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186 仲直りの印、少女は誓う

「モーナがかたつむりに似てるって言ってた仲直りの印がこれ?」


「丸いからな」


「……モーナってホントに馬鹿だよね」


「何でだ?」


 モーナの【欲望解放】とか言うスキルと、メレカさんのおかげで一命をとりとめたわたしは、踊歌祭ようかさいの日に貰うはずだった仲直りの印を貰った。

 あの時モーナはかたつむりに似てると言ってたけど、全然そんな事は無かった。


「ありがとう、モーナ。この指輪、大事にするよ」


 モーナから貰った仲直りの印、それは指輪だった。

 ドワーフの国でわたしが発掘した魔石を、ラヴィに頼んで加工してもらって作った指輪。

 それがモーナからのわたしへのプレゼントだった。


 指輪を右手薬指にはめて、ラヴィにも「ありがとう」とお礼を言うと、ラヴィは口角を少し上げて「うん」と頷いた。


 とにかく色々あったけど、やっと帰れる……とは残念だけどいかない。

 まだ帰れない問題がある。

 カールさんの助力も会って、連れ去られた孤児院海宮(かいきゅう)の子供達は無事連れだす事は出来た。

 子供達は皆無事で本当にそれは良かった。

 だけど現状はそれだけだ。

 革命軍の計画はまだ終わってない。

 玉手箱の【老化の煙(エージングスモーク)】を浴びてレオさんがお爺さんになってしまったらしいし、レオさんとリングイさんとフナさんがその煙にのみ込まれてしまった様だ。

 童話の浦島太郎じゃあるまいし、現実にそんな恐ろしいものがあるとか恐怖でしかない。

 3人が無事である事を祈るばかりだ。

 と言っても、祈ってばかりもいられない。

 助ける事が出来るなら、今直ぐにでも助けなくては。


 だから、わたしはまず状況を確認する為に、玉手箱の事を聞く事にした。


「古代兵器の玉手箱の煙が集束されたんだっけ?」


「だなあ。本当はマナを巻き込みたくなかったけど、私も世界一の美少女だ! 全部話すわ! 多分時間はまだ少しだけあるしな!」


「うわあ。自分で美少女って……って、それより、わたしを巻き込みたくないとか時間はあるとかって何?」


 わたしはモーナとラヴィ、それからメレカさんにも視線を向ける。

 ラヴィとメレカさんは分からないようで、首を横に振った。

 と言う事は、革命軍しか知らない情報だ。


「巻き込みたくなかったのは、マナがよぼよぼのお婆ちゃんになるからかもしれなかったからだ。もしかしたら死ぬかもしれないしな」


「煙を浴びたら年とっちゃうんだよね? しかも凄い勢いで」


「そうだな。だからマナにはさっさとドワーフの国に戻ってもらいたかったんだ」


 だったらそう言えば良いじゃん、と言う言葉を飲み込む。

 と言うか、ドヤ顔で話すもんだから、デコピンを食らわしたくなった。

 まあ、話が進まなくなったら面倒だからやめといたけど。


「時間って言うのは?」


「煙が集束されたのは、玉手箱の魔力をレブルが取り入れたからだ。それで魔力の量が多すぎて、体に馴染むのに時間がかかるんだ」


「取り入れる……?」


 何かヤバいものを感じた。

 そしてそれはわたしだけじゃない。

 メレカさんも驚いて、モーナに話しかける。


「私も玉手箱の魔力を人体に取り入れると言うのは、古い文献で見た事がありますが、命を失うリスクを背負うとも見ました」


「命を失う!?」


「死ぬのを覚悟で力を使って、レブルは復讐を果たすつもりだ」


「死ぬ覚悟って……」


「あいつは過去に罪を犯した。罪を償う為に命を捨てて、家族の為に復讐するんだ」


 何も言えず拳を握り締めた。

 カールさんに視線を向けると、悲し気な表情でわたしと目を合わせた。


「僕は始めから知っていたんだよ。だけど、知らないフリを……嘘をついたんだ。メソメと僕の妻はね、貴族に雇われた盗賊に襲われていたんだ」


「――っ! そんな……」


「僕は復讐を誓った。【平和の象徴者(ハグレ)】の一員になって、この命を投げ出してでも、奴等を皆殺しに出来ればそれで良いと思っていた。でも、僕にはそれが最後まで出来なかった。メソメが生きていて、そして君に会えてしまったから……」


「カールさん……」


「ハグレで暮らす皆は僕と同じ様な境遇の人達で溢れてるんだ。だから、僕達は復讐の為に命を投げ出す覚悟でここまで来た。リネントさんも……いや。もしかしたら、リネントさんは何かに心が捕らわれてるのかもしれない」


「心を捕らわれてる……?」


「リネントさんは寂しげな表情をたまに見せるんだ。あの時……始めてメソメやマナちゃん達と出会った時、毒海を使って船を襲った時もそうだったよ」


「わたし達が助けてもらった時……あの時、カールさんもいたんですね」


「別働隊として動いていたから皆の前には出なかったけどね。それに先に村に帰った。でも、後から聞いてあまりのショックで動転して意識を失いかけたよ。あの船にメソメが乗っていたって聞いて……正直、その頃からかな? 復讐心が薄れていったのは。復讐なんてものの為に、大切な娘を殺してしまう所だったんだ。よりによって自分のスキルの力を使って……」


 カールさんが顔を歪ませる。

 その顔は後悔に満ちていて、とても悲しい顔だった。


「でも、カールさん。メソメは生きてます」


「うん、そうだね。君のおかげで、君とラヴィーナちゃんのおかげで、メソメはまた僕の許に帰って来てくれたんだ。だからマナちゃん、子供の君にこんな事を頼むのは、大人として本当に情けないけど聞いてほしい」


 カールさんの真っ直ぐとした真剣な目がわたしへと向けられる。


「リネントさんは優しい人だ。本当はこんな革命軍の隊長なんてやる人じゃない。彼を見ていれば分かる。誰かを殺す度にいつも悲しい目をしてる。それにね、彼は一回、一回だけ言った事があるんだよ」


「言った事?」


「そう。彼は言ったよ。悪いのは貴族達とそれを抑えられなかった前女王で、貧しい国民にも寄り添う現女王は関係無い。都を襲う以外の方法も考えてみないか? ってね。結局は他の仲間達の気持ちがそれでは抑えられなくて、前女王の娘である現女王も同罪となってしまったけどね」


「そうだったんですね……」


「今にして思えば本当に自分が情けないよ。あの時の僕は、それを聞いても何とも思わなかった。もし僕の娘が、メソメが僕の娘と言うだけで、反逆者と言われて国に追われるような事があれば絶対に許せないのに……。娘は関係無いんだ。でも、僕は今までそれと同じ事をしていた」


「カールさん……」


 わたしが呟くと、小さな、本当に小さくて聞き取れないような声で、メレカさんが「耳が痛いわね」と呟いた。

 メレカさんは現女王の姉だから、きっと母親である前女王の事を誰よりも知ってるだろう。

 だからきっと、カールさん達革命軍の話を聞くと、色々思う所があるのかもしれない。


「リネントさんは復讐を誓った仲間の代わりをしているだけなんだ。だから、だからどうか彼を、リネントさん止めてほしい。君ならそれが出来ると僕は信じてる。メソメが尊敬する君の優しさがあれば出来ると」


「わたしは…………」


 とても真剣な目。

 わたしにカールさんの願いに応えられるだけの力があるだろうか?


愛那まな


 ラヴィがわたしの名前を呼んで左手を握る。

 わたしはラヴィに視線を向け、その真っ直ぐな虚ろ目を見て気付いた。


「わたしは革命軍の人達……ハグレの人達の復讐したい気持ちは分かりません。正直そんな事頼まれても、やりますなんて安請け合い出来ません」


「……そうだよね、ごめん。僕も子供の君に頼むなんて、どうかし――」


「でも!」


 わたしはカールさんの目を力強く見つめて目を合わせる。

 そして堂々と、力強く宣言する。


「リネントさんを止めてみせます!」


 そうだ。

 わたしがここに来たのは、モーナと一緒に帰る為。

 それなら、ちゃんと全部解決しないと、気になって帰れないじゃないか。


「手伝う」


「こうなったら元々の目的通りにレブルをぶっ飛ばすぞ!」


「微力ながらサポート致します」


 ラヴィとモーナとメレカさん、そしてわたしは顔を見合わせて頷いた。


「……ありがとう、マナちゃん」


 カールさんが涙を流す。


 そうと決まれば善は急げだ。

 まずは助け出した子供達を安全な場所に連れて行きたい。

 と、そこでわたしは思いだす。

 アタリーとラタが船で待ってくれているし、船の中なら安全だと。


「カールさん、子供達をお願いします。わたし達が乗って来た船があるので、そこならあんぜ…………あれ? そう言えば船は?」


 わたしは気付く。

 船が何処にも無い事に。

 そして、わたしの疑問に答えれる者はここにはいなかった。

 ラヴィは首を傾げ、メレカさんは左手でおでこを押さえて表情を曇らせる。

 まさに出鼻をくじかれたような状況。

 ここにきていきなりのトラブル発生……いや、既に発生していたと言うべきか。


「ねえ? モーナ。あんた達、まさかわたし達が乗って来た船を破壊しちゃったりなんかしてないよね?」


「出来るわけないだろ。マナ達より私達の方が早く来てたんだぞ。内部抗争もあってそれどころじゃ無かったわ」


「そうだよね…………っはあ!? 内部抗争!?」


「ハグレの村出身じゃない連中が、レブルのやり方が気に入らないって裏切ったんだ。おかげで被害が凄かったんだぞ」


「そうだね。僕も彼等に騙されて罠にかかって、ウェーブに助けてもらわなければ死んでいたよ」


 開いた口が塞がらなかった。

 まさかの内部抗争……いや、今思えばあり得る話ではあった。

 水の都に革命軍が攻めて来た時も、今にして思えばそれっぽい部分もあった。

 話によるとわたしが助けた教会の神父は、リングイさんやリネントさん達と深く関わりがある人みたいだし、何故そんな人を襲ったの? って感じだった。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 それならいったい何処へ?


 と、訝しんだ時だった。

 わたし達の目の前に【えーぞー君・水中仕様改】が現れて、音声を発した。


『やっとここまで来れたでち!』


『これで戦いの現場を生中継出来るわね!』


 聞こえてきたのはアタリーとラタの声。

 2人の声を聞いて、とりあえず無事だった事に安心する。


「何だこれ?」


 モーナが顔を顰めて突き、【えーぞー君・水中仕様改】がわたしの背後に回って逃げる。


『誰でちか!? 敵でちか!?』


『この女はマナの恋人よ!』


「んなわけあるか!」


『恋人たんだったでちかー』


「こっちからの声は聞こえてないの?」


『聞こえてるわよ』


「アタリーが聞いてないだけか……」


 わたしは背後に手を伸ばして【えーぞー君・水中仕様改】を掴み、目の前に持ってくる。

 と、そこで思いもよらぬ声まで聞こえてきた。


『愛那ちゃ~ん! お姉ちゃんですよ~』


「お姉!?」


『はい~。愛那ちゃんの大好きなお姉ちゃんです~』


「何でそこにって言うか、何で一緒にいるの?」


『思ったより早くこちらの用事が終わったので、こっちに来ちゃいました』


「ふーん……って、そうだ。今何処にいるの?」


『何処でちか?』


『さあ?』


『何処ですかね?』


 最早コントだ。

 もう放っておいて、早くリネントさんを止めに行こう。と、わたしは【えーぞー君・水中仕様改】を背にして「行こうか」と口にする。

 すると、【えーぞー君・水中仕様改】がわたしの目の前に来て、小刻みに動いて抗議する。


『マナたん待つでち! 大事なお話があるでち!』


『そうよ! 話を最後まで聞くべきだわ!』


「これからリネントさんを止めに行くから邪魔しないでほしいんだけど?」


『それを今から全国ネットで流すんです! えーぞー君で愛那ちゃん達の活躍を水の都の皆さんにお見せするんです! お披露目会で優勝した愛那ちゃんの生ライブです!』


「別に今から歌と踊りをお披露目しに行くわけじゃないんだけど?」


『ちっちっちー。分かっていませんね~。竜宮城と言えば、タイやヒラメ達の盆踊りです!』


 ここで通じるのがお姉とわたしだけなので、心の中で「盆踊りでは無いだろ」とツッコミを入れる。

 尚、お姉の話はまだ続く模様。


『そしてごちそうです! この船には愛那ちゃんの手料理と言うご馳走があるので、私は今からご馳走を食べながら愛那ちゃんの活躍を見るのです!』


 竜宮城に眠ってたとか言う古代兵器のマジックアイテム玉手箱、お姉に使えば童話の浦島太郎だな。


『ナミキたん、船が壊れてて動かないから、一緒に来てくれたデリバーたんに直ちてもらってて動けないだけでちよ?』


『あ、駄目ですよ、アタリーちゃん。愛那ちゃんのやる気を出す為の最高の褒め言葉を言ったんですよ』


『とうだったでちか!? ごめんなたいでち!』


『いいんです。きっと愛那ちゃんなら分かってくれます』


 つまり、船が壊れて助けには来れないと。

 大事な話は多分これだ。

 とりあえず楽しそうなのでお姉達は放っておいて問題無いだろう。


「お姉は放っておいて、さっさとリネントさんを止めて帰ろう。カールさん、子供達を連れて、出来るだけ安全な場所まで行って下さい」


「あ、ああ。うん。分かったよ」


 なんとも締まらない門出だけど、兎にも角にも決戦だ。

 わたし達は再び竜宮城……最終決戦の場へと向かった。

 するとその時、【えーぞー君・水中仕様改】から鼻をすする小さな音が、お姉の「モーナちゃん……愛那、良かったですね」と言う声が小さく聞こえた。

 なんだか胸が熱くなる。


 お姉、心配させてごめん。

 もう大丈夫だよ。

 だから見ててね。

 絶対全部終わらせて、皆で帰るから。


 わたしは右手の薬指にはめた指輪に左手で触れて、そう心に誓った。

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