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149 VS革命軍 その3

「お嬢様、ご無事で良かったです」


「カトリーヌ……あなた、マナと一緒にいたの? 捜してたのよ?」


「お嬢様……っ。こんな危険な状況だと言うのに私なんかの為に……。ありがとうございます」


「良いのよ。あなたが無事で良かったわ、カトリーヌ」


 かたつむりがラタと再会を果たし、わたしの肩の上からラタの手の平の上へと跳躍して移る。

 一先ずはラタが無事で良かったけど、安心出来ないこの状況。

 ウェーブが持つ武器はカットラス。

 既にわたしを敵と見なして構えている。


「駄目だぜ、マナちゃん。リネントさんが注意したのにレブルに……革命軍に関わっちゃ」


「レブルは革命軍のトップって言ってたよね? ウェーブさんがレブルを英雄って言ってた理由が分かったよ。リネントさんがレブルとわたしを関わらせたくない理由も。こう言う事だったんだね」


「それならこっちに来るか? マナちゃんなら俺達は歓迎するぜ」


「いかない。ここで止める」


「そーかよ!」


 ウェーブが走り、接近する。

 それはわたしが知るウェーブの動きでは無かった。

 ウェーブと言えば、料理は出来るけど戦闘が出来ないただの雑魚。

 だけど今のウェーブは違う。

 ステラさん程ではないけども、わたしのスピードを簡単に超えている。


 ウェーブがカットラスを振るい、わたしは短剣で受け止める。

 刃と刃の交わる音が鳴り響き、背後にいるラタが小さな悲鳴を上げて後ろに下がった。


「ま、マナ、駄目よ。一緒に逃げましょう!?」


「ラタお嬢様のおっしゃる通りです! 危険です!」


「無理! いいから後ろに下がってて!」


「でも――」


「いいから早……くぅっ!」


 ウェーブにカットラスで短剣を振り払われる。

 そして直ぐに追撃の刺突を繰り出したので、わたしも直ぐに魔石から氷の盾を発動させた。


「あの嬢ちゃんの魔法か!?」


 ウェーブがわたしから距離を取り、周囲を見回す。

 どうやらウェーブからは魔石が見えなかったようで、近くにラヴィがいると勘違いしてくれたようだ。

 だけど、それも最初だけで直ぐに気が付く。


「……どうやら、いないみたいだな。あっちの子、ラヴィーナちゃんはマナより厄介なもん持ってるから助かるぜ」


 ウェーブが再び走って向かって来る。

 力任せにぶつかっても負けてしまうので、ウェーブの動きを止める為に足を狙って短剣を横に振るう。

 スキル【必斬】の効果で斬撃がウェーブの足まで飛翔したけど、ウェーブがそれに気づいて軽々と避けた。


「マナちゃんさあ、狙いどころはいいけど攻撃が直線的で分かり易いんだよ」


「――っ!」


 続けて斬撃を飛ばそうとしたけど、思った以上に早く接近されて出来なかった。

 目の前に現れたウェーブがカットラスを振るい、わたしは短剣でそれを受け止め――きれない。

 またもや短剣を払われて、完全に隙を作ってしまった。

 でも、それでもまだ諦めない。

 さっきと同じように、男の急所目掛けて蹴りを繰り出す。


「だからさあ!」


「っきゃ!」


 蹴りはウェーブの左手に足を掴まれて止められ、わたしはそのまま持ち上げられて逆さまになってしまった。


「パンツの色は白か」


「――っな!? み、見るなあああああ!」


「っと、暴れるな暴れるな」


 掴まれて無い方の足や手をバタつかせて暴れるも完全な無力。

 早々に諦めて、スカートを抑えパンツを隠すしか出来なかった。


「さてどうしようかね~? そのうさ耳って、ステラがラヴィーナちゃんにあげたやつだろ?」


「だから何だって言うの!?」


「やっぱそうだよなあ。それ見たら思いだしちまう。俺としてはマナちゃんと一緒にいた時間は楽しかったわけよ。だからマナちゃんは出来れば殺したくないけど、差別主義者の味方をするってんなら殺さなくちゃならないんだよな~。マナちゃんはどうしたい?」


「知らない! それより離して!」


「やだね。マナちゃんが俺達【平和の象徴者(ハグレ)】の一員になるなら離してあげるよ」


「都をこんな風に酷い事した人達の仲間になんて、なるわけないでしょ!」


「相変わらずだなあ。そのツンっとした所も俺は好きだぜ」


「はっ? うっさいロリコン!」


 その時、わたしが「ロリコン!」とウェーブを罵倒した瞬間だった。

 ラタが「マナ!」とわたしの名を叫びながら、近くに落ちていたのか、何かの残骸らしき鉄の棒でウェーブの頭を殴った。


「――っラタ!?」


「あっ?」


 ウェーブが頭から血を流し、震えながらも眉根を上げて睨むラタに視線を移す。

 その時のウェーブの顔が余程怖かったのかラタの体の震えは大きくなり、持っていた鉄の棒を落として後退り、それから直ぐに尻餅をついて動けなくなってしまった。


「ラタ逃げて!」


「いいや逃がさねえ」


「お嬢様!」


「邪魔だ」


 かたつむりがラタを護ろうとしてウェーブの前に跳躍するも、軽く手の平で叩かれて地面へ落ちて、ぐったりとして動かなくなる。

 ラタは「カトリーヌ」と声を上げて近づこうとしたけど、一歩足を進めたウェーブによって、直ぐにその場で恐怖に震えて足をすくませ立ち上がる事さえできない。


「差別主義者のガキって話だから、マナを置いて逃げると思ってたけど、そうはならなかったみたいで安心したぜ」


「お願いだから逃げて! 殺されちゃう!」


「マナちゃんさあ、ちょっと黙っててくれない?」


「――ぅあっ」


 みぞおちをウェーブに殴られ、わたしは呼吸困難におちいった。

 スカートを抑えていた手でみぞおちに触れ、まともに息が出来無くて苦しい以外の事を考える余裕が無くなってしまう。

 それを見てわたしに何も出来ないと判断したからか、ウェーブがわたしを雑に放り投げて、わたしは地面を転がされる。

 息が上手く出来ないだけでなく、地面に放り投げられて転がった衝撃で激痛が走り、わたしはその場でうずくまった。


「逃げずにこの子を助けようとした心に敬意を払い、苦しまずに殺してやるよ」


「待って!」


「あ?」


 ラタが震えながらも立ち上がり、眉根を上げて目尻に涙を浮かべながらも、ウェーブを真っ直ぐと睨み見る。

 そして、未だ動けないでいるわたしに視線を少しの間だけ映して、握った拳で胸を抑えながら力強く懇願した。


「マナは、マナは助けてあげて!? あの子は私様わたくしさまとは関係ないの! たまたまさっきお披露目会で知り合っただけの子なのよ! だからお願い! あの子だけは殺さないで! 殺すのは私様だけにしなさい!」


 ラタ……駄目だ!

 そんなの駄目!

 助けなきゃ!

 わたしがラタを……助けなきゃ!


 まだ息はまともに出来ない。

 体のあちこちが痛くてたまらない。

 だけど、そんな事で諦めるわけにはいかない。

 わたしは悲鳴を上げる体を無理矢理動かして、必死で立ち上がる。


「――っ!? マナ!? 動いたら駄目よ!」


「おお、マナちゃんやるなあ。まだ動けるのか?」


「……げほっげほっ。あ…………たり……けほっ。はあ、はあ……まえで…………しょ」


 みぞおちのダメージが思ったよりデカい。

 嫌な汗が全身から流れるし、地面に投げられて転がったダメージなのか、みぞおちのダメージなのか、足に力が上手く入らなくて震える。

 それに最悪な事に、みぞおちを殴られた時に短剣を落としてしまっていたようで、短剣はウェーブの近くに転がっていた。

 こんな状態で武器も無い、まさに絶望的な状況だった。


「まあ、マナちゃんは動けはしたけどそれまでって所か。それなら本人の要望と俺の意見は一致してるし、さっさと殺すか」


「や……め――」


 やめて! と叫ぶ事すら出来ない。

 わたしはただ手を伸ばして、ラタがウェーブに殺される所を見るしか出来ない。


「じゃあな、貴族のクソガキ」


 ウェーブのカットラスがラタの頭上に振り下ろされた。




「アイギスの盾! フリスビースタイルですー!」 




 声と同時に甲高い音が周囲に鳴り響き、ウェーブのカットラスが弾かれる。

 更にウェーブの手に鋭い氷のトゲが命中して、ウェーブは痛みでカットラスを手放す。

 そして、ウェーブは何かで横腹を殴られ……いいや、違う。

 誰かに横腹を蹴られて、勢いよく吹っ飛んで民家の壁に頭から突っ込んだ。

 轟音が鳴り響き、民家は一瞬にして倒壊して瓦礫がれきの山となる。

 ウェーブは瓦礫に埋もれ、その姿は一瞬にして見えなくなった。


「危なかったですね、間に合いました」


愛那まな!」


「お……姉…………。ラヴィ……」


 嬉しさのあまり涙が出て来た。

 何も出来ず、ラタが殺されてしまう瞬間を見る事しか出来ないと思った。

 でも、お姉とラヴィが駆けつけてくれて、ラタが殺されずにすんだ。


 安心して、途端に足の力が抜ける。

 倒れそうになったわたしはお姉とラヴィに受け止められて抱きしめられた。


「愛那、直ぐ治す」


 ラヴィの魔法に包まれる。

 全身が魔法に包まれて、次第に呼吸も整ってきた。


「ありがとう、ラヴィ」


「愛那が無事で良かった」


「マナー!」


 ラタがわたしに駆け寄って抱き付く。

 かたつむりも無事だったようで、ラタの頭の上で「良かったです」なんて呟いた。

 するとそこへ、ウェーブを蹴り飛ばした誰かがやって来た。


「間に合って良かったわね、2人とも」


「え!? リリィさん!?」


 ウェーブを蹴り飛ばした誰かは、なんとリリィさんだった。

 強いとは聞いていたけど、こんなに強いとは思わなかった。

 ウェーブへのさっきの攻撃なんて、辛うじて誰かが蹴ったのが分かったくらいで、本当に全然見えないくらいに速かった。

 それに、吹っ飛んだウェーブが民家にぶつかって、その衝撃で民家が倒壊するなんてよっぽどの威力だ。

 それをやったのがリリィさんだなんて、驚くなって方が無理だった。


 驚くわたしに、リリィさんは柔らかな笑みを浮かべる。


「お祭りの最中にナミキ達と会って、その後に革命軍とか名乗る頭悪そうな馬鹿共が出て来たから、あなたの事を一緒に捜していたのよ」


「そうだったんですか。ありがとうございます」


 って言うか、頭悪そうな馬鹿共って……。


「リリィちゃん凄いんですよ。ここに来るまでに革命軍の人とうにをめちゃくちゃぶっ飛ばしまくってました!」


「そう、本当に凄かった」


「へ、へえ……」


 お姉はともかく、ラヴィにここまで言わせるなんて、よっぽど凄かったんだな。


 などと考えながら、わたしは瓦礫に埋もれたウェーブの方に視線を向けた。

 瓦礫の下からウェーブが出てくる気配はなく、死んでいないか心配になる。

 死んだかどうかの心配だなんてと思われるかもしれないけど、わたしにとってのウェーブは仲の良い知人……いいや、友人なのだ。


「心配しなくても、今の所はまだ生きてるわよ」


「へ?」


「ラヴィーナから聞いてるわ。革命軍って名乗ってる連中は、以前お世話になった村の人達なんでしょう? だから一応手加減してるのよ」


「……はい。ありがとうございます」


 死んでないならとりあえず良かったけど、この後どうすれば良いのかわたしには分からなかった。

 捕まえたとしても、これだけの事をしたんだから、きっと重い罰がくだされてしまうだろう。

 もしかしたら処刑されるかもしれない。

 でも、そのまま逃がしてまたラタの命が狙われたらと思うと、本当にどうすれば良いか分からない。

 だから、わたしは何か良い方法が無いか知りたかった。


「お姉、ラヴィ。2人はハグレの皆を捕まえたの? それともそのまま逃がしたの?」


「捕まえてはいませんね」


「逃がしたわけでもない」


「へ? どう言う事?」


「それは話すと少し長くなります」


 尋ねると、お姉が真剣な面持ちで答える。

 その顔はいつになく真剣で、何だか変な意味で嫌な予感がした。

 わたしは訝しみながらも、ラヴィに視線を向けて「そうなの?」と質問する。

 すると、ラヴィは頷いて「そう」と答えた。

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