幕間 海鮮料理が食べたいです!
※今回は瀾姫視点のお話です。
「お魚が食べたいです」
「食べてるじゃん。焼き魚」
「違います! 私が言ってるのは、海鮮料理が食べたいです! です!」
天気が良いかどうかは分からないご飯の時間、私は教会の宿舎の食堂を借りて、お昼ご飯を食べていました。
そうです。
愛那ちゃんの言う通り、お昼ご飯に焼き魚を食べています。
ですが、私が求めているのは焼き魚ではありません!
これはこれで美味しいですが、あ、ご馳走様です。
私が今求めているのは海鮮料理なのです!
出来れば夜ご飯で食べたいです。
「どっかのお店に食べに行けば良いじゃん」
「お金がありません!」
「ああ……まあ、うん。そうだね」
「はい!」
どうやら、愛那ちゃんも私の想いが通じたようです。
言い忘れてましたが、ここはリンちゃんが育った教会の宿舎です。
あ、そんな事よりです。
「愛那ちゃん、モーナちゃん、ラヴィーナちゃん、これは重要任務です! 今直ぐお魚を捕まえに行きましょう」
「は? 嫌だけど?」
「私は良いぞ」
「食後の運動」
「ラヴィも行くんだ?」
「そう。愛那は来ない?」
「うん。と言うか、この後予定入ってるし」
「愛那ちゃん予定があったんですか?」
「なんかレオさんに呼び出されちゃって……素人すぎて危なっかしいから、騎士用の訓練所借りて剣の修行するって」
「頑張って」
「うん。ありがと、ラヴィ」
残念ですが仕方ありません。
大好きな愛那ちゃんがいないのは寂しいですが、モーナちゃんとラヴィーナちゃんがいれば百人力です!
私達は愛那ちゃんと別れて、早速お魚を捕まえに出かけました。
向かう先は乗船用の建物です。
都の乗船用の建物はホテルの役割もしていて、そこにデリバーさんとドンナさんが泊まっているそうなんです。
なので、お2人に頼んで船を出港してもらって、お魚が沢山いる所に連れてってもらう作戦です。
デリバーさんとドンナさんに会いに行くと、お2人と一緒にリリちゃんがいました。
「リリィ=アイビー! なんでおまえがここにいる!?」
「一々フルネームで煩いわね。先日連れて来たシーバイッヌをドンナが飼うって言うから、シーバイッヌを預けた女王様からの伝言を伝えに来ただけよ」
「ドンナさん、柴犬ちゃんを飼うんですね」
「ああ。ここに戻って来た時に様子を見に行ったんだけど、その時に随分と愛着が湧いちゃってね」
「ドーナは犬が好きだからな」
「犬可愛い」
「なんだいラヴィーナ。分かってるじゃないか」
おまかわですよ、ラヴィーナちゃん!
「それで嬢ちゃん達は何か用事か?」
「あ、はい。そうでした。これから海鮮料理の為にお魚を捕まえに行きたいんです」
「成る程な。それで俺に船を出してくれって事か」
「そう。お願い」
「金なら私が払うぞ」
「がっはっはっ。馬鹿言っちゃいけねえ。金なんていらねえよ」
「え? 良いんですか?」
「俺もその海鮮料理ってのを食いてえからな。金なんてもん貰っちまったら、船出してそれでさよならになっちまうじゃねえか」
「情けない男だねえ。そこまでしないと誘って貰う口実が無いなんてさ」
「うるせえ」
デリバーさんがドンナさんにそっぽを向いて不貞腐れた顔をします。
ちょっと可愛いです。
でも。
「心配無いですよ。家の愛那ちゃんが腕によりをかけて皆さんの分も作ります! デリバーさんも一緒に海鮮料理を食べましょう! ドンナさんとリリちゃんも!」
「そいつは嬉しい申し出だね。それなら遠慮なくご馳走になろうかねえ」
「ありがとう。でも、私は遠慮しておくわ」
「へぅ。リリちゃんはお魚が嫌いですか?」
「そう言うわけでは無いのだけど、今日中に帰ろうと思ってたのよ」
「そうなんですね、寂しくなります」
「ふふ。ありがとう。あ、そうだわ。漁には私もついて行こうかしら」
「本当ですか!? それなら一緒にいっぱい捕まえましょう!」
リリちゃんも一緒にお魚を捕まえに行く事になりました。
そうして皆でお魚を捕まえにデリバーさんの船で出発です。
……ところで、どんなお魚を捕まえれば良いんでしょう?
分からないので、デリバーさんお勧めお魚スポットをお願いしたいと思います!
◇
船で少し進んで行くと、真っ赤と言う程ではありませんが、何やら朱色っぽい赤い色の海水が広がる場所へとやって来ました。
「真っ赤っかです」
「アセロラ海域だな」
「アセロラ海域ですか?」
「知ってる。愛那と本で読んだ。アセロラの味がする海」
「ちょっと飲んでみたいです」
何だか涎が出てきました。
「皆、そろそろ準備するよ」
私が涎を垂らしていると、背後からドンナさんに声をかけられました。
アセロラドリンクで休憩でしょうか? と思いましたが違いました。
どうやら、このアセロラドリンク……じゃありません。
アセロラ海域にいるお魚を捕まえるそうです。
私達は海の中を泳ぐ準備をして、操舵室にいるデリバーさんに挨拶をしてから甲板へと向かいます。
「あ、そうだ。忘れるところだったわ」
甲板まで来ると、リリちゃんが何かを思いだした様です。
持って来た荷物をごそごそして、海猫ちゃんの形をした綺麗な青い魔石を取り出しました。
「ナミキは海の中ではこれを持ってなさい」
リリちゃんから魔石を渡されて、私は首を傾げます。
すると、リリちゃんがそんな私に微笑みました。
「これを持ってれば暫らくの間は海の中で呼吸も出来るし、水圧とかの負担も無くなるの。その効果から、水難対策のお守りとして有名なのよ」
「へえ、水難避けのお守りじゃないか。確か魔石には珍しく水の加護が付与されてるから、海猫の姿をした水神ポセイドンの恩恵もあると言われてて、猫のように自由奔放な人に贈るといいとも言われてるね」
「そうね。お守りとして売られる前に、魔石加工職人にこれと同じ海猫の形に基本は加工されるのだけど、最近では亀の形だとか色々な形にして売られているわね。そう言えば、あの子達がリングイに送ったのも、これの亀タイプの形をした物だったわね」
「そうだったんですねえ。可愛いです~。でも、私が使っちゃって良いんですか?」
「私はそれが無くても平気だし、他の皆は必要なさそうだもの」
「私も水の中で平気になったから大丈夫」
「ラヴィーナはメレカに水中用の魔法を習ったからな」
「そう。もうどこでも潜れる」
「それならありがたく使わせてもらいます」
「ええ」
どうやら、リリちゃんのおかげで私を止められるものは何も無くなってしまったようです!
白のビキニにシュノーケルゴーグル。
そして海の中でも呼吸が出来る様になる可愛い海猫ちゃんの形をした魔石。
完璧です!
もう何も怖くないです!!
「怖いでずうううう!」
「瀾姫、しっかり」
ラヴィーナちゃんに背中を支えてもらいながら船の甲板へと上がります。
死ぬかと思いました。
「呼吸できるからって油断したら駄目」
「反省じまずうう」
はい。
海の中で呼吸できるようになったからって、海を甘く見てました。
ドンナさんからお借りした銛を持って海の中に入った私は、海中で呼吸が出来る不思議に浮かれて皆さんから離れて泳ぎました。
それで丁度良い所に見た事も無いお魚が美味しそうに泳いでいたので、銛で一突きしました。
そして大きなお魚にぱっくりと食べられてました。
食べられてました!
へぅ……ラヴィーナちゃんが私から目を離していなければ死んでました。
めちゃくちゃ怖かったです。
お魚を捕ったら食べられてるなんてヤバすぎです!
めちゃくちゃ泣きました!
恐怖でガクブルでトラウマものです!
そんなわけで、怖くて身動きとれなくなって、ラヴィーナちゃんに支えられながら船に戻ってきました。
「おおっ。無事だったかあ、ナミキ」
恐怖で足腰動かなくてブルブルしていると、デリバーさんがやって来ました。
デリバーさんは私と目を合わすと、安心したように大きく息を吐き出しました。
「いやあ、丁度ナミキが食われる所を見ちまってよ。慌てて操舵室から出て来たが、無事で良かった」
「へぅ……。ご心配おかけしました」
「良いって事よ。しっかしついてないな。この辺じゃホワイトキングサーモンなんて珍しいんだけどな」
「ホワイトキングサーモン……ですか?」
「ああ、身が白いサーモンで、通常のサーモンと違って家くらいの大きさのあるサーモンだ。アセロラ海域で見るなんて滅多にないんだがな」
へぅ……私の知ってるホワイトキングサーモンと全然違います。
私と愛那ちゃんの世界にも同じ名前のお魚がいますけど、そんな大きくないです。
こっちの世界のホワイトキングサーモン怖すぎです……。
「おーい、ナミキ! ラヴィーナ! なんか向こうの方で凍ってて動かなかったでっかい魚を捕まえたわ!」
モーナちゃんの声が聞こえて振り向くと、モーナちゃんがさっきのホワイトキングサーモンを持って来ました。
そしてその大きなホワイトキングサーモンを見て、わたしはさっきのトラウマが甦って……。
「――へぅ!」
「瀾姫!」
「な、なんだ!? ナミキが気絶したぞ!?」
「こりゃ当分トラウマだな」
はい。
気絶しました。
お魚を楽しみにしている私の可愛い妹の愛那ちゃん、ごめんなさいです。
お姉ちゃんはお魚さんには勝てませんでした。




