表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/291

203 事件発生!?

 クラライト王国の首都、クラライト城下町で起きた一つの事件“神隠し”。

 王国騎士からの説明によれば、ここ何日か前からそれは起こっているらしい。

 いなくなった子供達は全員女の子。

 他には共通点も無く、最初は無差別な誘拐だと思われ捜査されていた。

 だけど、不思議な事に目撃者もいないし、最後に子供を見た場所の周辺から手がかりも見つからない。

 子供達は気が付いたら消えていて、痕跡の一つすら残らない。

 いつしか事件を知る者は、これを“神隠し”と呼ぶようになったのだとか。




 わたし達は先程通った大きな木のある広場……と言うか、公園まで来ていた。

 カルルはここに遊びに行くと言って出て行って、それから帰って来ないようだ。

 王国騎士の話では、カルルと遊ぶ約束をしていた子供も神隠しにあっていて、目撃情報すらないとの事。

 でも、こうして来てみると分かるけど、子供達が沢山この公園に遊びに来ている。

 こんな中で目撃者も無く誘拐だなんて考えられないし、本当に神隠しにあったんじゃと思えてくる。


「カルルのお母さんから聞いた話だと、この木の所で友達と一緒に遊んでたんだよね?」


「多分……。ここ等辺で大きな木のある公園って言ったら他には無かったんじゃないか?」


「うん。他に大きな木のある公園はないよ。神隠しにあった子も皆ここで遊んでいた子ばっかりみたいだし、やっぱりここが一番怪しいと思う」


「なんか仕掛けでもあるのかな?」


 ククが眉を寄せて訝しみながら大きな木の周囲をぐるぐると回る。

 だけど、何の成果も得られずに、直ぐにを上げて座って木にもたれかかった。


「駄目だー。全然わからねえ」


「諦めるの早」


「諦めたんじゃなくて疲れたんだよ。今日は朝早くから母ちゃんに連れ回されたんだぜ? それでマナに会いたくて休まずに猫喫茶に行ったんだ」


「……はあ。仕方ないなあ」


 会いたくてと言われれば、最早わたしは何も言えない。

 そんな嬉しい事を言われたら、責める気になんてなれないじゃないか。

 わたしは照れくさくて少し視線を逸らしてから、ククに視線を戻した。


「休むの少しだけだよ…………って、あれ? クク……?」


 それは、本当に一瞬の出来事で突然だった。

 少しだけ視線を逸らして戻すと、今さっきまで木にもたれて座っていたククがいなくなっていた。

 嫌な予感がして、わたしは焦りながら周囲を見回す。


「クク!?」 


「マナちゃん? どうしたの?」


愛那まな?」


 焦るわたしにラヴィとジャスが視線を向けて首を傾げる。


「ククが消えた! その木にもたれて座ってたのに、いなくなっちゃったの!」


「――っ!」


「えええええ!?」


 ラヴィとジャスが驚き、大きな木へと視線を向けた。


 不味い事になった。

 目の前でククが消えるなんて予想外だ。

 本当に一瞬の事で、正直わけが分からない。


「愛那、何かある」


「――え?」


 ラヴィが大きな木に近づいて屈んで、何かを拾った。

 そして、拾った何かを手の平に乗せて、それをわたしに見せた。


「……何こ――あ。バター……違う、マーガリンだ」


 ラヴィが見せてくれたのは、パンに塗って食べるあのマーガリンだった。

 大きさは直径5センチくらいの大きさ。


「ホントだ。マーガリンだね。誰かがお弁当で持って来たのかな?」


「お弁当って…………あれ?」


 ジャスの言葉に冷や汗を流して直ぐ、わたしはラヴィがマーガリンを拾った場所に視線を向け、そして疑問が浮かんだ。


「マーガリンって、上に人が乗っても原形を留めていられるものだっけ?」


「どうだろう? 大丈夫だったとしても、跡はついちゃうと思うけどぉ」


「――っ」


 わたしの質問と、それに答えたジャスの言葉で、ラヴィも気が付いたようだ。

 ラヴィは目を少しだけ大きく開いて、マーガリンが落ちていた場所に視線を向けた。


「無い」


「無い?」


「さっきまでそこにククが座ってたんだよ。ほら、ククが座っていた跡が少し地面に残ってるでしょ?」


「あっ! ホントだ! でもマーガリンには跡が無い!」


「うん。でも、分かるのはそれだけで、何でそんな事になってるかの理由が分からないんだよね」


 突然消えたククに、ククが座った跡の無いマーガリン。

 全く理由が分からないけど、何か意味がある様な気がした。

 するとそこで、ジャスが何かを閃いた様で、拳で手の平をポンッと叩く。


「スミレちゃんの所に行こう!」


「……え?」


「スミレ?」


 わたしとラヴィが首を傾げると、ジャスはわたし達に微笑む。


「良いから良いから。早く行こーよ」


 何だかよく分からないけど、わたしとラヴィはジャスに背中を押されて、スミレさんのいる猫喫茶ケット=シーまで行く事になった。







 猫喫茶ケット=シー本店は大きな建物の中にあり、この建物は従業員用の寮にもなっていて、それ用の入り口が裏の2階にあった。

 そしてこの寮の一室に、スミレさんが住んでいる部屋がある。


 と言うわけで、わたし達は今、ジャスの謎の提案でスミレさんの部屋までやって来た。

 スミレさんは南の国へのバカンスの準備をしていたらしく、荷物を大きな鞄に詰めていた。

 正直邪魔しちゃ悪いかなとも思ったけど、スミレさんはわたし達、とくにジャスの姿を見たら嬉しそうにして部屋に入れてくれた。

 それから、ジャスがスミレさんに事情を説明して、スミレさんが「うんなのうんなの」と頷き、そして握り拳をその大きな胸に置く。


「そう言う事なら任せてなのです! そこにいるククちゃんの他の子も見つけてみせるなのですよ!」


「流石スミレちゃん! よろし――――え? そこにいるククちゃん?」


 スミレさんの意味不明な発言に、ジャスだけでなく、わたしとラヴィも頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 聞き間違いではない筈。

 間違い無く今スミレさんは「そこにいるククちゃん」とハッキリ言った。


 わたしとラヴィは周囲を見回す。

 だけど、何処にもククはいない。


「ま、まさか……っ」


 ジャスが呟き、手に持っていたマーガリンを床に置き、マーガリンに指をさした。


「まさかこのマーガリンがククちゃんなの? スミレちゃん」


「そうなのですよ?」


「「ええええええええええええっっっ!!??」」


 わたしとジャスの声が大きく部屋に響き渡る。

 まさかの答えに驚きを隠せずにはいられない。

 ラヴィも声こそ上げなかったけど、虚ろ目を瞬きさせるのも忘れる程にマーガリンを凝視した。


「あれ? ククちゃんがマーガリンにされたから、私の所に連れて来たんじゃなかったなのです?」


「違うよ! 初耳だよ!」


「う、うん。流石にまさか……ええ…………」


「驚き」


 しかし、いったい誰が何故どうやってククをマーガリンに?

 分からない事だらけだ。


「でも、そう言う事なら魔法で元に戻せるかも」


「マ? ジャス、そんな事出来るの?」


「うん。土の加護を経由して生命の魔法を使えば出来ると思う」


「幼女先輩の魔法なら余裕なの」


「凄っ」


「とにかくやってみるね」


 ジャスがそう言った瞬間に、この部屋全体に魔法陣が何重にも浮かび上がる。

 そしてその次に、ククらしいマーガリンが宙に浮き、部屋の真ん中で止まった。


「親愛なる大地の母よ。我が名はジャスミン、ジャスミン=イベリス。我がジャスミンの名において、慈愛の恩恵をの者に与えたまえ」


 部屋全体が若葉の色に光り輝き、そして、マーガリンが淡い光に包まれた。

 その光景は何処か神秘的で、こんな状況だと言うのに心を奪われてしまいそうなくらいに魅力的だった。


魂在姿戻リターンアピランス!」


 瞬間――マーガリンを中心に若葉色の閃光がほとばしり、もの凄いスピードでマーガリンが膨らみ、そして、マーガリンはククへと姿を変えた。


「あ、あれ? 私――」


「――クク!」


 わたしはククに飛びついて抱きしめる。

 本当にククが無事で良かった。


「マナ? ……って、何で私裸なんだ!?」


「へ?」


 ククから離れて改めてみると、ククは何も着ていない全裸な姿になっていた。

 いつも少年っぽい喋り方のククも、流石に全裸は恥ずかしい様で、顔を真っ赤にさせて大事な所を隠して屈む。

 どうでも良いけど、そんなククの姿を見てスミレさんが爽やかな笑顔で頷いていた。

 そして、ジャスが何やら申し訳なさそうな顔で、ククに頭を下げた。


「ごめん。多分本来の戻し方じゃなかったから、服は消滅したのかも……」


「えっと……謝られても、何の事か分からないんだけど、何があったんだ?」


 どうやらククにはマーガリンだった頃の記憶が無いらしい。

 とりあえずククに服を着せてあげて、それから説明しようと思ったら、ラヴィがククに自分が着ていた鶴羽かくうの振袖を渡した。


「ラヴィ、ありがとな」


「うん」


 なんと言うか、ラヴィはこう言う所が流石だなと思う。

 結構気が利くんだよね。

 でも、何で下に水着を着てるんだろう?


 そんな事を不思議に思いながら、鶴羽の振袖の下に肌着や下着では無く白いワンピース型の水着を着ていたラヴィに苦笑した。

 ラヴィのその顔は、どこの馬鹿に似たのやら得意気で、口角を上げてフンスと鼻息を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ