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201 新たな任務

 モーナの給料の話が終わり、お姉達を呼びに行く。

 それからアスモデの朝食の話をすると、お姉も何か食べたいと言いだしたので、アスモデの所に戻って一緒に朝食をとる事になった。


 朝食を持って来たのはスミレさんとベルフェゴールという男の人で、話に聞いていた魔族だった。

 彼はベルゼビュート専属のシェフらしくて、今はこの喫茶店のシェフを任されているらしい。

 とまあ、それは今は置いておくとしよう。


 この時初めて知ったのだけど、ジャスとスミレさんは友人だったらしい。

 スミレさんはジャスを見るなり「幼女先輩、おはようなのです~」と挨拶をして、ジャスも「おはよー」と返していた。

 幼女先輩って何? って感じではあったけど、スミレさんの今までの行動とか性格を考えると別に気にする事でも無かった。


 気が付けば営業時間になっていたけど、アスモデにゆっくりして良いと言われたので、ぺアップルのジュースを注文して飲みながら話に花を咲かす。

 ラヴィもよほど楽しみにしていたのか、猫達と戯れて楽しそうだ。

 と、そんな時、ジャスからまさかの情報を得てしまった。


「へ? 魔石の魔力をどうにか出来るかもって本当?」


「うん。私は魔力そんなに無いけど、精霊さん達と契約してるから、自然の加護の力を魔力に変換出来るの。だから、魔力を入れる為のからの魔石さえあれば、その“扉”って言うのに使う魔石を用意できるよ」


「凄い! モーナ、何でもっと早くジャスを紹介してくれなかったのよ!?」


「私もそんな事出来るなんて知らなかったんだ。加護ってそんな事も出来るんだな」


「うん。精霊さんと契約して加護が使えないと、普通は分からないと思うし仕方ないかも」


 今まで獣とかにステチリングの光をかざして情報を見てきたけど、加護の意味がよく分かってなかった。

 それでも戦闘で不便に感じた事は無いし、だから気にしていなかったけど、まさか加護と言うものがそんな凄いものだなんて。

 とにかく、これで後はサガーチャさんに頼んで“扉”を作って貰えば帰れる。


「良かったですね、愛那まなちゃん」


「うん! って、お姉もでしょ」


「そうですね。でも……私は皆とお別れすると思うと寂しいです」


 お姉が寂しそうに顔の表情を曇らせた。

 そしてそれはお姉だけじゃなかった。

 さっきまで猫と戯れて楽しそうだったラヴィも少し俯きがちになり、いつも表情をあまり出さないラヴィの顔が誰でも分かる程に曇ってしまった。


 わたしはラヴィの顔を見て反省する。

 正直にはしゃぎすぎた。

 嬉しいからと言って、そんなに喜びを表に出してしまうような事はしない方が良かった。

 でも、わたしの気持ちを察したのか、ラヴィが顔を上げてわたしと目を合わせて口角を上げる。


「愛那、おめでとう」


「ラヴィ……」


 わたしとラヴィは見つめ合う。

 正直言葉が思いつかない。


 そんな時に、いつの間にかジャスの頭の上に座っていたラテールがわたしの目の前……と言うよりは机の上に着地して、わたしを見上げながら眠気眼で一言。


「魔力を入れる魔石はあるです?」


「…………あ」


「無いですね」


「ないな」


「無い」


「駄目じゃん……」


 まさかの落とし穴。

 すっかりもう帰れる気でいたけど、肝心な魔石が無い。

 と言うか、わたしは思う。


「魔石って何でも良いわけじゃないの?」


「何でも良いわけないです。その“扉”に使うたくさん魔力が入った魔石は、それこそ通常の魔石に魔力を入れた程度では作れないです」


「そうだよねぇ。ドワーフの国にあるあの魔石と同じ規模の物だよね? 器になる魔石も特殊だもん。探すの結構大変かもだよ」


「……マジかあ」


「あはっ。その器になる魔石なら、私に心当たりがあるわよ」


「――っ本当ですか!?」


 驚いて聞き返すと、アスモデはイタズラっぽく笑ってからモーナに視線を移した。


「さっき話した内容は覚えてる?」


「次の任務の事ですか?」


「次の任務?」


 まったく今まで話題に出なかったけど、どうやらモーナは次の任務を言い渡されていたらしい。


「本当はマナ達は連れて行かないで、私1人で行くつもりだったけど、ボスが言う通りなら一緒に行くぞ」


「一緒に行くのは勿論良いけど、任務って何?」


「任務を言う前に、少し説明するぞ」


「うん?」


「私が今までやっていた三馬鹿退治には人に言えない理由があったんだ」


「へ? 三馬鹿?」


 説明と言って出た話が三馬鹿の事だったので、わたしは何故今更? と首を傾げた。

 でも、三馬鹿の話は重要な事らしく、モーナの顔は珍しく真剣そのものだった。


「大罪魔族と呼ばれる魔族は7人。私は“強欲”で、ボスは“色欲”で、ベルゼビュート様は“暴食”だ。それにさっき朝食を持って来たベルフェゴールは“怠惰”だ」


「まるで“七つの大罪”みたいです。よく漫画やゲームで題材として使われるので知ってます」


 わたしも思っていた事だけど、お姉が言葉にして不思議そうに首を傾げた。

 すると、アスモデがイタズラっぽく笑って「その通りよ」と答える。

 つまり他にも後3人、“傲慢”と“嫉妬”と“憤怒”の魔族がいる事になる。


「私を含むこの7人の大罪魔族は、ここ最近は変わってない。だけど、私がマナとナミキと出会う前に異常事態が起きた」


「異常事態?」


「憤怒の魔族が殺されたんだ」


「うそ……っ」


 ジャスが口を抑えて驚いた。


 この世界では散々見てきた犯罪の数々。

 今更誰かが殺されたと聞いても、わたしは正直言って驚かなかった。

 だけど、これがかなり大変な事だと言うのは、周囲の反応を見て理解した。

 ジャスだけでなく、魔族であるスミレさんまでもが驚いていたから。


「それでここからが問題だ。大罪魔族は欠けると、それになりうる可能性をもった奴が新しくなるんだ」


「なりうる可能性? どういう事?」


 聞き返すと、モーナでは無くアスモデが答える。


「分かり易く言うなら~。例えば今回で言うと“憤怒”が死んだから、世界に憤怒している魔族の中でも一番才能のある者が覚醒して“憤怒”になるわ」


「才能のある者……もしかして、それでモーナがあの3人を捜してたって事?」


「そうだな。三馬鹿退治は、一番悪さしてる噂が目だった連中を狙ったんだ」


「成る程……」


 確かに結果はどうあれ目立っていた。

 チーはスキルを利用してではなく利用されて、色んな人を破産させていた。

 リングイさんは表沙汰は悪人で、人身売買も平気で行う金に目の無い男と言われていた。

 リネントさんはレブルと言われ、革命軍のトップとしてテロ行為を行っていた。

 “憤怒”と関わりあるかは別としても、目立っていたのは間違いない。

 三馬鹿は大罪魔族の“憤怒”になる可能性を持っていた。

 でも、結果的にはそうはならなかったと言うだけの事。


「ベルゼビュート様の考えでは、憤怒を殺したのは大罪魔族の地位や力を手に入れようとした奴で、その力を使って何か良くない事をしでかす可能性があるんだ」


「どう言う事?」


「あはっ。そんなの簡単よ。大罪魔族って、それだけで有名になるの。しかも、それに見合った力も手に入る。“憤怒”のスキルは“怒りの分だけ力を得る”能力よ。“憤怒”をわざわざ殺して、力が欲しいわけじゃないなんて普通はあり得ないの」


「今まで大罪魔族の命を狙った連中は数えれないくらいいたけど、その殆どが力を手に入れて人間を殺して国を奪うとか、破壊衝動に駆られてもっと力がほしいからとか、ろくな奴がいなかったな」


「マモンちゃんの言う通りなの。きっと“憤怒”を殺した魔族は、その力を手に入れてよくない事をしようとしてる筈なの。って言うか“憤怒”が殺されたなんて聞いてないなの!」


「あはっ。極秘に決まってるでしょ。スミレ以外の部下にも、マモンは悪目立ちしてる魔族をこらしめに行かせた。としか言ってないわよ」


 スミレさんが騒ぎ出して話が少し脱線したけど、話はまだ終わってない。

 モーナはわたしと目を合わせて、真剣な面持ちで話を続ける。


「私がマモンと名乗らずモーナスと言っていたのも、私が大罪魔族だと言うのを隠していたからだ。憤怒が殺された今なら、他の大罪魔族の力も狙われてる可能性があったからな」


「あはっ。“スキルを使うな”“本気を出すな”ってマモンに命令して、私が止めてたのよ」


 モーナが実力を普段隠していた理由が分かった。

 名前や実力が知られれば命を狙われる可能性があるなら隠して当然。

 アスモデがベルゼビュートの話をしたのかと確認した時に、モーナが歯切れが悪くなったのも頷ける。


「ベルゼビュートくんの出張先は他の怪しい人物の調査よ。想像以上に深刻になってて困っちゃったわ~」


「そんなに大変な事になってるんですか?」


「さっきマモンが言ったけど、大罪魔族の地位や力を手に入れるって、魔族の間では凄く大きな事なの。ねえ? スミレ」


「は、はいなの。その力があれば簡単に国を滅ぼせるなの」


「国を……っ!?」


 モーナに視線を向けると、モーナは無言で頷いた。

 つまり冗談ではなくマジだと言う事。

 わたしが思っていた以上に、その力は凄い力を持っていたようだ。


「でも、そんな凄い力を持った、ええと……“憤怒”の魔族はどうやって殺されたんですか?」


「実力でしょうね。だから大罪魔族の“強欲”の力を持つマモンに捜索させたの。普通の魔族やただの幹部クラスだと……例えばそこにいるスミレだったら直ぐ殺されちゃうわ」


「考えるだけでも恐ろしいなのよ……」


 わたしは言葉を失った。

 でも、そんな中、モーナが深刻な顔してわたしに話し始める。


「マナ、ごめんな。私が最初マナとナミキに目を付けたのは、ご飯が美味かったからじゃなくて、マナの【必斬】とナミキの【アイギスの盾】目当てだったんだ。ご飯の味はその後だ」


「いやまあ、それは何となく分かるけど。今にして思えばそんな感じだったし」


 モーナが突然この雰囲気の中で深刻な顔して馬鹿な事を言いだすから、おかげでわたしは正気に戻って、ジト目でモーナに答える余裕が出来た。

 でもホント今更ながらに納得だ。

 以前ご飯が美味かったからと聞いた時も納得したけど、多分モーナの事だからどっちも本当なのだ。


 モーナは目を潤ませながら「怒らないのか?」と驚いた。


「って言うか、ちょっと待って下さい。今更だけど、猫喫茶ってただの喫茶店ですよね? 何でモーナに“憤怒”になる可能性があった三馬鹿を退治させてたんですか?」


「魔族ってね、縦にも横にも結構繋がりが大きくて広いのよ、マナちゃん。だから、これは猫喫茶は関係なくて、ベルゼビュートくんの派閥の魔族の問題よ~」


「派閥……そうですか。次の任務って、モーナに“憤怒”を殺した相手を見つけに行かせるって事ですよね?」


「あはっ。マナちゃん正解。既にベルゼビュートくんが現地に行ってるから、正確にはフォローになるよ。ちなみに~」


 アスモデがモーナに視線を向けて、モーナが真剣な表情に戻ってわたしと目を合わせる。

 そして、モーナの口から思いもよらない言葉が紡がれた。


「憤怒を殺したと目星をつけてる奴のスキルは【魔石使い(ストーンマスター)】……名前はポフー。マナが奴隷をしていた時に出会った子供、ポフーだ」

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