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015 礼雀のつづらの行方

 アイスマウンテンと呼ばれる山の麓まで辿り着き、わたしは目の前に広がる森を見上げて驚いた。


 十階建てのマンション位の高い木にツルを絡ませて実るひょうたんの数々。

 そのひょうたんも大きくて、どれもこれもが私の身長位の大きさで、それが所狭しと実っている。


 驚いたのは、実はそれだけじゃなかった。

 アイスマウンテンは、遠目から見ても寒そうな位に雪が積もって真っ白だったのだけど、今わたしがいるここは結構温かい。

 吹く風も山から出は無く、山とは逆の方向からくるおかげか、涼しいと感じる事はあっても寒いと感じる事は無かった。

 それでも、直ぐそこには雪山があるから少しは影響を受けそうなものなのにと、わたしは疑問に感じた。


 わたしがひょうたんを見上げて見ていると、お姉が目を輝かせながらジャンプする。


「凄いですね! あんなに大きなひょうたん、初めて見ました!」


「あれは食えないわよ!」


「見ればわかるよ。それよりモーナ、ここ等辺はまだ暖かいからいいけど、山に登ったらその格好だと寒いし少しは厚着したら?」


「まだ大丈夫だ!」


 モーナの格好は相変わらずの乳バンドとカボチャパンツ。

 大丈夫とは言うけれど、正直、見てるこっちが寒くなりそうだ。


 だけど、わたしもモーナの事を、あまり言える様な姿では無いのも事実だ。

 今まであまり気にしていなかったけど、この世界に来て間もないわたし、それにお姉は持ち合わせの服が少ない。

 一応この世界の服を何着か買ってはおいたけど、アイスマウンテンが遠目から見ても想像以上の雪山で、今持っている服で本当に大丈夫なのか心許ない感じだった。


 そう言えばと、わたしはラヴィに視線を向ける。


「ラヴィって、雪女だよね? やっぱり寒さには強いの?」


「そう。寒い所は好き」


「やっぱりそうなんだ」


 ラヴィの答えを聞いてわたしが納得していると、いつの間にか先に進んでいたお姉が手を振って大声を上げる。


「早く行きましょー!」


 わたしは苦笑しながらラヴィの手を握って、ラヴィの歩幅に合わせてお姉を追った。



 それから暫らく歩いて行くと、不思議な集落に辿り着いた。

 相変わらず高い木とひょうたんがそこ等中にあるのだけれど、そのひょうたんのサイズが今までと全く違っていた。

 ひょうたんは全て人が住めるほどの大きさで、実際に鳥人が住んでいるようだ。

 しかも、全てが木に絡んだツルから実る様にぶら下がっていて、地面に建つ家なんて一つも無かった。


 わたしが森の入り口でやっていたように再び上を見上げていると、お姉とモーナが騒ぎ出す。


「凄いです! 何だか興奮してきました!」


「鳥人がいっぱいだな! 礼雀らいじゃくのつづらも簡単に手に入りそうだな!」


 わたしは騒ぐ二人を放っておいて、ラヴィに質問する。


「雀の鳥人が持ってるって言ってたけど、礼雀のつづらって、雀の鳥人なら皆持ってる物なの?」


「違う。持ってるのは一人。でも、誰かはわからない」


「そっか。教えてくれてありがと」


 わたしがお礼を言うと、ラヴィは少しだけ口角を上げて、こくりと頷いた。

 それから私は考える。


 礼雀のつづらを持っているのが、雀の鳥人の一人だけなら捜さなければいけない。

 その捜すという行為が、結構問題だと思えた。

 捜すだけなら、時間はかかるだろうけど本来であれば特に問題は無かった。

 だけど、この集落での人捜しであれば問題だ。

 何が問題かなんて言わなくても見ての通りで、地面には一つも家が建っていなくて、見上げた先にしか家は無い。

 聞き込みをしようにも、鳥人達は空を飛んで移動をしているし、地面に降りてくる鳥人は一人もいない。

 残念ながら、鳥人達は羽休めなども全て木の枝に止まってしていた。


 礼雀のつづらの持ち主を、どう捜せばいいのか悩んで、わたしは一つ思いつく。


「お姉、私とモーナとラヴィを背中に乗せれる位に、大きな雀に変身できない?」


「大きな雀さんですか?」


「うん。雀の鳥人を捜すなら、そっちの方が何かと話を聞いてくれそうだなって」


「そうですね。その方が警戒心も無くなりそうです」


「うん。だからお願い」


「わかりました!」


 お姉が能力を使って変身して、大きな雀の姿になった。

 その姿は思った以上に可愛くて、何だか無性にモフりたくなる程だ。


「背中に乗って下さい」


「うん」


 わたしは返事をして、ラヴィと一緒にお姉の背中に乗る。

 そしてその時気がついた。


 モーナはお姉の背中に乗らずに、宙に浮かんでいたのだ。

 しかも、既にわたし達の頭上まで浮かんでいて、わたし達を見下ろしていた。

 わたしは驚いて、思わずモーナに訊ねる。


「モーナって飛べたの?」


「だな……あれ? マナの目の前で、今まで何度も飛んだぞ?」


「え? そうだっけ?」


 言われてみれば飛んだ事がある様な無い様な……。


「そんな事より、早く行くぞ!」


「はい!」


 わたしが首を傾げて考えていると、お姉がモーナに急かされて羽ばたく。

 忽ちわたしはお姉の背中の上で風に乗り、気持ちの良い風が頬を撫でていく。


 あっという間に住宅が並ぶ高さまでやって来たわたし達は、礼雀のつづらの持ち主を早速捜し始める。

 そして、意外なほど、呆気なく情報を得てしまった。


「礼雀のつづら? それなら、おさが持ってるよ」


「本当ですか!?」


「ああ、本当だとも。長の家はここを真っ直ぐ行って、突き当たりにある家を右に曲がって言った所にあるよ」


「ありがとうございます」


 わたしは教えてくれた鳥人にお礼を言って、早速お姉に頼んで長の家に向かう。


 全てが上手くいっていた。

 最初の目的の打ち出の小槌を手に入れる為に亥鯉の川に向かって、途中でラヴィに出会って鶴羽かくうの振袖を手に入れた。

 次は目的地で猪鯉達と川上り競争なんて事をやらされたけど、それでも最後にはモーナのおかげで打ち出の小槌を手に入れた。

 ストーカーのスタンプに襲われたけど、氷雪ひょうせつの花を手に入れる為に必要な礼雀のつづらの情報を、ラヴィから聞いて得る事が出来た。

 そして、この集落では、直ぐに礼雀のつづらの持ち主の情報を得た。

 本当にわたし達はこれまで色々あっても、全てが上手くいっていたのだ。


 だけど、それもこれまでだった。

 そう。

 今までが、本当に驚くほどに上手くいき過ぎていたのだ。


 わたし達は長の家まで辿り着き、長に事情を説明する。

 勿論、全てが終わったら、礼雀のつづらを返しに来ると伝えた。

 だけど、長から返って来た言葉は、受け入れ難い信じられない言葉だった。


「礼雀のつづらか。すまんのぅ。それなら、先日スタンプと名乗る男に譲った所じゃ」


「へ?」


 わたしは息をするのも忘れてしまうくらいに驚いた。


「本当ですか?」


 お姉が眉根を下げながら長に訊ねると、長は頷いて答える。


「本当だとも。先日、まだ幼い孫がアイスマウンテンに遊びに出かけてしまって、どうしたものかと困っていたんじゃ。そこへ、スタンプと名乗る男が現れて、孫をアイスマウンテンから連れ戻してくれたのじゃ。そのお礼にと、礼雀のつづらを渡したのじゃよ」


「そうだったんですね」


 わたしは長の話を聞いて思い出した。

 そして、わたしは自分の馬鹿さ加減に気がついた。


 あの時、スタンプは氷雪の花が入っていた箱を開けた。

 だからこそ、わたしは氷雪の花をスタンプが持っていた事を知り、ラヴィのおかげで持ち歩くには礼雀のつづらが必要だと知ったのだ。

 気が付くべきは、スタンプが私と出会うまでに、どうやって氷雪の花を溶かさずに持って来たかだ。

 考えてもみれば簡単な事なのだ。

 わたしとスタンプが出会ってから、ほんの少ししか時間が経ってないのに溶けてしまった氷雪の花。

 ここからわたしとスタンプが出会うまでの距離の事を考えたら、普通に考えて、そんな一瞬で溶けてしまうなんておかしいのだ。

 氷雪の花が溶けてしまった理由。

 それは、スタンプが箱のふたを開けてしまったせいで、氷雪の花が外気に触れてしまったからに他ならない。

 そう考えれば、本当に簡単に答えは導き出される。

 あの時、スタンプが持っていた箱こそが、礼雀のつづらだったのだ。


「愛那」


 ラヴィもわたしと同じ答えに辿り着いた様で、眉根を少し下げながらわたしの顔を見た。

 わたしはラヴィと目を合わせて頷き合った。


 だけど、そんな中で、そうでない二人がいた。


「そんなの持ってたか?」


「うーん。持ってなかったですよ。何処かに捨てちゃったんですかね?」


「きっとそうだな! 馬鹿な奴だ! 何処に捨てたか聞きに行くわよ!」


「馬鹿はお姉とアンタだ」


 わたしは何だか頭が痛くなってきて、額を手で抑えながらモーナに視線を向ける。

 すると、モーナが目を点にしてわたしと目を合わせた。


「今まで気がつかなかったわたしもわたしだけど……って、そんな事より、スタンプが氷雪の花を入れていた箱があったでしょ? あれが礼雀のつづらだよ」


「そうなんですか!?」

「そうなのか!?」


 私の説明を聞いて、お姉とモーナが同時に驚いた。

 そして、二人は長に詰め寄って、これまた同時に両手を使って、あの時見た礼雀のつづらの大きさを表現して長に見せる。


「この位の大きさの箱なのか!?」

「つづらの大きさはこの位ですか!?」


 お姉とモーナが同時に喋るので、最早何を言っているのか聞き取れない。

 だけど、そこは流石は集落の長だ。

 二人の言いたい事を、ちゃんと読み取って答えてくれる。


「そうじゃな。その位の大きさのつづらであっとるよ」


 長が答えると、お姉とモーナの動きが停止する。

 そして、二人は私に振り返り、何故か涙目で同時に話す。


「どうしましょう~」

「大変な事になった」


「スタンプを捜して、礼雀のつづらを貰うしかないよ」


 わたしの答えを聞いた二人は、より一層涙目になってしまった。

 流石にわたしも、そこで嫌な予感を感じとる。

 すると、わたしの服をラヴィがくいくいっと引っ張り、わたしはラヴィに視線を向ける。


「燃やしてた」


「え?」


 まさか!?


 わたしはラヴィの言葉を聞いて、お姉とモーナに視線を移す。

 すると、お姉とモーナは、今度は泣きながら同時に声を上げる。


「「ごめんなさいー!」」


「う、嘘? 燃やしちゃったの!?」


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