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153 モンスター来襲 2

「と言うわけなんです。ここに来るまでは、私より行動範囲が広いラヴィーナちゃんとリリちゃんが周囲に気を配ってくれていたので、それで私が最初に愛那まなちゃんとその子を見つけて今に至りました」


「……はあ? 何? そのおっぱい侯爵夫人って? お姉、こんな時にふざけてるの? それとも自慢?」


「違います! 真剣なんです! って言うか大事なのはそこじゃないです! おっぱい侯爵夫人って何ですか!? モーベル侯爵夫人です!」


 お姉から今までの事情を聞いたわたしは、お姉のおっぱいアピールに嫌気がさした。

 とまあ、それは今は置いておくとしよう。


 わたしは合流したお姉達にモーナの事を簡単に説明して、わたしの隣で話を一緒に聞いていたラタの事も説明し紹介し、ついでにラヴィにうさ耳を返す。

 やっぱりうさ耳はラヴィがつけた方が似合うな、なんて思いながら、ウェーブが埋まった瓦礫の山へと向かう。

 ウェーブを瓦礫の中から引っ張り出して、身動きとれない様に縄で縛ろうと考えたのだけど、それは出来なかった。

 わたしの力じゃどうにも出来無そうだったので、リリィさんに手伝って貰った。

 だけど、結果は良くなかった。


「いない?」


「ええ。暫らくは気絶して動けないと思っていたのだけど、ごめんなさい。逃げられたわね」


「いえ、リリィさんのせいでは無いので……」


「どうしましょう? 愛那ちゃん、そのウェーブさんって言う人を捜しますか?」


「ううん。今は他の事をしよう。ハグレの皆を止めないと」


「悪いのだけど、私は別行動するわ」


「リリちゃん、何処か行っちゃうんですか?」


「ええ。孤児院の子供達が心配なの。リングイがついているから平気だと思うけど、子供の人数を考えると1人で護るには多すぎるもの。だから今から捜しに行って来るわ」


 リリィさんの言う通りだ。

 戦えないフナさんをいれて、子供達は全部で29人もいる。

 その人数をリングイさん1人で護るのは流石に厳しいものがある。

 リリィさんの実力が凄いのは分かった。

 それなら、ここでわたし達と行動を共にするより、子供達を護ってもらった方が良いに決まっている。

 だから、お姉もそれを理解して頷いた。


「そうですね。皆の為にも行ってあげて下さい」


「そうさせてもらうわ」


「その、助かりました。ありがとうございました」


「いいのよ。また後でね」


 わたしがお礼を言うと、リリィさんは優しく微笑んで、直ぐにこの場を去って行った。


「お姉、ラヴィ、先にラタを安全な所……城に連れて行きたいんだけど良い? 多分あそこならこの国の中心だし安全だと思うんだ」


「そうですね。メレカさんもいる筈ですし、きっとそれが良いです」


「あー、女王様と一緒に行ったんだっけ?」


「そう。アタリーも一緒」


 お姉の話だと、メレカさんと女王様が姉妹らしい。

 どうりで女王様を見た時に見た事があると思ったわけだ。


「とにかく決まり。ラタもそれで良いよね?」


 もちろん、と答えが返ってくるかと思ったけど、そうはならなかった。

 ラタはわたしの質問に直ぐに返事をせずに、俯いて黙り込んでしまった。

 その表情からは悩みがうかがえて、そして、何かを心配している顔だった。

 でも、その何かはだいたい見当がつく。


「もしかして、お父さんとお母さんが心配?」


 尋ねると、ラタは顔を上げて目尻に涙を溜めながら頷いた。


 ラタの両親はどうなったか分からない。

 お姉の話を聞く限りでは、もう既にあそこの場所には母親もいなくなっている。

 父親は何処かに逃げて行ってしまって、母親と同様に何処にいるかが分からない。


 ラタの為に両親を捜すかどうか考える。

 あの父親はともかく、母親を放っておくのは危ないかもしれないと思い、わたしはラタの気持ちを尊重したいと思った。


「捜そう」


「良いの?」


 ラタが不安そうな顔でわたしを見つめる。

 だから、わたしは笑顔を向けて「当たり前じゃん」とラタに告げた。

 するとその時だ。

 少し離れた場所から、何処かで聞いた様な「助けてくれえええ!」と言う声が聞こえてきた。

 そしてその声を聞いて、ラタが「お父様!」と大声を上げて走り出し、わたしとお姉とラヴィもラタの後を急いで追った。


 悲鳴が聞こえた場所はさほど遠くも無く、直ぐにその場に辿り着く。

 そこにいたのは間違いなくラタの父親。

 禿げた頭の性格が悪そうないかにもなおっさん。

 自分の妻を置いて逃げた男だ。


「頼む! 命だけは! 命だけは助けてくれ! 金なら幾らでもやる!」


 悪役の金持ちなんかが言いそうな、如何いかにもなセリフを放つラタの父親は、尻餅をついて顔を真っ青にしていた。

 そしてその目の前に立っているのは、ハグレの村についた時にわたし達を出迎えた男の人。

 あの時はメソメの父親が見つかって直ぐだったから気にも留めなかったどころか忘れていたけど、いつの間にかいなくなっていた人だ。

 今更ながらよくよく考えると、何も言わずにいなくなっていたので印象はあまりよくない。

 とは言え、今回の件を考えると納得してしまうような行動だった。

 彼からすれば、わたしやラヴィは歓迎するべき相手では無かったのだ。


「お父様ーっ!」


 ラタが叫び、ラタの父親と男がラタに気づいて振り向く。

 ラタの父親はラタを見て、嬉しそうな顔でこちらに向かって走り出した。

 そしてそんな中、わたしと男の目がかち合い、男はわたしの顔を見るなり不機嫌そうに顔を歪めた。


「おお! ラタ、無事だったのか!?」


「はい! お父様! マナが、この子が私様を助けてくれたんです!」


「そんな事はどうでもいい。それよりもこいつ等にここを任せて早く逃げよう」


「お父様? マナは私様を――」


「口答えするんじゃない!」


「――っ! ………………それは……っ」


 やっぱりラタの父親はどうしようもないくらい酷い人物だ。

 あまりの酷さにラタまでも母親と同様に黙ってしまい、顔を俯かせてしまった。

 すると、今度はラタの腕を掴み引っ張り出した。


「早く来なさい! もたもたしていたら殺されてしまうぞ!」


「でも……」


「口答えするなと言っているだろう!」


「ま、待って下さい! ラタちゃんが嫌がってます!」


「離して」


 ついにお姉とラヴィまでもがラタとラタの父親の間に割って入ってしまった。

 こんな時だと言うのに、内輪揉めしてる場合じゃないのに、ラタを巡って火花が散っている。

 正直それどころじゃないし止めに入りたい所だけど、それすらもそれどころじゃないこの状況。


 わたしは今、ラタの父親を襲っていた男と睨み合っている。

 短剣を構えて、緊張で唾を飲み込む。

 男はサーベルを構えて、苛立った様子で口を開いた。


「確か名はマナ、と言ったな? シェルポートで死んでいればいいものを」


「シェルポート……? どう言う事?」


「さあな。ただ、メソメさえいなければ、お前達を我々は村で始末していたと言う事だけは教えてやる」


「やっぱり歓迎されてなかったんだね?」


「当たり前だ。我々は全員お前達の様な差別主義者に恨みを持っている」


「あのさ、その差別主義者ってのやめてくれない? わたし差別とかした覚えないんだけど?」


「どうせ区別だと言いたいんだろう? お前達差別主義者は皆そう言う」


「うわっ。すっごい被害妄想じゃん」


「何? ……いや。まあ良い。そろそろ時間だ」


「……時間?」


 意味が分からず呟いた瞬間。

 突然吸血うにの雨の第二波が訪れて、それはわたしの前方の近い所に落下し……違う。

 吸血うにが降ってきたと思ったら、それは別のものだった。


「――っ嘘でしょ!?」


「この国はもう終わる!」


「へうううう!! モンスターが降ってきましたあああああああ!!」


 お姉が叫び、そして、ここでは無い何処かから悲鳴が木霊こだまする。

 そして、わたしは海を見上げて目を見開いて驚いた。


毒海どくうみ!?」


 そう。

 事態は急速に悪化していく。

 都は毒海に覆われていて、都を覆う膜は所々破れて毒の海水が流れ入ってきている。

 そして、そこから侵入するのは毒海と一緒に現れる魔物モンスター達。

 大口海竜ラージマウスドラゴン、ポイズンアリゲーター、毒海蠍ポイズンシースコーピオン

 それにその他にも初めて見る魔物モンスターまでいる。


「この手でお前達を裁けないのは残念だが、ここが引き際だ」


「――っあ!」


 男はニヤリと笑みを見せて、凄い勢いで立ち去ってしまった。

 その後を追いかけたいけどそれは出来ない。

 今はそれどころでは無い状況。

 とにかくヤバい。

 見上げた海は全てが毒の色に染まり、破られていない膜の上には魔物モンスターがひしめき合っている。


「見つけたよ」


 不意に声が聞こえた。

 それは怒りと恨みの籠った底冷えする様な冷たい声。

 わたしはこの声を知っている。

 振り向けば、人を丸呑みしてしまえそうな見上げる程に大きな蛇と、その上にステラさんが立っていた。


「き、貴様はさっきの女!? どう言う事だ! このガキがここにいるから死んだと思ったが生きていたのか!? 役立たずのガキめ!」


 ラタの父親がわたしを見て睨む。

 そして何を考えたのか、ラタの背中を押して目の前に立たせ、ステラさんを見上げながら下卑た笑みを見せ口を開く。


「おい貴様、いや娘よ。まあ待て。これも私の娘、つまりは血が半分繋がっているお前の妹だ」


「お父様……?」


「旦那様おやめ下さい! それ以上は――」


「黙れカトリーヌ!」


「カトリーヌ!」


 かたつむりが止めようとするも、ラタの父親に止められ叩かれ動かなくなる。

 ラヴィが急いでかたつむりに駆け寄って回復を始め、その横ではラタの父親が再び下卑た笑みを浮かべて、ステラさんを見上げた。


「こいつを、娘のラタをお前にくれてやろう。家族が増えればこんな馬鹿な事をする気も無くなる! なんだったら生活費程度なら払ってやっていい! どうだ? 良い話だろう? 一度に妹と金が手に入るんだ!」


 我が身可愛さに自分の娘を差し出そうとするその汚らわしい行いに、この場にいる誰もが驚き、そして言葉を失った。

 ラタの目からは涙が流れ頬をつたい、見ていられない程に悲しみの表情で顔を歪ませた。

 お姉はラタに駆け寄って、ラタの父親を睨みながらラタを抱きしめた。

 そして、わたしは我慢の限界を迎えようとしていた。


「いい加減に――――」


 瞬間――――目の前からラタの父親の姿が消えた。


「ぐぎあああああああっ!」


 ラタの父親の悲鳴が聞こえ視線を向けると、そこにいたのはステラさんを乗せた大きな蛇。


「いやあああああああああっっっ!」


 ラタの叫び声が響く。

 そして、ステラさんがこの場に相応しくないいびつな嬉しそうで幸福に満ちた笑みを見せる。


 本当に一瞬の事だった。

 何も見えなかった。

 だけど確実にそれは起きた。


 わたしがラタの父親を怒鳴ろうとしたその時、ラタの父親がラタの目の前で蛇に丸呑みにされたのだ。

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