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169 用心棒と用心棒の戦い

 お姉達がクラブドラゴンと戦っている丁度その時だ。

 ハグレの村から少し離れた場所にある岩山に向かったリリィさんは、人工的に掘られた真っ暗な洞穴を発見していた。


「この先……誰かいるわね」


 リリィさんは何かを察して呟くと、灯りも持たずに真っ暗な洞穴へと入って行く。

 洞穴の中は奥に進めば進むほど光を失い、常人であれば何も見えない程の暗さ。

 しかし、リリィさんには関係ないのか、まるで先が見えているかの様に躊躇なく真っ直ぐと進む。

 そうして先に進んで行くと、ボンヤリとした灯りが見えた。


「子供……とお年寄り?」


 灯りの先に辿り着くと、そこには年端もいかない子供達と年老いた老人達が身を寄せ合っていた。

 リリィさんは訝しみながらも近づいていき、子供の中に孤児院の子供達がいないか確認する。

 しかし、孤児院の子供は1人としていなかった。

 それに何やら様子がおかしい。

 リリィさんを見て怯えた様に顔を歪ませて、子供達も老人に抱き付いて身を震わせている。


「あなた達はここで何をしているの?」


 リリィさんが尋ねるも、誰一人として答えを返さない。

 それどころか、子供達の怯えは増すばかり。

 これには流石のリリィさんも困り顔になり、どうしたものかと考える。

 そして、ある事に気づいて聞く事にした。


「あなた達、もしかして捕まってここに連れて来られたの? それなら安心しなさい。私は捕まった人達を助けに来たのよ」


 子供と老人たちはまだ怯えるような表情をしていたけど、ようやくリリィさんの顔をまともに見る。

 そして、1人の少女が恐る恐るとリリィさんの前に出る。

 少女はボロボロのローブを羽織っていて、顔もフードを被っていてハッキリとは見えなかったが、様子を見るかぎり外傷はない。

 リリィさんは少女のそれだけを確認すると、少女と同じ目の高さになる様にかがんだ。

 すると、少女は怯えながらも、リリィさんの目を見て話す。


「あの……本当に私達を助けに来てくれたの?」


「ええ、もちろん」


「革命軍から護ってくれるの?」


「ええ、約束するわ」


 怯える少女にリリィさんは優しく微笑み答え、少女も安心したように顔を綻ばせ、そして――。


「ネットウォーター!」


 少女がリリィさんに向かって魔法を放つ。

 それは、粘着性の強い水の網。

 至近距離から魔法を放たれたリリィさんは、避ける間もなく水の網に捕らわれてしまった。


「ごめんなさい。でもお姉さんは勘違いしてる。私も革命軍の平和の象徴者(ハグレ)の1人なの。だから、平和の象徴者(ハグレ)の1人として、皆を護る為にお姉さんを倒さなくちゃ駄目なの!」


「やっぱりね」


「――っ!?」


 一瞬だった。

 水の網で捕らわれたリリィさんは、一瞬にして水の網をバラバラに引き裂いた。

 少女は驚愕して息を呑みこみ、目を見開いて、驚きのあまり尻餅をついた。


「捕まっているってわりには全員何かで拘束されているわけではないし、怪しかったのよね。一応騙されたフリしてあげたけど、案外直ぐに正体をバラしてくれた事だし、もうその必要は無いわね」


「そ、そんな……っ」


 少女は今度こそ本気で怯え、慌てて逃げようとしても力が入らない。

 あまりの恐怖に力が入らなくなってしまっていたのだ。


「さて、この子以外は…………この子含めて全員相手にならなそうね」


 リリィさんは少女の背後にいる子供や老人たちに視線を向けて、呆れる様に小さく息を吐き出す。

 先程のリリィさんの行動に、子供や老人も皆が驚き恐怖していたからだ。

 それ程に少女が放った水の網は強力で、それをいとも簡単に引き裂いたリリィさんが強すぎたのだ。

 明らかな格上の存在に怯えるなと言う方が酷と言うもの。

 しかしそんな時、リリィさんの背後から聞こえた銃声音。


「あら?」


 瞬間――リリィさんの後頭部に、銃弾が無情にも着弾し――――ない。


「戦う意思のある奴もいるみたいね」


「馬鹿な! 不意打ちからの拙者の弾を受け止めただと!?」


 そう。

 リリィさんは背後から銃撃され、それを見もせずにいとも簡単に振り向きもせずに左手で受け止めたのだ。

 まさに圧倒的な強者の貫録。

 これには不意打ちをした男も驚愕して一歩後退る。


「ネズミの獣人? 混血種の村と聞いていたのだけど、やっぱりそれ以外もいるって事ね。ま、そりゃそうよね。って、あら? この弾よく見るとどんぐりじゃない。あなたこんな物を銃弾に使ってるの?」


「ふっ。見事だが、余裕ぶっていられるのも今の内。拙者とて数々の修羅場をくぐり抜けてきた身。女子おなご相手に2度も負けたとあっては一生の恥になり兼ねぬ。ここは勝たせてもらうぞ」


「いいわ。相手になってあげる」


 リリィさんが走って一瞬で男に接近。

 男はその速さに驚くも、寸での所で腰に提げていた刀を抜き取る。

 だけど男は間に合わない。

 リリィさんが速すぎるのだ。

 一瞬の内に男に接近したリリィさんの回し蹴りが男の横腹に恐ろしい程の衝撃を与え、男は瞬きも出来ない程の速さで吹っ飛び洞穴の壁にぶつかる。

 唸るような轟音が洞穴の中に響き渡り、天井からパラパラと砂や土が落ちてくる。


「洞穴が崩れるといけないから手加減してあげたわ。ありがたく思いなさいよ」


 あれだけの動きをして息の乱れも汗の一つも無いリリィさんは、そう言って吹っ飛び壁にぶつかった男にゆっくりと近づいていく。


「と言っても、後で拷問して色々聞き出してやるけど」


「させない!」


「っ?」


 リリィさんを再び水の網が覆う。

 振り返ると、先程の少女が目尻に涙を溜めながら、歯を食いしばってリリィさんを睨みつけていた。


「チュウベエさん逃げて! 私がこの人を食い止めるから! 皆も早く!」


「……っくぅ。ならぬ。メソメ殿を置いておめおめ逃げるなど、その様な事をするくらいであれば、死んだ方がマシと言えよう!」


「…………え?」


 リリィさんは2人の言葉に驚き、その瞬間に戦意を失ってしまった。

 それもその筈で、水の網で自分を捕らえたのはわたし達から話を聞いていたメソメで、ネズミの獣人の男がこれまた話に聞いていた……と言うか助けに来た相手なのだから。

 つまり、自分が今蹴り飛ばしてピンチにおいやってしまったのは救出対象。

 流石にリリィさんもこれには肩を落として、深いため息を吐き出した。

 最早何が何やらで意味不明な状況である。

 しかし、そんなリリィさんとは対照的に、メソメとチュウベエは真剣そのもの。

 2人はリリィさんを睨み見て、2人同時にリリィさんに跳びかかる。


「これじゃあ私が悪者じゃないのよ」


 リリィさんは本気で嫌そうに呟くと、全身を覆っていた水の網を再度引き裂いて、それから跳びかかってきた2人を軽々と止める。

 止め方は簡単。

 メソメには優しく腕を掴んで持ち上げて、チュウベエには少し強めの蹴りを溝に一撃。

 この差は……まあ、気にしないとして、とにかく攻撃を簡単に止められた2人は顔を歪ませる。

 と言っても、チュウベエの場合は溝に食らった一撃で顔を歪ませているのだろうけど。


「――っチュウベエさん! 離して!? チュウベエさん逃げて!」


「に、逃げぬ……。この身に変えても、お主……メソメ殿だけは護ってみせる。そうで無ければ、例え逃げ延びたとて、マナ殿に合わす顔がない」


「チュウベエさんっ!」


 リリィさんはなんとも居た堪れない気持ちになる。

 その合わす顔が無くなるマナ殿、つまりわたしに頼まれてここに来たのも理由の一つとして一応あると言うのに、完全な悪者。

 しかし、ここは一応冷静に、リリィさんはまず確認をと質問する。


「その、申し訳ないのだけど、一つ質問良いかしら?」


「黙れ! 貴様の質問なぞ答えぬ!」


 チュウベエが力を振り絞り、銃を構えて銃口をリリィさんに向ける。

 だけど、リリィさんにそんな物は通用しない。

 リリィさんはチュウベエの銃を掴んで、そのまま握りつぶして破壊した。


「ば……馬鹿な…………っ」


 驚き言葉を失うチュウベエ、そしてリリィさんに持ち上げられながらそれを見て、恐怖に息を呑みこむメソメ。

 そんな2人に対して、リリィさんは構わず質問に入る。


「あなた達の言うマナって子、黒い髪の毛のヒューマンよね?」


「そ、そうだよ?」


「いかん! メソメ殿、答えてはならぬ! フルートの騎士にマナ殿が拙者達と関係あると知られれば、マナ殿まで国に追われる身となるぞ!」


 最早隠す気あるのかと言いたくなる発言だけど、リリィさんを騎士と勘違いしてるあたり、本当にそれだけチュウベエも必死なのだろう。

 とは言え、今の発言でメソメも理解して顔を青ざめさせる。


「ち、違う! 私マナちゃんなんて知らない!」


「……はあ。あのね、メソメちゃん? だったかしら? 隠そうとしている所申し訳ないのだけど、私はそのマナの友達よ。このさっきから煩いチュウベエって男と、レオを助けに来たのよ」


「え?」


「むむ?」


「村にはナミキとデリバーとドンナもいるわ。メソメはこの3人とも知り合いなのでしょう?」


 リリィさんの言葉で沈黙が訪れる。

 さっきまで持ち上げられながら暴れていたメソメはピタッと動かなくなり、口を開けてリリィさんを見る。

 チュウベエも目を丸くして、痛みを忘れて固まった。

 そして、3人の戦いの行く末を見守っていた子供や老人達も、皆がマナと聞いて困惑していた。


「お、お主……マナ殿の友人と言うのはまことか?」


「誠よ。そんな事で嘘言ってどうするのよ?」


「確かにお主の言う通りだ。追い詰められての発言であれば嘘かもしれぬが、それは拙者達の方。しかし……そうか。であれば、争う必要も無いのかもしれぬな」


「チュウベエさん……うん、そうかもだよね」


 メソメは顔を俯かせて呟くと、リリィさんと目を合わせた。


「あの、お姉さん、マナちゃんは今何処に……?」


「マナは竜宮城に向かったわ」


「……やっぱりそうなんだ。リネントさんが言ってた通りだ」


 リリィさんはメソメを降ろして、メソメの目と高さを合わせる為に屈んだ。

 そして、メソメの頭を優しく撫でて微笑む。


「もし良ければだけど、詳しく話を聞かせてもらえないかしら?」


「…………うん。お姉さんがマナちゃんの友達なら言ってもいいよ」


「そう、ありがとう」

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