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017 メリーさん一家

 メリーさんの家の中に入り、キッチンがついたリビングへと招かれる。

 リビングには三人の毛むくじゃらな男達、獣人がいた。


「おお、誰かと思ったらラヴィーナだべ。ラヴィーナ、オラの事を思えているだべ?」


 キッチンに立つ、体が大きくて気の弱そうな顔をした狼を二足歩行にして服を着せただけの様な男の人が、ラヴィを見てニコニコと笑顔を見せる。

 ラヴィは相変わらずの虚ろ目な眼をその人に向けて頷いた。


 すると今度は、リビングのソファーに座っていた狐を二足歩行にして服を着せただけの様な目の細い男の人が立ち上がって、ラヴィに近づいた。


「ラヴィーナどうしたんだよ? ここを出てから一年間ちっとも会いに来てくれなかったのに、急にお友達を連れて遊びに来るなんて、ボクちん驚いたんだよ」


「じーじに会いに来た」


 ラヴィが狐の男に答えると、今度は身の丈二メートル以上ありそうな、まん丸に太らせた狸を二足歩行にした様な男の人がラヴィに近づいた。


「なんだぽん。ラヴィーナの目的は僕達じゃなくて、じーじだぽん。それは残念だぽん」


「はいはい、アンタ達。ラヴィーナに久しぶりに会えて嬉しいのはわかるけど、今はラヴィーナのお友達も来てるんだよ。みっともない事やってないで、さっさと飯の準備しなよ」


「「「はいマミー!」」」


 毛むくじゃらな男達が、背筋を伸ばして声を揃えて返事した。

 そして、一斉にキッチンで料理を開始する。


「騒々しくてごめんね~。こいつ等ラヴィーナの事が好きすぎて、周りが見えない事がある大馬鹿者だからさ」


「い、いえいえ。とても賑やかで良いと思います」


 苦笑して答えると、メリーさんは優しくわたしに微笑んだ。


「皆さんは、ラヴィーナちゃんと一緒に暮らしているんですか?」


 お姉がメリーさんに質問すると、メリーさんは驚いた顔でラヴィを見た。

 ラヴィはメリーさんに虚ろな目を向けて、目を合わせて頷く。


「なんだいラヴィーナ、何も言わずにお友達を連れて来たのかい? 仕方のない子だね~。おい、アンタ達!」


 メリーさんが両手でパンッと手を鳴らす。

 キッチンにいた毛むくじゃらの男達が作業を止めて、メリーさんの横に並んだ。


「大馬鹿共はどうでも良いと思ったんだけど、この際だから全員で自己紹介をしようじゃないか。まずは私だ」


 メリーさんが一歩前に出て言葉を続ける。


「私はメリー。見た目通り羊の獣人で、この家の大黒柱さ。ラヴィーナが産まれてから乳母うばとして、ラヴィーナをここで一年前まで育てていたんだ。お嬢ちゃん達よろしくね」


「そうだったんだ。うん。よろしくお願いします。メリーさん」


 わたしがメリーさんに返事をすると、狼の様な見た目の男の人がメリーさんに続いて自己紹介を始める。


「オラはラルフ、狼の獣人だべ」


「ワンちゃんだと思いました」


「お姉、失礼だよ」


「あ、ごめんなさい」


「良いんだべよ。似た様なもんだべ」


 見た目は似てるけど全然違うと言いたくなったけど、本人のラルフさんがお姉の為にフォローを入れてくれたので我慢する。


 今度は狐の様な見た目の目の細い男の人が話し出す。 


「ボクちんの名前はフォックだよ。狐の獣人で、逃げ足が速いのがチャームポイントだよ」


「逃げ足の速さなら負けないわ!」


「モーナ、そんな事で競わないで良いから」


「マナはわかってないなー。生き延びる為に大事な事だ!」


「そーそー。猫のお嬢ちゃんは分かってるねー。その通りだよ」


 モーナとフォックさんが意気投合して握手を交わす。


 最後にまん丸な狸の様な男の人がニコニコと笑いながら話し出す。


「僕はラクーだぽん。この通り狸の獣人で、ラヴィーナとは友達なんだぽん」


「ラクーのお腹、フカフカで寝心地が良い」


「へ~そうなんだ? ラヴィはラクーさんのお腹の上で寝ていたの?」


「そう。いつも布団の代わりにしてた」


 なんとなく、ラクーさんのお腹を見る。

 ラクーさんはズボンを穿いているだけで上半身は裸の毛皮が露出された状態だったのだけど、たしかにフカフカで気持ちが良さそうだった。


 わたしとお姉とモーナも自己紹介をして、それが終わると今日は泊まっていきなとメリーさんに言われたので泊まる事になった。

 自己紹介が終わった後、ラルフさんとフォックさんとラクーさんは再びキッチンに戻って料理を再開する。


 ラヴィが会いに来た肝心のじーじさんだけど、今は出かけているようだった。

 話によると少し遠出している様で、今日中には帰って来ないらしい。


 わたし達はリビングのソファーに座って、ラルフさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら話をする。


「ラヴィーナ、じーじに何の用事で来たんだい?」


「氷雪の花ほしいから、じーじに聞きたい」


「なるほどねえ。確かに氷雪の花の事なら、じーじに聞けばわかりそうだね。でも、何でまた氷雪の花なんかほしいのさ? あんな扱い辛い花、普通ほしいなんて思わないだろうに」


 メリーさんに訊ねられ、ラヴィがわたしに視線を向けた。

 わたしはコップを置いてメリーさんに真剣な面持ちで話しだす。


「実は――」


 とある村にいる養子姫、ラリューヌが持って来いと言った三つの宝の事。

 既に【打ち出の小槌】を手に入れていて、ラヴィが【鶴羽かくうの振袖】を着ているから、後は【氷雪の花】だけと言う事。

 ラヴィから【鶴羽の振袖】を取り上げるつもりは無く、ただラリューヌを森の主のケプリの許に返したいだけだと言う事。

 以上の事を説明した。


 わたしが説明を終えると、モーナが首を傾げた。


「鶴羽の振袖はラヴィーナに返すのか?」


「うん。そうだけど?」


「貰うつもりでいたから残念だ」


「おい」


 モーナは本当に困った子だ。

 貰うつもりでいたって、そんなの出来るわけないって感じだ。


「なるほどねえ。だいたいの事情は解ったわ。そう言う事なら私達も手伝うよ」


「え? 良いんですか?」


「もちろんさ。アイスマウンテンってのはさ、本当に怖いのはこの先からなんだ。か弱い女の子をたったの三人で登らせられないからね」


「ありがとうございます!」


「愛那、良かったですね」


「うん」


「そう言う事だからアンタ達、じーじが帰って来たら氷雪の花の探索だよ。飯が済んだら準備しな」


「「「はいマミー!」」」


 ラルフさん達三人が声を揃えて返事をした。

 わたしは三人を見ながら、何でマミーなんだろう? と考えたけど、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 お姉とメリーさんが話し出したので、わたしは耳を傾ける。


凍豚とうとんですか?」


「ああ、そうだよ。このアイスマウンテンにしか生息していない野生の豚さ。こいつが中々の美味でね。ただ、凶暴だから並の冒険者じゃ捕まえられないのさ」


「へ~。どんな味なのか、一度食べてみたいです」


「生憎、凍豚の肉は今きらしててね。食べさせてあげられないわ」


「そうですか~。残念です」


 お姉は肩を落として、手に持っているコップに注がれた紅茶を見つめる。


「その豚さんは、何処にいるんですか?」


 お姉?


「ん~? この近くだと、この崖の下に雪の中でも生える雑草の草原があって、そこにいるよ」


 メリーさんの言葉を聞いて、わたしは何か嫌な予感がした。


 お姉は見つめていた紅茶を一気に飲み干して立ち上がる。

 そして、わたしに視線を向けて、荒く鼻息を一つ吐き出した。


「愛那、凍豚を狩りに行きましょう!」


 やっぱりそうだ。

 嫌な予感……あたっちゃったな~。


「良いわね! 私も行くわ!」


 モーナが行くのか。

 それなら、安全そうだし……。


「わたしはパス。ラヴィと一緒にここで帰りを待ってるよ」


 お姉の事はモーナに任せて、わたしは残ってゆっくりさせてもらおうと考えた。

 わざわざ寒い外に出て、凶暴と言われる凍豚とかいう豚を狩猟だなんてやってられない。

 ここはやる気がある人に任せてしまうのが一番良い判断だ。


「私も行く」


「え? ラヴィ?」


 まさかの反応に、わたしは驚いてラヴィを見た。


「久しぶりに凍豚食べたい」


「凍豚って凶暴なんでしょ? ラヴィは危ないからわたしと一緒にここで待ってようよ」


 わたしが少し焦りながら話すと、ラヴィは首を横に振って答える。


「大丈夫、私はこれまで、いっぱい凍豚を狩ってきた」


「狩ってきた?」


 ラヴィの言葉に驚きメリーさんの顔に視線を向ける。

 メリーさんはわたしが視線を向けた意図を理解してくれて、微笑んで頷き答える。


「こう見えて、ラヴィーナは凍豚狩りの名人だよ。凶暴な凍豚相手に、魔法を使わず狩っちゃうのさ」


 どうやらラヴィを止める術は、最早わたしには残されていないらしい。

 となると、わたしだけここに残るなんて事も出来ない。

 何故なら……。


「凍豚楽しみですね」


「楽しみ」


「私に任せておけば、一瞬で大量ゲットだ!」


 このままでは、一人だけ仲間外れになってしまう。

 一人だけ話題についていけないなんて、そんなの精神的に辛いに決まってる。


 ここに来るまでの道は本当に結構大変で、わたしは正直休みたかった。

 歩き続けて疲れたのもあるし、外は本当に寒くて動きたくない。

 メリーさんの家の中は暖かくて、今座っているソファーもフカフカで本当に快適なのだ。


 わたしは仕方が無いと覚悟を決めた。


「三人とも、わたしはここで待ってるか――」


「それじゃあ、早速四人で凍豚を狩りに行くわよ!」


「コラ待てモーナ。わたしは行くとは言ってない」


「顔に行きたいって書いてあったわ!」


「書いてないし思ってもない」


「愛那も一緒に行きましょうよ。一人でお留守番なんて寂しいですよ?」


「メリーさん達がいるから一人じゃないし、わたしはメリーさん達と親睦を深めるからいいの」


「愛那、一緒に行かないの?」


「行か――っ!」


 ラヴィは相変わらずの虚ろ目だったけど、いつもより眉根を下げて少しへの字口の表情で、わたしの良心に突き刺さる。

 お姉とモーナ相手ならいくらでも突っぱねる自信はあるけど、こんな純粋な目をしたラヴィだけは裏切れない。


 私は観念して、肩を落としてコップを置いた。


「わたしも行くよ」


「それでこそマナだ!」


「やったー! 良かったですね、ラヴィーナちゃん」


「良かった」


 そうと決まれば今直ぐ行動だと、わたし達はメリーさんの家を出る。

 ご飯を作ってくれていたラルフさん達も、わたし達が帰ってくるまで、一時料理を中断してくれるようだ。


 向かう先はこの村、崖の下にある草原だ。

 そこにいる凍豚を狩猟する為に、わたし達はモーナの重力の魔法で崖を降りて行った。


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