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170 裏切り猫は少女がために 前編

※今回から時間を遡ってモーナス視点のお話です。



「きゃあああああああ!」


「う、うわあああああああ!」


「いやあああああっっ!」


 突然響く誰か多数の悲鳴。

 海宮かいきゅうへと向かう途中、空からうにが降り始めた。


「なんだ? もよおしじゃなさそうだな。マナは……まあ、うに程度ならマナは心配ないか。それより早く取りに行かないとだわ!」


 私は降ってくるうにを爪で斬り裂きながら前へと進んで行く。

 すると、都心を離れた辺りで一生懸命に走っているロポを見つけた。

 ロポは私のスキルで大きい猫の姿になっているから直ぐに分かった。


「おーい、ロポー!」


 名前を呼ぶと、ロポは嬉しそうに私の所にやって来た。


「おまえも海宮に向かってたのか?」


 質問するとロポは頷いたので、私は首の舌を撫でてやった。


「それなら一緒に行くか」


 ロポが再度頷き、私達は一緒に海宮に向かう事にした。

 それからロポのペースで海宮に向かって行き辿り着くと、私は目の前の惨状に驚いた。


 何が起こったのかは分からない。

 見知らぬ男と女が数人。

 リングイの知り合いと言う雰囲気には見えない。

 数はそれほど多くない。


 何が起きた?

 ……それより、マナすまん。

 直ぐには戻れそうにないわ。


 私は心の中で謝って、教会に待たせているマナの事を考えた。







「なあ、ナミキ。マナはまだ怒ってるかな?」


愛那まなちゃんですか? う~ん、どうでしょう? ……あ、そうです! 気になるなら、愛那ちゃんにプレゼントするのはどうでしょう?」


「プレゼントか……」


 マナの提案でドワーフの国の上にある鉱山で魔石を掘りに行った時、あれはオリハルコンダンゴムシのロポを見つける前で、マナが珍しい貴重な魔石を掘り出した時の事だ。

 透明な魔石の中心から虹色の波紋が外に向かって広がっていく模様のある魔石。

 この魔石をマナが「それあげるから向こう行ってて」と言ってくれたんだ。

 その時は私もマナが機嫌を直してくれたと思ったけど違っていた。

 “扉”の事を知ってからのマナは、ずっと機嫌が悪いのか私とあまり喋らなくなったんだ。

 おかげでマナ成分が足りなくて、流石の最強な私もちょっと困っていた。

 そんな時に起きたあの事件だ。

 マナがメソメとロポを連れて、予定の船と別の船に乗っていってしまった。


 それから何日か経って、こうして水の都フルートにあるリングイの海宮に、私とナミキがやって来たわけだ。

 マナをここで待つと決めて、それからマナについての相談をナミキにしたら、プレゼントと言う提案を持ちかけられた。

 しかし、プレゼントと言われても何も思い浮かばないな。

 プレゼントと言うくらいだから、マナが喜ぶものがいいだろうけど、マナが喜ぶものってなんだ?

 自分の世界に帰るための“扉”は無理だぞ?


「そう言えば、モーナちゃんが最近首に提げてるそれって何ですか?」


 プレゼントに悩んでいると、ナミキが私の首元を見て質問した。

 私は「これか?」と言ってそれを持ち上げる。


「これはロポを見つけた日にマナから貰った魔石だ。マナと最近会えないから、マナの代わりと思ってネックレスに付けたんだ」


「そうだったんですか。何だかんだ言って、マナちゃんもモーナちゃんの事…………あれ? その魔石、他の魔石と色と言うか模様が全然違いますね」


「そうだな。これは珍しい魔石なんだ」


 そう言って、私はナミキに魔石について説明してやった。

 ナミキは興味深そうにそれを聞くと、ポンッと手を叩いて目を輝かせ、私の肩を両手で掴む。


「それです!」


「どれだ?」


 何が言いたいのかさっぱりわからん。

 私が首を傾げると、ナミキが私の肩から手をどけた。




 ナミキの提案から始まったプレゼント作戦を決行する日がやって来た。

 それは水の都で行われる踊歌祭ようかさいの中で開始される……予定だ。

 話によるとリングイが昔世話になっていた教会の屋根の上が、踊歌祭の綺麗な景色が見れる絶好の場所らしい。

 リングイが仲直りするなら使うといいと言って、その教会の神父に許可を貰ってくれた。

 まあ、リングイが貰って来てくれたんじゃなくて、孤児院にいる子供が代わりに行ってきたみたいだけどな。


 今日はロポにも私のスキルを使って猫にしてあげたし、これでマナもロポを怖がらずにすむな。

 でも、ロポも可哀想な奴だ。

 あんなにマナが好きなのに相変わらず遠ざけられてるんだ。

 ロポはオリハルコンダンゴムシと言う虫だから、どれだけ頑張ってもマナに嫌われる。

 だから私はナミキに自分のスキルを打ち明けて説明して、ロポを猫の姿に変えてマナと仲良くさせようと思ったんだ。

 私だけマナと仲直りしたら、ロポだけマナと仲良くないなんて事になるし、ロポが可哀想だからな。


 教会の屋根の上でプレゼントを渡して、後は私がロポに使ったスキルの事を教えて、今度こそ自分の口から自分の事を少しでも話せば上手くいく。

 ナミキと、それから途中からこの作戦に加わったラヴィーナと話して練られたこの作戦は完璧だったわ。

 だけど、思わぬ失敗をしてしまった。


「仲直りの印に……これだ!」


 そう言って、マナの前に出したのは、ここに来る前について来たマーブルエスカルゴのカトリーヌとか言う虫だ。

 結構貴重な虫で、金持ちの貴族に好まれて飼われてるかたつむりの一種だ。

 そのマーブルエスカルゴのカトリーヌを自分のパンツの中にしまっていた事を忘れていたんだ。

 これがヤバい方向にいってしまった。


 マナが怯えて怒り出したんだ。

 その時オリハルコンダンゴムシのロポを思い出して、私もつい前から気になっていた事をマナに言ってしまった。

 ナミキとラヴィーナには気にしても今は言うなと言われていたのに。

 そして最後にはマナが泣き出してしまった。


 私は焦ってプレゼントを捜して思いだしたわ。

 今朝二度寝の時に机の上に置いたのを。


「マナ! ここで待ってろ! 直ぐに取って来るわ!」


「へ? ――あっ、ちょっと…………」


 マナが何か言おうとしていたけど、私は構わず教会の屋根の上から飛び降りて、直ぐに海宮に向かって……。







 今に至ったわけか。

 目の前に広がる惨状は酷いありさまで、改めて目の前の惨状に目を向ける。


 建物が半壊し、その側でリングイが酷い出血をして倒れている。

 捕まっている子供とそうでない子供がいて、子供達は怯えて体を震わせながらも、泣きながら倒れているリングイの名を呼んでいた。

 フナは気を失ってるのか、ぐったりとしていて知らない奴に抱えられている。

 状況を見る感じ、様子見をしている場合でもなさそうだ。


「おい! おまえ等どう言うつもりだ!?」


「む? 猫の獣人……データにないな。リンの仲間か?」


 怪しい連中の前に出ると、その中でも一番強そうな奴が喋った。

 そしてそいつからは、他の奴等とは違う、私と同じ臭いがした。


「お前、私と同じ臭いがするな」


「……そうか。猫の獣人と思ったが違うようだな」


「レブルさん、どうします?」


「――っ!?」


 怪しい連中の中にいた一番強そうな奴は、私が捜していた三馬鹿の1人のレブルだった。

 つまり、こいつは敵だ。


「そうだな……。一応話を」


「……レブル…………おまえがレブルか?」


「そうだな。俺はみなからレブルと呼ばれている」


 確認の為に聞いてみると、やっぱり間違いなかった。

 マナには悪いけど、暫らく戻れそうにないな。

 まさか最後の三馬鹿の1人とこんな所で会えるとは思わなかった。

 今までの三馬鹿と違って、こいつは孤児院を襲った。

 だから、私がやる事はもう決まってる。


「だったら話が早いわ! ここで金輪際二度と悪さできない様にぶっ倒してやる!」


「話し合いは無理そうか。なら仕方が無い。少し相手をしよう」


 レブルが構え、私はレブルを睨みながら隣にいるロポに小声で話す。


「ロポ、今直ぐ元の姿に戻ってあいつ等を護ってやってくれ。お前のオリハルコンの体なら護ってやれる」


 ロポは何も言わず頷いて、猫の姿から元のオリハルコンダンゴムシの姿に戻って、まだ捕まっていない子供のいる所まで走り出した。

 そしてそれと同時に、私もレブルに向かって駆けだして、至近距離まで接近する。


「グラビティミキサー!」


「――っ早い!」


 重力の魔法でレブルの脳をぐちゃぐちゃにしてやろうとしたけど、寸での所でかわされる。

 私の魔法はそのまま空中で飛散して跡形も無く消え去った。

 しかし、攻撃の手を緩めてやるほど私は優しくない。

 続いて土魔法【スティールクロウ】を両手にかけて、鋼鉄の爪を生やしてレブルに振るった。


「――っ!」


 レブルが私の爪撃を全て拳一つで受け止める。

 そしてその時だ。

 私は背筋にゾクッとする嫌なものを感じ、その直後に、全身を丸ごと覆う程の一撃に襲われた。

 それは強力な打撃の様な衝撃。

 目に見えない大きな何かに殴られたような、そんな不確かな何か。


「グラビティレイン!」


 咄嗟に魔法を唱えて、周囲に重力の雨を降らせる。

 目に見えない巨大な何かに対処するには、こうして周囲に重力の雨を降らせて確認するにかぎる。

 これを使えば、姿の見えない敵が重力に耐えれずに姿を現すのが基本だ。

 だけど、そんな事は起こらなかった。

 無駄に降った重力の雨が、何かに当たる事なくそのまま地面に落ちて、ただ地面を無雑作に抉っただけで終わってしまった。


「重力の魔法か……。少々厄介だな」


「それはこっちのセリフだ! おまえの攻撃が見えなかったわ!」


「そうだろうな」


「そりゃそうだろうよ! レブルさんのスキルは追撃の悪夢シリーズの一つ“打”だ! お前みたいな猫の獣人風情が敵うような相手じゃねーぜ!」


「おい馬鹿っ。敵に情報を流すな!」


「何ビビってんすか先輩! かまやしねえぜ! この程度のガキは俺1人でも十分なくらいだ!」


「あっ馬鹿!」


 レブルの仲間の1人が何処をどう見て何を勘違いしたのか、サーベルを構えて私に向かって走ってきた。

 私はそれを見て、レブルに警戒しながらも相手をしてやると決めた。

 最強な私がこんな格下の雑魚に甘く見られたからムカついたのだ。


 接近してくる男に向かって左手をかざす。

 かざした左手の目の前には魔法陣を浮かばせて、後は呪文を唱えれば完了だわ。


「何しようとしてっか知らねえが、俺のスキルの前では無力なんだよ! 鋼鉄よりも高い硬度を付与する、俺の【絶大なる硬化(ビッグキュアリング)】の前ではな!」


 男が叫びながらスキルを使用してサーベルを振るった。

 多分サーベルを硬くしただけのそれを、私はもろとも魔法の餌食にする。


「グラビティショック」


「――ぐぎょごぼぁあああああああ!!」


 魔法陣から重力を乗せた衝撃波が飛び出して、それはゼロ距離で男に命中する。

 男は変な悲鳴を上げながら吹っ飛んでいき、数十メートル先に落ちて気絶した。

 命を助けてやったから、後で感謝しに来る事を許してやるわ。


 さて、後はレブルをと思ったその時、予想外の展開が起きてしまった。


「動くな!」


「――っ」


「それ以上動くなよ猫女! 動いたらこのガキ共を1人ずつ殺していく!」


 考えなかった私が悪かった。

 レブルの仲間の何人かが子供を人質にしてしまった。

 よく見ればロポもサーベルを向けられて動けなくなっていて、あれでは子供を護る事は出来ない。


「困ったな。流石にお手上げだわ」

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