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176 恐怖!?海場を制する柴犬?

 話は少しさかのぼり、わたし達が竜宮城に入った頃。

 竜宮城の外で待機していたアタリーとラタの身にも、恐ろしい事件が起きようとしていた。


「待っているってのも結構暇ね」


「ラタたん、マナたん達が行ってから、まだ1分も経ってないでちよ? 流石に暇になるのが早いでち」


「1分も経てば十分よ! 私様わたくしは私様のマナに何か恐ろしい事が起きてないか心配なの!」


「心配になる気持ちは分かるでちが…………あれはなんでち?」


「なによ?」


 アタリーが何かに気がついて、正面のやや左寄りを指さす。

 ラタは少し不機嫌気味にその方角へ視線を向けて目を細めた。


「犬?」


「可愛いでち」


 2人が見たのは確かに犬で、正確に言うと柴犬だった。

 しかし、明らかにおかしい。

 ここは水深約10万キロの深海も深海の奥深く。

 こんな所に柴犬がいるなんてどう考えてもあり得なかった。

 と言うか、更にもう一つ、明らかにおかしい事に2人は気付く。


「ねえ? あの犬、少し大きくない?」


「少ちぢゃないでち! もの凄く大きいでち! とれに何か後ろがお魚の形でち!」


 そう。

 柴犬の下半身は魚の様になっていて、足も上半身の前足だけ。

 しかも、その大きさが凄まじかった。

 最初は小さく見えていた柴犬は、どんどんと大きくなって……いや、こっちに近づけば近づくほどにその大きさが凄まじいと分かったのだ。

 その凄まじい大きさは、数字にすると300メートル。

 恐ろしくデカい、下半身が魚な大きな柴犬。


 アタリーとラタは驚愕し震えた。

 そして気がついた。

 このままでは不味い事になると。


「全速前進! 逃げるわよ!」


「りょりょりょ了解でちいいい!」


 船をアタリーロボへと変形させて回れ右。

 最早戦うと言う選択肢を捨てて、2人は迷わず全速で柴犬から逃げる。

 しかし、2人の乗った船が変形して逃げ出すと、柴犬が目を光らせて泳ぐスピードを上げてきた。

 その姿はまさに犬かき。

 上半身だけは見事に可愛らしい犬かきで、下半身の魚部分は優雅に泳ぐ。


「なんでちかあのお犬たんは!? 見た事ないでちいいい!」


「あれは深海の怪物シーバイッヌよ!」


「知っているでちかラタたん!?」


「ええ」


 2人は真剣な面持ちでごくりと唾を飲み込み、そして、ラタが言葉を続ける。


「深海の怪物シーバイッヌはその昔バセットホルン城……竜宮城や船に乗る人々を脅かした海場うみじょうを制する柴犬よ。一度捕まれば甘噛みで城の壁や船に穴が開き、舐め回されれば空気を覆う膜はそのまま舐めとられてしまうわ」


「――な、なんて恐ろちいお犬たんでち!」


「それだけじゃないわ。シーバイッヌの嗅覚は水中の中でこそ輝く構造をしていて、一度気に入った獲物は決して逃がさない! まさに海場を制する柴犬。昔、遠い過去のご先祖様達は畏敬の念を込め、シーしばとかけて“シーバ”イッヌと名付けたわ。歴史の授業を習えば誰でも知ってる事よ!」


「お、恐ろちい怪物でち!」


「とにかく逃げ切るわよ! あのつぶらな瞳に惑わされたら最後、私様達がシーバイッヌに捕まれば、舐め回されてマナが戻って来た時に空気が無くて困ってしまうわ!」


「分かったでち!」


 アタリーロボの尻尾の部分からジェット噴射の如くもの凄い勢いで空気が吐き出される。

 これはアタリーロボの奥の手の一つ、船の空気を一部使う事で超スピードを出す技だ。

 しかし、シーバイッヌのスピードはそれを上回っていた。

 超高速な犬かきで一瞬にしてアタリーロボの前に飛び出して、アタリーロボは急には止まれないので激突する。


「そんな――っきゃあああ!」


「でちいいいいいい! 目が回るでちいいい!」


 強い衝撃が2人を襲い、2人は操舵室で転がって、シーバイッヌもぶつかった衝撃で「きゃうんっ」と可愛い悲鳴を上げて涙目になる。

 と言うか、よっぽど痛かったのかクンクンと鳴き出す。

 なんと言うか……可哀想な感じである。


「ラタたん無事でちか!?」


「な、なんとか無事だけど……」


 ラタは頭を抱えて立ち上がり、直ぐに状況を確認した。

 そして、外部からの映像を出して顔を青ざめさせた。


「なんて事!? シーバイッヌのお腹から血が出て、それを狙って吸血うにが群がってきているわ!」


「大変でち! お犬たんを護るでち!」


 外部映像に映し出されたのは、アタリーロボとの衝突事故を起こしてお腹から血を流すシーバイッヌと、その血に誘われてジリジリと近づく吸血うにの群れ。

 吸血うにはその身に纏う針をうねらせて、今まさにシーバイッヌを襲おうとしていた。

 シーバイッヌは体長300メートルもある巨体。

 しかし、吸血うにの数はその巨体を覆えてしまえる程の量。

 このままでは危ないと、アタリーとラタはアタリーロボの出力を上げる。


「ミタイルを発射ちて一気にいくでち!」


「分かっ――駄目だわ! さっきの衝突でミサイルの発射口が誤動作を起こしてる!」


「とれなら他の武器を使うでち!」


「了か――駄目だわ!」


「今度はなんでちか!?」


「さっきシーバイッヌから逃げる時にエネルギーを使いすぎて使えないわ!」


「なんでちってーっ!」


 2人が騒いでいる間にも、刻一刻とシーバイッヌの血を吸おうと吸血うにが迫っている。

 万事休すかと思われるこの状況下で、焦るアタリーの横でラタが不敵に笑んだ。


「どうやら、アレを使う時が来たようね」


「――っアレを使うでちか!?」


 2人の顔が真剣な面持ちとなり、2人の目の前になんだかよく分からないレバーが出現する。

 そして、2人はそれを掴み、思いっきり手前に引いた。


「「超必殺! アタリー()ンダー!」でちー!」


 瞬間――アタリーロボから高出力の電撃が放たれる。

 それは周囲を包み込み、吸血うにどころか、シーバイッヌもろとも電撃を浴びせた。


 アタリーサンダーとは、船を動かすのに使っている雷の属性が入っている魔石の力を使って、周囲に電撃を浴びせる恐ろしい攻撃。

 一度使ってしまえば最後。

 船の動力源であるその魔石の魔力を全て消費してしまう為、船が動かなくなってしまうのだ。

 いや、本当に何で使ってしまったのか謎なこの攻撃。

 しかも、助けようとしていたシーバイッヌまで巻き込んでいて、状況は最悪としか言えないものとなった。

 吸血うには全滅し、周囲をたまたま泳いでいた無害な深海の生物……と言うか魚達も全てが死んでいく。

 そして、電撃が治まる頃、半径1キロ以内の生物の殆どが死滅してしまった。

 本当に大迷惑なこれが、もし竜宮城の近くでやられたらと思うと、ゾッとするどころの騒ぎじゃない。

 シーバイッヌから逃げる為にかなりの距離を進んだおかげで、運良く電撃の射程範囲から逃れていたのでわたし達は助かった。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。

 とにかくだ。

 周囲の生物を死滅させてしまった無知で罪深い幼き少女の2人は、恐る恐る周囲の状況を確認する。


「やったか……でち?」


「見なさい!? シーバイッヌが真っ黒焦げになっているわ!」


「とんな! 酷いでち! 吸血うに、許てないでち!」


「吸血うにがこんなにも恐ろしい生き物だったなんて……」


 完全に吸血うにのせいにしているけど、勿論この2人のせいである。

 と言っても、2人は本気で気付いてない。


「ラタたん、お犬たんが生きてるか確認つるでち!」


「分かったわ。今直ぐアタリーロボをシーバイッヌに近づけて……そんな! 起動しない!?」


「――なんでちって!? 本当でち! アタリーロボが動かなくなったでち!」


「吸血うに! なんて奴等なの!?」


「動いてでち! アタリーロボ動いてでちいい!」


 2人が再起不能になったアタリーロボになげき涙する。

 くどいようだが、この2人のせいである。


「仕方が無いわ。外部の映像を映す為だけの予備エネルギーなら残ってる筈だから、せめて外部の映像でシーバイッヌが無事かどうか調べるわよ」


「……分かったでち」


 アタリーとラタは涙を拭い、シーバイッヌの無事を【えーぞー君・水中仕様改】を使って確かめる。

 すると、シーバイッヌは黒焦げになっているものの、2人が【えーぞー君・水中仕様改】を近づけたら耳をピクリと動かして目を覚ました。

 と言うか、大量にいた吸血うにを全滅させた電撃を浴びたと言うのに、シーバイッヌは魚の尾を元気良く振るくらいには元気だった。


「生きてたでち」


「良かったわ。あ、それより見なさいよ! 何故か魚がいっぱい死んでるわ! ほら! シーバイッヌが食べ始めたわ。お腹が空いていたのね」


「本当でち! いっぱい食べるでちよ~」


「そうだわ! この戦いが終わったら、余った魚や吸血うにを使ってシェフに料理のフルコースを作って貰いましょう!?」


「わたちはマナたんのご飯が食べたいでち。凄く美味ちいって聞きまちた」


「そうなの? そ、それなら私様も食べてあげても良いわよ」


「はいでち! 一緒にマナたんにお願いちまちょうでち」


「仕方ないからそうしてあげるわ。ふふふ。とにかく、私様達の勝利ね!」


「はいでち! 正義は必ず勝つでちね!」


「そうね! 私様のおかげで全て解決したわ!」


 2人は笑い合い、何も解決していない事に気づかない。

 と言うか、シーバイッヌもよく分かっていないのだろう。

 食事を終えると、自分を電撃で攻撃した相手だと言うのに、動けなくなったアタリーロボをペロペロと舐めだして随分とご機嫌な様子だ。

 もしかしたら自分に餌を与えてくれたと思ったのかもしれない。

 何はともあれ、死んだ魚達がシーバイッヌの餌となってくれたおかげで、意味の無い殺生にならなくてすみそうだ。


 こうして刻一刻と空気の膜が剥がれていってるのだけど、アタリーとラタがその事に気付くのは、もう少し時間が経ってからの事だった。

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