002 謎の猫耳少女は得意気に胸を張る
目を開けると、そこは見知らぬ部屋の中だった。
わたしは上体を起こして、周囲を見て状況を確認する。
ここが何処かは不明だけど、わたしは誰かの家のベッドで眠っていたみたいだ。
そして、この誰かの部屋の中を見た私は、部屋の中の照明の役割をしている物を見て驚く。
「石が光って浮いてる……」
部屋の中には、淡く光る小さな石が浮いていて、それが部屋を明るく照らしていたのだ。
この分だと巨大トカゲや空飛ぶ芋虫は、現実に見てしまった事なのだろうと、わたしはアレが夢でなかった事に肩を落とした。
わたしはベッドから出て、部屋の窓から外を眺めてみる。
外は真っ暗だった。
まだ夜なのか、それとも一日中眠っていたのか、今のわたしには分からない。
お姉に聞けば、何かわかるかもしれないけれど……。
「そうだ。お姉」
わたしは一緒にいた筈のお姉がいない事に気がついて、お姉を捜す為に部屋の扉を開ける。
扉を開けると、真っ暗な廊下に出て、わたしは息を呑みこんだ。
ここが何処だかは分からないけど、ベッドで眠らされてたって事は、悪いようにはならない筈。
真っ暗でちょっと怖いけど大丈夫だ。
わたしは勇気を出して前に進む。
すると、お姉と知らない女の子の話声が聞こえてきた。
お姉?
それに知らない子の声。
お姉の声を聞いたわたしは、早足で進んで行く。
すると、直ぐに何かの扉の隙間から、微かな光が漏れているのが見えた。
わたしは走って扉の前に立つと、ノックをするのを忘れて、いきなり扉を開けて声を上げる。
「お姉!」
私が扉を開けてお姉を呼ぶと、扉の向こうにいたお姉と、見知らぬ猫耳を生やした女の子が私に振り向いた。
猫耳!?
わたしが猫耳の女の子に驚いていると、お姉がわたしに飛びついて抱き付いた。
「愛那~。良かった~。目が覚めたんですね。お姉ちゃん心配したんですよ」
「う、うん。ごめん。ところでお姉、その子は?」
わたしがお姉に抱き付かれているのを、じっと見つめる女の子に視線を向けて質問すると、お姉はわたしから離れて女の子の横に立った。
「この子はモーナちゃんです」
「モーナちゃん」
お姉の言葉をそのまま繰り返すと、モーナちゃんと紹介された女の子が、得意気に胸を張って自己紹介を始める。
「そうだ! 猫の獣人のモーナだ! おまえ達を助けてあげたのよ。感謝しなさい!」
「あ、ありがとう。……猫の獣人?」
「そうだ。ほら。猫の耳と尻尾があるでしょ? それが証拠よ! おまえ年は幾つだ?」
「え? 10歳だけど?」
「それなら私も10歳って事にしておくわ!」
「しておくわって……」
怪しい。
何が怪しいって、もう色々だ。
証拠とか言われなくても、猫の耳と尻尾の生えた異世界の人間に、猫の獣人と言われてしまえば信じるしかない。
それに、年を聞いた後に、それならだとか、しておくわだとか言ってるのだ。
確かに見た目から考えると、年もわたしとそこまで変わらない様には見えるのだけど、怪しいにも程があるというものだ。
このモーナって子、凄く怪しい。
「愛那ちゃん見て下さい」
わたしがモーナを訝しんでいると、お姉が笑顔で私に何かを見せる。
「腕輪……?」
お姉が私に見せたのは、腕時計サイズの腕輪だった。
その腕輪には、ペットボトルのキャップ程度の大きさの赤色の宝石が一つと、その四分の一程度の小さな青色の宝石がついていた。
「はい。モーナちゃんがくれたんです。ステータスチェックリングと言う名前の、マジックアイテムです」
「ステータスチェックリング? マジックアイテム?」
わたしが聞きなれない単語を聞いて顔を顰めると、モーナが得意気に胸を張って説明しだす。
「マジックアイテムは魔法効果を持つ道具の事よ。ステータスチェックリング、略してステチリングは腕に装備して使用する事が出来るマジックアイテムで、基本は装備した本人の情報を見る事が出来るのだ!」
モーナが説明しながら、わたしにステチリングを渡してきた。
わたしはステチリングを受け取ると、とりあえず左腕に装備して、ステチリングをじっと見つめる。
「ふーん……って、あ」
しまった。
怪しい子から物を貰っちゃった。
「どうしたの?」
「ううん。何でもないよ。お姉」
わたしはお姉から心配されて、心配させない様に口角を上げて答える。
すると、モーナがわたしの左横に立ち、腕輪についている赤色の宝石に人差し指で触れる。
「この赤い魔石に魔力を少し入れると、装備している本人の情報が見れるわ」
「魔石? これって、宝石じゃな――っわ!」
モーナがわたしの装備したステチリングの魔石とやらに、恐らく魔力を注いだのだと思う。
わたしがモーナに宝石じゃないのかと質問しようとしたその時、赤い魔石から突然縦長の長方形の形をした赤色で透き通ったモニターの様な物が浮かび上がった。
そして、そこには私の個人情報が記されていた。
豊穣愛那
職業 : 小学5年生
身長 : 137
BWH: 59・50・61
装備 : 学校指定の制服・スパッツ・靴下
属性 : 無属性『加速魔法』
能力 : 未修得
「うわ。スリーサイズまで書かれてる」
わたしが表示された情報を見て呟くと、お姉がわたしの情報を見て微笑んだ。
「不思議ですよね。スリーサイズまで表示されているのに、装備の所に下着が表示されていないんですよ」
「どうでもいい」
わたしがお姉のどうでもいい言葉をさらっと流すと、お姉は特にそれを気にもせず、お姉はわたしと同じ様に自分のステチリングから情報を浮かび上がらせた。
そして、右からわたしにくっついて、お姉は自分の情報をわたしの目の前に持ってくる。
「愛那。お姉ちゃんのも見て下さい」
豊穣瀾姫
職業 : 高校1年生
身長 : 150
BWH: 90・56・85
装備 : 学校指定のセーラー服・靴下
属性 : 無属性『防御魔法アイギスの盾』
能力 : 『動物変化』未覚醒
「お姉。また胸が大きくなってる……」
「ええー。愛那、もっと別の所を見て下さいよ~」
「はいはい。それより、この属性と能力って何?」
わたしが表示されているそれに指をさして質問すると、お姉の代わりにモーナが答える。
「それは魔法の属性だ。二人とも姉妹揃って無属性だなんて珍しいわね。特にナミキは、昔世界を救った英雄が使っていたとされる防御魔法の最高峰、アイギスの盾だなんて凄いわよ」
「えへへ。お姉ちゃん褒められちゃいました」
わたしはニヘラとだらしのない笑みを浮かべるお姉を横目に、モーナに再度確認する。
「能力は? お姉にはあって、わたしには無いみたいだけど?」
「能力って言うのは、魔法とは別にある特殊能力、通称スキルだ。そしてスキルは、このマジックアイテムを使えば、誰でも覚えられるわ。ナミキもさっき覚えたのよ」
モーナはわたしに説明しながら、今度は手のひらサイズの正六面体の鉄の塊の様な物を取り出した。
「これはスキルゲットキューブ。魔力を使って、スキルを覚えさせたい相手にスキルを覚えさせられるのだ。早速おまえにも使ってあげるわね!」
モーナはわたしの返事を聞かずに、スキルゲットキューブと言う名のマジックアイテムに、恐らく魔力を注ぎ込む。
すると、スキルゲットキューブが白く光り出して、その光がわたしを包み込む。
「わっ」
わたしを包む光が消えると、わたしが装備しているステチリングから表示されている情報を、お姉が横から覗き見る。
特に何も変わらないと思いながら、わたしもお姉と一緒に情報を確認してみた。
豊穣愛那
職業 : 小学5年生
身長 : 137
BWH: 59・50・61
装備 : 学校指定の制服・スパッツ・靴下
属性 : 無属性『加速魔法』
能力 : 『必斬』未覚醒
「ひつざん?」
私が能力の項目に、新たに表示された文字を読み上げると、それを聞いたモーナが驚いた。
「必斬だって!? 凄いなおまえ」
「そうなの?」
「モーナちゃん。必斬って、そんなに凄いスキルなの?」
わたしとお姉がモーナに質問すると、モーナは何故か得意気に胸を張って威張りながら答える。
「必斬って言うスキルは、その名の通り狙った獲物を必ず斬る能力だ! 凄いだろ! 私も初めて見たわ!」
「何でアンタが得意気なのよ」
「愛那凄いです。これで、どんな固い食材も思いのままですね」
「そうだね」
「食材?」
お姉のボケボケにわたしが返事をすると、モーナが目を丸くして首を傾げた。
わたしはモーナに視線を向けて、目を丸くしているモーナに話しかける。
「ねえ。えっと……モーナ。魔法の使い方を教えてよ」
「仕方がないな。教えてあげるわ!」
モーナは得意気に胸を張って返事をする。
そんなわけで、わたしはお姉と一緒に、モーナから魔法の使い方を教えてもらう事になった。
お姉はわたしが眠っている間に、既に魔法の使い方を教えて貰っていた様で、凄く得意気に私に魔法を披露していた。
だけど、お姉に使えてわたしが使えない筈も無いので、わたしは直ぐに魔法をマスターした。
ちなみに、ステチリングの青い魔石は狙った相手の情報を見る事が出来るらしくて、早速モーナにこっそりと使ってみた結果がこれだ。
モーナス
種族 : 不明
職業 : 不明
身長 : 142
BWH: 68・53・72
装備 : 乳バンド・カボチャパンツ
属性 : 土属性『土魔法』上位『重力魔法』
能力1: 不明 覚醒済
能力2: 不明 未覚醒
モーナス?
モーナって名前じゃなかったんだ。
わたしとお姉と違って、種族なんて項目も出るんだって、あれ?
何これ?
種族と職業とスキルが不明ってなってる。
種族は猫の獣人じゃないの?
それに能力1と能力2?
しかも、わたしやお姉と違って、片方は覚醒済みって表記だ。
益々怪しい。
こうして、わたしはモーナに若干の不信感を抱いて、この日は終わりを迎えた。