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194 ご利用は計画的に

※幕間が終わって、今回から最終章です。



 子供達がお腹を空かせて帰る少し暗めな空の夕飯時。

 ドワーフの城から少し離れた場所に位置する研究室では、恐ろしい研究が進められていた。

 ボコボコと気味の悪い音が室内に響き渡り、真っ白な白衣に身を包んだ研究者がニマァッと怪しげな笑みを見せる。


 研究者は虹色に光る液体の入った器に、一本のもやしを入れ、最後にイチゴの果汁を2滴たらした。

 その瞬間、液体が光り輝く一つの柱を放出し、暗くなった室内全体を照らした。


「完成だ」


 研究者はニマァッと怪しげな笑みを見せ、光るそれを小瓶に移してから、室内の片付けを始めた。

 それから数分後、室内を綺麗にした研究者は、研究室を出て城へと向かった。


 これが、これから始まる大事件の、全ての始まりだった。







 所変わってドワーフ城の食堂。

 わたし、豊穣愛那ほうじょうまなは、海底国家バセットホルンで出会ったレオさんから教えて貰った料理術を駆使して、夕飯を提供していた。


「ふ、ふふぉいへふはははん! ほんはひほほいひふほうひはへひふはんへ!」


「お姉汚い。食べ終わってから喋って。って言うか何言ってるか分かんない」


 注意すると、お姉が口の中いっぱいに入った料理を飲み込んでテイク2。


「凄いです愛那ちゃん! こんなにも美味しく料理が出来るなんて!」


「あー、うん。レオさんが教えてくれた激マズ素材を美味しくするコツってのが、なんか凄く楽しくて」


「そうだな。まさかあの不味い岩蛇までこんなに美味くなるなんてな」


「岩蛇の肉、豚肉に似てる」


「うん。ちょっと意外だよね。って言うか、モーナ邪魔。食事中くらいは離れてほしいんだけど?」


 最近のモーナはとにかくウザい。

 今もわたしの背中に抱き付きながら、魔法を使って器用にご飯を食べていた。

 それに、重力の魔法のおかげで重くも無い。

 そこにいる事を知らなければ、人によっては気が付かない程に軽い。

 まあ、だからなんだって感じで邪魔なんだけど。


「気が向いたらな」


 一瞬キレそうになって冷静になる。

 ここでキレたらいつぞやの二の舞になりかねない。

 そう。

 わたしは反省して後悔もして、モーナの事で一々腹を立てないと決めたのだ。

 例えウザすぎても我慢する。

 そう決めたからこそ、最近は前よりは煩く言ってない……はず。


 そうしてわたしが我慢をしていると、そこへグランデ王子様がやって来た。

 グランデ王子様はここドワーフの国の王子様で、わたしと同い年の男の子。

 多少は変わった所があるけれど、それでも爽やかで、従者と言うか女性からの人気が高い王子様だ。


 グランデ王子様は相変わらずな爽やかな微笑みを見せ、わたしやお姉と目を合わす。


「すまないがロポ君を少し借りて行ってもいいかい?」


「ロポですか?」


「姉さんに連れて来いと言われてね」


「サガーチャさん? ロポが良いなら別に構いませんけど」


「はい。ロポちゃんさえ良ければ連れて行って下さい」


 わたしとお姉が答えると、皆がロポに注目する。

 すると、ロポは触角を縦に振って、ついて行っても良いと言う意思を表明した。


「ありがとう、ロポ君。では、行こうか」


 グランデ王子様はロポにそう言うと、まるでエスコートする様に食堂から出て行った。


「あいつ等仲良いよな」


「男の子同士気が合うんですね」


「それはそれでありなのよ」


「何がありなんですか――って、うわっ! スミレさん!?」


「久しぶりなのよ」


 突然隣に現れたスミレさんに驚いて、わたしは後ろに跳びはねた。

 スミレさんは相変わらず燃える様になびく赤黒い髪の毛に、白目が黒で赤い瞳で、見た目がまさに魔族。

 相変わらずのお姉のようにスタイルもよく、身につけた服は肌の露出が多いものだった。


 スミレさんはにこやかに笑むと、モーナに視線を向けて「お届けなの」と言って手紙を渡した。


「何だこれ?」


「ベルゼビュート様からの招集命令のお手紙なのよ」


「ベルゼビュート様? ボスには三馬鹿退治終わったって手紙で報告したぞ?」


「どうりでなの。急にベルゼビュート様に呼び出されて何事かと思ったら、マモ……モーナスちゃんが帰って来ないから連れて来いって言われたなの」


「災難だったな」


「災難だったなじゃないなの! おかげで南の国でバカンスを楽しもうとしたのに出来なかったなの!」


「じゃあ断れば良いだろ? 私のせいにするな。私は暫らくは帰らないぞ」


「他人事だと思って酷い言いぐさなの。困るのは私なの!」


 よく分からないけど、始めて聞くベルゼビュートと言う名前。

 そう言えば今更ながらに思いだしたけど、以前モーナが言っていたボスと言うのが、そのベルゼビュートって人で間違いないだろう。

 と言う事は、スミレさんは同じ組織の仲間だったのかと、わたしは勝手に納得する。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。

 そう言う事なら、スミレさんには以前何かとお世話になった事だし、ここは助け舟を出そう。


「良いじゃん。行ってあげなよ、モーナ」


「えええっ。それよりマナの――」


「わたしも一緒に行くよ。どうせ元の世界には当分帰れないしさ」


「そうですね。私もモーナちゃんのお仕事に興味あります」


「私も行く」


「……マナがそう言うなら行ってあげても良いわ」


「マナちゃーん! ありがとうなのー!」


 スミレさんが号泣しながらわたしに抱き付く。

 そんなにかって感じで困惑しちゃったけど、まあ、何はともあれこれは良い機会かもしれない。

 結局モーナの正体とかどうでも良くなって、あれから何も聞いていないし、この機会にモーナについて色々知ろうと思った。


「それじゃあ私は南の国へバカンスに行って来るなの」


 ひとしきり号泣するとスミレさんはわたしから離れて、清々しいまでの笑顔で告げるも、モーナが珍しく正論をかます。


「何言ってるんだ。ベルゼビュート様は連れて来いって言ったんだろ? だったらおまえも一緒に行くぞ」


「――っ!? あんまりなのおおおおおおおおおおっっっ!!」


 スミレさんは床に膝をつけて、天井を仰ぐような体勢でめちゃくちゃ泣きだした。

 何だか哀れだ。

 そんなにバカンスが楽しみだったのかって感じだ。


 と、そんな時だ。

 ここ食堂の扉をもの凄い勢いで開け放ち、全裸の女の子が勢いよく入ってきた。


「――っ全裸の幼女な…………の……」


 さっきまで泣いていたスミレさんが目を輝かせ、たと思ったらがっくりと項垂れる。

 そして、その全裸の女の子は食堂に入って来たかと思ったら、わたしと目を合わせて抱き付いてきた。


「――へ? な、何!? って言うか誰!?」


「あわわわわわわ! ま、愛那ちゃんが小さい女の子をたぶらかしてます!」


「誑かす?」


「マナー! 誰だその女はー!?」


「知らない!」


 って言うか、マジで意味が分からない。

 見た目はラヴィと同じ5歳くらいだろうか?

 髪の毛は青白くて、つぶらでまん丸な無垢な瞳。

 わたしを抱きしめてる肌はもちもちしてて、ラヴィと比べると全体的にちょっとぷっくらしてる。

 ただ一つ言えるのは、本気で誰か分からないと言う事。


 と、そんな時だ。

 わたし達が見知らぬ女の子に騒いでいると、グランデ王子様がサガーチャさんをお姫様抱っこしてやって来た。

 そして、わたしとわたしに抱き付いてる女の子を見て、それぞれ真逆の反応を見せる。

 グランデ王子様は頭を抱え、サガーチャさんは床に足つけて楽しそうにニマァッと笑みを浮かべる。


「いやあ。すまないね、マナくん。その子はロポくんだ」


「…………は? ロポ?」


 わたしは困惑し、ロポらしい女の子に視線を向ける。

 女の子は嬉しそうにわたしを抱きしめて、わたしの顔を見上げながら笑っている。


「以前マナくんがロポくんの事を虫だからと遠ざけていただろう? それで私なりに協力しようと思って、人化のマジックアイテムを開発してたんだよ」


「マ? マジでロポなの?」


 女の子はわたしを見上げながら頷く。


「って、いやいやいや。待って待って? だってロポは男の子だったじゃん」


「そ、そうです! ロポちゃんはロポくんです!」


「ロポはオス」


「だな」


 わたしの言葉に、お姉もラヴィもモーナも同意する。

 と言うか、流石の事態にみんな驚いていて、この場で笑ってるのはサガーチャさんだけ……いや、モーナも笑ってる。


「すまない、皆。姉さんが調合の配分を間違えたみたいで、副作用で性転換してしまったそうなんだ……」


「はっはっはっ。いやあ、4日も徹夜をするものではないね」


「笑い事じゃないですよ!」


 勢いあまって王女様であるサガーチャさんへのつっこみをしてしまう。

 グランデ王子様が頭を抱えている理由が分かった。

 多分、姉の失敗で性別が逆になって人化したロポが、わたし達の所に来てしまったからだろう。

 そのまま人化だけならともかくとして、性別が変わるなんてどう考えても失敗だ。

 ロポはわたし達のペットみたいなものだから、そんな失敗した変わり果てた姿なんて、そりゃあ見せられないよねってなる。


「って言うか、そう言うのはまずわたし達に言ってから使って下さいよ」


「それもそうだね。今度からは気をつけるよ」


「お願いしますね。それで、元に戻るんですか?」


「ちょっと待つなの!」


 さっきまで項垂れていたスミレさんが立ち上がる。

 そして、わたしを抱きしめ中のロポを見て、目を光らせ、意味不明な事を声を高らかに喋り出す。


「私は幼女専門の匂いマスターなの! だからこの子から匂いを感じなかったから男の子だったと直ぐに分かったなの!」


「相変わらずだな~」


「モーナスちゃん! 話はまだ終わってないなの!」


 途中で喋ったモーナに注意し、スミレさんが言葉を続ける。


「だけども言わせてほしいなの! 擬人化最高なの! 可愛いからこのままでいいなの!」


「一理あります」


「いや、ないから」


 お姉がスミレさんに同意して、わたしはつっこみを入れてロポに視線を向ける。

 確かに可愛いけど、ロポの気持ちを考えてほしい。

 わたしだったら勝手に別の生物にされて、しかも性別まで変えられたら嫌だ。

 だけどそんな時、ロポがわたしの顔を見上げて、つぶらな瞳で目を合わせた。


「てん……しさまと……いっしょ」


「――っ!? ロポが喋った!?」


 ロポは笑顔でとても嬉しそうに喋るので、何だか思わずわたしの方からも抱きしめてしまった。 

 多分てんしさまと言うのは、自惚れとかじゃ無くてロポの視線の先を見る感じわたしの事。

 でも、そんな事はどうでも良くて、その天使様と言ったロポが可愛くして仕方が無かった。

 なんと言うか、これが母性本能をくすぐられると言う奴だろうか?

 今のロポは、ラヴィとはまた違う可愛さがある。


「喋れるなんて凄いです! ロポちゃん!」


「ロポとお話出来る?」


「姉さん、マジックアイテムにそんな機能もつけたの?」


「いや、そんなオプションはないよ。と言う事は、これはロポくん自身の成した事だね」


「おお、やるな。ロポ」


 お姉達もロポが言葉を喋った事に驚き話す。

 そしてそんな中、ロポは更にわたしを強く抱きしめて笑った。


「てんしさま、す……き」


「ヤバいどうしよう? マジで可愛い!」


 たまらずわたしはロポを強く抱きしめ、そして……。


「あ、スミレが死んだわ」


「大変です! これは尊死です!」


「とうとし?」


 尊死って何だよって感じだけど、どうでも良いので触れないでおく。

 と言うわけで、何故かスミレさんが爽やかな笑顔で真っ白になって倒れ、こうして大事件の幕が下ろされた。

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