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196 幼子なロポ

 銭湯にて、サガーチャさんから休憩室の様な場所に連れて来られたわたしは、わたしとお姉がこの世界に来たきっかけの“扉”を使う為の3つの条件を聞いた。

 まさかの転生者の存在や、それと大きく関わりのあった魔族と言う種族。

 魔族の中でも特別な7人の大罪魔族と言う存在。

 そして、モーナもその大罪魔族の内の1人だった。


 それ等をわたしに教えると、サガーチャさんはソファから腰を上げて立ち上がり、わたしの目の前に立った。


「君達姉妹を巻き込んだ全ての始まりは、私の興味本位の我が儘から始まった事。今まで黙っていて本当に申し訳なかった」


 サガーチャさんがわたしに深々と頭を下げた。

 その行為にわたしは驚いて、かなり焦った。

 まさか謝られるなんて思わなかったし、しかも相手はこのドワーフの国の王女様だ。

 恐れ多いにも程がある。


「そ、そんな! 頭を上げて下さい! 頭を下げる必要なんて無いです!」


「マナくん……ありがとう。君の優しさに救われるよ」


 サガーチャさんは頭を上げると、眉根を下げて微笑んだ。


「私のせいで君とモーナスくんの関係が悪くなっていて、気になっていたんだ。だから今更な話ではあるし、本当はもう少し早く言うべきだった。本当にすまなかったね」


「いえ。今言って頂けただけでも嬉しいです。あの頃はサガーチャさんも毎日大変で、それどころじゃ無かったですし仕方ないですよ」


「ありがとう」


「あ。もしかしてお姉を呼ばなかったのって、わたしだけが気にしてたからとかですか?」


「ナミキくんには先に声をかけたけど、モーナスくんやラヴィーナくんと息止め大会で忙しいと言われて断られてしまったんだ。後でマナくんに話を聞くと言っていたよ」


「息止め大会……? って、ああ。誰が長くお湯の中で息止めてられるかって、サガーチャさんも一緒に前やってたやつですね」


「ははは。私の結果は散々だったけどね」


「お姉といい勝負でしたもんね」


 わたしとサガーチャさんは顔を見合わせて笑う。

 なんにせよ、この話はこれでお終い。

 色々モーナの事で聞きたい事はまだあったけど、それは本人に聞けば良い事。

 だから、わたしはこの後はサガーチャさんと一緒にソファに座りながら、何の変哲もない話をして楽しんだ。







「……あの、大丈夫ですか?」


「ははは……。余の心配をしてくれるなんて嬉しいよ……ぐふぅ」


 グランデ王子様とロポが一緒に男湯から出て来て直ぐの事。

 その現場を目撃したサガーチャさんが魔石を取り出して、直径1メートルはありそうな岩を召還してグランデ王子様の後頭部にぶつけて今に至る。

 グランデ王子様は血を流して倒れ、結構派手な事になってしまい、周囲に人がそれなりにいたのもあってわたしは少し焦った。

 大事件になってしまうのではと思ったけど、そんな心配はいらなかった。

 と言うか、見慣れた光景なのか、聞こえてきたのはこんな言葉の数々だけ。


「な、な――ん~だ。また殿下たちがお戯れになってるだけか」


「きゃ――あ~。いつもの」


「グランデ様がまた女の子をナンパしたのか?」


「流石は我等が王子。タフなお方だ」


「見て見て。王子様よ。相変わらずお倒れになった姿も素敵だわ」


 いや、本当に何これ?

 皆慣れすぎって言うか、心配する人が1人もいないのってどうなの?


「さて、それで我が愚弟グランデ。弁解の余地を与えてあげるよ。何故ロポくんを男湯に誘拐したのか正座でもして説明すると良い」


 そもそも一緒に入って行くのを見た時に止めなかったのに、それを棚に上げてサガーチャさんがグランデ王子様を責めている。

 だけど、それを知らないグランデ王子様は素直にサッと素早く正座する。

 その姿は流石と言うかなんと言うか、鮮やかで爽やかな正座への体の動き。

 正座した今ですら、爽やかな笑顔は忘れない。

 ついでに周囲に集まって来てしまった野次馬に対しても、男女関係なく爽やかに手を小さく振るサービスも欠かさない。

 黄色い声援? なんかも飛んできて、わたしの中のグランデ王子様のイメージが変わっていく。


 わたしはロポを後ろから抱きしめながら、とりあえず様子を見守る事にした。

 と言うか、グランデ王子様ってお城の中では基本サガーチャさんより真面目だから忘れがちだけど、奴隷願望があったりと変人だった事を思い出した。


「余は何も可笑しな事はしていないよ。ロポ君は体は女の子になったけど、心は今でも男なんだ。それならば、そんな彼を女湯に入れる方が苦行じゃないか」


 成る程と、サガーチャさんがロポに視線を向け、周囲の視線もロポに向く。

 わたしは何だか自分に視線が集められている錯覚を覚えて恥ずかしくなり、上がっていく顔の熱を感じながら下を向き、ロポを抱きしめる腕に力を込める。


「てんしさま?」


 ロポは視線を気にしない様で、わたしの顔を見上げて目がかち合う。

 そしてそんなロポに、サガーチャさんが質問する。


「ロポくん、君の意見を聞きたい。いいかな?」


「うん。いい、よ?」


 ロポが首を傾げてサガーチャさんと目を合わせる。

 サガーチャさんはそんなロポに微笑んで、優しい声で質問を続ける。


「グランデと一緒のお風呂は楽しかったかい?」


「うん! たの、しかった、よ!」


 わたしは驚いた。

 何に驚いたって、サガーチャさんの質問に笑顔で即答したロポにじゃない。

 サガーチャさんの質問にだ。

 自分が男のつもりでいるのかとか、女のつもりでいるのかとか、そう言う感じの事を聞くと思っていた。

 だけど、聞いた内容は、お風呂が楽しかったかどうか。

 でも、意外とそれが一番大事な事だったかもしれない。


「おうじさま、いつ、も、ぼく、と、いっしょに、おふろ、うれし、い」


「ロポぉ……」 


 何だか胸がキューンとなって、ロポを抱きしめてる腕に力を込める。

 ロポの言葉にサガーチャさんも納得したようで、グランデ王子様に立って良いと正座をやめさせた。

 のは良いけど、今度は野次馬の一部から非難の声が上がる。


「あんなに純粋な子を男湯に連れていったのか? ちくしょう! うらや……なんて外道だ!」


「俺達は王子を信じていたのに裏切られた。王子はナンパはしても手は出さないんじゃなかったのか!?」


「あの子、俺とも一緒にお風呂入ってくれないかな?」


 寒気がしたので聞かなかった事にしよう。

 いや、通報するべきか?

 と、そこで周囲の野次馬をかき分けて、お姉とモーナとラヴィがやって来る。


「マナ、何かあったのか?」


「へ? まあ、うん。大した事じゃないよ。それより邪魔。熱い」


 モーナは来て早々わたしの頭にお腹を押し付ける様に抱き付き、先程まで湯船に浸かっていたであろう上昇している体温が、わたしの顔にダイレクトアタックを繰り出していた。

 本当に熱い。


「良いだろー!? マナだってロポに抱き付いてるだろー!?」


「うふふ。仲良しさんですね~」


「ロポ、遊ぼう」


「うん!」


 わたしの腕の中からロポが離れて行き、ラヴィと手を繋いで野次馬の中を器用に進んで行く。

 そんな2人を微笑ましく眺めていたかったけど、とりあえずロポがいなくなって空いた両手でモーナを剥がす。


「何だかラヴィーナちゃんとロポちゃん、私達姉妹みたいですね、愛那ちゃん」


「……確かに。年上のお姉を妹のわたしがいつも引っ張っていってあげてるもんね」


「はい。うふふ」


「いや、うふふじゃないし。お姉、そこは否定しなよ。って、そう言えば今更だけど、ロポって何であんなに見た目通り精神的に幼い感じなんだろ?」


「言われてみるとそうですね。元々300歳でした。女の子になりましたけど、見たままだったので今まで気にしませんでした」


「それには私がお答えしよう。あ、その前にグランデ、周囲の方々は任せたよ」


 サガーチャさんがわたし達の前に立ち、グランデ王子様が野次馬に話しかけて散らすでは無く何処かに連れて行く。

 わたしとお姉とモーナはそれを眺めて待つ事にした。

 と言うか、モーナは待つと言うよりは、わたしにくっついてご機嫌になってるだけだけど。

 そうして野次馬がいなくなると、サガーチャさんが笑みを浮かべて話し出す。


「オリハルコンダンゴムシは元々珍しい生き物で、あまり知られていない事だけど種類があるんだよ」


「種類……ですか?」


「そう。ステータスチェックリングでは表示数を考えて、えて表示をしていないけどね。それで話を戻すと、例えばロポくんの場合はキング種のオリハルコンダンゴムシで、寿命が元々7000歳から9000歳なんだ」


「じゃあ、ロポってもういつ死んでもおかしくないくらい年を取っちゃったんだ……」


 玉手箱の煙を浴びて、7000歳を越えてしまったロポ。

 サガーチャさんの話を聞いて、また涙が出そうになった。


「そうだね……」


「あ、ごめんなさい。話を続けて下さい」


「わかった。このキング種のオリハルコンダンゴムシは、その長い寿命だけあって、幼少期も随分と長い。オリハルコンダンゴムシ“キング種”の幼少期はおよそ平均で1000歳まで」


「分かりました! 元々371歳のロポちゃんは、3歳みたいなものですね!」


「ナミキくん、正解だ。そう言う事さ」


「そうだったのか。私も知らなかったわ」


「あれ? モーナも知らなかったの?」


「前に言った事あるけど、私が知ってるのは大きい奴ほど長寿ってだけだ。幼少期が長いだとか、そこまで詳しい内容は知らないぞ」


「そっか。でも、なんか納得」


 と言うか、わたしだって自分の世界の生き物の事を全部知ってるわけでも詳しくもないし、普通に考えたらそういうもんかって、今更ながらに思う。


「まあ、そう考えると良かったかもな」


「何が?」


「だってもしロポが精神年齢が大人であの姿になったら、女湯とか覗き放題で犯罪者になってたかもしれないだろ?」


「ちょっとモーナさあ、嫌な事言わないでよ」


「いいえ愛那ちゃん! モーナちゃんの言う通りです! ロポちゃんが可愛い子で助かりました!」


「いや、可愛い子かどうかは関係無いから」


 何はともあれ、サガーチャさん達と銭湯に来たわたし達は、楽しく騒ぎながら夜を過ごした。

 明日はいよいよ久しぶりの冒険への旅立ちの日。

 目指すは北の国クラライト王国だ。

 この世界で最も栄えている国らしく、ヒューマン、つまりわたしやお姉と同じ種族が多く暮らす国。

 そのクラライト王国の中心であるクラライト城の城下町に、モーナが働く猫喫茶ケット=シーの本店があるのだとか。


 そしてわたしは銭湯からの帰り道、モーナから意外な真実を告げられる。


「そう言えば言ってなかったけど、メレカはクラライトの王女のメイド、専属従者だぞ」


「へえ…………え?」

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