180 古代兵器解放の時
「はあ、はあ……。思った以上に……手こずったわね」
「思った以上に? おまえは馬鹿か。元女王第一候補だった奴だぞ。弱いおまえが甘く見るな」
「……っ。そうね。あなたの言う通りだわ、モーナス」
「ステラ、君は少し休んでいた方が良い」
「ロン兄……うん。そうする」
ここは竜宮城の最上階。
古代兵器が封印されている大きく広い一室。
他の部屋とは違い、掃除や手入れでもされていたのかと思える程に全てが綺麗な部屋。
ここだけは他と違って何らかの結界が張られている様で、この城が栄えていた当時の姿のままになっていた。
そして、ここで先程まで戦いが繰り広げられていて、今は決着がついた直後だ。
ステラさんはリネントさんに頷いて、体を休ませる為に近くの壁に寄り掛かる。
すると、入れ替わる様にして革命軍の男が2人、リネントさんとモーナに近づいた。
「お見事でした。これで憎き女王も悔しがる事でしょう」
「待てっ! こいつ息をしてるぞ! このガキもだ! 俺が止めをさしてやる!」
「おい、おまえ。誰が止めをさして良いって言った?」
モーナが男に近づき殺気を放つ。
男は顔を青ざめさせて、恐怖のあまり「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げて、その場で尻餅をついた。
「モーナス、彼を許してやってくれ。彼は前女王に家族を殺されたも同然の経験をしている」
「知るか」
リネントさんの言葉を一蹴し、モーナは尻餅をついた男に詰め寄った。
「いいか? 卑怯な事しか出来ない、戦いを見る事しか出来なかった奴が余計な事をしようとするなよ? もし今度また余計な事をしたら、私はお前とお前の家族や関係者を地の底まで追い詰めて殺すからな」
「わ、分かった! 俺が悪かった!」
「分かれば良い」
モーナは男から離れてリネントさんに近づいて、少し離れた場所にいる捕らわれているフナさんや子供達に視線を向けた。
フナさんと子供達は今は眠らされていて、その周りにはダンゴムシと革命軍の女が2人がいる。
彼女等は人質たちが逃げない為の見張りだ。
先程リネントさんに近づいた男2人を合わせて、この場には見張りが4人いる。
「あいつ等はいつ逃がしてやるんだ?」
「地上に戻ったらだ。こんな場所で自由の身にしても帰る事も出来ないだろうからな」
「そうか……さっさと封印を解くぞ」
モーナはどこか悲し気な表情で、先程まで戦っていた相手を見た。
その相手は、ラヴィとメレカさんの2人だ。
ラヴィとメレカさんはわたしより先にここに辿り着き、モーナとリネントさんとステラさんを相手にして敗れてしまっていた。
最初こそラヴィとメレカさんも順調だった。
だけど、人質をとられてしまった効果は大きかった。
ラヴィとメレカさんに止めをさすと言った男に、モーナが怒った時に言った言葉はまさにこれの事だ。
男が戦闘中に人質を利用してラヴィとメレカさんの動きを鈍らせた。
モーナはその時点で攻撃の手を止めたけど、リネントさんとステラさんは止めなかった。
その結果、ラヴィとメレカさんは敗れたのだ。
「ああ、そうだな」
モーナの言葉にリネントさんが頷き、部屋の中央にある台座へと足を運ぶ。
そして、リングイさんから奪った木彫りの亀を取り出して、その台座の上に静かに置いた。
「では始める」
リネントさんが木彫りの亀を通して台座に向けて魔力を送る。
すると、台座は淡い光を放ち出した。
「あーあ。もうリン姉に合わせる顔、本当に無くなっちゃったな」
不意にステラさんがそう呟いて、眉根を下げて小さく笑んだ。
それを聞いたモーナは、眉根を少し上げてステラさんを睨んだ。
「後悔するならおまえはメソメと一緒に残れば良かっただろ」
「そうだね。でも、そう言うわけにいかないよ。あの時の決着をつける為にも、私はここに来なきゃいけなかったから……。でも、まさか本当にあの木彫りの亀で封印が解けるだなんて思わなかった」
「あれか? 確か【霊樹】って珍しい木で作られてるんだよな? 私も見るのは初めてだわ」
「うん。昔、私達がリン姉にあげたお守り」
「だから後悔か?」
「うん、そうだね。だから、だから本当は使いたくなかった。だけど、あの封印を解く為には【霊樹】を通して【瑞獣種】の魔力を送る必要がある。あれは、ロン兄と木彫りの亀がないと出来ないのよ」
「そうだな」
台座の淡い光が段々と強くなり、それは淡い光ではなくなる。
眩しい程に輝く台座は、途端に変化を、姿を変えていく。
「リネントさん! 駄目だああああああああ!」
突然聞こえたリネントさんを止めようとする声。
モーナとステラさんが声のした方に振り向くと、そこにはボロボロになったウェーブが立っていた。
ウェーブの顔色は悪く、フラフラと走りながらリネントさんに近づいていく。
だけど、リネントさんは振り向かない。
振り向かず、未だに姿を変えていく台座に魔力を送っている。
「あの馬鹿っ」
ステラさんが呟いて、ウェーブの許に走って止めた。
「ウェーブ、どう言うつもり?」
「どけステラ! アレをを使うのは中止だ!」
「何言ってるの? アレを使うのを提案したのは貴方なのよ!? それを今更この状況で中止って、ふざけるのも大概にしてよ!」
「違う! 違うんだよ! 提案したのは俺じゃない! 記憶が無かったんだ! 俺は!」
「はあ!? 怪我が酷い様だけど、リン姉を止めるって出て行って、リン姉相手に油断して頭でも強く打ったの?」
「信じてくれステラ! そうじゃなきゃお前を――――」
瞬間――台座の光が部屋の中を真っ白に染め上げ、一瞬の内に集束していった。
木彫りの亀は役目を終えて錆びついた様な色になり粉々に砕け、そして、台座は完全に姿を変えて一つの箱になった。
黒地の箱に、蓋には目立ちすぎない控えめな波模様。
朱色のねじられた紐が、その箱が開かぬ様に結ばれている。
「これが……これが古代兵器、マジックアイテム【玉手箱】か!」
リネントさんが箱を手にして持ち上げる。
そして次の瞬間、リネントさんは何者かに真横に吹っ飛ばされる。
突如現れた一つの影。
それを見て、ステラさんが驚きの声を上げた。
「――っリン姉!?」
そう。
リネントさんを吹っ飛ばしたのはリングイさんだった。
リングイさんが到着直後にリネントさんの顔を殴って、真横に吹っ飛ばしたのだ。
そしてそこで、わたしとカールさんもこの場に到着する。
「ここが――って、え!? リングイさんがいる!」
わたしの目に映ったのは、リネントさんが吹っ飛ばされた直後。
吹っ飛ばされた場面は見ていなくて、部屋のど真ん中にリングイさんが立っている姿が、一番最初に目に映った。
この場に辿り着いて最初に見た相手がリングイさんなものだから、わたしが驚いて声を上げたのも仕方が無いと言うもの。
なにせ、リングイさん毒海と化した海水の中に置き去りにして来たのだ。
先に来ているなんて思いもよらなかった。
「マナ、無事だったか!」
驚いていると、そう言ってわたしに近づいて来た人が1人。
わたしはその人を見てもう一度驚く。
「レオさん!? 無事だったんですね!」
わたしに近づいて来たのはレオさんだった。
レオさんは体のあちこちに怪我をしていたけど、それでも元気そうに笑っていた。
しかも、レオさんが来た方向には、革命軍の何人かが倒れている。
多分レオさんが今倒したのだろう。
こちらに笑いながら来るレオさんは、武器を鞘に納めていた。
「まあな。ウェーブと殺り合ってたけど、あの野郎途中で急に逃げやがって、元いた場所に戻ったらリングイさんがいたから天井をぶち破りながら連れて来たんだ。俺もこの場所は知ってたからな。ほらあそこ」
視線を向けると、床には大きな穴が開いていた。
「滅茶苦茶ですね……って、毒は?」
「ああ、毒は斬った」
「斬った!?」
まさかの斬った発言。
つまりどう言う事? と言いたいその言葉にわたしは驚いて確認をしようかと思ったけど、それは出来なかった。
何故なら、その時カールさんに肩を叩かれ、慌てるような声で話しかけられたからだ。
「大変だマナちゃん! ラヴィーナちゃんが倒れている!」
「――っえ?」
わたしは焦り、ラヴィの姿を捜す。
部屋の中央にはリングイさんがいて、その近くにはウェーブとステラさん。
少し離れた場所には、フナさんや子供達が眠らされているのか身を寄せ合って座っていて目を閉じている。
そして、その側にはハグレの村でメソメとカールさんのパーティにいた女の人が2人。
レオさんが歩いてきた方には気絶した男が2人。
ラヴィを見つけれないわたしに場所を示すように、カールさんが指をさした。
急いでその先に視線を向けると、その先には倒れてピクリとも動かないラヴィの姿と、その近くには同じ様に倒れているメレカさんの姿があった。
2人には外傷があり、血を流していた。
そして……そしてその近くにはモーナの姿が。
一瞬にしてわたしの心の余裕はなくなった。
血の気が引いていき、モーナと視線が合う。
わたしは魔法を自分にかけ、全力で走った。
「モーナ! ラヴィとメレカさんに何したの!?」
「心配するな。2人とも生きてる」
「――っ!」
走る速度を緩め、ラヴィとメレカさんに近づく。
モーナの言う通り、2人とも無事……とは言えないかもしれないけど、気を失っているだけで息はあった。
目立った外傷がないわけでもなく、体のあちこちが傷だらけになっていたけど、命に別状が無い事にわたしは一先ず安心する。
だけど、その安心も直ぐに終わる。
わたしはモーナを睨んで目を合わせる。
「モーナ、一緒に帰るよ」
「……それは出来ないな。おまえだけさっさとラヴィーナ達を連れて帰れ」
「はあっ? そんなの出来るわけないでしょ?」
「絶交なんだろ? 私もマナとはそのつもりだ。もう絶交なんだ。さっさとどっか行け」
「お生憎様! わたしにその言葉はもう効かないんだから!」
カリブルヌスの剣を抜き取って、剣の切っ先をモーナに向ける。
「悪いけど、強情張るなら力尽くで連れて帰るからね」
「マナが私を力尽くで? 出来るわけないだろ。マナ、おまえはおまえが思っている以上に弱いぞ。そんな弱いおまえが私に勝てるわけないだろ」
「やっぱりモーナって馬鹿だね。確かにわたしは弱いかもしれないけど、弱者が強者に勝てないとは限らないんだよ」
「はあ? そんなわけないだろ」
モーナが呆れたような表情を見せる。
わたしはそんなモーナを鼻で笑ってやり、そして構えた。
「証明してあげるよ、モーナ。そして絶対に連れて帰るから!」




