そうなんですね」
結局何も分からずじまいでこの話は終わった。
けど、皆に相談して良かったと思う。
話を聞いた全員が何かあったら教えてくれると言ってくれたし、竜宮城での件もあるから、ラーヴがわたしから絶対に離れないとも言ってくれた。
だから、もし何かあっても、直ぐに皆に知らせれると。
可愛くて凄く頼もしい新たな相棒ラーヴばかりに頼ってばかりもいられないけど、何だか凄く安心出来た。
とは言え、気持ちを切り替えよう。
わたし達は今からポフーに会いに行く。
この話は、それが終わってからじっくり考えればいいのだから。




