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154 絶交

 ラタが目の前で父親を大きな蛇に食べられて泣き叫ぶ。

 ラタの父親はどうしようもない程の酷い人だと思うけど、それでもラタの為にこのまま何もせず見ているわけにはいかなかった。


 スキル【必斬】を短剣に乗せて、大蛇に向かって斬撃を飛ばす。

 わたしの放った斬撃は大蛇を真っ二つに斬り裂いて、ラタの父親を五体満足の姿で大蛇の中から救出する事に成功した。


「余計な事を!」


 ステラさんが斬り裂かれた大蛇から飛び降り、そのまま飛び出したラタの父親に向かって手をかざす。

 ステラさんの目の前に魔法陣が生成され、それを見てラヴィがラタの父親に向かって走り出した。


「ウォーターニードル!」


 魔法陣が青色の淡い光を放ち、鋭い水の針が飛び出した。

 それは真っ直ぐとラタの父親目掛けて飛んでいき、ラヴィが魔法で氷の盾をだして防ぐ。 


「ラヴィーナちゃん! そこをどいて!」


「どかない」


 ラヴィとステラさんが睨み合う。

 ラタの父親は目を覚まし、ラヴィの後ろに隠れてステラさんを睨みつけた。


「その男は死んで当然の男なのよ! そうで無ければ死んだお母さんが浮かばれない!」


「煩い! この親不孝者が! 貴様が私の娘だと言うなら、父親である私を殺そうとするなど――」


「黙っていて下さい!」


 パチンッと大きな音が鳴り響く。

 ラタの父親の頬がお姉によってはたかれたのだ。

 怒って当然と言えば当然で、お姉にしては本当に珍しく怒りをあらわにして、ラタの父親を叩いた右手を左手で押さえた。


「貴様何を――」


「貴方は本当にラタちゃんの、それにあの女性ひとのお父さんなんですか!? 酷いです! あんまりです! 貴方の方こそ娘さん達を不幸にしてます!」


「何だと!? この下民が! 貴様、誰に向かって――」


「もうやめてお父様!」


 ラタが叫び、泣き崩れる。

 正直見てられない。

 こんな状況なのにラタの父親は相変わらずで、ラタが不憫でならなかった。


「これで分かったでしょ? その男はクズの中のクズなのよ。ここで殺すべき男よ」


「だ、黙れ黙れ! このポンポ=コ=マダーラ、貴様の様なゴミクズに殺されるべき器では無い!」


 ステラさんとラタの父親が睨み合い、そして次の瞬間、この場に大きな笑い声が響き渡った。


「あーっはっはっはっ! ポンポコッポンポコってお前、まるでタヌキみたいな名前だなハゲオヤジ! あーっはっはっはっ!」


「――っモーナ!?」


 笑い声の主はモーナ。

 モーナはいつの間にそこにいたのか、近くにあった民家の屋根の上でラタの父親に向かって指をさして笑っていた。

 そしてその隣には、リネントさんといつの間にかいなくなっていた元の姿に戻ったダンゴムシがいた。


 自然と自分の顔が綻ぶのを感じる。

 モーナが来てくれた。

 それに、何でかは分からないけどリネントさんもいる。

 ハグレの村の人達が革命軍と言って都を襲っているけど、モーナと一緒にいるって事は、それを止めに来てくれたのかもしれない。

 わたしはそう期待して嬉しくなった。


「な、なんだ貴様は! む? よく見たらあの時の失礼な下民か! 私の名前を狸呼ばわりとは良い度胸だな!」


「あーっはっはっはっ! 聞いたかレブル(・・・)? タヌキがタヌキって言われて血管浮かべて怒ったぞ! あーっはっはっはっ!」


 レブル?


 嫌な予感がした。

 モーナは確かにレブルと口にした。

 その場には、ダンゴムシとリネントさんしかいないのに。


 モーナがダンゴムシを背に抱えて屋根の上から飛び降りて、リネントさんもそれに続く。

 だけど、飛び降りた先はわたしの所でもお姉とラヴィの所でも無かった。

 モーナが飛び降りた先、それはステラさんの所。

 リネントさんもステラさんの隣に着地して、ステラさんに軽く触れた。


「もう時間だ。退くぞ」


「でも、目の前に……っ」


「分かっている。ステラ、君の気持ちも理解しているつもりだ。しかし、すまないがここは退いてくれ」


「分かりました……」


 嫌な予感がする、嫌な予感がする、嫌な予感がする。

 リネントさんとステラさんの会話を聞いて、嫌な予感が止まらない。

 わたしは今、どんな顔をしているだろう?

 不安で仕方が無い。

 体が震えて止まらない。

 モーナはいつも通りの呑気な顔をして笑っていて、それが怖くて堪らない。


「モーナちゃんもロポちゃんも早くこっちに来て下さい!」


 わたしは何も言えない。

 でも、お姉は違った。

 お姉はモーナに叫び、モーナはゆっくりとお姉に顔を向けた。

 2人の目がかち合って、モーナはいつものドヤ顔をお姉に向ける。


「悪いな。もうそっちには戻らないわ」


「――っ! どう言う事ですか?」


「こいつ、レブルの仲間になる事にしたんだ」


 モーナがこいつと言って、レブルと言って、リネントさんを指でさした。


「き、貴様があの魔龍のレブルだと!? た、頼む! 私だけ、私だけは見逃せ! 私は貴様の隣にいる女の父親なんだ! 貴様とて仲間の親を殺すのは忍びないだろう!?」


 この後に及んで自分だけは助かろうとする下衆な男。

 更にこいつはラタに指をさす。


「そうだ! 提案だ! これは私の娘だ! 娘を貴様にやる! 娘と結婚すれば、貴様も晴れて公爵家の仲間入りだ! 国の恩恵を十分に味わえる立場になれるのだ!」


 最早この場には、ラタの父親に味方したいと思う者は1人もいないだろう。

 1人を除き全員が口を閉ざして、ラタの父親を冷淡な目つきで捉える。

 ラタももう涙すら出ないのか、父親に対して諦めの表情を向けていた。

 そしてそんな中、唯一1人、モーナだけが相変わらずな感じで笑っている。


「あーっはっはっはっ! このハゲタヌキ面白すぎだ! 命乞いが下手すぎだわ! あーっはっはっはっ! もうここで殺しといて良いだろ!」


「同感」


 笑うモーナに同意して、ステラさんがサーベルの先端をラタの父親に向けた。

 しかし、それをリネントさんが手で触れて制止する。


「やめておけ。今は退く時だ。魔物も着実に増えていて時間もそれ程残っていない」


「そう……ですね」


「なんだ? 殺さずに帰るのか?」


 リネントさんの言う通り、魔物モンスターの数は増えていた。

 何故かこの場だけ魔物モンスターが避ける様にして来ないけど、少し離れた先には大量の魔物モンスターが群れを成して蔓延はびこんでいる。

 遠くからは悲鳴や激しい爆発音、誰かが魔物モンスターと戦っている音が聞こえていた。

 ここ水の都フルートは、その都の構造上まだ毒の海水がここまできてはいないけど、それも時間の問題かもしれない。

 未だに毒の海水が破れた膜から魔物モンスターと一緒に流れ込んでいて、それは確実に都をむしばんでいた。


 ラタの父親は未だに何か言っている様だけど、もう皆の耳にもわたしの耳にも届かない。

 聞くだけ無駄だと分かっているから、わたしも既にただの雑音程度にしか思っていなかった。 

 そしてそんな雑音が聞こえる中、ラヴィが一歩前に出て、その虚ろな瞳をリネントさんに向けて口を開いた。


「リネント……レブルだって黙ってた。愛那と私を騙してた?」


 ラヴィの質問にリネントさんは一瞬だけ悲しげな表情を見せ、直ぐに真剣な面持ちをラヴィに向ける。


「騙していた……わけではない。俺の名はイングロング=L=ドラゴン。ミドルネームのLは“リーニエント”で皆からはリネントと呼ばれている。レブルと言うのは、ミドルネームのLを俺を知らない者達が勝手に“レブル”と置き換えて呼んでついた通り名だ。革命軍として行動する時は、そのレブルと言う名を利用させてもらっているだけにすぎない」


「私も知らなくて驚いたぞ。マナとラヴィーナから聞いたリネントがレブルだったなんてな! 私もレブルの名前はレブルって事しか知らなかったからな」


 お姉が前に出てラヴィの隣に立つ。

 そして、モーナに悲しげな表情を向けて叫ぶように問う。


「それなら、それならモーナちゃんは何でその人について行く事にしたんですか!?」


「何でって、そんなの決まってるわ! レブルは話してみたら良い奴だったし、こいつを手伝う事にしたんだ。ロポも私と同じ意見だわ! この国の貴族連中は腐ってるしな。殺しても問題無いだろ」


 モーナが楽しそうに笑って答え、本当にいつも通りなそれを見て、居ても立っても居られない気持ちになった。

 気が付けばモーナに向かって走り出していて、だけど、直ぐにモーナの重力の魔法で地面に押さえ付けられる。

 わたしは地面にへばりつき、あまりの重さに身動きを封じられてしまった。

 モーナは笑うでも無く、悲しむでも無く、ただ無表情でわたしを見る。


「愛那ちゃん!?」


「愛那!」


 お姉とラヴィがわたしに近づこうとして、わたしと同じ様に重力の魔法で身動きを封じられる。

 いいや、違う。

 魔法が使える分警戒されているからなのか、2人にはわたしより強力な重力がかけられていて、お姉もラヴィも指一本さえも動かせない。

 お姉とラヴィは重力の重みに苦しみ顔を歪ませて、息をするのも苦しそうだった。

 そして、そんな2人を見ても表情の一つさえ変えないモーナを見て、わたしの目尻から涙が溢れだした。


「――っモーナ! 何で!? 何で……っ!」


「絶交なんだろ?」


「――っ!?」


 モーナの「絶交なんだろ?」と言うその言葉は、間違いなくわたしの心に突き刺さった。

 それは、自分から言いだした何度もモーナに言った言葉。

 酷く浅はかで人を傷つけるには十分な言葉。

 後悔したってもう遅い。

 モーナがわたしの許を離れていってしまうとしても、もう、わたしにモーナを止める権利なんて初めから無かったのだから。


「もう二度と会う事は無いわ。マナ、さよならだ」


 それは、モーナの最後の別れの言葉。

 その言葉はわたしに重くのしかかり、わたしはその場で泣き崩れた。

 目の前が真っ暗になり、もう何も考える事が出来なくなってしまった。

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