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幕間 美人メイドのアフターサービス

※今回はメレカ視点のお話です。


 竜宮城……栄えていた昔はとても美しかったこの城も、今では見る影もありませんね。

 いえ、正確には何も見えない、と言うべきでしょうか?


 革命軍平和の象徴者(ハグレ)との戦いで放たれた竜宮城を包み込む老化の煙(エージングスモーク)

 我が国がその昔戦争に利用していたマジックアイテム、古代兵器玉手箱の力は想像を絶するものだった。

 そして今、私メレカ=スーは女王の勅令ちょくれいと言うていで、王国の騎士を連れてこの玉手箱の回収に来ていた。


「アマンダ様、ここより12時と7時の方向で例の騎士の死体を見つけました」


「わかりました。……いえ、私はメレカと言います。その様な名ではありません」


「は、はあ。それは……失礼しました?」


 どうやら誤魔化せたようですね。

 しかし、この王国騎士は中々に鋭い感性の持ち主のようです。

 そう。

 何を隠そう私は海底国家バセットホルンの王族、真の名はアマンダ=M=シー。

 現女王の姉、王姉と言う立場。

 ですが、私は己の立場を隠し、普段はメイドとして生活をしているのです。


「騎士様、マダーラ公爵の遺体は見つかりましたか?」


「申し訳ございません。この部屋にはありませんでした」


「やはりそうでしたか。この玉手箱を開けたのはマダーラ公爵とうかがいました。ですが、そのマダーラ公爵本人がいません」


 騎士へそう告げて、私は目の前に転がって煙を出し続ける玉手箱を拾い、蓋を閉じる。


「蓋を閉じても煙は消えないようですね。アマ……メレカ様の魔法が無ければ、わたくしなどこの煙で直ぐにでも老いて死にますし、消える事を期待していたのですが……」


「様はいらないですよ」


「いえ、流石にそれは……」


「ふふ。おかしな方ですね」


「恐縮です」


「しかしそうですね……。これで煙が広がるのは止まった事ですし、幸いな事にここは水深10万キロ近くある深海の底です。暫らくは人に危害が加わる事もないでしょう」


「でもそれはメレカ様の魔法で煙を囲っているからでもあります。ずっとそれをするのも負担が……」


「ふふ。ご心配いただきありがとうございます。でも、それには及びませんよ」


「と、申しますと?」


「魔力のコントロールがずば抜けてひいでている方をお呼びしました。恐らく本日中にでも来て頂けるでしょう」


「め、メレカ様がそこまで仰るとは……余程の達人なのですね」


「うふふ。とっても可愛らしい子よ」


「……はあ? そう言えば可愛い子と言えば例のマナと言う少女。映像で戦っている姿を拝見しましたが、種族は魔族でしょうか?」


「魔族? どうしてそう思われたのですか?」


「この煙で竜宮城が包まれた時に、少し煙に触れていたように見えたのです。それで、流石は魔族だけあって、あの年でも強いなと……」


「煙の話……本当ですか?」


「はい。しかし、同僚達にも話をしたのですが、誰もそれはないと言っていたので……。変な事を聞いてしまい申し訳ございません」


「いえ、気になさらないで下さい。それより帰りましょう」


 マナと煙の件はフルートに帰ってから調べるとして、私は騎士にそう告げ、死体を船まで運び竜宮城から立ち去った。






 都に戻って回収した玉手箱を女王である妹のリビィに渡し終えると、私はリビィから相談を受ける事になった。


「お姉ちゃ~ん、助けてー」


 リビィの寝室に入って2人だけになると、私の慎ましい胸にリビィが飛び込んで顔を埋める。

 人前ではしっかりした女王を演じている子なのだけど、私と2人きりになるといつもこうなってしまう。

 その内誰かに見られてしまわないかと不安ではあるけど、息抜きと言うのは必要な事でもあるし、仕方が無いと私は半ば諦めている。


「今度は何? 謁見の間では言えない事?」


「言えなくもないんだけど……」


「ないんだけど?」


「最近ずっと張り詰めてたから疲れちゃって」


「ふふ。貴女が女王になってから一番大きな事件だったものね」


「本当だよ~。何が革命軍よー。ただのテロリストだよお」


 女王として働くリビィの苦労は計り知れない。

 先日起きた革命軍平和の象徴者(ハグレ)による都への侵攻。

 あれから事後処理に追われている。

 恐らく私がここに呼ばれたのも、それに関する話だろう。


「それで? 何か困った事でもあったの?」


 私がリビィの頭を優しく撫でて慰め、話をうながすと、リビィは私から離れて頷きベッドに座った。


「竜宮城でのお姉ちゃん達の戦い、とくにあのマナって子の活躍で国民の意見が真っ二つに割れちゃって」


「マナ? 真っ二つってどういう事?」


 まさかマナの名前が出るとは思わず質問すると、リビィが不満気におちょぼ口して答える。


「マナちゃんが助けた革命軍の刑を軽くしろ派と重くしろ派」


「なあに? それ」


「私が聞きたいよお。もう意味わかんない。なんか“マナちゃん親衛隊”とか言うわけわかんない騎士団体まで出てくるし」


「……貴女も大変ね」


「大変って範疇はんちゅう越えてるよお」


「でも、刑罰を軽くするわけにもいかないわよね」


「そうだねえ。革命軍は人を殺し過ぎたから……」


 水の都フルートの被害。

 それは、とても甚大で見逃せるほどのものでは無かった。

 建物は幾つも破壊され物的被害もる事ながら、人的被害も少なくなく、何人もの死者を多数出している。


 王族の立場上、いいえ。

 人としてこう言ってしまうと問題ではありますが、こうか不幸か、人的被害はどれもが裏で悪事を働く貴族やその関係者だけだったのがせめてもの救いでした。

 あれ程の事が起きて、それ以外の死者が出ていないのが奇跡としか言えない事件。

 それが先日に起きた革命軍の侵攻でした。

 しかし、殺しには変わりありません。

 刑罰は重くて死罪、あらゆる種族の寿命を考慮して、軽くても懲役1000年はくだらないでしょう。

 それは革命軍のトップであったイングロング=L=ドラゴン、通称“魔龍のレブル”を始め、それに属する者全てに言い渡されるのが本来の形。


「だったら、貴女が女王として正しいと思った判決を下せば良いじゃない」


「女王として……かあ。やっぱりそうだよねえ」


「何か問題でもあるの?」


「問題って言うか……。私さ、あの映像を見て、なんか革命軍……と言うよりは、レブルに同情しちゃったんだよね」


「……そうね。彼はとても悲惨な運命の中にいたものね」


 今回の事件の一番の被害者は、もしかしたら彼かもしれない。

 調べれば調べる程、それは色濃く鮮明に映し出され、人によればリビィの様に同情してしまう内容だった。


 王家の血を引く貴族、マダーラ公爵家のポンポ=コ=マダーラ。

 全ての事件の裏に、彼の姿があった。

 彼はその立場を裏で存分に利用し、数々の悪事を繰り返していた。

 その内の一部は、マダーラ公爵自信が竜宮城で玉手箱を手にした時に語っている。

 しかし、あれには随分と脚色されている部分もある。


 マダーラ公爵は元々リングイの経営している孤児院海宮(かいきゅう)に目を付けていた。

 昔、孤児院が建つ前の事、あの孤児院の建っている土地をマダーラ公爵は狙っていた。

 しかし、それは叶わなかった。

 その頃から、マダーラ公爵はリングイや孤児院に恨みを持ち、ゲロックと言う男を利用した。

 そして、孤児院生であった当時のレブルが、ゲロックを含めた騎士殺しをしてしまう事件が起きた。


 騎士殺しをしたレブルの罪を重くし、死罪にと裏で動いていたのもマダーラ公爵だった。

 そしてそれを止めようとした1人の騎士も、いわれのない罪を被せられ、死罪に追いやられてしまった。

 ゲロックを誑かし、教会の神父に重傷を負わせ、強姦と殺しを元部下達に強要して実行させた犯人。

 それが、その騎士が受けた罪状。

 死罪へと繋がるきっかけだった。

 当時の女王はそれが偽りだと見破る事が出来なかった。


 それ以外にも色々あるけれど、それももう今更な事。

 リビィはそれ等全てを徹底的に調べ上げ、数々の事件の裏に潜む悪、マダーラ公爵の罪をあぶり出した。

 しかし、結果としてそれをマダーラ公爵に勘付かれ、あの竜宮城での出来事が起きてしまったようだけど……。


 と、そこで私は伝えなければならない事を思い出し、深刻な面持ちをリビィに向ける。


「マダーラ公爵の遺体が見つからなかったわ」


「うん」


「う、うん? 驚かないのね?」


「だってマダーラ公爵はお姉ちゃん達みたいに帰ってきたからね」


「――っ! 聞いてないわよ!?」


「言えるわけないよ。お姉ちゃん帰って来るなり直ぐに騎士を1人連れて玉手箱を取りに行ったじゃんか」


「……そうね。それでマダーラ公爵は今何処に?」


「死んだよ」


「死んだ……っ?」


「止める間も無かったよ。マダーラ公爵は戻って来て直ぐに騒ぎ出したの。革命軍にやられた、女王に騙されたんだーって騒いで、もう皆嘘だって知ってるから聞く耳持たないでしょ?」


「まさか、民がマダーラ公爵を……っ!?」


「違うよ。マダーラ公爵ってあの煙をまともに浴びてるでしょ? だから戻って来た時には凄い年とってて、義足じゃなければ自分で立てない程に老いてたんだよ。それで皆聞く耳持たないから、全員悪の根源の女王の手先だーってマダーラ公爵が騒いで、怒って血管が切れてそのまま死んだの。マダーラ公爵を助けようとする人は、誰一人としていなかったよ」


「……っ」


 全く予想できなかったマダーラ公爵の最後に、流石に私も驚き言葉を失った。

 何とも惨めでマダーラ公爵らしい最後。

 救いようがない男だとは思っていたけど、まさかそんな醜い死に方をするとは……。


 リビィはため息を吐き出して、ベッドに上半身を預けて横になる。


「それがきっかけ。死ぬ間際まで嘘言って騒いで自分で勝手に死んでくんだもん。それで納得する人と、納得しない人、それから怒りの矛先を失った人がいた。それにね、その事件の前に私やらかしちゃったんだよ」


「やらかした? 珍しいわね。何をしたの?」


「革命軍との戦いが終わった直後に、マダーラ公爵の悪事や、革命軍の人達……私が調べたあの孤児院や教会出身の人達の生い立ちを民に喋ってた」


「……成る程。それで納得した民から“罪を軽くしろ派”が生まれたのね」


「うん。あの映像見てたら感極まって喋っちゃった。どうしてあんな事が起きたのかって」


「ふふ、貴女らしいわね」


「笑い事じゃないよお。女王失格だよ……はあ」


「さっきも言ったけど、どう判決を下すにせよ、貴女が思うようにすれば良いわ。ただ、どんな結果になっても、下された判決に反発が起きる事は覚悟しておきなさい」


「うん。ありがとう、お姉ちゃん」


「どういたしまして。……あ、来たみたいね」


「来た?」


「ええ。助っ人の女の子よ」


「女の子?」


 上半身を起こして首を傾げながら私を見つめるリビィに微笑み、私は寝室を出る。

 向かう先は今この都に入港した船のある乗船場。

 魔力の流れが私に教えてくれる。

 私が呼んだ助っ人が、ここに来てくれたのだと。


「あの子とも、久しぶりに会いますね」

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