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164 皮肉が生んだ裁き

「ほいひいへふ~」


「食べながら喋らない」


「はひ~」


 わたしが作った料理をお姉が美味しそうに食べる。

 と言うか、人にあんな料理を食べさせといて、自分は味見だけ少ししただけで、まともには何も食べていなかったらしい。

 わたしが眠っている間は、料理があまり喉を通らなかったのだとか。

 いつもは料理の最中に、気を抜くとこっそりつまみ食いするほど食べ物に卑しい癖に、わたしの事を気にしてご飯が食べられないなんて本当い仕方ない姉だ。


愛那まな、嬉しそう」


「へ? 別に普通だよ」


 ラヴィに言われて顔をそむける。

 すると、ラヴィが珍しく背けた方に移動して、わたしの顔を覗き込んで口角を少し上げて微笑んだ。


 さて、わたしは今お姉に料理を与えているわけだけど、その間にお姉やリングイさん達から踊歌祭ようかさいと革命軍が現れてから何があったのかの話を聞いた。

 お姉とラヴィとリリィさん、それからリングイさんからはモーナの情報を聞き出せなかったけど、モーナの情報は意外な相手から聞く事が出来た。


「へ? じゃあ、モーナはリングイさんが気絶した後に来て、一度リネントさんと戦ったの?」


「うん。モーナスお姉ちゃんがシュバババババッバババーンって、悪い人の仲間を倒したんだよー!」


 そう説明してくれたのは、フナさんと孤児院の子供達のプレゼントを、リングイさんに渡した女の子ピュピュ。

 悪い人と言うのはリネントさんの事だ。

 正直リネントさんを悪く言われるのは少し複雑な気分だった。

 わたしにとってのリネントさんは、本当に信頼の出来る良い人だったから。

 だけど、ピュピュからしてみればリネントさんは突然現れた知らない悪い人で間違いなく、だからこそそんな事ないと訂正させる気も無い。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 ピュピュが説明してくれると、他の子達も皆揃って首を縦に振って頷いた。


「そうだったんだ。じゃあ、何でリネントさんについて行く事にしたんだろう? 分かる?」


「わかんない。悪い人と何かお話して、モーナスお姉ちゃんが悪い人の仲間になって、ロポちゃんを連れてついて行っちゃった」


「うーん……。その会話の内容って誰か分かる子いる?」


 皆の顔を見て質問したけど、ピュピュだけでなく全員が首を傾げる。

 まあ、状況が状況だけに、そんなのをしっかりと聞き逃さずに聞いているわけがないだろう。

 モーナの話はこれでお終いだ。

 仕方が無いとは言え、もう少し情報が欲しかった。

 とは言え、一歩前進だ。

 モーナはわたしに『レブルは話してみたら良い奴だったし、こいつを手伝う事にしたんだ』とも言っていた。

 元々はモーナも皆を護る為にリネントさん達と戦っていたと言う事は、ピュピュの言うその会話に何かがあったと言う事。


「もう戻らないって言ってたけど、戻らせてやる」


「マナお姉ちゃん?」


「あ、ううん。何でもない」


 思わず声に出てしまったけど、とりあえず笑って誤魔化す。

 とは言え、声に出したその言葉通りに、わたしはもう決めている。

 絶対にこのまま終わりだなんて、わたしは許さない。

 それこそ本当に“絶交”だ。


 お姉が食事を終え、わたしが食器を洗っていると、そこへ来訪者が現れた。

 来訪者はラタ。

 そして、ラタは他にも人を連れて来た。

 連れて来たのは、メレカさんとアタリー、それからこの国の騎士が2人だ。

 お姉から聞いた話だと、わたしが眠っている間にラタの母親が城に避難していた事が分かって、リリィさんがラタを連れて行っていたらしい。


 今までもリリィさんは何度か城に行って、女王様に孤児院【海宮かいきゅう】で起きた事を報告していた様だ。

 リネントさん……つまり、革命軍の中心人物である“魔龍のレブル”が以前ここで暮らしていた事を女王様は知っていて、何か接触があるかとさぐっていたらしい。

 昔、国の中心だった水深10万キロも深くにあるバセットホルン城、今や迷宮と化した【竜宮城】に眠ると言われている古代兵器に、“魔龍のレブル”が目を付けていると女王様は考えていた。

 そして、海宮で暮らすフナさんのスキルの存在をリリィさんから報告されて、元々は“接触があるかもしれない”と言うだけのものが“必ず接触してくる”と確信に変わった。

 だからこそ女王様の命令でリリィさんは長い間ずっとこの孤児院にいたらしい。

 そのカモフラージュとしてこの国に留学生としてやって来て、更に冒険者として偽っていた。

 真実を含めた何重にも重ねられた情報操作で、今まで海宮にいついて皆を護ってきたリリィさんは酷く後悔した。


 リリィさんが何故今になって全てを話したのかは今回の事があったからだ。

 もしこの事をわたし達が知っていれば、モーナが裏切るなんて事にはならなかったかもしれない。

 もしこの事をリングイさんに知らせておけば、もっと警戒してこんな事にはならなかったかもしれない。

 黙っているにしても、わたし達やリングイさんにだけは言っておくべきだったと後悔いていたようだ。


 そして今回、ラタがメレカさんとアタリー、それから騎士を2人連れて来たのには理由がある。

 その一つは……。


「離せ! 私はマダーラ公爵だぞ! 貴様等どこの貴族の出だ!? 公爵家にこのような態度を取って、ただで済むと思っているのか!?」


 そう。

 この煩い禿げたおっさん……ラタの父親のポンポだ。

 ラタの母親が一緒に来なかったのは、きっとそれだけ自分の夫に失望したからだろう。


「貴様等全員死刑にするぞ! 貴様等だけじゃない! 家族全員をだ!」


 しかし本当に煩い。

 自分の立場をまだ理解できていないのか?

 と言うか実は今まで気にしないでいただけで、お姉がご飯を食べているより前、わたしがお姉の為に料理を作っている時から煩い。

 どうしてそうなったのかポンポの両足が無くなっていて、そして気絶をしていたポンポは料理を作り始めた頃に目を覚まして、それからずっとこんな感じで煩かった。

 ポンポは煩いので、防音の為にわたしが目覚める前から半壊したこの建物の無事だった部屋に押し込めていたらしい。

 だけど、ポンポの声はずっと響いていて、壁の向こうから怒声がずっと聞こえていた。

 そして今、その部屋の中からポンポが縄で縛られて出てきた。

 いや、正確には運ばれてきたと言った所だろうか。


 騎士2人がポンポを雑に運び、ポンポが乱暴に放り投げられる。

 ポンポ事態はどうでも良いけど、ラタの前でそんな風に扱うなと思っていると、ポンポがラタに視線を向けて嬉しそうに笑う。


「おお! ラタ! 生きていたのか!? 随分と顔を出さなかったから親の私を見捨てたのだと思っていたぞ! ほら! お前からも何か言ってやれ! こいつ等はマダーラ公爵家の当主である私に不敬を働くゴミどもだ! 今直ぐ家族諸共死刑にする必要がある!」


 ため息を吐き出したくなった。

 経緯は知らないけど、両足を無くしても変わらない。

 相変わらずの酷いその言葉に、わたしは呆れるしかなかった。


「お父様……ごめんなさい。お父様は罪を償うべきです」


「な、何を!? ラタ! 貴様父親に向かって無実の罪を償えだと!? 貴様こそ父である私を見捨てて自分だけ五体満足で助かりおって! この親不孝者が! 恥を知れ! 貴様なぞ――――っんむぉ!?」


 ポンポがラタに怒鳴っていたその時、それを途中で遮るように、ポンポの口の中に銃口が押し込まれた。

 突然の出来事にポンポは顔を青ざめさせて、それをやった人物を見る。


「恥を知るのは貴様だポンポ=コ=マダーラ」


「め、メレカさん!?」


 お姉までもが顔を青ざめさせて、ポンポの口の中に銃口を押し込んだ人物の名前を呼んだ。

 そう。

 ポンポの口の中に銃口を押し込んだのはメレカさんだった。

 何処に潜ませていたのか、ライフルの様に長いその銃を鋭い目つきでポンポを睨んで構えている。


 ポンポは涙と鼻水を流して体を震わせ、更に黄色い液体を漏らす。

 すると、メレカさんがそれに気がついて銃をポンポの口からどけて、リングイさんに申し訳なさそうに頭を下げた。


「申し訳ございません。少々過剰な対応に貴女の家を汚してしまいました」


「はは。気にすんな。どうせもうぶっ壊れてるし建て替え必須だ」


 リングイさんが乾いた笑みを見せて答えると、メレカさんがもう一度頭を下げた。


「ふ、ふ、ふうううざけるなあああ! 貴様どこのメイドだ!?」


 懲りもせずにまたもや怒鳴り散らすポンポ。

 流石にここまでくると、逆に度胸あるとすら思えてしまうこの禿げたおっさん。

 泣きながら鼻水垂らして更に漏らして直ぐにこれだから、もうこの性格は死んでも治らなそうだ。

 そんなポンポにリリィさんが呆れ顔で話す。


「あら? あんた、メレカを知らないの? 公爵家の癖に」


「な、何? き、貴様は! 確かリリィとか言ったな? 何故貴様がここにいる!? メレカとか言うあの薄汚い下民のメイドがなんだと言うのだ!?」


「あ゛!? 貴様だあ!? 口の利き方に気をつけなさい!」


「ぐああああ! お、おのれええええ――――っぐぎいいいいい!」


 リリィさんがポンポの顔を足で踏みつけて、メレカさんに視線を向ける。

 お姉がわたしの隣で「それだとご褒美になっちゃいますよ、リリちゃん」なんて馬鹿な事を呟いているけど、まあ、それは今は置いておくとしよう。


「メレカ、あなたってまだ正式な名前を皆に教えて無かったわよね?」


「ええ、そうね」


「言っても良いの?」


「構わないわ。もう皆私の妹がどんな人物か知っているもの」


「そ。それなら言うわ」


 リリィさんがポンポの顔から足をどけて、ポンポの頭を掴んで、ポンポの顔をメレカさんへと向けさせた。


「彼女の名前はアマンダ=M=シー。ミドルネームのMがメレカ。趣味でメイドなんかやってるけど、れっきとした王族、この国の女王オリビア=M=シーの実の姉よ」


「――――っっ!!?? ば……馬鹿な…………っ。は!」


 メレカさんの本名を聞き、そしてメレカさんの顔を改めて見たポンポの顔はみるみると青くなっていく。

 涙は流れていないけど、汗と鼻水が凄い事になっていく。

 さっきまで何か言えば怒鳴り散らしていたのに、最早それは見る影もない。


「公爵の癖にメレカと聞いてピンとこないなんて、あんたって本当にどうしようもないくらいに愚かね。と言うか、確かに趣味でメイド服を着てるけど、顔を見たら普通は分かるでしょうに」


「り、リリィ? メイドは趣味では無くて、私の天職よ? それに私は何処からどう見ても完璧なメイドでしょう? その男を擁護するわけでは無いのだけど、分からなかったのは私がメイドとして完璧だったからよ」


「あら? そうだったわね。ふふふ」


 情けない事になった禿げたおっさんポンポの側で、仲良くじゃれ合う2人の美女。

 言い換えるならば、精気が抜けたような表情の野獣に、イタズラっぽく笑う美女と抗議するメイドの美女。

 それはまさに美女と野獣……と言うには似つかわしくないけど、わたしの頭の中では何故かそんな言葉が浮かんだ。

 いや、美女はともかく、あの禿げたおっさんが野獣じゃ流石に野獣には失礼か。


 メレカさんが女王の姉と言う事を知ったポンポは、それっきり何も言わなくなった。

 そして、皮肉にも今回の革命軍の侵攻で明るみになった罪の数々を罪状にして、2人の騎士に連れて行かれる形となった。


 ラタは複雑な気持ちだろう。

 自分の父親が罪人として騎士に連れて行かれるのだから。

 ラタは悲しく虚ろになった目で父親の背中を見送った。

 だから、わたしは何も言わずただ静かにラタの手を握りながら、一緒にラタの父親が連れて行かれる姿を見送った。


「お父様……」


 そう呟いたラタは繋いだ手に力を込め、頬に涙を伝わせた。

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