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173 手厚い歓迎

※今回からマナ視点の話に戻ります。


 水深約10万キロの深海奥深く。

 真っ暗な深海にそびえ立つのは日本の昔話に出てきそうな竜宮城……いや、それより大きく、そして明らかに目で見て分かる程の廃墟。

 と言うか、見た目で言うならば、どちらかと言うと現代にもある日本のお城を連想させる姿形。

 だけども外観はボロボロで、壁や屋根の所々が剥がれ、そして欠けている。

 大きな穴もちらほら見えて、最早昔の栄華えいがは見る影もない。

 そして、これこそが【竜宮城】、これから始まる戦いの決戦の舞台だ。


海宮かいきゅうに似てる」


 船のあかりをともし、竜宮城を視認出来る程に近くまで来てラヴィが呟いた。

 ラヴィの言う通り、竜宮城の姿はリングイさんの孤児院である海宮を大きくした様な姿とも言える。

 いや、海宮こそが竜宮城を真似て作られたのだろう。

 そう感じる程に、目の前の廃墟と化した竜宮城は海宮に似ていた。


「竜宮城をここに建てた初代女王様は、東の国で幼少時代を過ごして、その文化をこの城に取り入れたんだぜ」


 ラヴィの呟きに答える様に、リングイさんが背後から近づきながら説明する。

 そして、わたしとラヴィの頭を撫でながら言葉を続けた。


「後少ししたら船の灯りを消す。さっき話し合った通り、竜宮城にはこの船から降りて向かう。2人とも覚悟と準備は出来てるな?」


「はい。リングイさんとメレカさんのおかげで結構上手く泳げるようになったし、バッチリです」


「問題無い」


 覚悟はもうとっくに出来てるし、準備もバッチリだ。

 わたしとラヴィは水着に着替えて、それぞれ腰に武器を提げている。


 わたしはスクール水着とラヴィの短剣、それにカリブルヌスの剣、そしてステチリングやシュシュも腕につけている。

 魔石は無いけど、メレカさんのおかげで復活した魔法もあるし、いつでも戦える。

 ラヴィも準備は万端だ。

 ワンピース型の水着と打ち出の小槌こづちを装備している。

 いつも身につけている鶴羽かくうの振袖は、船に置いて行く事にしたようだ。

 そして、わたしとラヴィは今回の為に水の都でとっておき(・・・・・)を準備していた。


「かっかっかっ。頼もしいな。頼りにしてるぜ、2人とも」


「任せて下さい!」


「任された」


 わたしとラヴィが返事を返すと、リングイさんはわたしとラヴィの頭をポンポンと優しく叩いて笑う。

 するとそこに、アタリーとラタもやって来た。


「あたちも竜宮城の中に行きたかったでち」


「そうよね。私様わたくしさまだって行きたかったわ」


「あのな。何度も言うが――」


「分かってるわ。帰るためにこの船が必要だから、ここを護るのが私様とアタリーの仕事なのでしょう?」


「頑張ってアタリーロボになって護るでち!」


「かっかっかっ。分かってるならそれで良い。2人とも、頼んだぜ」


「分かったわ」


「頑張るでち!」


 そう。

 密航してそのままついて来てしまった2人、アタリーとラタは船に残る。

 船に残って、この船を護ってもらうのだ。

 ちょっと心配だけど、この船をロボットにして戦える2人なら大丈夫だろう。


 わたし達は竜宮城にこれから乗り込む。

 どんな危険が待ち受けてるか分からないけど、全部跳ね返して必ずモーナを連れて帰るんだ。

 それに、フナさんも海宮の子供達も助ける。


 わたしとラヴィとリングイさんはアタリーとラタにしばしの別れの挨拶を告げて、船の乗船出口で待っていたメレカさんの許に行き船を出た。

 リングイさんが言っていた通り、既に船の灯りは消えている。

 リングイさんを先頭にして、わたし達は1本の命綱を全員の体に巻いて進む。

 最後尾がメレカさんなので万が一にも命綱から離れてしまっても、一応大丈夫にはなっているけど正直少し怖い。

 深海はわたしが思っていた以上に真っ暗で、とても恐ろしい所なのだ。


 今更驚いた事もある。

 水深10万キロと言えば、あの吸血うに。

 竜宮城の周囲、海底には吸血うにが沢山いたのだ。

 もしかしたらだけど、ハグレの皆はここから吸血うにを連れて来たのかもしれない。


「2人とも、苦しくないですか?」


 不意にメレカさんに話しかけられる。

 わたしは後ろを向いてメレカさんの顔を見ようとしたけど、あまりにも暗くて見えないので、届かない苦笑を浮かべて答える。


「そうですね。メレカさんの魔法のおかげで海の中でも息が普通に出来るし苦しくないです。それに深海なのに水圧もへっちゃらだし、本当に助かります」


愛那まなの言う通り。助かる」


「それなら安心しました。何かあれば仰って下さいね」


「はい、分かりました」


「分かった」


 返事をして再び前を向く。

 そんなわけで、本当にメレカさんには感謝してる。

 深海にある竜宮城に行くのは良いけど、実際に息と水圧がかなり厄介だった。

 でも、そんな悩みはメレカさんの魔法で解決して、こうして深海の中を泳げている。

 とは言え、海の中で息が出来て喋れてしまう感覚は、変な感じではあった。

 どう言う原理なのか分からないけど、普通に空気を感じずに吸ったり吐いたりが海水を飲まずに出来てしまうので、凄い違和感があるのだ。

 しかも海水の塩分の味は全く感じない。

 とまあ、それは今は置いておくとしよう。



 とくに何事の問題も無く竜宮城の中に辿り着く。

 正面玄関では無く、少し離れた場所にある壊れた壁の穴から侵入する。

 中は淡い光で周囲が見えるようになっていた。

 光の元を確認すると、それは光る苔で、水の都で見たものと同じだった。


 なにはともあれ光があるのは助かる。

 いつまでも何も見えないじゃ、来た意味が無くなる程何も出来ないに繋がってしまうから。


 竜宮城の中は思っていたより保存状態が良かった。

 外観は本当にボロボロで、いつ崩れてもおかしくない様な感じだったけど、城の中は思いのほか綺麗だ。

 と言っても、光る苔が生えるくらいにはボロボロではあるけど。

 とは言え、今でも衰えない程度には城内の豪華さは伝わってくる。

 廊下の通路も広く、横幅だけでも10メートルはありそうだ。

 部屋の一つを覗いてみれば、広く和風な一室。

 何に使っていた場所かは分からないけど、何も置かれていないその一室はそこだけでテニスコート位の広さがあった。


 竜宮城……か。

 まるで童話の浦島太郎みたい。


 そんな事を考えながら、大きく広い竜宮城内をリングイさんを先頭にして進んでいた時の事だった。

 通路から広い空間……恐らくエントランスホールの様な場所に出て少し進んだ中央あたりで、リングさんが足を止める。


「囲まれていますね」


「みたいだな」


「へ?」


 足を止めたリングイさんでは無く、最後尾にいたメレカさんが呟いて、それにリングイさんが同意した。

 わたしは何の事かさっぱり分からず、間抜けな声を発するだけ。

 ラヴィを見ると、何を言ってるのか分かってるようで、虚ろな瞳で周囲に視線を向けていた。


「あの……囲まれているって何にですか?」


 恐る恐る質問した丁度その時だ。

 ラヴィがわたしの目の前に立って、氷の盾を出現させ、飛んできた何かから私を護った。


「マナちゃん、ボーっとしてたら死ぬぜ!」


 リングイさんが叫び、次の瞬間、大量の何かがわたし達目掛けて飛んできた。

 そのスピードは銃弾のように速く、何が飛んできているのかも分からない。

 だけど心配はいらない。

 この程度の攻撃なら、わたしにだって捌ききれるから……と言うわけではなく、飛んできた何かは全てメレカさんの持つライフルの様な銃で撃ち落とされた。


「凄っ……」


「やるなあ、メイドの姉ちゃん」


 これにはわたしだけでなくリングイさんも舌を巻く。

 メレカさんは微笑んで、リングイさんではなくどこか別の方向に視線を向けて口を開く。


「ふふ。リングイだって中々のものですよ」


 メレカさんの言葉を聞いたわたしは、その視線の先に目を向ける。

 するとその先には、顔を殴られた痕のある気絶している男が2人。

 しかもそれだけじゃない。

 わたし達を囲うように、少し離れた場所で何人もの男が倒れていた。

 あの一瞬でリングイさんが倒れている男達全員をやったのだと理解した。

 そして、メレカさんが撃ち落としたのは、銃弾の様な何かでは無く銃弾そのものだった。

 つまりメレカさんはあらゆる方向から発砲された弾を全て狙い撃ったと言う事。

 この2人、本当に頼もしい。


「待ち伏せされていますね。しかも向こう側は全員魔力を感知されない為のマジックアイテムを持っています」


「みたいだな。それにしてもこいつ等、オイラが知ってる連中じゃないな。イングめ、やっぱり仲間を他に集めてやがったか」


 メレカさんとリングイさんが倒した男の内1人に近づいて、その男を調べながら話し合いを始める。

 話によると、メレカさんは他者の魔力を探知して位置が分かるらしい。

 メレカさんいわく「簡単なので誰でも出来ます」らしいけど、リングイさん曰く「そりゃ才能のある奴だけだ」らしい。

 リングイさんの否定的な意見に、メレカさんはそんな事ないと言っていたけど、わたしが思うにメレカさんの周りが凄い人だらけなだけだと思う。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。

 とにかくだ。

 メレカさんが魔力の探知を出来るので、リネントさんやモーナ達の魔力を探知しながら進む予定だったけど、いきなりその予定は崩されてしまった。


 リングイさんの言った「知ってる連中じゃないな」という内容は一応予想の範囲内だ。

 詳しくは知らないけど、リングイさんから聞いたのが革命軍の構成員は元孤児の者達。

 リングイさんやリネントさんと一緒に過ごした同期の人達らしい。

 あの日、踊歌祭ようかさいの最中に起きた都の襲撃で、わたし達はそれぞれ報告をしていた。

 その報告の中には、もちろんわたしが何をしていたのかも入っている。

 その中の一つ、わたしがモーナに連れてかれた教会の事を言った時に、リングイさんがかなり驚いていた。

 理由は、その教会にいるわたしが助けた神父が、リングイさんだけでなくリネントさんやウェーブの恩人だったからだ。

 それなのに襲うなんておかしいとリングイさんは驚いて、それ等の事を知らない誰かがやったと推測した。

 結局は襲った理由も分からないままだったし、わたしが教会に行って確認したところ、捕まえた男は外に出したら気付いたらいなくなっていたらしくて聞き出す事も出来なかった。

 ただ、神父曰く知らない相手だったらしいので、リネントさんが同期以外の仲間を集めたのだろうと予想したのだ。


 2人が話し合っている間、わたしとラヴィは周囲を警戒していた。

 そしてそんな時だ。

 少し先の通路の上で、水中だと言うのに何故かき火が燃えていた。

 煙は無い。

 だけど、間違いなく燃えている。

 わたしは目を疑って、気が付けば誘われる様にして焚き火に近づいていた。


「かかったな!」


「――っ!」


 瞬間――わたしの背後、エントランスホールに繋がる通路が壁で塞がれて、わたしはラヴィ達から孤立した。


「ヤバっ罠だ!」


「気付くのがおせえんだよ!」


 聞こえたのは男の声。

 通路の先から高速で男が接近して来て、手に持っていたサーベルをわたしに振るった。

 わたしは急いでカリブルヌスの剣を掴み、ギリギリの所でサーベルの斬撃を弾いて、背後に後退って今出たばかりの壁にぶつかった。

 そして、攻撃して来た男を見て驚愕する。


「あ、あんた……っ」


 男が下卑た笑みを見せ、サーベルの刃をぺろりと舐める。


「よお、クソガキ~。教会では世話になったなあ。会いたかったぜ~。お前、あのモーナスって偉そうな糞猫の知り合いなんだってなあ? って、んな事はどうでもいいか。俺ぁお前のせいで革命軍での出世計画が台無しになっちまってなあ。お前をぶち殺してやりたくて仕方がねえんだよ」


 そう。

 この男は革命軍が都を襲撃した日に、わたしが教会で気絶させた人物だった。

 あの後いなくなったと思ったら、まさかの再会にウンザリする。


「さあて、どうやって殺してやろうかねえ! 真っ裸にしてはずかしめてからにすっかなああああ!?」


「最っ低!」

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