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171 裏切り猫は少女がために 中編

 ロポと子供を人質にとられて私が降伏の為に手を上げると、何故かレブルの他の仲間達……子供を人質に取っていないレブルの他の仲間が騒ぎ出した。

 それに、レブルも何故か焦った様な表情で仲間を見ていた。


「ティーノ……それにお前達も何をしている? 子供に危害を加えるのは――」


「いいや駄目だ! レブル、あんたは確かに強いし頼りにしてる! だけどあんたのやり方は生ぬるいんだよ!」


「おい待てよ! お前等は最近入ったばかりの新人だから知らないだろうけど、ここはリネントさんと俺達の――」


「うるせえぜ先輩! んなもん聞き飽きてんだよ! 孤児院の責任者を倒したから子供を連れてく為に人数がほしいって、俺達に頼みに来たのは先輩達だろ? だったら黙っててくれねえか? 俺達は一番効率いいガキ共の運び方をしてやってるんだ」


 子供を人質にしたティーノと呼ばれた男がそう言うと、その男の周囲にいた仲間もそうだと言わんばかりの顔を見せる。

 何がどうなっているかは分からないけど、とにかくチャンス到来だと私は考た。

 そして、次の瞬間、一気に人質をとった連中と距離を詰める。


「グラビティプレス!」


「――っしま――――っ」


 一瞬で敵に重力の重しを頭上から乗せてやる。

 流石は私だ。

 子供を人質にしていた連中は、全て地面とキスして動かなくなったわ。


「重力の魔法が使えるのがてめえだけだと思うなよおおおお!!」


「――何!?」


 しくじった。

 ティーノと呼ばれていた奴は私と同じで重力の魔法が使えた。

 ティーノは立ち上がり、逆上したのか近くの子供に向かってサーベルを突き刺そうと刺突する。

 私は油断していたせいで間に合わない。


「逆らった罰――――っなんだと!」


「ロポ!?」


 ティーノのサーベルがロポのオリハルコンな体に弾かれた。

 ロポが間一髪の所で子供の前に出て護ってくれた。


「ロポ、よくやった!」


 私は直ぐにティーノに接近して、一気に魔法を解放する。


「グラビティショック!」


「な――――――ぎぎゅごおおおおああああ!!」


 ティーノは吹っ飛んで数十メートル先で転がって気絶した。

 私は子供達の無事を確認して、全員無事だったので一先ず安心する。

 しかし、安心してお終いともいかない。

 直ぐにレブルに向き合って睨み見て、レブルの意外な反応に訝しんだ。


「何だ? おまえ。安心したみたいな顔してるな?」


「……そうだな」


「それなら一つ教えてやるわ。子供を人質にする様な奴は今後仲間にするな」


「耳が痛い。その通りだと実感する。反省して次は無いようにしないといけないな」


「……なんだこいつ」


 思わず口から出てしまった一言。

 言葉だけじゃ無くて、本当に反省している様にしか見えないレブルの顔を見て、私はさっきレブルの仲間が言っていた言葉を思い出した。


「おい。さっきあいつが言ってたリネントって、もしかしておまえの事か?」


 ティーノとか言う糞野郎に先輩と言われていた奴に指をさす。

 レブルは私が指をさした奴をチラッと見て「そうだな」と頷いた。


 こいつがマナが言ってたリネントか!?


 まさかのレブルの正体に、流石の私も驚いた。

 マナが慕っていた信頼してるリネントと言う名前の奴が、まさかレブルだとは思わなかった。

 だけど、ここで引きさがるわけにもいかない。

 レブルの正体がリネントだからと言って、敵である事は変わらない。


 子供に危害を加えようとしなかった連中は、加えようとした連中より優しくしてやるか。


 そんな事を考えながら、さっきの仲間との出来事で油断しきっていたレブルの仲間との距離を一瞬でつめる。

 そして、あまり使いたくなかったけど、私は二つ目のスキル(・・・・・・)を発動させた。


「――っくぁ!?」


 レブル以外の敵は全てその場で倒れて、あっという間に残りの敵はレブルのみとなる。

 すると、レブルも自分が油断していた事に気づいたようだ。

 レブルは表情を変えて私を睨み、拳を作って構えた。


「俺の仲間に何をした?」


「人の三大欲求の一つ“睡眠欲”を解放しただけだ。死んでないから安心しろ」


「睡眠欲……? なるほどな。君も珍しいスキルの持ち主と言う事か」


「おまえもな!」


 私とレブルが同時に動く。

 しかしその時、レブルは背後からサーベルで刺された。


「――くっぅ……っ」


 レブルは血を吐いて、その場で倒れた。


「あんたがいけないんだぜ!? レブルさん、甘ちゃんのあんたがさあ!」


「ティーノ……っ」


 レブルを刺したのはさっき吹っ飛ばしたティーノだった。

 ティーノは口から血を垂れ流しながら、ニヤリと笑んでサーベルから手を離す。


「俺達は非道だと有名な“魔龍のレブル”に憧れて革命軍【平和の象徴者(ハグレ)】に入ったんだ! なのによお! 入ってみればとんだ甘ちゃんだ! こんな糞みてえな甘ったれた思想じゃ目的なんて果たせるわけがねえ! そう思ってるのは俺だけじゃねえんだよ!」


「俺のやり方が気に入らないなら出て行けばいい。最初にそう言った筈だ」


 レブルは地面に倒れた状態で、背中から刺されたサーベルを自ら抜き取って、ティーノを睨んだ。


「それがそもそも甘いんだよ! あんたも孤児院出身の連中も皆甘くて虫唾が走るぜ! 俺はな、俺達はこの国が滅べば何だって良いんだよ!」


 ティーノが重力の魔法を使おうとして、レブルに向かって手をかざす。

 そして、私はここで黙って見ているのを止めた。


「とりあえずおまえは黙ってろ」


 そう言ってティーノに軽く触れてやる。

 その瞬間に、ティーノはガチガチと歯を震わせ、更に全身を震わせてうずくまる。

 そんな情けないティーノの姿を見て、レブルは驚いた様子で私を見た。


「……今度は何をしたんだ?」


「これか? これは“恐怖”する“欲”を解放してやったんだ。見てろよ? 石ころが転がっただけで怖がるから面白いぞ」


 そう言って、私は怯えるティーノに向かって、そこ等辺にあった石ころを拾って転がす。

 ティーノは「ひいいいいいっっ」と悲鳴を上げて、頭を抱えて丸まった。


「あーっはっはっはっ! ひいいっっって、怖がりすぎだろ! そこまでか!? あーっはっはっはっ!」


「……恐怖が欲? 聞いた事も無い」


「なんだ? おまえ思ってたより馬鹿だな。人の感情は存在そのものが“欲”なのよ」


「そう言うものか……。しかし、こんなスキルを持っていて、何故俺には使わなかった? 君ほどの実力があれば、いつでも俺にこのスキルを使えていた筈だ」


「それはボスに止められて……って、おまえには関係ないだろ」


「ふっ。そうだな」


 レブルが笑って頷き、そして、私は倒れているレブルの腕を引っ張って立たせてやった。

 これにはレブルも驚いて「何のつもりだ?」と言いたげな、訝しむような視線を向けてきた。

 だから私は胸を張り、決め顔で答えてやる。


「おまえはマナが言っていた通り、思っていたより悪い奴じゃなさそうだからな。とりあえず話だけは聞いてあげるわ!」


「――っマナ?」


「ん? そうだぞ。マナがリネントさんは良い人だって言ってたんだ。マナが信頼してる奴を、何も理由を聞かずに殺すのは嫌だからな。マナに感謝しろよ?」


「…………はは。そうか。俺はあの子に、マナに助けられたんだな」


 レブルはそう呟くと柔らかく微笑んだ。

 そして、私はレブルから目的を聞く。

 何で海宮を、水の都を襲ったのか。

 そしてこれから何をしようとしているのか。




 全ての話が聞き終わり、私はレブルの仲間になる事にした。


「良いのか?」


「気にするな」


「マナが悲しむぞ?」


「にゃ……ぅぅ……。ぜ、絶交されたから大丈夫だわ」


「ふっ、そうか。それなら、もう俺は止めん。歓迎しよう」


「私は最強だからな! 大船に乗った気でいろ…………って、ロポ、おまえは来なくて良いんだぞ?」


 ロポは触角を横に振り、来なくて良いと言う言葉を否定する。


「マナに嫌われるぞ?」


 ロポは触角を垂れ下げて、それでも直ぐに触角を横に振って、体を私にすり寄せた。

 その行動から、ついて行くと言う強い意思を感じた。


「よしっ。それなら一緒に行くか」


 ロポは勢いよく何度も触角を縦に振る。

 気合は十分だな。


 私とナミキが海宮に連れて来た子供はリングイと一緒に置いて行く。

 レブルを裏切ろうとした連中は全員鋼鉄の縄で縛り上げて、責任を持ってレブルのアジトに持ち帰る。

 これで海宮に残った子供や気絶してるリングイも一先ず安全だな。


 海宮を離れると途中でレブルの他の仲間と会ったから、レブルが事情を話して、フナと子供達と裏切り者を預けた。

 それからレブルが都の様子を見に行くと言ったから、マナが気になっていたから私が「ついて行く」と言ったら、ロポも一緒に行きたそうにしたので連れて行く事にした。


 そしてマナと会い、私は……。


「――っモーナ! 何で!? 何で……っ!」


「絶交なんだろ?」


「――っ!?」


「もう二度と会う事は無いわ。マナ、さよならだ」


 覚悟していた事だったけど、胸が痛くなった。

 マナが泣いているのは分かったけど、かける言葉が見つからなかった。

 事情を話そうとも思ったけど、もう時間が無い。

 今から都に散らばっているレブルの仲間を全員回収して、これから起こり発生する毒海どくうみの中を抜けて、都から離れてレブルのアジトに戻らないといけない。

 マナに事情を話していたら、レブルの仲間を見殺しにする事になるかもしれない。

 レブル達は革命軍と名乗っているけど、結局はただのテロリストだ。

 逃げ遅れた奴が、もしこの国の騎士に捕まったら、死刑になってもおかしくない。

 それはさせられない。

 何故なら、レブルの仲間もマナが世話になった村の連中たちだからだ。

 そんな事になったらマナが悲しむ。

 だから、目の前で泣いているマナと話している時間は無いわ。


 マナは私と絶交したんだ。

 直ぐに私の事は気にしなくなるだろ。


 自分にそう言い聞かせて、あくまでも冷たい態度を貫いた。

 泣き崩れたマナに背を向けて、心配そうにしているロポを連れて、わたしはレブル達と一緒にその場を離れた。


 もうマナと会う事は無い。

 今から私も国に追われる身だ。

 作戦を聞いて、レブルの覚悟を聞いて私は決めた。

 レブルの事をリネントさんと慕うマナの為に、それだけの覚悟は必要だった。

 だから、マナを泣かせてしまったせめてもの償いに、海宮にカリブルヌスの剣を置いてきた。

 ラヴィーナの短剣があるから、もういらないかもしれないけど、どうかこの先役立ててほしい。

 マナがいつでも使える様に魔法で軽くしておくから、元の世界に戻るまで、あの剣がマナを護ってくれると嬉しい。

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