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177 毒海の正体

 リングイさんと合流し、再び竜宮城の中へと侵入する。

 侵入先はわたしが罠にかかったあの場所。

 他の場所からとも考えたけど、何処に何の罠があるのかも分からないし、リネントさんやモーナの居場所も分からないので、知っている場所から侵入するのが安全だと考えた為だ。


 再び先程の場所に入ると、ボロボロだった所が更にボロボロになっていた。

 そこ等辺にわたしに斬られた槍やおりの残骸が水中を漂っていて、どうにも視界が悪い。

 とは言え、おかげで罠が作動する様子も無く、簡単に先に進む事が出来た。


「やっぱり罠って結構あるんですかね?」


「そうだな……。今の部屋とオイラが罠にかかった場所は、賊が侵入した時にわざと通らせる所だと思うんだよなあ」


「そうなんですか?」


「昔さ、イングから見せてもらった本に書いてあったんだよ。普段日常では通らない部屋や通路に罠を仕掛けるってな。何故かってのが、侵入した賊を通らせて罠にかける為だってな」


「成る程」


 逆に言ってしまえば、この城に住んでいた人達が日常で使っていた部屋や通路には罠が無いと言う事。

 それなら上手くいけば一つも罠にかかる事なく進める。

 でも、その場所が分からないので、わたし達は結局は運に身を任せるしかない。


 とにかく、通路を警戒しながら横に並んで進む事にした。

 本当なら前と後ろに並んだ方が良いかもだけど、わたしに前を任せても後ろを任せても危ないとの事。

 そうして進んで暫らく経つと、リングイさんが何やら浮かない顔して口を開いた。


「気になるんだけどな」


「はい?」


「イング達はここを攻略する為にフナを連れてったのに、何でオイラの元家族が罠に引っ掛かってたんだ?」


「あ、確かにそうですね。何かあった……とか?」


「分からねえけど可能性はあるな。恩人の神父様を襲ったりしてるし、内部崩壊でも起きてるのかもな」


 リングイさんはそこまで話すと、急に足を止めてわたしの目の前に腕を伸ばした。

 突然の事だったから驚いてわたしも足を止めると、リングイさんが周囲を警戒しながら腰にぶら提げている甲羅に手を伸ばす。


「リングイさん?」


「マナは下がってろ。相手が悪い」


「へ――――っ!?」


 言われた意味は直ぐに理解した。

 前方から誰かが2人現れる。

 現れたのは毒海どくうみで離れ離れになったレオさんと、メソメの父親のカールさんだった。

 わたしは2人が一緒に現れた事に驚き、そして戸惑った。

 だけど、そんな事2人には関係無い。

 レオさんはカットラスを腰の鞘から抜き取り、どう見ても敵対する構え。

 カールさんはホイッスルの様な笛を口元に当て、同時にラージマウスドラゴンが2体現れる。


「よお。マナちゃん、元気だったみたいだな」


「まさか君までここに来るなんてね。非常に残念だよ」


「レオさん、それにカールさんも…………」


 わたしは一歩後退る。

 リングイさんに下がってろと言われたからじゃない。

 2人と争いたくないという気持ちが出たからだ。


「かっかっかっ。しつこいねえ、カール。やっぱりお前はオイラ狙いか?」


「え? リングイさんを狙ってる?」


「そうですね、リングイさん。貴女を止められる仲間は他にいないので。それにしても、さっきも思いましたけど、あの頃と比べて随分と変わられましたね」


「まあな。オイラにも色々とあるんだよ、カール」


「リングイさんとカールさんって知り合いだったんですか……?」


「昔ちょっとな。義弟の友達なんだよ」


「そうなんですね……」


「カール、さっきも言ったけどもう一度言うぜ。邪魔するなら容赦はしない。殺されたくなかったらそこをどきな」


 リングイさんの目は本気だ。

 間違いなく、そこをどかなければレオさんだけでなく、知り合いであるカールさんをも殺す気でいる。


「だってさ。カールさん、どうする?」


「僕にはウェーブやハグレの村……リネントさんや皆に大きな恩がある。だから、例え相手が昔の知人や娘の恩人のマナちゃんでも引くわけにはいかない。僕のスキル……【魔獣操奏ビーストマスター】で止めてみせる」


「そう言う事だ。ここから先へは行かせられないな」


 レオさんが鋭い眼光をリングイさんに向け、リングイさんも負けじとレオさんを睨んで睨み合う。

 ラージマウスドラゴンもわたし達を威嚇した。

 そして、わたし以外の3人と2匹が同時に動いた。

 わたしも直ぐにリングイさんに続こうとしたけど、手のひらを顔に向けられた。


「マナはそこで見てな! モーナスと会うまで力を温存した方が良いからな!」


「――っはい!」


 モーナと会うまで。

 その言葉だけで、わたしは完全に停止する。

 もし戦い辛いだろうからなんて言葉だったら、きっとわたしは一緒に戦おうと思っただろう。

 それが分かってなのかどうかは分からないけど、わたしを戦わせない様にリングイさんがかけてくれた言葉は完璧だった。

 わたしは邪魔にならないように少しだけ後ろに下がって、今はリングイさんを見守る事にした。


「今度は逃がさない」


 カールさんがそう言って笛を口元に当てる。

 しかし、笛の音は聞こえない。


「なんだ? カール。ラヴィーナとメレカさんにも逃げられたのか!? そいつは朗報だなあ!」


 リングイさんがカールさんに接近。

 そこでラージマウスドラゴンの内一体がリングイさんの目の前に出て大口を開け、溶解光線を放射する。

 リングイさんは持っていた甲羅を前に出して溶解光線を防ぎ、そのまま進んでラージマウスドラゴン口の中に手をつっこんだ。


「弾けな! ウォーターショック!」


 瞬間――ラージマウスドラゴンの頭が弾け飛び、辺り一面に血液と肉片が飛び散った。


「ラージマウスドラゴン程度じゃオイラは止められねえっての!」


「こいつじゃ駄目か! だけどっ!」


 カールさんが再び口元に笛を当てる。

 すると次の瞬間、リングイさんのいる床下から何かが砕かれる様な轟音が響き、瞬く間も無く床が破裂。

 破裂した床の下から巨大なかにが……いいや、蟹に龍の頭と尻尾を生やした生物が飛び出した。


「こいつならどうだ!? ラージマウスドラゴンとは比べ物にならないぞ!」


「クラブドラゴンだと!?」


 リングイさんがクラブドラゴンと口にしたその生物は、飛び出してくるなりハサミをリングイさんに向けて、一直線に向かう。

 その速度は凄まじく、鳥が空を飛ぶように速い。

 リングイさんは避けようとして横に泳いだけど、避けきれなかった。


「――っぅ!」


 クラブドラゴンのハサミがリングイさんの横腹を掠めて深く斬る。

 そして、それだけでは終わらない。


「リングイさん、上ーっ!」


 わたしが叫び、リングイさんが上を見上げる。

 リングイさんの頭上からは、残っていたラージマウスドラゴンが接近していたのだ。

 ラージマウスドラゴンの接近に気付いたリングイさんは直ぐに甲羅を頭上に向けて出し、次の瞬間、ラージマウスドラゴンの突進がリングイさんを襲った。

 だけど、それは間一髪の所で甲羅を頭上に出したおかげで防ぐ事が出来た。

 でも、その突進の威力はかなりのもの。

 リングイさんは突進を防ぐも衝撃で床に叩きつけられる。

 それは床を破壊する程の衝撃で、それを背中に受けてリングイさんは顔を歪めた。


 わたしも見ているだけじゃない。

 この戦いの中、わたしは一つの事に気がついた。

 カールさんが口元に笛を当てていた時、笛の音は聞こえていないけど、カールさんは笛を吹いていたのだ。

 その度にドラゴン達は動き、リングイさんに攻撃をしていた。

 つまり、あのホイッスルの様な笛でドラゴンを操っていると言う事。


 あの笛さえ壊せば!


 わたしは出来るだけ目立たないように、カリブルヌスの剣では無く、ラヴィから貰った短剣を掴んでスキル【必斬】を乗せて振るう。

 目標はカールさんの笛。

 威力は弱めて、あくまで目標の笛だけを斬る威力。


「悪いな、マナ」


 わたしが飛ばした斬撃は、レオさんのカットラスで相殺されてしまった。

 そして、レオさんがわたしの前に立ちはだかる。


「レオさん……」


「もうちょっと俺と一緒に見物しようか」


「そこをどいて下さい!」


「いいからいいから。そんな怒るなって。黙って見物しようぜ」


 そう言って、レオさんが目の前から消えた……違う。

 レオさんはいつの間にかにわたしの隣に立っていた。

 その事実にわたしが驚いて距離を置こうと足を上げると、肩を掴まれ耳元にレオさんの顔が近づく。


 ヤバ――――


「ごめん。本当に黙って見物しててくれないか? 本気でヤバそうなら俺があの少年(・・・・)を助けるからさ」


「――へ?」


 突然こそこそと小声で話しかけられてわたしは驚く。

 てっきり頭突きでもされて、そのまま気絶させられると思っていたけど違っていた。

 と言うか、さっきまでの雰囲気と違い、レオさんはあの船で会った時の様な雰囲気に戻っていた。

 だから、わたしは眉を顰めてレオさんに視線を向けて声を小さくして尋ねる。


「どう言う事ですか? わたし達の邪魔するんじゃなかったんですか?」


「事情があるんだよ。成り行きであいつ等に手伝ってるだけで、本気で邪魔しようとしてるわけじゃない」


「……成り行きって…………まあ、良いですけど。それよりリングイさんは男じゃなくて女ですよ」


「え? マジ? あの見た目で?」


 あの見た目……まあ、言いたい事は分かる。

 わたしも最初間違えた。

 なんせ、リングイさんの姿ときたら相変わらずなのだ。

 緑のシャツに長ズボンと言うラフな格好で、胸もそんなに無いからブラを付けていないらしいし、髪の毛だって長くない。

 身長も148センチしかないパッと見少年なリングイさんは、これでも立派な大人の女性だ。


「試しにステータスチェックリングで情報をこっそり見せてくれよ?」


「は? 何言ってるんですか? 女の人の情報をこっそり見るとか最低ですね」


「いや、だって相手はまだ子供だろ? そんな気にする様な事か?」


「大人とか子供とか関係ないし、子供のわたしだって見られるのは嫌です。それと、リングイさんは大人です。子供じゃありません」


「マジで? あれで?」


「レオさん、さっきから失礼すぎですよ」


 流石に度が過ぎていると思ったので、少しばかりきつく睨む。

 すると、レオさんも流石に不味いと思ったのか、眉根を下げて声のトーンを下げる。


「……すまん。デリカシーが無さ過ぎた俺が悪かった」


「はい。リングイさんには黙っておいてあげます」


「ありがとな」


「いえいえ」


 って、こんな呑気に話してる場合じゃない。

 わたしとレオさんがそんな事を話している間も、リングイさんとカールさんの戦いは続いているのだから。


 直ぐに戦いの行く末を見る為に視線を向けると、丁度その時だ。

 ラージマウスドラゴンがリングイさんに突進し、リングイさんがそれを避けて真下に潜る様に移動し蹴り上げる。

 その蹴り上げた方角にはクラブドラゴンがいて、リングイさんから見て一直線にラージマウスドラゴンとクラブドラゴンが前後に並んだ。


「たかがドラゴンの二匹いいいい!」


 リングイさんが甲羅を両手で掴んで二匹のドラゴンに向かってかざし、甲羅の前方に水色の魔法陣が浮かび上がる。


「フローズンショット!」


 瞬間――魔法陣からパッと見で直径50センチ以上もある巨大な氷の弾丸が飛び出し、瞬く間も無く二匹のドラゴンを撃ち貫いた。

 そして、二匹は大きな風穴を開けられると、血を吐き白目をむいて絶命した。


「リン姉、強くなったな」


「――――っ!?」


 二匹のドラゴンを倒して直ぐ、突然聞こえた声。

 わたしは、わたし以上にリングイさんが、その声を聞いて驚愕し、声のした方へと視線を向けた。


「あの時、あの時リン姉にもそれだけの力があったら、あいつは死ななかったかもしれない。遅いんだよ全部。リン姉も……俺も…………」


「ウェーブ!!」


 声の主はウェーブで、ウェーブはどこか悲し気な表情でカールさんの隣に立っていた。

 リングイさんとウェーブが目を合わせ、ウェーブは儚げな笑みを見せる。


「ああ、久しぶりだなリン姉。まさか来てたとはな。カールさんから報告を受けて驚いたよ。マナちゃんまで引き連れて、本当に勘弁してほしいぜ。だけどさ、悪いけどここまでだ。知ってるか? 毒海どくうみの正体って奴を」


「毒海? ウェーブ、何を言って――」


 刹那の瞬間、ウェーブを中心に、海水が紫色に染まり始める。

 見覚えのある紫色の海水。

 それは、その紫の色は、わたしは何度も見てきた。


「俺のスキルの名は【終焉を呼ぶ雫(エンドドロップ)】」


 ウェーブがニヤリと笑みを見せ、そして、カールさんが笛を吹く。

 すると、次の瞬間、何処からともなく毒海蠍ポイズンシースコーピオンの群れがやって来て、わたし達は一瞬で囲まれてしまった。


「俺とカールさんが揃えば、もう誰も止められねえ。誰ももが無力になる」


「ウェーブ、お前……っ!」


「俺のスキル【終焉を呼ぶ雫(エンドドロップ)】と、カールさんのスキル【魔獣操奏ビーストマスター】の力の前ではな!」

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