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193 気持ち、心から伝えて

 水の都フルートから始まった革命軍【平和の象徴者(ハグレ)】との戦いから幾日か経ち、その戦いで受けた傷も今ではすっかりと治っていた。

 傷なんて言ってもこの世界には魔法があるので、余程の怪我でも無ければ基本傷痕なんて残らないだろうけど。

 とまあ、それは今は置いておくとしよう。


 あれから色々あって、わたし達はドワーフの国に向かってデリバーさんの船で帰宅中。

 先に西の国の王都フロアタムに行こうかと言う話もあったけど、結局は戻ってから行こうと言う話に落ち着いた。


「マナ、私がレブルについてった理由を聞かないのか?」


 天気のいい雲一つない空の下。

 船の甲板の上……正確にはロポの背中に座ってゆっくりとくつろいでいる中で、わたしの右隣に座っていたモーナが尻尾をくねくねとさせながら、呟くように質問した。

 あれだけ気になっていた裏切りの理由を聞いていなかった事に気が付く。

 いやまあ、気になると言えば気になるけど、最早過ぎ去った過去だしどうでも良かった。


「だから言った。愛那まなは気にしない」


 そう答えたのは、わたしの左隣に座るラヴィ。

 お気に入りのうさみみカチューシャを頭に装着し、水の都の雑貨屋で手に入れたシャボン玉を吹かせて遊びながら、いつもの虚ろ目は楽しそう。


「そうですよ~。こうしてモーナちゃんとロポちゃんが戻って来てくれただけで嬉しいです」


 そう言ったのは、しまりもなくだらしのない顔のお姉。

 背後からわたしに抱き付いて、失礼にもわたしの頭を胸置き場にしている。


「いや、って言うかお姉重い。胸乗せないでくれる?」


「だって、愛那ちゃんの隣がうまってて、ここしか場所が無いんです」


 なんとも情けない声で悲しそうに言うお姉。

 ちょっとだけ可哀想なのでそのままにしてあげることにした。


「なあマナ、ナミキのおっぱいなんてどうでも良いだろ? 気にならないのか?」


「いつにも増して面倒臭いな。聞いてほしいの?」


「だってマナは言わないと怒るだろ?」


「ああ……まあ、うん。それはわたしも悪かったって言うか……」


 言葉を濁すと、それと同時に船体……では無く、ロポが揺れる。


「わわっ」


 ロポが突然体を揺らすものだから、ラヴィとモーナがバランスを崩して、上手にわたしの膝の上に頭を乗せた。

 おかげでラヴィの吹いていたシャボン玉がべっちょりと足を濡らして、ため息を吐き出しそうになりながら呟く。


「ロポが聞きたいってさ」


「仕方が無いな! それなら教えてあげるわ!」


 急に元気になって立ち上がり、いつものドヤ顔で胸を張るモーナ。

 やっぱり言いたかったんだなと思いながら、わたしはモーナのドヤ顔を見上げ、モーナとは全く関係も無い別の事を思い出す。


「そう言えばラヴィ、竜宮城にいていった水中用サンダルさ、気付いたら光速に耐えられ無くて燃え尽きてたよ。わたしずっと裸足で戦ってたみたい。どうりで足凄い痛かったわけだよ」


「サンダルは光速に耐えられない」


「こらーっ! 私を無視するなあ!」


「いや、ごめん。なんかモーナの話聞こうと思ったら急に思いだして」


「知るか! ちゃんと黙って聞け!」


「そうですよ、愛那ちゃん。人の話はちゃんと聞かないと駄目です」


「分かってるよ。ごめんモーナ、話してよ」


 流石にわたしに非があったので、謝ってから話を施す。

 すると、モーナは再びドヤ顔に……っと思ったら、わたしの隣に座り直して、とくに変な表情をする事なく話し始めた。


「レブ……リネントと戦った時、あいつが私に言ったんだ。玉手箱を使うには、命を削る必要がある。それは自分の役目で家族にはさせたくないって」


「そっか……」


「あいつも馬鹿だよなあ。復讐はもう終わってて、だから牢屋に入れられて、それで貴族や国に不信感を覚えた家族の為に身を削ってたんだ。それで最後はその家族の為に全部背負って命を捨てる思いでいたなんてな」


 モーナはじっと水平線の向こうを見つめながら、つまらなそうに欠伸あくびして言葉を続ける。


「だからだ。私はあいつが目的を果たすまで、あいつを護ってやろうと思ったわ」


「……どうして?」


「だって、マナはあいつの事が気に入ってただろ? あいつは強いけど、あいつを護れる強い奴はいない。あいつの事を知ってる奴はいても、あいつの心を支えてやれる奴はいない。あいつは全部1人だった。マナが気にいった奴を殺したくなかったからな。だからせめて目的を終えるまでは、私が護ってやろうと思ったんだ」


 モーナの話を聞いて、わたしもモーナのように水平線を見つめた。


「ばーか」


 そう呟いて、わたしはロポの背中を優しく撫でた。


「ロポは、だからモーナについて行ってくれたんだね。モーナが1人にならないように」


 ロポは「そうだよ」と返事をするかの様に、触角を嬉しそうに縦に揺らす。


「ありがとう、ロポ」


「ロポばっかりズルいぞ! この前までそんな事しなかっただろ!」


 残念ながらいつものモーナに戻ってしまった様だ。

 モーナが再び立ち上がり、今度は訴えるような眼差しでわたしを見て指をさす。


「ロポに嫉妬しないでよ」


「嫉妬じゃないわ! 羨ましいだけだ!」


 それが嫉妬なんだけど、まあ、一々訂正する様な事でも無いので、わたしはモーナに微笑んだ。


「ありがとう、モーナ」


「分かれば良いわ!」


 モーナは満足そうに笑い、再びわたしの隣に座る。

 と、そこで膝の上に頭を置いていたラヴィがむくりと起き上がる。


「シャボン玉……」


 見ると、さっきロポが体を揺らした時に素の液体が容器から零れてしまったようで、殆どなくなってしまっていた。

 ラヴィの虚ろ目がいつも以上に虚ろ目になり、お姉が慌てだした。


「大丈夫ですよラヴィーナちゃん! 洗剤があればまた作れます!」


 お姉はわたしから離れて、今度はラヴィに後ろから抱きついて、そのままラヴィを抱えてロポから飛び降りる。

 そして、下に降りたらラヴィと手を繋いで、上を見上げてわたしと目を合わせた。


「シャボン玉の素を作ってきます!」


「うん、いってらっしゃい」


「いってきます! さあ、行きましょうラヴィーナちゃん!」


「わかった」


 ラヴィはやっぱりまだまだ子供だなあ、なんて思いながら、モーナと一緒にお姉とラヴィの背中を見送る。

 まあ、わたしもまだ10歳だから、十分子供なんだけど……と、そこで一つ思いだす。


「そう言えば、あの時ロポが煙の中ラヴィを助けてくれたけど、よく無事だったよね?」


 そう。

 結局あの後色々あって、すっかり忘れていた事。

 ロポはあの老化する煙の中で動き回って、ラヴィを助けてくれた。

 あの事がきっかけで、わたしはロポを受け入れる事が出来た。

 それなのに忘れていたなんてと思うかもしれないけど、ロポは全然元気だし、忘れていたものは仕方が無い。


「ロポはオリハルコンダンゴムシだからなあ」


「何か関係あるの?」


「オリハルコンダンゴムシの寿命は平均で1000以上だぞ。それに体の大きい奴ほど長寿になる。試しにステチリングで見てみろ」


「へ? あ、うん。ロポごめん、良い?」


 喋ったわけではないけどロポが「いいよ」と触角を縦に振ったので、わたしは「ありがとう」と告げて、ステチリングの光をロポにかざした。




 ロポ(オリハルコンダンゴムシ)

 年齢 : 7226

 種族 : ダンゴムシ『昆虫・オリハルコン甲殻こうかく種』

 職業 : 無

 身長 : 222

 装備 : 無

 味  : 激不味げきまず

 特徴 : オリハルコンバック・人語理解

 加護 : 土の加護

 属性 : 無

 能力 : 未修得




 出された情報、まさかの7000歳越えを見てわたしは驚愕する。


「な、7……7000…………」


「凄いな。元々300歳ちょっとだったよな? 思ってた以上だわ」


「凄いどころの騒ぎじゃないじゃん! ロポオオオオ。ロポ、ありがとね。本当にありがとう」


 わたしはロポを両手で精一杯撫でる。

 すると、ロポは嬉しそうに触角を揺らして喜んでくれた。


「おお、見ろマナ。ロポの特徴に人語理解が追加されてるわ」


「ロポオオオ……へ? なんか凄いの?」


「凄いぞ。普通人の言葉が理解が出来るって言っても、それは何となくだ。何となく何を言いたいのか表情と人の話す声の音で分かるって程度よ。でも、この人語理解があるなら、それは何となくとかじゃないわ。本当に言葉を聞いて理解できるって事だ」


「成る程。へえ、凄いじゃんロポー」


 褒めながらロポを撫でると、ロポが嬉しそうに触角を振るう。


「あんなに嫌がってたのに、本当に変わったな」


「へ?」


 またもや嫉妬されて、一瞬嫌味を言われたのかもと思ったけど、モーナは嫌味を言ったわけじゃなかった。

 振り向くと、本当に嬉しそうに笑いながら、わたしを見つめていた。

 だから、わたしも微笑んで答える。


「そうだね。ラヴィを助けてくれた事もそうだけど、ラタのペットのカトリーヌのおかげかな」


「あのマーブルエスカルゴか?」


「うん。言われた事の意味は少し違うけど、わたしも話し合う事にしたんだ。言葉が通じなくても」


「よく分からん」


「分からなくていいんだよ。あ、それよりさ。気になったんだけど聞いて良い?」


「ん? なんだ?」


 気になっていた事。

 今までいろんな所を旅してきて、モーナとは長い付き合いになる。

 だから、気になる事はいっぱいあった。

 でも、そんないっぱいの中から聞きたいくらいに気になる一番は、最初の出会いの時の事。


 わたしはモーナと目を合わせて、真剣な表情では無く、少し微笑んで問う。


「モーナって出会って直ぐの頃から、結構わたしと仲良くしてくれていたでしょ? それが何でなのかな? って」


 尋ねると、モーナは考える素振りを見せる事も無く、尻尾を立たせてご機嫌に答える。


「マナの作った飯が上手かったからな! だからマナが好きになったわ」


「……は?」


 即答したモーナとは対称的に、わたしは間を置いてそれだけ口から零す。

 と言うか飯が上手いって、言われて嬉しくないわけないし、寧ろ嬉しいけども違うだろと言いたい。

 だけど、モーナの目を見れば分かる。

 この目は大真面目だ。

 曇りなき眼が本心だと語っている。


 だが、言わずにはいられない。

 聞かずにはいられないじゃないか。


「ご飯が美味しかったから気に入って、今までわたしに色々してくれたの?」


「そうだぞ? 当たり前だろ」


 当たり前ときた。

 うん、分かった。

 前から、それもかなり前からずっと思っていた事だけど。


「モーナって本当に単純だよね。チョロすぎでしょ」


「何ー!? 私は単純じゃないわ! 複雑な女だ!」


 曇りなき眼だったモーナが、今度はあまりにも怒りながら言うので、何だか笑いが混み上がる。


「そこ気にして怒ってるあたりがやっぱ単純じゃん。って言うか、チョロいのは否定しないんだ?」


「チョロいとかどうでも良いわ! いいかマナ! 単純ってのは馬鹿って事だ! だけど私は複雑な女、つまり最強だ!」


「あははははっ。ちょ、ちょっと笑わさないでよモーナ。そこはせめて天才とかにしてよ」


「天才と馬鹿は紙一重なんだぞ。知らないのか? 私は紙一重では無くて最強なんだぞ」


 最早わたしの笑いは止まらない。

 モーナの馬鹿発言が止まる事を知らず、わたしは笑い続けた。

 そして最後にはモーナが立ちあがってわたしに怒鳴る。


「笑いすぎだー!」


 と。

 そしてわたしは伝える。

 精一杯の笑顔で。




「モーナ、ありがとう。私もモーナの事が好きだよ」


~第三章 終了~


第三章はここまでです。

次回から幕間が幾つか入って、最終章に突入します。

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